吸血鬼の娘でも星を見つめたい   作:あん仔

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空条邸にて

 

 お父さんが有名ミュージシャンでお母さんがアメリカ人というからどんなお屋敷に住んでいるかと思えばまさかの純和風。しかも広い。寺か何か?

 

 興味ないっつーわりに詳しいのはJOJO(学校一のモテ男)の基本情報というのは勝手に耳に入ってくるものだからだ。

 恋する女の子ってそこら辺すげーの。

 

 

「お、邪魔します…」

「……」

 

 

 空条家の表札が掲げられた門をくぐり、玄関で片っぽのローファーと校舎でかろうじて履き替えた上履きを揃えて立ち上がる。

 

 

「スリッパが使いてえなら、そこにあるのを好きに使いな」

「わかりました」

 

 

 玄関の脇に置かれた来客用らしき同じ柄のスリッパをひとまず履かせてもらった。

 ダンス・マカブラで覆っていたとはいえ、登校前に素足で道路を歩いている。

 人の家に上がるのに床を汚してしまうのは気分が悪い。

 

 

「俺はジジイどもを探してくるがテメエは…」

「一緒に行きます」

「……好きにしな」

 

 

 花京院を抱えたまま長い廊下を歩き出した空条のあとを追った。

 だから人の家で勝手は出来んでしょって話よ。もし一人のときに空条のお母さんに遭遇しちゃったらなんて説明すりゃあいいわけ?

 

 空条ほどのモテ男ぶりなら住所を特定した悪質ファンガールが彼女ツラで家に上がって親に挨拶をするとか普通にありそうだもんな。偏見である。

 

 

「今。承太郎ったら学校であたしのこと考えてる♡ 今…息子と心が通じ合った感覚があったわ♡」

「考えてねーよ」

「きゃああああ!!」

 

 

 通りがかった一室で、そんな声が聞こえたかと思えば空条は特段変化を見せずに突っ込んで通り過ぎていく。

 そのあとに続いて部屋を覗くと、和室で写真立てを抱きしめる西洋美人が恥ずかしそうに頰を染めて立っていた。お母さんかな?

 

 

「う…う…」

「あ、ええっと…お邪魔してます…!」

「じょ、承太郎…! が…学校はどうしたの? それに…その子たちは! 血が、血が滴っているわ…! まさか…あ、あなたがやったの?」

 

 

 血塗れの花京院と私に気がつくと空条のお母さんは困惑を露わにさせる。そういや私も血塗れだじょ〜あはは。

 ゆっくりと歩いたからか先ほどよりはダンス・マカブラも気力を回復させており今は止血のために傷周りを覆っていた。

 もちろん、すでに流れた血に制服に染み込んだ血痕まで消せるわけではないので何事かがあったというのは一目でわかる。

 

 

 

「承太郎ッ! その青年は一体ッ…!? それにその女の子は…!!」

「やかましいぜ。ジジイ。今から起きたことを説明するから、まずは黙って古家の怪我を治療しろ」

「そりゃあ構わんが……」

 

 

 お母さんの言葉の通り、茶室? にて出迎えたのはおそらくジョセフ・ジョースターとアヴドゥルだろう。まだ自己紹介されてないから名前は呼べない。

 ジョセフの濃いグリーンの目が高い位置からじっと私を見下ろす。沈思黙考というように顎鬚を撫でる老人にダラダラと背中から汗が吹き出た。

 私に星型の痣はない。

 いくら摩訶不思議ジョースターの血統といえ、血の繋がりもない宿敵(DIO)の血に気がつくことはないはずだ。

 

 

「……もしかしてお前のコレ♡ か? 朝っぱらからガールフレンドを連れてくるとはやるのう! 承太郎ッ!」

「そんなんじゃあねえぜ……」

「またまたァん! このこのッ!」

「……やかましいッ! うっとおしいぜッ! ジジイッ!」

「なんじゃなんじゃあ冗談じゃろ、そんな怒鳴ることないじゃろ〜が! ……うむ。ではキミ、こっちに座ってくれ。チコ〜っとワシに身を任せて…そうそうそんな感じじゃ」

 

