「恵古ちゃんッ!!? その傷なにッッ!?」
「はえ」
「血みどろ! なんで!? なんではだしッ!!?」
教室へ顔を出すと委員長の悲鳴が響いた。
委員長の目はまっすぐに先ほど怪我をした私の右足へと向いており、ダンス・マカブラで覆っているとはいえスタンドのない人には傷が丸見えなのかと納得。
ダンス・マカブラは一体型のスタンドではないので当然といえば当然である。
そのまま息の合った女子らに両手を拘束され医務室へと連行された。ひどい…。
一応止血はしてるのに……、そりゃ見えてなけりゃあわからないだろうけど……。
今回ばかりは言い訳できない。大人しく医務室へと向かった。
「こんな足でよく登校してこれたわねえ……」
「そこは気合いで…」
「もうっ、女の子が変なとこで意地張らないの」
包帯を撒き終えた女医先生がこつん、と呆れ顔で私の額を軽く叩いた。
医務室の女医先生…好き…。医務室にはたまにしか来ないけれど、会うたび母性というかバブみを感じてキュンキュンしてしまう。
「スリッパと松葉杖を持ってくるから、それまで安静に座っときなさいね」
「はあい」
「古家ちゃんってば意外とおてんばなのな〜」
「ギャハハ、あの髪も自分で切っちまったらし〜ぜェ?」
「ヒュ〜変わってるゥ」
ベッドを占領するちょっとワルそうな先輩たちがニヤニヤと話している。上級生にも断髪事件が知られているとは…話したこともない先輩たちで少し肩身が狭い。
あと純粋にこういうノリが苦手だ。
そうして女医先生が医務室を出ていったのと入れ違いで会いたくない相手と顔を合わせることになる。
「……」
「……」
膝に切り傷を作った空条承太郎である。のっそりと医務室へやってきて、無言のまま椅子に座る私の血だらけの足へ一瞬だけ視線をやって帽子を被り直した。
……こういうときばっかり顔合わすなあ……。
スタンド使いは引かれ合うって奴だろうか。それとも血の因縁?
自分じゃあどうしようもない生まれがどうたらとか最悪っすねえ……。
「おいテメエら…女医はどうした」
「今は古家ちゃんのスリッパと松葉杖とりにいってるぜぇ JOJOォ」
「さっきでたばっかしだからよォ、しばらく戻らねえンじゃあねえの〜?」
「……やれやれ」
ベッドの上のワルな先輩たちへ空条が声をかける。
ワル先輩も空条もどちらも視界に入れないよう身体を縮こませて、できる限り床を見つめた。
「……おいテメエらさっきからやかましいぜ。さっさと失せな」
「え〜ッ!」
「なんだよォ…JOJO〜!!」
「……」
「へ〜へ〜出ていきますってェ!」
「ンな睨むことねえだろォ〜? ったくよォ」
何を思ったのか空条は凄味を放ち、言葉だけでベッドを占領していた先輩たちを医務室から追い出してしまった。
ひゅ〜やるや〜ん。
手のひら返しながら、騒々しかった先輩たちがいなくなったため医務室には私と空条の二人だけが残される。
もちろん接点もくそもない同士で会話が弾むとか、そもそも言葉を発するわけもないわけ。
カチカチと時計の秒針が進む音だけが響いている。女医先生、遅いな…。
そのときだ。足から何かが這い上がってくる気色の悪い感触がしたのは。
ゾワ、と鳥肌が立つ。空条の手前、ダンス・マカブラを出すわけにもいかず視線だけその方を確認する。
キラキラとエメラルド色にわずかに発光する触手。あれ、まって。これ知ってる。
触手は無音で私の足を這い上がる。
セーラー服の下を潜って胴体へと巻き付き、そのまま触手は首へと回された。
締められることはないが、頸部へのわずかな圧迫に口を大きく開いてしまう。
待ちかねたとばかりに口のすぐ前で姿を見せたのは緑色でスジのある……『
お前って花京院のスタンドじゃありませんでしたっけ〜!!?
花京院って承太郎の仲間だったよね!?
ねえ!? これ平気なやつ!!?
判断に困り、ハイエロファント・グリーンが口の中に入り込むのを結局見送った。
平気、た、たぶん…?
いやわからん!!
ダンス・マカブラ!! いざってときに備えて!!
心の中で念じて、身体に巻き付く緑の触手のさらに下の身体の平面へダンス・マカブラで覆った。
ギリギリと身体が勝手に動き出し、──立たねばならない、という感覚に支配される。
そしてぎ、ぎ、と椅子を軋ませながら
「じょ…
「……いらねえぜ。大人しく座ってな」
「そ、ンなこと言わずにィ……あたしぃ手当ェ得意なんですよォ……」
グラグラと頭を揺らしながら、空条の方へ口が勝手に動く。ダンッと割と容赦なく怪我した足で床を進むので普通に痛い。
え〜〜ん!! 私、操られてる〜〜!!!
