聖地ベナレスからデリーを通過し、ジョースター一行を乗せた車はパキスタンの国境を目指していた。
車での長距離移動は体が凝って好きになれない。定期的に運転はジョースターさんとポルナレフが交代していて席順も変わるのだけど、このメンツの中で私が一番小さいということで後部座席真ん中が固定になっている。
隣が花京院になってもデカいものはデカいのでとても狭い。
1日も経てば狭さにも慣れだして、うつらうつらと微睡めるようになったけどそれはそれで別問題だ。タイヤが地面を擦る音に意識が浮上した。
「おいッ! ポルナレフ! 運転が荒いぞ!」
「へへへへ! さすがは四輪駆動よのォ〜! 荒地でもへっちゃらさッ!」
どうやらポルナレフが前を走っていた車を少々手荒く追い抜いたらしい。
振り返ると古めの車が背後を走っている。
「ポルナレフ、今の車へ小石はね飛ばしてぶつけたんじゃあないのか!? 事故やトラブルは今……困るぞ」
ベナレスでの一件もあり、ジョースターさんは無事に国境を越えたいそうだ。気持ちはわかる。
DIOを倒したらおそらく財団経由で何らかの手を打つんだろうな。アメリカの不動産王が殺人容疑とか洒落にならないもんな。
「しかし…インドとももうお別れですね」
「うむ、インドに着いたときは、『なんじゃァ〜! このガラクタをぶちまけたような国は!』と思ったもんじゃが、国境が近づいてくるとカルカッタの雑踏やガンガーの水の流れが早くも懐かしいのォ」
「俺はもう一度インドに戻ってくるぜ…アヴドゥルの墓をきちっと作りにな」
車内にしんみりとした空気が流れる。
そう……ポルナレフにはアヴドゥルが生きていることを伝えていないのである。
ジョースターさんからアヴドゥルへ密命らしいものがされて、それを隠すために嘘が下手そうなポルナレフには内緒…ということになっている。
私的にこういう秘密は好きじゃあないんだけども事情が事情だけに言い出すことも出来ないのだ。
「ゲッ!」
ポルナレフのそんな声と共に急ブレーキがかけられる。その勢いで座席から浮きかけた私の体を両隣から伸びてきた丸太のような腕のおかげでなんとか前方へ飛び出さずに済んだ。
ジョースター家の丸太のような腕の安定感やばァ〜。
「あ…ありがとうございます」
「……」
「どうした、ポルナレフ! なんでいきなり急ブレーキを……!?」
「ポルナレフゥ……言ったばっかじゃろッ! 事故は困るってッ! よそ見してたのかッ!?」
「ち…ちがうぜ……見ろよ…あそこに立ってやがるッ! し…信じらんねえッ!」
ポルナレフの示す先に立つ見知った顔に私もさすがに言葉を失った。
「アン!?」
「…………やれやれだぜ」
「よッ! また会っちゃったねッ♡ 乗っけてってくれる〜〜!?」
シンガポールで別れたはずの家出少女である。
シンガポールからここまで…一人で来たってこと!?
「強い女の子とは思ってたけどさすがにバイタリティ溢れすぎィ……」
「キミはシンガポールでお父さんに会うんじゃあなかったのか!?」
「嘘に決まってんじゃねーの、そんなもん…! ただの家出少女よ、あたしは!」
「おい! 待て誰が乗せると言った? 何故インドにいる? どうやって入国してここまで来た?」
換気のために開けていた窓から身軽な動きで乗り込んで、ジョースターさんの膝上を通過して、私の隣に座り込んだ。
これは強い(確信)
「まあーいいじゃあないの! 気にしないで、一緒に旅行させてよ、楽しいんだもんッ!」
「だめだ、放り出せ」
「足でまといだし、この子にとっても危険だ」
「ねえ! ポルノみる? インドのポルノ! 土産屋でかっぱらったエロ写真よ! 好きでしょ?」
「こっこらッ! 子供がそんなもん持ってんじゃあねえぜッ!」
「うわァ…グロ……」
「これエコー! それは見ちゃいかんッ! こらこらばら撒くのやめんかアンッ!」
一気に車内が騒がしくなった。
アンが車内でインドのポルノとやらを広げてしまい際どいポーズをした女性の全裸写真が目に入りとても目に毒だ。
本当にアンって強いな……。ちょっと強すぎかも……。
「お願いよォ〜! 一緒に連れてってよォ〜!! つれってって! つれてって! つれってって!」
「ダメじゃァ! ダメじゃダメじゃダメじゃ!!!