 

 ニッカリと笑顔を作って小指を立てたジョセフへ承太郎は眉を吊り上げ怒鳴りつけた。学校での様子を見るにこういう揶揄いは、空条の最も嫌いなものだろうししゃあない。

 アヴドゥルが畳に布団を敷いて花京院を寝かせる間、私は和室の隅で先ほどの孫とのやりとりと一転し真剣な顔を浮かべたジョセフと向かい合う。

 

 コォオオオという独特の呼吸音が聞こえた。

 腕に紫色の茨を巻きつけた腕がそ〜っと伸ばされた。バチバチとわずかに発光している。

 

 ──波紋だ、と気がついてゾッとする。

 

 

 母が恐れてきた噂の呼吸法。太陽以外で吸血鬼を殺す手段。

 少しずつ近づいてくる指先が触れる瞬間、咄嗟に目を閉じてしまった。

 

 

「ヨシ…痛いところはないかのう。お嬢さん」

「あ…え…は、はい、あの今の…おじいさんのスタンドですか」

 

 

 声をかけられ、目を開けた。ズタズタの全身…どころか皮膚ごと捻れていた右足まですっかり痛みが消えている。

 治癒、というわけだ。波紋便利やの〜。

 

 

「いやいや波紋じゃよ。昔とった杵柄って奴じゃのオ…! わっはっは」

「おいジジイ。治療が済んだんならさっさとこっち来い。話すべきは山ほどあるんだぜ」

「わかっとるっちゅーに!」

 

 

 緊張を和らげるようにか。

 おそらくあえて、なんて事のないことだとばかりに大笑いをしたジョセフへ承太郎が鋭い声で呼びかける。

 それから布団で寝かされた花京院を囲み、先ほどの医務室での出来事を空条は話し始めた。

 時おり私にも確認するように視線と問いかけが向けられたけれど、基本的に空条の話す内容と私の知る情報に差異はない。

 そもそも私はほとんど操られてたしなあ。

 

 それから花京院の額に埋め込まれていた肉の芽を空条の──スタープラチナが引き抜いた。

 これで一命を取り留めたらしい花京院が身体を起こして呆然と問いを投げかける。

 

 

「なぜ、お前は自分の命を危険に冒してまでわたしを助けた……?」

「さあな…そこんとこだが俺にもようわからん」

 

 

 背中を向けて答えた空条へ花京院は涙を飲み込んだように私には見えた。

 私は私でこのシーンは知ってるなあ…と一人、状況に取り残されながら考えていた。

 

 

 ジョセフたちの会話で彼ら視点で私もDIOの情報を手に入れた、ということにはなっている。

 

 

「それで、残るはキミのことじゃあな。お嬢さん、先ほどの承太郎の話…確かに聞いたがちと説明が足りておらん部分がある」

「……」

「その()()()()……肉の芽に操られた花京院が現れる前からキミは負っていたそうじゃな。理由(ワケ)を話してくれんか」

 

 

 問いかけ、という形でありながらも有無を言わさない強い眼差しでジョセフが口を開く。

 どうするべきか…と一瞬だけ思案して、すぐに頭を振った。

 適当に嘘を吐いたとして、失われるのは私への信用だけだ。おそらくは──この質問をしている時点でジョセフはおおよその()()を得ている。

 無駄に怪しまれないようにとくに気をつけて話さなきゃあね。

 

 

D()I()O()()()()()()()()()()()

「ッ!!」

 

 

 孫よりも濃いグリーンの目が見開かれた。

 私にはディオ(ヴィラン)の血が流れている。そしてこの世界において、ことさら血統というのは大きな意味を持ってしまう。

 この先どう転ぶか分からない以上は、ジョースターを敵に回すべきではない。

 

 

「正確にはDIOの手下を名乗る男でしたけど」

「それは何故……」

「DIOの元に私を連れていく、と言っていましたよ…それで息さえあればいいからと足を潰されそうになりました」

「……それであの怪我というわけか」

 

 