私は女医先生が机の上に置いていった手当一式からハサミを持ち上げる。
それを椅子に座る空条へと向け、ニッコリと微笑みかけた。
でもきっと空条承太郎ならささっと気づいてどうにかしてくれるでしょ。だって
「おい待ちな…何をする気だ…?」
「何ってェ、ズボンを切るんですよォ…手当ェ出来ないじゃあないですかァ…」
「冗談じゃねえぜ。脱ぐよ、もったいねー」
嘘だろ承太郎!!
チョキチョキと空中でハサミを動かす私へ呆れ顔で椅子から立ち上がり、背中を向けた。
いや気付け!!
違和感あるだろ!!?
そりゃ違和感なんて抱く余地もなく接点ないけどさァ!!!!
ポケットからハンカチを落として屈んだ空条の背中側へ私は回ると、握ったままのハサミを振り上げる。
「なんだッ? これは!? か……花京院ッ!?」
ハンカチを広げて空条が何やら叫んでいる。振り下ろされていくハサミは止まりそうにない。
このままじゃあ刺さる。空条ってこんな鈍ちんだったの?
ちょっと呆れる…。セーラー服の下で纏っていたダンス・マカブラを操りどうにかハサミを振り下ろす手をギリギリで止めようと試みる。
身体は完全に思い通りに動かないけれど、スタンドはそうではないようで……しかしダンス・マカブラのパワーではハイエロファント・グリーンの操作を止めきれなかった。
おそらく冷たいだろうハサミの切先が空条の肩口へと突き刺さる。
「ッ!!?」
分厚い手が振り向きざまに私の手首を掴んだ。
空条の背後に庇うようスタープラチナが現れる。遅いよ!
「テメエ…ッ! 一体何を…!!」
ハサミを突き立てる手にさらに力が入っていく。普通に私の筋肉の限界突破をしている。
ギリギリとハサミは空条の肩へと食い込んでいこうとするも、空条も丸太のような腕による腕力でどうにか食い止めている。いい勝負。
私の筋肉は限界ですけどね〜!!!!
「なんだ! この腕力ッ!! 女の力じゃあねえ!!」
「その通り」
医務室の窓枠に腰掛け、謎の操り人形を持った花京院が姿を見せた。
「て…テメエは!!」
「その女の子にはわたしの
「き…貴様ッ!! な…何者だッ!!」
花京院だッ!!
え? お前って敵のスタンド使いだったの!!?
でも一緒にエジプトまで旅をしてたよねッ!!?
私の筋肉が悲鳴をあげ続けるなか、悠長に話し続ける花京院に殺意が湧いた。テメエはいいよな、スタンドで操ってるだけだもんなァ…?
私は今まさに筋肉が千切れそうなほど酷使されてるっつーのに!!
そもそもこっちは足も怪我してんだよ!!!
「だから!! 貴様を殺すッ!!」
メキメキとついに骨まで軋みながら腕にさらなる力がこもっていく。どうにかダンス・マカブラでその支配から抜けようと試みるもうまくいかない。
ダンス・マカブラ……身体の支配をどうにかするのは一度諦めよう。これは多分無駄な奴だ。
ピクリとダンス・マカブラの抵抗も弱まり、おそらくは空条へとかかる力はさらに増したのだろう。私の手首を握る空条の手にさらなる力がこめられたのがわかった。
ハサミの切先は肩、どころか首へと向けられた。宣言通りに息の根を止めようと空条の首へハサミの切先が食い込んで、その首から血が流れ始める。
ダンス・マカブラ! スタンドのパワーでなく、それを操るエネルギーそのものを吸収するのだッ!!!
空条の視線が、ハイエロファント・グリーンの潜む私の口の中へと移った。
力任せに腕を逸らすと、首に浅い切り傷を作りながら空条の身体が動く。まって。なんて近づいてくる顔に止める暇もない。
ドギュ〜〜ンッッと効果音が聞こえた気がする。
「この女を傷つけさせはしねえさ!! こうやって引きずり出してみれば、なるほど取り憑くしか芸のなさそうなゲスなスタンドだぜッ! 花京院!!」
口を塞がれ、青い身体のスタンドが空条に重なったのが見える。
口づてに緑の触手が引きずり出されて……ようやく自由の戻った身体に脱力しそのまま床へと倒れ込んでしまう。
つ、つかれた……。いや痛い。ハイエロファント・グリーンの引きずりだされた口内全体がナイフか何かで引き裂かれたように痛む。
無理やりに立たせられていた足もまたズキズキと痛みだして……なぁんで私がこんな目に遭わなくちゃあいけないんです?