揉み合うジョースターさんとアンのせいで空条先輩の方へぎゅむぎゅむと押しのけられていく。
なにぶん狭い車内なので…言い合いは外でやっていただけると助かると言いますか……。
「しかしよく一人で…すごい生活力のある子だな」
「ほんとそれ」
「ただのかっぱらいだよ。こいつひょっとしたらスタンド使いなんじゃあねえか? かっぱらいのスタンドがよォ〜乗せるなよ。エロ写真は没収しとけ」
「つか狭いんだから暴れないでよ…」
いつまでもギャイギャイと言い合うジョースターさんとアンにさすがに苦言を呈そうと口を開いた。
「やかましいッ! うっとおしいぜッ!! お前ッ!」
その前に痺れをきらした様子の空条先輩は吠えて、騒がしくなっていた車内はシ〜ンと静まり返った。
空条先輩お得意の騒がしい連中をそろって黙らす技である。ちなみにファンガールには効果がない。
ポポ、と頬をピンクに染めてうっとりと空条先輩を見つめるアンに…ついに目覚めてしまったか…と後方訳知り顔で頷いた。
旅先でもファンガールを作ってしまうなんて、空条先輩ほんとクール…。
「国境までだ。そこで飛行機代を渡してその子の国まで乗せてやればいいだろう。香港だったな」
鶴の一言である。
実際問題こんな場所に知り合いの子を置き去りにするのも寝覚めが悪いし、妥当な解決策ではある。
「だってあたし女の子よ! もう少し経てばブラジャーだってするしさ、男の子のために爪だって磨くわ! そんな年頃になって世界を放浪するなんてみっともないでしょ? 今しかないのよ、今しか! 家出して世界中を見て回るのは! エコーだって、そう思うでしょ?」
「う〜ん、そうかな。私は成人して世界中を放浪した人を知ってるけどみっともないなんて思ったことないよ」
「え〜!? そんな人いるのォ!?」
「いるいる。イギリスから船で新大陸…ああ、アメリカね、に行こうとしたんだけど運悪くその船が沈んじゃってね、ちょっと大変だったみたい」
「そりゃあそうでしょッ! その人はどうなっちゃったのッ?」
やたらと食いついてきたアンに記憶を探る。あれから母は確か…吸血鬼という性質上、日に当たるわけにもいかず母は救命ボートにも乗れずに泳いでアメリカ大陸を目指した。
まあゆうて吸血鬼は呼吸もいらんからね……。
沈没した場所が比較的大陸に近かったのが功を奏し日光を深海でやり過ごして数日かけて泳いで大陸へ上陸したのだ。
「その船の沈没事故は二十世紀で一番の海難事故とも言われてて…結局生き残ったのは七百十人って当時の新聞で結構騒がれてたみたい」
「ちょいエコー……その沈没っていつの話? まさかタイタニック号とか言わんよな?」
「えっタイタニック号のことですけど……」
「ウッソじゃろ、その事件のときワシも生まれとらんぞ」
「へ〜それじゃあアレって随分と昔のことだったんですね」
「ハァ!? 今の話は嘘ってこと!?」
「いや本当だよ。そのあとその知り合いは生き延びて無事に出産までしている(産んだのは何十年もあとだけど)」
「マジ話なの? ホントの話なら、そのひとすごいわね」
「でしょ、私が世界で一番尊敬してる
「へえ〜〜!」
目をキラキラと輝かせるアンに、あれ余計なこと言った? と少し不安になった。
まあいっか。
背後からのクラクションに振り返ると先ほど追い越した車がピッタリとついていた。
「さっき追い越した車だ。急いでいるようだな」
「ボロ車め! トロトロ走りやがったくせにピッタリ追いすがりやがって何考えてんだ?」
「ポルナレフ。片側に寄って先にいかせてやりなさい」
「ああ……」
ポルナレフが窓を開けて合図を送ると後ろの車はチカチカとライトを点滅させてからスピードを上げて追い越していく。
窓が埃まみれで車内は窺えなかった。
追い越した──かと思いきや前にピッタリとくっつくとまたスピードを落として前を塞ぎ始めた。
「! おいおい、どういうつもりだ? またトロトロ走り始めたぞ。譲ってやったんだからどんどん先に行けよ!」
「は? 煽りかよ、おいポルナレフ。あのトロくせえケツ蹴りあげてビビらせてやろうぜ」
「待て待て、エコー。お前さんはちと短気がすぎる」
「ポルナレフ、キミがさっき荒っぽいことをやったから怒ったんじゃあないですか?」
「運転してた奴の顔は見たか?」
「いや…窓が埃まみれのせいで見えなかったぜ」
「お前もか……」
どうやら空条先輩たちも向こうの様子は確認できていないらしい。
「まさか追手のスタンド使いじゃあないだろうな」
「気をつけろ、ポルナレフ」
車内の緊張感が増していく。前を走るボロ車の窓が開き、腕だけが先ほどのポルナレフのように先へ行けとジェスチャーを送ってきた。
なんだっつーわけ?