 承太郎が眉間に深い皺を作り、低い声で呟く。その視線はすでに包帯のとれた私の右足へ向けられている。

 

 

「…ふむ推測ですが、花京院やわたしとのやりとりを踏まえてもDIOはスタンド使いを探し集めているということで良さそうですな」

「そうじゃな、肉の芽があればスタンド使いを集めればそれだけ勢力は増す。…軍でも作る気かDIOの奴め。しかし今朝方に確保した()()()()使()()()()がまさかDIOの手下じゃったとはのう…!」

 

 

 純粋に私を心配して怒りのようなものを見せる空条とは対照的にアヴドゥルとジョセフは冷静に相談を始めた。

 朝のスタンド使いはすでに財団に捕まっているらしい。あっぶね〜〜嘘つかないでよかった〜!

 

 

「他にDIOの手下のスタンド使いが潜んでいるかもしれん……このままキミを家に帰すのは少しばっかし心配じゃ……! 傷も治したとはいえ完治とはいえんしな! 今日は泊まっていきなさい、お嬢さん」

「えっ、でも」

「ワシから親御さんにはきちっと挨拶させてもらうし! 心配はいらん!」

 

 

 ドンッ!

 歳の割に発達した胸筋(雄っぱい)を力強くたたくジョセフ・ジョースター。

 なんでだろう。怪我をした女の子だったから庇護欲が刺激されてしまったのかな。

 私としても別に泊まるのは構わねえんだが…。

 

 

「ええ…いえ、あの父は今アメリカにいるので家には私だけで、泊まるのは別にいいんですけど……その急だなあって…」

「そりゃあな、敵のスタンド使いはこっちの都合なんて考えてくれんからのう。万が一キミに何かあればスタンドに対して対処のできるワシらと、この家に泊まってくれるのが一番安全と思う、どうかな」

「……じゃあ家に電話させてもらいます…家政婦さんに今日の夕飯はいらなくなったって、伝えておきたいので」

「うむ! 決定じゃな!」

 

 

 とんでもない速さで残留が決定した。とはいえ一応はジョセフの提案も理に適ってはいるのだ。

 ただただ私がジョースターとお近づきになりたくない、というだけでな。

 一度襲われてしまっている以上は、一人になればまだ潜んでいるかもしれないDIOの手下に襲われる可能性は大いにある。

 この空条家に一泊するのが安全で合理的……そう自分を納得させるしかない。

 念のため空条の様子を窺ってみるが帽子のつばで目元が隠れて表情がわからなかった。

 まあ……何も口を挟まないということは特段文句はないということなのだろう。

 つーわけで嫌がっているのは私だけである。ひえ〜〜ん!!

 

 

「あ、改めまして、二年生の古家(ふるいえ)恵古(えこ)、と申します…1日だけの予定ですけどお世話になります…」

 

 

 少し時を進めて、再び顔を合わせた空条母。空条ホリィさんへ頭を下げて挨拶をした。

 ホリィでなく聖子と呼んでとウインクをされ明るい笑顔が返される。

 

 

「きゃ〜〜!! 承太郎がお友達を家に連れてきたわ! しかも女の子! 大歓迎しちゃうわ! エコーちゃんッ!」

「いえ、エコーではなく、恵古(えこ)……ああ、もうなんでもいいや」

「エコーちゃんッ! 食べられないものとか苦手なものとかなァい? 花京院くんもパパたちもいるし! 今日は奮発しちゃうわァッ!」

「わ、私はなんでも食べれます」

「……やれやれ」

 

 

 やれやれって言いたいのはこっちなんですよねぇ!?

 しっかし明るくて元気な(ひと)だなあ、と笑顔であれこれと動き回るホリィさんを見ながら思う。

 母、というのはこういう感じなのかなあ、なんて。

 

 

 

 それからジョースター一行(記憶のメンバーより一人少ない)とホリィさんらとすきやきをつつき、後片付けを手伝ったりお風呂を先に頂いたりといたせり尽せりだった。

 空条家の風呂はヒノキ風呂だった。金持ちってスゲー!

