吸血鬼の娘でも星を見つめたい   作:あん仔

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VS節制

 

 どうやら犠牲者を出してしまったらしく、ポルナレフは警官にドナドナと連れて行かれてしまいました。

 先を急ぐ旅で足どめを食うわけにはいかないとジョースターさん。

 今回ばかりはSPW財団が動くようで、すぐに釈放されるだろうとのことだ。

 その間自由時間になる──わけもない。

 

 

 DIOの考えを探ると、ジョースターさんとアヴドゥルはホテルの部屋に残り、私とアンは空条先輩と花京院の4人でインドへ向かうための列車の切符を手配しに行くことになった。

 

 

 久しぶりにまともに身体を休めることが出来た気がする。柔らかなベッドって最高だ〜!

 

 

「パンアイス!?」

「知らねーのかよ、シンガポール名物だろ」

「シンガポールは初めてなんだからしょうがないでしょ」

「フ〜ン」

 

 

 屋台の看板に掲げられた食パンにアイスを挟むという初めて見る食べ物に驚愕しているとアンに呆れられてしまった。

 普通の食パンに好きなフレーバーのアイスを挟んで食べる仕様らしい。いやでもメロンパンにアイスを挟んで食べるものも見たことがあるような気がするし、わりとイケるかもしれない…。

 お値段も手頃…。

 

 

「買ってみる?」

「アンは食べたことあるの?」

「まあ何回かはね」

「じゃあアンのおすすめがいいな」

「フ〜ン…なら選んでやるよ」

 

 

 頼んでみれば、アンはそっぽを向いてアイスクリーム屋台の方へと向かう。

 それにしてもパンアイスとは。

 気候的に常に夏のようなシンガポールではアイスが有名らしい。暑いと冷たいものが食べたくなるもんね。

 

 

「お嬢ちゃんたち、アイスクリームもいいがコイツも美味いよン。ひんやり冷えたヤシの実の果汁だ、どうだい?」

 

 

 屋台の兄ちゃんはそう言って持ち上げたのは白く削られたヤシの実だ。

 前世で飲んだことがあるけど、あまり美味しいイメージはないんだよな…。

 

 

「四シンガポールドルもするじゃん。観光客用にぼってる値段かよ、二ドルなら飲んでやるよ」

「あのね〜ナチュラルピュアテイスト百%なのよン。さっきから木から採ってきたばかりのやつにこうッ穴を開ける」

 

 

 採りたてだとまた味が変わったりするのだろうか。ヤシの実の端を思いきり削ぎ落として見せた兄ちゃんがストローをさしてヤシの実の果汁を見せてくれた。

 

 

「するとア〜ラビックリ! こんなにきれいな果汁がたっぷんたっぷんなんだよォ〜ン! トロピカルゥ! と〜っても甘くてしかも爽やかァ〜〜果肉も美味しいよ、スプーンでどうぞ」

 

 

 すげ〜商売上手だ。実演販売はこういう屋台の強みの一つなんだろうな。

 

 

「飲んでみるか。四つくれ」

「ヘイど〜も。十六ドルっす」

「おい八ドルにしろ、八ドルに」

 

 

 アイスはあとでということにして屋台の兄ちゃんからストローのささったヤシの実を受け取った。

 ほんの少し青臭い甘めのポカリスエットみたいな…喉が渇いていたのもあって、冷めたくて美味しい気がする。

 

 

「てめー、おれの財布を盗めると思ったのかッこのビチグソが〜〜〜〜〜ッ!」

 

 

 花京院のとんでもなく下品な怒鳴り声に振り向く。ちょうど男性の顔に膝蹴りを食らわせるところだった。

 

 

「花京院!」

「ちょっと何してんのやめなよ」

「……この肥溜めで生まれたゴキブリのチンボコ野郎のくせにおれの財布を! そのシリの穴を拭いた指でギろうなんてよォ〜〜〜〜! こいつはめちゃ許せんよなァァ!!!」

 

 

 バックブリーカーをキメられ男性は白目をむいて泡を吐き出している。試合ならとっくに勝負がついてるダメージだろう。

 つか下品だなァ!?