「プッ先に行けだとよ、どーやらてめーの車の性能が悪くてスピードが長続きしねーのを思い出したらしいな。初めっから大人しくこのランドクルーザーの後ろを走ってろや! このイカレポンチが!」
「ポルナレフ、お前が悪いんじゃぞ。挑発するからじゃ」
ただの煽り運転野郎だったらしい。そりゃあポルナレフも多少荒いことはしたらしいけど、それで他の人を煽っていい理由にはならんからなァ……。
スタンド使いじゃないとわかり、あからさまに緩んだ車内で私だけピキピキとしていた。
端に寄った前の車をこちら側がスピードを開けて、追い越そうと──
「なにィ!!」
「うああああ!! トラック! バカな!!」
「ダメだッ! ぶつかるッ!」
──すぐ目の前にトラックが迫っていた。
咄嗟にダンス・マカブラがランドクルーザーの表面を覆う。間に合わない部分はともかく何しないよりはマシだ、とかいう判断ですらない自分を守ろうとする本能的な反射だ。
「『
「『
すぐ目の前に迫ったトラックをスタープラチナが殴りつけることで正面からの激突を防いだ。
車体への衝撃自体もダンス・マカブラで吸収できているものの、しかしスタープラチナの拳による反動までは吸収しきれずグルン、とランドクルーザーは空中を一回転する。
「スタープラチナで激突を防がなかったら即死だったぜッ!」
「車そのものがぺちゃんこに潰れててもおかしくない衝撃だったんですけどッ!?」
「野郎! 何者だッ! あの車はッ!」
一回転した、ランドクルーザーが着地する衝撃をも吸収してどうにかどこも壊れることなくコトをやり過ごせた。
そして今のでそこそこの衝撃を吸収したので、次に戦うことになるスタンド使いは哀れな目に遭うことになるわけだ。
「ふ〜〜〜…、承太郎のスタープラチナのパワーとエコーのダンス・マカブラの吸収がなかったら俺たち……グシャグシャだったぜ……俺の『
「スタープラチナさまさまだァ…。私のダンス・マカブラだけでも大事故は防げなかったよ……こっちはともかく向こうがね」
言いながら道をはずれ傾いたトラックの方を振り返る。多少の損傷はあるけど、運転手は無事に生きているだろう。
「どこじゃ!? あの車はどこにいる!?」
「……どうやらあのまま走り去ったらしいな……どう思う? 今の車の野郎、〝追手のスタンド使い〟だと思うか? それともただの精神の捻じ曲がった悪質な難癖野郎だと思うか?」
「100パー追手でしょォ〜〜!!! あんなクソ煽りしてくるド腐れ異常者がいてたまるかっつーのッ!」
「だよなァ!! エコー!! 俺たちは殺されるところだったんだぜッ!」
「だがしかし…今のところ…スタンドらしい攻撃は全然ありませんでしたよ……」
「…………」
結局答えは出ずに、しばしの停車から再びエンジンをかけランドクルーザーは発車した。
「ともかく用心深くパキスタン国境まで向かうしかないじゃろうな…もう一度あの車が何か仕掛けてきたらそいつが追手だろうと異常者だろうとぶちのめそう」
「あのトラックはどうします? スタープラチナが殴ったんでメチャクチャですよ」
「知らんぷりしてりゃあいいんだよ、ほっときな……」
そう呟いて、空条先輩は見えないふりをして帽子のつばで顔を隠してしまった。
まあ私も命があるだけラッキーだろと思います。
しばらく進むと茶屋が見えた。あの車を避けるため少し休むことに。
車を降りて、身体を伸ばす。さすがに狭いのよね。
「何か飲む?」
「コーラとか??」
「冷たいのもいいね」
「なにッ!!」
アンと何を飲もうかと話しているとサトウキビジュースに興味を惹かれていたジョースターさんが血相を変えて振り返った。
その視線の先、茶屋の傍の木陰に例のボロ車が停まっていた。
「や…奴だ! あの車がいるぞッ!」
窓が開き、運転席には誰も座っていない。茶屋には私たちの他に3人の客がいる。
3人ともよく似たリストバンドをつけており、あの運転手が誰なのかという決定的な証拠を得られない。……あのリストバンドみたいなの流行ってんの?