 風呂上がりに髪を拭きながらホリィさんのお古、と花柄のネグリジェを借りて上から厚手の淡い黄色のカーディガンを羽織る。

 少女趣味…という感じだけれど、ホリィさんが着ているのを自然と違和感なく想像が出来た。

 美人は自分に似合うものをわかってるし、自分の好みと似合うものとが一致もしてるのだろうな。

 うらやましい限りだ。

 

 

 縁側に腰掛けて広い和風庭園を眺めながら今後についてを考える。

 11月の後半ともなれば夜にはかなり冷え込む。吐く息は白く、指先が冷たく感覚が鈍っていく。

 それが嫌でないのは、こんな冷たさが私の知る唯一の母の温もりだからだった。

 吸血鬼に体温はない。

 満月からほんの少しかけた月光が雲間から差し込んで、すぐ傍に寄り添うダンス・マカブラを照らした。

 照らした、というかダンス・マカブラは月光も例外なく吸収して黒いのだけど、()()ということがはっきり見てとれたのだ。

 

 

「……これからどうしよっか、ダンス・マカブラ」

 

 

 このまま空条邸に居着けばそこそこ自然な流れで私もエジプトへの旅に同行できる、と思う。

 私が混じりどんな過程を経ようとDIOが〝承太郎〟に倒されることはすでに確定しているのだから、そこだけは()()、何があっても変わらないだろう。

 たかだか私の存在一つで変わるほど運命というのは甘いものじゃあないのだ。

 

 高校に入学して初めて空条を見かけたとき()にまつわる物語へきっと自分も巻き込まれるだろう、という奇妙な確信を抱いた。

 恐らくそれはこの身に流れる血というどうしようもない血統の運命(さだめ)と呼べるもので、そんなの冗談じゃない。断固拒否。絶対に私は関わらねえ──なんて思えていたころが今では懐かしくすら感じられる。

 

 

 結果がわかっていたとして、運命のせいで望まず巻き込まれるのと、自ら覚悟を決めて歩んでいくのは随分と違う。

 

 

 すでに私は目標を定めている。こうする、と決めた癖にグダグダといつまでも「でもでもだってやっぱりもしも」なんて悩み続けるのははっきりと無駄だ。

 

 

 それじゃあ私に──すでに確定している運命の中で、その中に私がいて一体何が出来るだろうか。

 とくに意味なくジョースター一行の旅路に同行して、〝DIOを倒した一人〟だというトロフィーだけを我が物顔で手にするなんてのは……かなりセコイ。

 

 

「……エコーさん」

「花京院くん」

 

 

 私に出来ることはなんだろう、と考えているうち気がつくと縁側の先に来客用パジャマだというグリーンのパジャマを着た花京院が立っていた。

 

 

「こんな夜更けに女の子へ声をかけるべきでない、というのはわかっているんですが随分と長くそうしているので、つい気になって……眠れないんですか?」

「キミも同じ?」

「……ええ、恥ずかしながら。失礼、隣に座っても?」

「もちろん、どうぞ」

 

 

 私の家じゃあないし〜と花京院が隣に座るのを眺めた。出来事を思えば花京院はそりゃあまあ眠れないだろうな。

 並んで座ったものの、とくにどちらも口を開くということはなく初対面の二人が無言で並んで月を眺めるという不可思議な空間となってしまった。

 DIOにより肉の芽を埋め込まれて忠実な部下にさせられるというのはどんな気分だろう。

 自分がそうなったら、と想像してゾッとする。

 

 どうやら私は支配されるのが心底()()であるらしい。

 それと何やら機を窺っているらしい花京院の言いたい内容もなんとなく予測できる。

 

 

「……キミに医務室でのことを──」

「謝る必要はない」

「──、は」

「操られてたんだろ、支配されてたんだろ、自分の意思じゃあなかったんだろ。なら謝罪はいらないですよ、花京院くん。悪いのはDIOです、それに私はたまたま医務室にいただけですからね」

「……そうですか、それなら…はい。もう謝れと言われても謝りません」

「そうしてください」

 