ピキピキと頭に血が昇っていく気配を感じた。
イライラする。なんで私がこんな目に。それもこれも私がディオの娘だから?
そんなもん望んでなったわけじゃあない。くだらねえ、そんなもんのせいで望んだ平穏が遠ざかる。
それは、なんて腹が立つ。
腹が立つ。腹が立つ。さっきの自分の意思で自分の身体を動かせなかったのだって、心の底から嫌だった。
私の意思が関係のないところで、私のことが定まっていくのが心底から嫌だった。
「……この空条承太郎はいわゆる不良のレッテルを貼られている……喧嘩の相手を必要以上にぶちのめし、いまだに病院から出てこれねえ奴もいる……」
支配されるのが──嫌い。
承太郎が何かを話している。聞き取る必要はないだろう。私が今、やりたいことはただ一つきりだ。
「だが! こんな俺にも吐き気のする〝悪〟はわかる!! 〝悪〟とはテメエ自身のためだけに弱者を利用し踏みつける奴のことだ!!」
ズタズタになって動かない身体にダンス・マカブラを纏わせる。
「ましてや女をーッ!! 貴様がやったのはそれだ! テメエのスタンドは被害者本人にも法律にも見えねえしわからねえ……」
私の身体が動けなくともダンス・マカブラは私の意思の力で動けるのだ。
「だから俺が裁くッ!!」
「
呟きながら、ダンス・マカブラの力で身体を起こした。
二度目のエメラルドスプラッシュを難なく防いだ空条は私の方を向き、一瞬だけ目を瞠ると再び花京院を睨みつけた。
その目にはそれまでよりも強い意思が宿っているようにも見える。
「テメエ……この状態の女をまだ操ろうってェわけか……」
「……いや、これはわたしではない…貴様ッ…貴様
「許さない…この私を好き勝手に操ろうだなんて……なんてカス…ドブカスが…殺してやる……花京院よぉ……アンタのこと必ずぶち殺してやるからなァ……!!」
穴という穴から血を噴き出させながら、ギリギリと歯を食い縛り花京院を指差す。
「ふん…その黒いのが貴様のスタンドか…人型も取れないとは、大したパワーでは…」
「アンタのスタンド能力ならもう
操られているときに吸収したハイエロファント・グリーンのエネルギーを
ハイエロファント・グリーンのエネルギーを凝結させて、さらに放出するのだッ!
「殺すッ! 必ずッッ!! アンタ自身のスタンドでッッッ!!!」
「なにッ!!?」
「……やれやれ…どうやら花京院、テメエは怒らせちゃあいけねえ女をプッツンさせちまったみてーだぜ!!」
口の端から血を流しながら空条承太郎は不敵な笑みを作る。
「オラオラオラオラッッ!! 裁くのはッ! 俺
「自分の技でくたばれッ!!! エメラルドスプラッシュ!!!!」
スタープラチナの拳と擬似エメラルドスプラッシュによりハイエロファント・グリーンは大きく吹き飛んでいった。
本体の花京院もまた全身から血を噴き出して、その場に倒れ込む。
オラオララッシュに耐えきれなかった医務室は周辺を巻き込んで大爆発を起こして、砂埃が舞っている。
そんな中で空条は倒れた花京院を担ぐと、私を振り向いた。
「おい、テメエにも来てもらうぜ……ついてきな、古家」
「……は、はい…せ、先輩……」
「……やれやれだ」
な、私の名前を知ってたんだ……という驚きを飲み込んで、仕方なしにその広い背中について行った。
花京院をぶちのめしたので、もう怒りは消えていた。
さすがに連続スタンドバトルは消耗が激しいようで、ダンス・マカブラは影の中に沈み込んだまま反応してくれない。おかげで怪我をした足でヒイコラと足の長さの違いで歩くのが段違いに早い空条を追うのに苦労した。
道中、さすがに男子一人を担ぎながらでは疲れるのか休み休み空条が進むので、そこだけは本当に助かったけど!
痛いもんは痛いのだ!!!
法皇戦
〜完〜
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不定型のスタンドであるためスタンドのエネルギーを吸収し放出するという形で擬似的にそのスタンドの能力を得られる場合がある。
例 ハイエロファント・グリーンのエネルギーを利用した擬似エメラルドスプラッシュ、スタープラチナの純粋なパワーなど。
ただしスタンドの模倣にはとてつもないエネルギーを消費する上に、あくまで吸収したエネルギーの
また模倣した場合の破壊力は真似た先のスタンド本体の破壊力から数段劣るらしい。
あくまでそれっぽく形づくりエネルギーを放出するだけで、真似たスタンドのステータスごと