「おやじッ! ひとつ聞く! あそに停まっている古ぼけた車のドライバーはどいつだッ!?」
「さ…さあ…いつから停まっているのか気がつきませんでしたが…」
「どうします、ジョースターさん。とぼけて名乗り出てきそうもないですね」
「ふざけやがってッ!」
「しょうがない…どいつがあの車のドライバーか、そしてそいつが追手かハッキリせんことには安心して国境を越えられん…この場合、やることは一つしかないな? 承太郎…?」
「ああ…一つしかない……無関係のものにはとばっちりだが…全員ぶちのめすッ!!!」
怖い顔をした空条先輩たちが三人の客たちへ殴りかかっていった。
アンと巻き込まれないよう、距離をとっておく。スタンドでの戦いならともかく…という奴だ。
頑張れ、と客に殴り掛かるジョースターさんたちを止めようとしている花京院へ内心で拝んでおく。
車の発進するエンジンの音で暴れていたジョースターさんたちが止まる。木陰に停まっていた例の車が走り去っていく。
何かスタンドで攻撃をしてくるでもない意味のわからない動きだ。カーレースがしたいとか?
「追っかけてとっ捕まえてはっきりさせんことにはイラついてしょうがね〜ぜ!! さっきのトラックとの正面衝突の恨みもあるしなッ!」
すっかり頭に血を昇らせたポルナレフが叫び、大急ぎでランドクルーザーに乗り込むと例の車を追って発車した。
パキスタン、と示された看板に従ってT字路を曲がり、しばらくして行き止まりに行き当たった。
明らかに車は通れないだろう古びた吊り橋が揺れている。
「奴がいないッ! 奴はどこだ!? カーブを曲がった途端消えやがった! 車じゃ吊り橋は渡れないし…」
「まさか墜落して行ったんじゃあねえだろうな…」
ドオオンッ!