 

 ふふ、とお互いに笑いを飲み込み、月光の下で踊り始める人型をとったダンス・マカブラをぼんやりと眺める。

 こうしていると空条邸の和風感が合わさり妖怪みたい。

 

 

「それじゃあ僕は一足先に眠ります、キミも早く寝たほうがいい。1日に2人のスタンド使いと戦ったんじゃあお疲れでしょう」

「うんそうしますよ。ご忠告どうも」

 

 

 忠告に従う気はない、と正しく伝わったようで花京院は呆れ顔で肩をすくめた。

 去っていく花京院の背中を見送り、あくびを噛み殺す。花京院の言う通り疲れてはいるのだ。

 それ以上に考えておきたいことがあるというだけで、出来れば今すぐ眠りたい。

 

 DIOを倒したいのならジョースター一行の旅路について行くのが何よりも手っ取り早い。そんなことはわかっている。

 ただ私にジョースター家に味方をする、手を貸す義理がないだけで、…そもそもジョースターとはあまり関わりたくないしなあ。

 彼らとしても宿敵の娘を仲間にしたいと思うだろうか。

 

 DIOの手下、という形で現実にDIOの手が私にも伸びてきたのも事実。

 放っておけばDIOは倒されるとはいえ、そこら辺のアレそれは自分の力で解消しておきたくもある。

 悩ましい……。

 いやもういいや。利用できるものは利用しよう。利害は一致する。

 

 

 結局そう開き直って、客室へと戻った。

 

 

 そして翌日。空条家のプロフェッショナル・マザーにより染み抜きのされた制服に感動していると事件が起きた。

 新手のスタンド使いが襲ってきた、とかじゃあない。

 空条やジョセフのようにDIOの影響によりスタンドを発現させてしまったホリィさんが倒れたのだ。

 

 

「言え! 〝対策を〟!」

「うう…くう……ひとつ。DIOを見つけ出すことだ! DIOを殺してこの呪縛を解くのだ! それしかない!!」

 

 

 ホリィさんを抱きしめながら、苦渋の面持ちでジョセフ…ジョースターさんは宣言した。

 どう足掻いたとして、DIOの野望を阻むのはジョースターである。

 ああ…でもスタンドの影響なら私になんとか出来るかもしれない。

 私の影の中からダンス・マカブラが()()()()()

 それにより私に気がついたジョースターさんらの視線が私へと向けられる。

 

 

「ホリィさんを苦しめている()()……スタンドなんですね? だとしたら私がなんとか出来るかもしれません」

「なにッ! 本当かッ! エコー!」

「ええ……本当です。空条先輩はご存知でしょう、私の死の舞踏(ダンス・マカブラ)の能力を……」

「……」

 

 

 ジョースターさんの腕のなかのホリィさんから視線を空条へと移す。

 空条は帽子のつばに触れるとわずかに体を傾け、私にホリィさんへの道を開けた。それを”肯定“と受け取りホリィさんの元へ私も膝をつく。

 

 

死の舞踏(ダンス・マカブラ)……()()して……」

 

 

 そして蠢くダンス・マカブラがホリィさんの服の下へと入り込み、その背中に生い茂る植物の形のスタンドを覆っていく。

 そうして吸収して、吸収して──違和感に気がつく。文化祭のときに干上がらせたスタンドとは異なり()()()()

 

 

「……おお、ホリィの熱が下がって呼吸も穏やかになっていく! これでホリィはもしかしたら……!!」

()()…完全にスタンドのパワーを吸収できたわけじゃあありません」

「古家、どういうことだ」

「発現したてで未発達のスタンドだからなのか、スタンドヴィジョンが植物だからなのか……いずれまた必ずホリィさんのスタンドは()()するはずです。これはあくまで時間稼ぎにしかならない……本当の意味で助けるならば()()()から絶たなければダメそうです」

 

 

 言いながらどのようにあっても、『なるようにしかならない』…そんな運命の強制力のようなものをまざまざと見せつけられているような気にさせられた。

 どうしたってDIOはジョースターの前に立ちはだかり、野望は阻まれる、というような。

 