 

 

「おい! 何しているんだ、花京院。死んじまうぜ、やめろ、血を吐いてる」

「財布すられたのかもしれないけど、もう十分痛めつけてるだろ、やめろって!」

「ほれほれほ〜れ」

 

 

 バキバキと骨の折れるような音がして聞くに耐えない。花京院を力づくで止めようと近づきかけたとき、空条先輩が私の前を塞ぎ「俺が行く」とでも言うように花京院の元へ向かっていった。

 

 

「花京院! やめろと言ってるのが! わからねーのかッ!」

 

 

 そうして空条先輩が花京院を突き飛ばし、意識のない男性とを引き剥がした。

 

 

「てめー、花京院。どうかしてるぜ、興奮しているのか?」

「痛いなぁ、何もぼくを突き飛ばすことないでしょォ、こいつはぼくの財布を盗ろうとしたとっても悪いやつなんですよ。懲らしめて当然でしょ! 違いますかねェ…承太郎くん !」

 

 

 あ〜コイツ偽物だ。もしくは何かに操られてるか。

 前にもそういうスタンドがいたもんねェ〜〜!!

 洗脳か入れ替わりかをはっきりさせてから、スタンドを目視しないと私にはどうしようもない。

 入れ替わりだった場合は本物の花京院を探すのが手っ取り早いけど、探知系のジョースターさんはホテルに残っている。

 とりあえず尻尾を出すのを待つのがいいのか……。

 

 

 アンへ少し離れておくようジェスチャーをしてから、睨み合う花京院(偽)と空条先輩のそばへ近づく。

 ダンス・マカブラをバットの形に変形させて握り込み振りかぶる。

 

 

「ッ!!? ガぁ゛ッ!!?」

「……エコー」

「そう心配しないでも、そこまで力は入れてないんで花京院の体なら耐えられますよ」

「なにしやがるックソアマァッッ!!!!」

 

 

 頭を押さえて花京院(偽)は目の色を変えて私へと怒鳴りつけてくる。

 正直後手に回された委員長のときとは違って花京院に手加減はいらんと思うわけ。私も操られてソコソコの目に遭ってるし、その報復はすでに終わっているけども。

 

 わずかに目を瞠り、呆れ顔を浮かべる空条先輩へ言い訳をしておく。

 

 

「だってほら怪しい相手を放っておく方が良くないじゃあないですか?」

「やれやれ……もうちと様子を見る予定だったんだがな」

 

 

 そう呟き空条先輩は学帽のつばで顔を隠した。今は見えていないことにする、ということだろうな。と勝手に理解しておく。

 

 

「おい花京院。アンタのスタンドを見せろよ」

「あァ!?! …そりゃあええ、構いませんけど……もしかしてエコちゃんはこのぼくを疑っているんですかァ?」

「……」

「なに睨んでるんだよ…よくないなァ…仲間割れでもしようってんじゃあないでしょうねェ〜〜……でもええ、見せるだけなら構いませんよォ…」

 

 

 ニンマリと口の端を持ち上げた花京院の足元から淡い緑色に発光するハイエロファント・グリーンがゆらりと立ち上がった。

 スタンドがそのままってことは洗脳説濃厚……?

 

 肉の芽に引き続き二度目ですか。よく洗脳される奴だな。

 

 

「そう、私の勘違いだったみたい。ごめんね」

「おいッ!!?」

 

 

 一歩。花京院へと近づき、私もまたダンス・マカブラを影の中から立ち上がらせる。花京院の傍に立つハイエロファント・グリーンへダンス・マカブラを広げて包み込んだ。

 

 

「ダンス・マカブラッ吸収しろ!」

「でンめェ!!!! なにしやがるッッ!!」

「ギャアギャア喚くなよ。うるせえな、アンタの様子がおかしいのはわかってんだから無力化して当然だろ」

 

 

 慌てたように声を荒げる花京院を無視して、ダンス・マカブラは触れた部分からハイエロファント・グリーンのエネルギーを吸収していく。

 ドロリ、とハイエロファント・グリーンの体が崩れていく。

 溶けるように崩れ、やがて完全に手応えが消えてなくなった。ハイエロファント・グリーンは消失してしまった。

 

 

「……」

「……おいエコー。スタンドのエネルギーを吸収しきるのは初めてか?」

「二度目ですけど、前のときは干からびただけで完全にスタンド像が消えることはなかったです」

「なら……今のハイエロファント・グリーンは幻覚か何かだったってェことになるが……てめーはどう思う、花京院」

「ッ……ひッひどいじゃあないですかァ!! ちょっと機嫌が悪かったくらいで怪しんでぼくのスタンドをけしちまうなんてェ!!! あんな盗っ人をちょいと痛めつけたくらいで!!!」

 

 

 ダラダラと汗を流しながら、後退りはじめた花京院へ凄味を放つ空条先輩が近づいていく。

 

 

「JOJO! 誰にだって機嫌が悪い日だってある…キミだってそういうときがあるでしょう!? たしかにちょっとばかりやりすぎて痛めつけてしまったが……ッ!」

「〝機嫌が悪い〟? ……むしろ良さそうに見えたがな…オラッ!」

「ッッ……こンの〜〜〜!!」

「! なに!!?」

 