背後からの衝撃に振り向けば、また例の車に背後をとられていた。
ドンドンとけたたましい音を出しながら何度も体当たりをしてくる例の車に思わず顔をしかめる。運転席の様子は光の加減でやはり窺えないものの、害意があるのは間違いない。
「や、奴だ…! 奴が後ろからぶつかってきた…!」
「し…信じられん…! 一本道だぞ!? どうやって我々の後ろに回り込んだんだッ!」
「も…ものすげーッ馬力で押してきやがるッ! 突き落とされるぞッ!」
「ここまでされたら敵なのは間違いないよなッ!!」
ランドクルーザーのケツ側へダンス・マカブラを伸ばして突き落とそうとぶつかってくる例のボロ車へ──。
「さっきの正面衝突を
──ついさっきのトラックとの衝突事故未遂で吸収していた車体への衝撃を例のボロ車へと一気にお見舞いした。
ズゥン、と例のボロ車のバンパーが凹み、消しきれなかった衝撃で数メートルほど後ろへずり下がる。
「ポルナレフ、今のうちに車を…」
「また来たぞッ!!!」
「クソッ持ち直しが速すぎる…ッ!」
ブロロロン…とボロ車は先ほどの衝撃をものともせずに再びすぐ背後へと進んできた。
ずりずりとランドクルーザーは押し負け、崖へと車体が飛び出していく。
「うおお! も…もうダメだ…! みんなッ! 車を捨てて脱出しろ!!」
「ポルナレフッ!! ドライバーがみんなより先に運転席を離れるかッ普通は……!? 誰がこのランクルをふんばるんだ?」
「えっ……ごっ……ごっご……ごめーんッッ! ワァーーッッ!」
わ…ポルナレフが泣いちゃった…! なんて言ってる場合じゃなくてだな。
ポルナレフの絶叫謝罪と同時にランドクルーザーは崖へと真っ逆さまに突き落とされた。
ランドクルーザーをダンス・マカブラで覆っていくけど、この高さからの衝撃を全て吸収できる保証はない。
日本でスタープラチナの腹パンは吸収しきれなかったからな……。
「『
「花京院ッ! やめろッ! お前のハイエロファントは遠くまで行けるがランクルの重量を支えきるパワーはないッ! 体がちぎれ飛ぶぞッ!」
「ジョースターさん、お言葉ですが…僕は自分を知っている……馬鹿ではありません」
崖の上へ伸びていったハイエロファントがボロ車にワイヤーウインチのフックを引っ掛けた。そのおかげでどうにか落下が止まる。
「フン! やるな花京院! ところでお前、相撲は好きか?」
ボロ車に引っかかったワイヤーウインチをスタープラチナが掴み力任せに引っ張ったことでランドクルーザーが崖の上まで飛び上がる。
「とくに土俵際の駆け引きを! ……手に汗握るよなァッ!!」
『オラァッ!』
すれ違いにボロ車を殴りつけ、ランドクルーザーと入れ替わるように崖へ落ちていった。
ランドクルーザーはなんとか着地できて、ひとまずは安心だ。
「ええ…相撲大好きですよ、だけど承太郎。相撲じゃあ拳で殴るのは反則ですね」
花京院の言葉に空条先輩はニヤリと満足そうに笑った。何か通じ合ってる。
グルングルンと回転しながら落下していくボロ車を確認する。黒煙まであげているので運転手は間違いなく無傷じゃあ済まないだろうな。
「しかしスタンドらしき攻撃は全然なかったところを見るとやはり頭のおかしい変質者だったらしいな」
「ああ…どっちにしろこの高さ。もう助かりっこねーぜ、ま…自業自得っという奴だが」
「……でもどうしてかしら? この一本道をあたしたちの先を走っていたのに、なぜかいつのまにか後ろへ回っていたわ。不思議なのォ……」
『少しも不思議じゃあ……ないな……』
アンの疑問に知らない声が答えた。
『『
「な…なにィーーッ!!!」
ラジオの声が正体を明かした。やっぱりスタンド使いなんか〜い!!
「でもこれで話はず〜〜っと早く済む……ダラダラダラダラ正体隠してこっちおちょくって展開を引き伸ばしてくれやがって……おかげで無駄な時間を費やすハメになった……」
「お、おいエコー……? お前もしかしてキレてんの……?」
