予想通りなにごとかが起きることはなくホテルをチェックアウトしてアブドゥルと花京院と合流した。今後の予定は食事をしながら話し合うということで中国料理店に入った。
ダンス・マカブラによりほんの少し期限が延びたとはいえ、ホリィさんがスタンドにより苦しめられることには変わらない。
少なくとも五十日以内にDIOに出会わなければならない。エジプトまで1万キロ。
タワーオブグレーによる襲撃がなければ今頃はカイロに着いていたというのに途方もない道のりである。
飛行機っていうのは偉大な発明なのだとつくづく思わされた。
「飛行機がなくても五十日あれば一万キロのエジプトまでわけなくいけるさ。そこでルートだがワシは海路から行くのを提案する」
船をチャーターしようというジョースターさんの提案に私も乗っておく。
香港からエジプトまでなんて陸路も海路も当然のごとく行ったことなどないので慣れているらしい人たちにお任せしよう。
海路か……母がイギリスからアメリカに辿り着いたときはどうだったかな。船に乗っていたのは覚えている。タイタニックとかいう船。
「すみません、わたしフランスから来た旅行者なんですがどうも漢字が難しくてメニューがわかりません、助けて欲しいのですが」
慣れた様子の花京院へ銀髪に電柱のような頭をしたフランス人が声をかけた。フランス人というからにはフランス人なんだろう。
あっ柱の(ような)男だ!
露出度の高いワンショルダーキャミソールを着ている。ほ〜ん……。
「やかましい、向こうへ行け」
「おいおい承太郎…まあいいじゃあないか」
柱の(ような)男を追い払おうとした空条先輩をジョースターさんが宥めた。
「わしゃ何度も香港に来とるからメニューくらいの漢字は大体わかる。で…何を注文したい? エビとアヒルとフカのヒレとキノコの料理?」
それからメニューを読み込み、注文をしていく。
私も横からメニューを覗きこんで見たものの中国語の会話だけならばともかく漢字になるとちんぷんかんぷんだ。同じ漢字だからこそ、別の意味になっていたりしてわかり辛い。
運ばれてきた㫴鴨というカエルの丸焼き料理にさすがに驚いた。ジョースターさん…あんなに自信満々だったくせに……。
他は豚肉のおかゆに貝料理、魚の煮物になっていた。でも鴨って書いてあったら私も鴨肉って思っちゃうかも。
「わははは、ま…いいじゃあないか。みんなで食べよう。ワシの奢りだ」
皮蚕牛肉粥はわりと有名な中国料理ネ。私も知ってる。
それ以外は読み間違えているとはいえ比較的安牌な料理だったのだけど、カエルの丸焼きがよほど衝撃だったのかジョースターさんは誤魔化すように笑っている。
「カエルの肉って鶏肉に似てるって聞いたことがあります、花京院くんちょっと食べてみたらどうです」
「いやですよ、気になるならキミが食べたらいい、エコーさん」
「ヤダなあ。女の子は朝から油っぽいものは食べないんですよ…私はおかゆをもらいますから花京院くん、どうぞ」
「なんですそれ、ずるいですよ」
「やめないか、お前ら。ほら、二人で仲良く食べなさい。日本人は食べ慣れていないかもしれんが、案外イケるからまずは食べてみろ」
ターンテーブルをぐるぐると回してカエルの丸焼きの皿を花京院の前へと回転させる。
静かに争う私と花京院にアヴドゥルがカエルの丸焼きを小皿にとりわけ私と花京院の前に置いて行った。く……!!
丸焼きって言ってカエルの形がそのままで出されると食らいつかなきゃいけないのがいや。せめてカエルってわからんように肉をほぐしてくれたらいいのに。
太ももの肉を箸で削いで口に運んだ。見た目の抵抗感はすごいけど、きちんと料理として扱われるだけあって美味しいは美味しい。あっさりとした
鶏肉って感じ。
「う〜ん、カエルはさすがに初めて食べましたが唐揚げに似てますね」
「料理として提供してる食用カエルだもんね〜、衛生面はきちんとしてるはずだし、うん意外とイケます」
「お〜気に入ったか。よかったよかった!」
「若者の口には合ったようだな、承太郎もどうだ?」
「ああ貰うぜ」
「手間暇かけてこさえてありますなあ、ホラこの人参の形…
食事中、箸で人参を持ち上げた柱の(ような)男がわざとらしく呟き始めた。
和気藹々としてた空気が一瞬で張り詰め、それぞれなんだコイツという目を柱の(ような)男を向ける。
「そうそう…わたしの知り合いが首筋にこれと同じ形の痣を持っていた、な……」
「………」
「貴様! 新手の……!」
花京院の声。ジョースターさんの目の前のおおざらが大きな泡を吐き出したかと思えば、銀色の刃が飛び出した。
ダンス・マカブラを隣のジョースターさんの目の前で広げた。
刃がジョースターさんへと届く前にダンス・マカブラの
しかしその前に銀の光が閃いて、ダンス・マカブラから抜けていってしまった。
「ジョースターさん危ないッ!」
「スタンドだッ!!」
「速いッ!!」
「『
アブドゥルが一拍遅れてマジシャンズレッドを出し、炎を放つ。しかしそれも現れたポルナレフのスタンドの剣さばきで渦のように綺麗に捌かれてしまった。
どちらもさすがの早技。ダンス・マカブラも反応速度には自信があったのに!