 

「お役に立てず、すみません」

「いや、キミはよくやってくれた。まだしばらくはホリィも無事だろうッ! あとはDIOの居場所を見つけるだけだ!!」

 

 

 それから念写したというDIOの写真の闇の中からスタープラチナがエジプトにしか生息していないというハエを見つけだした。

 私も写真を見せてもらったけど普通に何も見えなかった。スタープラチナのパワーを吸収すればダンス・マカブラも闇の中のハエが見えるようになるだろうか。

 おそらくはならない。ダンス・マカブラの能力はあくまでも『吸収と放出』であるからね。

 

 

「エジプト! 奴はエジプトにいるッ! それもアスワン付近と限定されたぞ!!」

「やはりエジプトか…いつ出発する? わたしも同行する」

「花京院」

 

 

 現れた花京院もまたDIOを倒すための旅に同行することとなった。

 このシーンはコラ画像で散々出回ってたからさすがに覚えている。花京院はおそらく昨日の時点ですでにDIOを共に倒すと決めていたのだろうなと思う。

 決断が早く羨ましい限りだ。私が同行するには踏まなきゃならない手続きが多すぎる。

 

 

「それでキミは……」

 

 

 ジョースターさんの視線が私へ移った。味方のスタンド使いは多い方が心強い、出来れば同行して欲しいが……強制は出来ない。とでも考えていそうだ。

 

 

「DIOの部下は私にも向かってきています。保身のためにも出来れば私も同行したいです、がそのためには話さなければいけないことがあります」

「話さねばならんこと?」

「ええ。私を連れて行くかどうかは、それを聞いてからジョースターさんたちで決めてください──話したいのは私の出生についてです」

 

 

 話すには、このタイミングしかないだろう。DIOとの関係を隠したところで負い目になるだけだ。

 ならば真っ先に明かす。

 話すうちにジョースターさんたちの眼差しに険が宿っていく。そりゃあそうだ。

 なんせ目の前にいるのは()を苦しめる元凶の血縁者であるのだ。

 

 

「──と、いうわけで。私の母は吸血鬼…私にはディオ・ブランドーの遺伝子が混ざっています」

「う、ううむ……しかしテレゴニー、とは……」

「何故素直に話した? これまでの経緯からしてワシらにソレを黙っておれば簡単に同行も出来たろうに」

「そういう大事なことを隠すような相手をアンタらは()()できるんですか? 私の目的はDIOの打倒ですから、別にアンタらからの信用なんざいりませんけどイザってときに無駄に怪しまれて足止めを食う……なんてのはごめん被ります、これは集団行動における()()の話でもあるんです」

「理屈はわかる、が」

 

 

 納得できない、という目でアヴドゥルが唸る。面倒ごとは先に済ましておいた方がいい。

 これで何もしていない私を財団が監視に止まらず監禁なんてしようとするなら、こちらもわかりやすく財団及びジョースター家と敵対ができる。

 その場合、ディオの娘とジョースター家の果たしてどちらが正義なの? という話だ。

 

 

「黙って同行して、のちのち敵につけいられるのも時間の無駄でしょう、といっても納得できませんか?」

「……キミがディオの娘であるという証拠はあるのかのう」

「そうですね……二度ほどディオの影響で髪色が金髪になっていたんですが切ってしまったので証拠にはなりませんね」

 

 

 証拠、といわれると困ってしまう。

 石仮面のことはつい昨日ジョースターさんに教えてもらったばかりだし、それ以外で私の知るディオの情報を話したところで真実であるかを確認する術はない。

 

 

「ええいグダグダとまどろっこしい……ッ!」

「っ」

「急になんじゃあ! 承太郎ッ!」

「庭に出な。古家、こういうまどろっこしいのは俺の好みじゃあねえ」

 

 

 黙って話を聞いていた空条は突然立ち上がり、親指で庭を指差す。

 眉間には皺がより、強い眼差しで私をも見下ろしている。

 

 