足の裏から伝わるわずかな地響きに全身へダンス・マカブラを纏わせる。
船のスタンドのように車自体がスタンドならば私のダンス・マカブラは相性有利となるわけだ。
「クソ長え引き伸ばし展開に飽き飽きしてんのは読者だけじゃあねえんだよッッ!!」
「エコーッッ!!!」
地面から飛び出しランドクルーザーを今度こそ吹き飛ばしたボロ車の衝撃を
そのまま空中へと飛んでいるボロ車へ、ダンス・マカブラで作ったバットを振りかぶった。
「
吸収したばかりの衝撃をそのまま打ち飛ばす推進力として放出しながら、ボロ車の裏側──ハラにダンス・マカブラバットをぶち当てた。
しかしさすがに車の重量である。ダンス・マカブラで覆っていても、衝撃を推進力として変換していても両腕にかかる重量はかつてない。ギリっときつく奥歯を食い縛って、バットを振り抜いた。
どうにか吹き飛ばすことが出来てボロ車は上下裏返り、グルングルンと回転しながら地面に転がっていく。腹から大きく割れている。
「やったかッ!?」
「
「め…メチャクチャの車体が次第に……!」
「直っていくぞ……ッ!」
「まるで生き物だ!」
ボロボロにした車体が生物のように直り、ピカピカの新車状態となると強いライトを光らせながら、再びエンジンをふかし始めた。
舌打ちを飲み込む。
やっぱり…私のスタンドは破壊が苦手なようである。そもそもスタンド自体のパワーが
「変形したッ! 攻撃してくるぞッ!!」
「フン! ……
「やめろッ! 承太郎! まだ戦うなッ! 奴のスタンドの正確な能力が謎だッ! それを見極めるのだ!!」
車のスタンドと向かい合い、拳を構えた空条先輩にジョースターさんが叫んだ。
キラキラと光る何かが車のスタンドから飛び散って、空条先輩の体から血が吹き出した。
「ガフッ! ば、馬鹿な…今なにを飛ばしたんだ…攻撃が見えないッ!」
「承太郎ッ!」
「空条先輩ッ!」
「…見えなかった、一体なんだ今の攻撃は…!? 何をどうやって撃ち込んできやがったのだッ!?」
血を流しながらよろめく空条先輩へ車のスタンドが意気揚々と走っていく。
このままでは轢かれてしまう。
ダンス・マカブラなら行ける! と駆け出そうとしたところ空条先輩に目で制止された…ような気がした。
あぁん?
「承太郎ッ!」
空条先輩を押し除け車から庇おうと動いた花京院とポルナレフが共に車のスタンドから例の見えない攻撃を直に受けてしまう。
周辺に血が飛び散る。ガソリンのような臭いが鼻をつく。おそらく大破したランドクルーザーのものだな。
「承太郎ッ! ポルナレフッ! 花京院ッ!」
「きゃあああ!!」
地面に倒れ込んだ3人のすぐ横を車が走り抜けていった。ギリセーフ、というところだろうか。
同じように穴を開けて、ポルナレフと花京院がうめく。
傷には針もガラスも突き刺さっていない本当にただ肉が抉れているように見える。
色々と言いたいことはあるけど、Uターンをして再びこちらへ走り寄ってくる車を避けるため岩の隙間へと逃げ込んだ。
車のスタンドはガリガリと岩すら削って迫ってくる。
「オォ〜ノォ〜…! 無理やり入ってくるぞ!」
「こいつは手がつけられん」
「例えるなら知恵の輪ができなくて癇癪おこしたバカな怪力男という感じだぜッ!」
「言うとる場合かーーッ! ダンス・マカブラ!!」
キラキラとついさっき見えない攻撃を飛ばしたときのように車のバンパーが光った。
みんなの前にダンス・マカブラを風呂敷のように広げて、見えない攻撃を吸収する。
「よくやったッ! エコーッ!!」
「ここじゃあやり合おうにも戦えん…奥に逃げろッ!!」
空条先輩の掛け声に、一行は車から逃げてさらに岩場の奥へと駆けていく。
奥の岩場へしがみつき、登っているとアンがさっきの場所で転んでしまっているのが見えた。
だんだんと地面を叩いて泣いている。なにしてんだあのアホ娘ッ!!
泣いてる暇があるならさっさと逃げろや! いざってときに誰かが助けてくれるのを期待するなんてするだけ無駄だっつーのがわからんのかッ!!