ポルナレフのスタンドの剣さばきはそれ以上ということになる。
マジシャンズレッドの炎で剣身を燃やし、それを剣さばきのみで、たった今の騒ぎで転がったテーブルへ弾いてみせた。
「な…なんという剣さばき…!」
「おれのスタンドは戦車のカードを持つ『
ポルナレフも敵のスタンド使いだったのかァ。向かい合うアヴドゥルとポルナレフ。戦闘に巻き込まれないようアヴドゥルの背後へ後退りながら、様子を窺う。
しばらくの戦闘のあと、集まりそうになりポルナレフの提案で場所を移すことになった。
シルバーチャリオッツもマジシャンズレッドも店内という限られた場所では真の実力を発揮できない云々。とくにマジシャンズレッドの炎では周囲も無事じゃあ済まないだろうしね。
ポルナレフが移動した先はタイガーバームガーデン。極彩色に染められたグロテスクな人形がいくつも立ち並んでいる。
これは奇妙。
アヴドゥルとポルナレフの戦闘を巻き込まれないように距離を取りつつ見守る。
二発のクロスファイヤーハリケーンによる高熱と炎でシルバーチャリオッツの体が溶け、本体であるポルナレフも倒れ込んだ。
中距離高火力攻撃型とかいうマジシャンズレッドつえ〜…。見たまま近距離型であるシルバーチャリオッツとは相性が悪かったということだろう。
シルバーチャリオッツも剣の長さ分、スタンドの射程は広そうだけど。
「ブラボー! おお、ブラボー!」
シルバーチャリオッツの鎧がキャストオフされるとほぼ無傷のポルナレフが拍手をしながら浮かび上がった。
「甲冑を外したスタンド! 『
「畏れ入る。説明していただこう」
能力の説明をしてくれるのやさし〜ですね〜。自然とポルナレフの騎士道を受け入れるアヴドゥルも度量が大きいというかなんというか。
私なら説明しないし。説明している間に攻撃しちゃうね……主人公側の人間の行動じゃあねえな……。
こういうやりとりで
「スタンドはさっき分解して消えたのではない。わたしのスタンドには“防御甲冑”がついていた、今脱ぎ去ったのはそれだ。キミの炎に焼かれたのは甲冑の部分……だから私は軽傷で済んだのだ」
スタンドの能力を説明してくれるポルナレフとアヴドゥルとのやりとりを聞きながら、〝甲冑〟か……と私のスタンドにも応用できそうだとかなんとか考えていた。
単純な人型は…ともかくスタンド像へダンス・マカブラを変形させるのはそこそこのエネルギーを使うのだ。
すでに在る形を真似るのに意識を割かれるからだからか知らないけど、おそらく最高効率ではない。空条先輩もパワーが落ちてるとか言っていたしなあ。
ダンス・マカブラは非力だから戦うつもりなら、もっと戦い方を工夫しなければいけないのだ。
う〜む、と考え込んでいるうちにポルナレフとアヴドゥルの戦闘の決着がついていた。
そして肉の芽をスタープラチナが抜き取って──。
「と、これで肉の芽がなくなって
ヒヒッと笑いながらジョースターさんがポルナレフへと波紋の治療を施し、この件は一件落着と収まったのだった。
戦車戦
〜完〜
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港でジョースターさんがチャーターした船を待ちながらポルナレフの過去の話を聞いていた。
ほんの一瞬女の子へ聞かせる話ではないとも溢していた訳を知る。
妹の復讐か、と受け入れることにする。
生き残ってしまった妹の友人の話では犯人は両腕が右腕の男──、話を聞いていると犯人は初めからポルナレフの妹に目をつけていたような気もする。
「俺は誓ったッ! 我が妹の魂の尊厳と安らぎは、そいつの死を持って償わなければ取り戻せんッ! 俺のスタンドで然るべき報いを与えてやるッ!! ──そして一年前に俺はDIOと出会った」
内心で拍手を送った。肉の芽が埋め込まれながら騎士道に拘った男は言うことが違う。
ポルナレフの言葉はどこまでも真っ当で正しいと感じる。
確か黄金の精神って奴だよな。
そして一年前に出会ったDIOによりポルナレフは肉の芽を埋め込まれ、ジョースター一行を殺せと命じられそれを正しいことだと信じたのだそう。
「肉芽のせいもあるがなんて人の心の隙間に忍び込むのが上手い奴なんだ」
「うむ…しかし話から推理するとどーやらDIOはその両手とも右腕の男を探し出し仲間にしているな」
「俺はあんたたちと共にエジプトへ行くことに決めたぜ。DIOを目指していけばきっと妹の仇に出会えるッ…!」
こうしてポルナレフが仲間となったわけだ。ジョースター一行もといスターダストクルセイダーズって何人いるんだったか。
七人目のスタンド使い〜っていうオリジナル主人公となってエジプトへの旅に同行するゲームがあった気がする。ってことは仲間は私を抜いて全部で六人。あと一人ともきっと旅の途中で出会うんだろうなあ。
「すみませ〜ん! ちょっとカメラのシャッター押してもらえませんか?」
目にハートを浮かべた女性二人が空条先輩へと声をかけてきた。海を越えてもモテ具合は変わらんらしい。
相手も日本からの旅行者らしいから多少はね?
「おねがいしま〜す♡」
「やかましいッ! ほかの奴に言えッ!!」
「まあまあ写真ならわたしが撮ってあげよう」
直前までの空気から一変し、お調子者といった風情で女性たちからカメラを受け取ると気楽に写真を撮り始めるポルナレフ。
思わず呆気に取られてしまった。
「さっきまでの空気はどこへ…」
「なんかわからぬ性格のようだな」
「随分と気分の転換が早いな…」
「…というより頭と下半身がハッキリ分離しているというか」
「やれやれだぜ」