「単純な話だ。テメエが裏切るだ裏切らねえだ、そもそも本当にDIOの娘だなんつーのも関係ねえ……テメエに実力があんならな」

「……なるほど、ついて来てえなら実力を示せ、というわけですか、空条先輩」

「おいッ! 承太郎!!」

「邪魔すんじゃあねえぜ、ジジイ。俺はこいつにタイマンを申し込んでんだ」

「……ふふ。こうなったら我々には見守るしかなさそうですね、ジョースターさん」

「しかしのう花京院ッ!! 相手は女の子じゃぞ!!? これこれ座っとれッ! エコーッ!!」

 

 

 空条がさっさと庭へと降りていく。その背中を私も追った。

 冷静だった面立ちから一転し狼狽するジョースターさんの制止を無視して私も庭へと降り立つ。

 

 

 

「別に構わないですよ、私もまどろっこしいのは好きじゃあない」

「ハン……よく言うぜ…ジジイどもがああいう反応になるってわかってて言い出したくせしてよ」

「先輩、私は初めから言ってます。これは()()()()の話なんですってば」

「……」

 

 

 向かい合った空条は帽子のつばを目深に表情を隠してしまう。その背後に真っ青な体をした無敵のスタンド(スタープラチナ) が現れる。

 私もまた影からダンス・マカブラを()()()()()()()

 十分に休息をとったこととホリィさんのスタンドから吸収したパワーのおかげでダンス・マカブラも元気いっぱいだ。

 

 

「ところで空条先輩、ここで私が勝てたら同行させてもらえるんですか?」

「俺が勝ったらテメエにゃあDIOを倒すためにせいぜい役立ってもらうぜ、古家」

「はは」

 

 

 もう答えは出ているんじゃあないですか、と思わず笑ってしまった。

 それじゃあこれは何のためのバトルであるのか、と言われればそりゃあ説得のためのパフォーマンスのようなものなのだろう。

 自分たちがここまでしてんだ、納得しろよと。

 

 

 結構いい線までいったかな〜と自分では思うものの、ボロ負け。

 スタープラチナが相手ならそりゃあそうだろうと納得するしかない結果だった。

 

 

「……どうやらテメエのスタンドの()()っつーのは、見た目のモノマネにエネルギーを回す分か知らんが破壊力は落ちるみてーだな」

「ところで先輩のスタンドってチートすぎません? ちょっとズルじゃあないです?」

「知らねーぜ」

 

 

 バトル後、疲れ切ってまた影の中へ沈み込んでしまったダンス・マカブラはうんともすんとも言わなくなってしまった。

 一応人型を作って吸収したスタープラチナのパワーでオラオラ〜ラッシュ〜なんてのもしてみたが本家にはほんのちょォ〜っとしか効かなかった。ズル〜!

 それから空条先輩からの分析になるほど、となるなどした。

 

 

 やいのやいのと文句を言いながら和室へ戻ると、呆れ顔のジョースターさんからデコピンを食らわせられた。

 

 

「俺が勝った。コイツがなんであろうが他に目的があろうが俺にならコイツを止められるぜ、おじいちゃんよ」

「わかったわかった。エコーの同行を認めよう、それでいいなッ!?」

「フン……」

 

 

 満足げに頷き、空条先輩はまた帽子のつばで目元を隠してしまった。

 これも血統由来の奇妙な友情ってやつなのかな……。そうじゃないと信じたい。

 私はともかくダンス・マカブラは能力的に役に立つので!!

 そこを見込まれたのだと信じるぞ承太郎!!