私が助けに降りるより先に空条先輩が岩場から飛び降りて、その首根っこを掴んで引っ張り上げた。
「やれやれ。そんなしゃべくってる暇があるんなら逃げろよな、このガキッ!」
「あ! わーん! 承太郎大好きッ♡」
「さすがJOJO! 俺たちにできないことを平然とやって──」
「エコー、お前もそれ言ってる場合じゃあねえからなァッ!」
「わかってるっつーのッ!」
岩場を登りきり、ポルナレフに呆れ顔でツッコマれた。
ちょっとしたお茶目ですよ。シリアスが続くと読者にはストレスがだな…うん。そこはまあいいや。
「フン! 登るがいいさ! お前らには文字通りもう
車のスタンドがタイヤにスパイクを生やして岩場を登ってきた。なんでもありなのだ、そうスタンドならね。
「やれやれだ…ここでやり合うしかなさそうだな。みんな下がってろ」
空条先輩の手が制止するように真横に伸ばされた。
「奴はここに登りあがるとき…車のハラを見せる。そこでひとつ奴と力比べをしてやるぜ」
「なるほど…奴が何を飛ばしているか正体不明だが、ハラを見せたときならこっちから攻撃ができる…先ほどのエコーのようにッ!」
「先輩、見えない攻撃は私のダンス・マカブラで防げます。前みたいに鎧で──」
「いらねえ……黙ってみときな、俺を
ダンス・マカブラを蠢かせて、いつかのように鎧の形にしようとしていたのを断られる。
空条先輩はいつも通りのクールな顔で車の登ってきている崖の前へと向かっていってしまった。
信じろ、と言われたら勝手に手を貸すわけにもいかなくないか?
そこらへんは主人公陣営的にはどうするのが正解なのか……ほんの一瞬の思考だけでは答えが出せなかった。
予想通りハラを見せて岩場の上へ登りきった車へ、スタープラチナが拳を振りかぶる。
「おおおおお!!」
「ふひゃほはッ! 元気がいいね、承太郎くん! ん〜実に元気だ! だがシブくないねぇ!! 冷静じゃあないんじゃないのか…? まだ自分たちの体が何か臭っているのに気づかないのかッ!」
そこで気づく。ガソリンの臭いは花京院たちからしてきているッ!
直前にランドクルーザーを破壊されたせいで気づかなかった。ガソリンの臭いがしても当然だろうと意識に留めずにいた。
車を真っ先に狙ったのはその誤認を狙うためか。
「ああ!」
「飛ばしていたのはッ! ガソリンだッ!」
「気づいたか、しかしもう遅いッ!! 電気系統でスパークッ!!」
トドメとばかりに車から飛ばされた高熱の火花がガソリンの染み込んだ空条先輩の学ランへと散った。ボボ、と火花は瞬く間に炎となり空条先輩を包む。
「ううッ! なにィ!!」
「ああ! 承太郎が火に包まれたーッ!!」
「きゃあああああ!! 承太郎ッ!!」
信じる…信じるってなに……?
空条先輩の学ランが完全に火で包まれて、燃え盛っている。
勝ち誇った車のスタンド使いの笑い声がひどく不快を煽る。
ジョースター一行は、正義の味方で……正義とは仲間を信じることで……。私は
信じて、みてるだけ──
あの炎もまだダンス・マカブラでならどうにかできるかもしれない──、と燃える空条先輩へ近づこうとした。
けれどその前に二の腕を強めに掴まれる。
「ダメだ…あれだけの熱じゃあお前のダンス・マカブラで吸収しきれる保証はねえだろ…エコーッ!」
「ぽ、ポルナレフ……」
空条先輩が地面に倒れる。思わず息をのみ、口を手のひらで覆う。そして涙腺がゆる──
「承太郎ーーッ!!」
「勝ったッ!! 第3部完!!」
「ほーお、それで誰がこの空条承太郎の代わりをつとめるんだ? まさかてめーのわけはねえよな!」
なんて言葉とともに地面から丸太のような腕が飛び出した。
流れ変わったな。スン、と緩みかけていた涙腺も仕事を再開する。
アニメなら処刑用BGMとか流れはじめてるんじゃあないですか? 知らんけど。
「おめえ、さっき
「ひ」
流れが変わったのを車のスタンド使いも理解したのだろうな。小さく悲鳴をあげて震えているようだった。
空条先輩と重なるように現れたスタープラチナが車へ拳を突き上げていく。
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラーーーーーッ!!!!』
「つ…つぶれる」
みるみるとベコベコに凹んでいき、運転席にいたスタンド使いが反対側の扉から飛び出した。
「げぴい」
「……と、こうやるんだぜ。これで貴様がすっ飛んだあとに文字通り”道“が出来たようで……よかったよかった」
ヒュ〜〜! 空条先輩ってば超クール〜〜ッ!
やっぱりスタープラチナってチートですよね?
運命の車輪戦
〜完!〜
書き溜めここまでです。
次回から不定期更新になります。