 

 

 と、そんな一幕を挟んで、私も正式にエジプトへDIOを倒しに同行する運びとなった。

 

 

「一人、狼狽していたのが恥ずかしくなるな、……JOJO。占い師のこの俺がお前のスタンドに名前をつけてやろう。運命のタロットカードだ」

 

 

 そうアヴドゥルがタロットカードを扇のように広げてみせる。

 噂の暗示のやつだ、と少し感動する。空条先輩の引いたタロットは〝星〟。

 ここでようやく空条先輩のスタンドはスタープラチナと名前をつけられたのだった。

 アヴドゥルの目は私にも向けられる。

 

 

「エコー。キミも引いてくれ」

「……」

 

 

 促され、タロットカードを一枚引き抜く。巨大な鎌を持った死神のカードである。

 さもありなん、と鼻で笑う。タロットを確認し瞠目したアヴドゥルが声を張り上げた。

 

 

「これは…ッ! 〝死〟ッ!」

「おおう、見るからに不穏じゃな」

「まあ……吸血鬼の娘ですからねえ……」

「コレコレそういうことでないわ……」

「いえ確かに〝死〟のカードは不穏ですが……これは逆位置ッ!」

「意味が変わるんでしたっけ」

 

 

 なんとなく聞き齧ったタロットの意味を確認すればアヴドゥルは真剣そのものの顔で頷く。

 

 

「正位置では停止、終末、破滅を暗示する〝死〟のタロットだが逆位置になると起死回生、再生などに変わる」

「おおッなんか良さげじゃなあ!」

 

 

 何故かジョースターさんが一番目を輝かせている。占い大好きか。

 いや、ちょっと重い空気になってしまったからあえて軽く振る舞って気を遣ってくれているのかも。

 ……まあいいや。

 

 

 留守中のホリィさんの容態を診るためのSPW財団の医師団が到着し、旅立つ前の家族の時間ということでしばしアヴドゥル、花京院とともに空条邸の門の前で待機する。

 

 

「驚きました、キミがDIOの娘だったなんてね」

「はは、それに加えて母親も吸血鬼だときた。本当に人間なのかどうかも怪しいでしょう?」

「そうは言ってない。キミも言っていたでしょう、信用なんてされなくてもいいと、ね。JOJOたちと同じようにキミにもDIOを倒す必要がある、僕にはそれだけで十分と思いますがね」

「あらあら、花京院くんは話が早くて助かるわァ」

「僕は本気で言ってますよ。キミもその露悪的に振る舞おうとするのをやめた方がいい、ちっとも似合ってない」

「……自分だってカッコつけてたくせに、フン」

「フ……」

 

 

 急な指摘に図星を刺されてムッとする。そのままそっぽを向けば花京院が笑った気配だけ伝わってきた。

 ほぼ初対面でワケ知り顔なの腹立つ〜。まあ花京院も私も似たようなものか、とどうにか自分を抑えて苛立ちを飲み込む。

 肉の芽のせいとはいえ、花京院も元は敵だったんだもんな。そこらへんの事情を踏まえれば、アヴドゥルやジョースターさん、空条先輩らよりは花京院の立場の方が私に近いだろう。

 

 血によるものか、肉によるものかの違いだけだ。多分きっとおそらくは。

 

 

「JOJOのお母さん……ホリィさんという女性は人の心を和ませる女の人ですね……そばにいるとホッとした気持ちになる」

「うんまあ、確かにそうかも」

「こんなことをいうのもなんだが、恋をするとしたらあんな気持ちの女性がいい、と思います。守ってあげたいと思う……元気な笑顔が見たいと思う……」

 

 

 急に何言ってんだコイツ……と思わず花京院の顔を凝視した。

 花京院はどこまでも真剣な顔で、心の底からそう思っているのだと理解できてしまった。高校の先輩の母親が好みのタイプ…ってワケ、ね。

 花京院は年上が好き…と心の中のメモに記した。

 

 

「うむ、いよいよ出発のようだな……行くぞ!」

 

 

 そうしてエジプト行きの飛行機に乗るため成田空港へと向かったのである。

 一応学校へしばらく休むという連絡と、着替えなんかの旅行の準備にパスポートも持っている。

 何年か前に父の試合を見にアメリカへ行ったときのパスポートをとっておいてよかったなあ、という気持ちだ。

 

 諸々の手続きの末の出発であるので、空港に着く頃には空はすっかり暗くなっていた。

 

 花京院とアヴドゥルの前の座席につき、目を閉じる。私が精神を休ませればそれだけダンス・マカブラの回復も早まるだろう。

 スタンドは精神エネルギーッ!

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