 

 空条先輩の拳に殴られた花京院の下顎が大きく崩れた。グロい。

 

 

 

「何者だ!?」

「ヒヒヒ、おれは食らった肉と同化しているから一般の人間の目にも見えるし触れもする”スタンド“だ。”節制“のカード、イエローテンパランス!」

 

 

 顎を砕かれ地面に倒れた花京院が笑い声をあげながら顔を上げる。花京院が動くたび下顎がぷらぷらと揺れて大変グロい。

 

 

「これがおれの本体のハンサム顔だ!」

 

 

 花京院の顔の中から別の男の顔が現れた。本人の自己申告を信じるなら肉と同化したスタンドを全身に覆っていたらしい。

 船と同化したスタンドもいたしスタンドって本当になんでもありなんだなあ。

 

 

「ほ〜れほ〜れ承太郎先輩ィ〜〜手を見なさあい! キミの手にも今! 殴ったとこに一部が食らいついているぜ」

 

 

 ハンサムの言葉に空条先輩が右手を持ち上げた。右の手に黄色のスライムのようなものがくっ付いている。

 

 

「言っておく! それに触ると左手の指にも喰らいつくぜ! 左手の指はハナでもほじっていな! じわじわ食うスタンド! 食えば食うほど大きくなるんだ絶対に取れん!」

「や…野郎…ッ!!」

『オラァ!!』

 

 

 間髪入れず現れたスタープラチナがハンサムに殴りかかる。

 

 

「何がオラだッ! 消化するときその口の中にテメーのクソを詰め込んでやるぜッ!! ヒヒヒッあばよ!! 承太郎ッ!!」

 

 

 ハンサムの纏う黄色のスライムが周囲に一気に広がった。視界を塞ぐ黄色のスライム──イエローテンパランスから咄嗟に空条先輩と自分をダンス・マカブラで覆った。

 どうにか全身はイエローテンパランスに触れずにすんだ、わけであるが……。

 

 

「あの野郎…逃げやがった……ッ!」

 

 

 空条先輩の右手と、スタープラチナの右腕にはべっとりとイエローテンパランスが食いついている。見た目からは分かりづらいが、おそらくジワジワと肉を食われているのだろう。

 

 

「場所を変えましょう、先輩。スライムの広がる速度はそこまで速くない……さっきの似せる気のないクソ演技を見る限り相手も気の長い方じゃあないと思うんです」

「……周りの一般人に化られちゃあ、本体をぶちのめしたくても探すのに一苦労…っつーわけか」

 

 

 長期戦に持ち込めば短気を起こして先輩に自らトドメをさしに再び姿を現す気がする。あれだけクソ演技をかましていたのだ。

 つまり万一バレてもデメリットはない、とスタンドによほどの自信があるということに他ならない。

 

 冷や汗を流しながら、空条先輩が帽子のつばに触れた。アンにすぐホテルへ戻るよう伝えて、人の少ない通りへと移動することに決まった。

 早歩きで並び歩いている内にふと空条先輩がジッポーを取り出す。

 

 

「先輩、何する気です」

「………少々火傷するが焼き殺す……ぐ…ううっ…」

 

 

 ジッポーの火がイエローテンパランスへと近づいていく。ジュッと皮膚の焼ける臭いがしてきて顔をしかめてしまう。

 熱さられ逆に飛び散ったイエローテンパランスへさすがの空条先輩も焦りを露わにさせる。そりゃあそう。

 

 

「さっきのハイエロファントグリーンみたいにテメーのダンス・マカブラで剥がせるか……」

「ダンス・マカブラの吸収は生物相手に使ったことがないので、どうなるかは保証できないですよ」

「……」

 

 

 ふと空条先輩の視線が上へと移る。つられて私も上を向き、上空を移動するケーブルカーに気がついた。

 

 

「あの中にならあの野郎は忍び寄って来られねえな。あれに乗るぞ」

「えっ、でも乗り場には多分人がたくさんいる…」

「ダンス・マカブラの一部だけボールに変えな…あとはスタープラチナがやる」

 

 

 言われた通りダンス・マカブラを球状に変化させる。一部だけボール型になったダンス・マカブラをスタープラチナが持ち上げる。

 

 

『オラァッ!!』

「ちょっまっ」

 

 

 上空を移動するケーブルカーへスタープラチナがダンス・マカブラを()()()

 とんでもない球速にボールに変化させていなかったダンス・マカブラの他の部分も影の中から引っ張り上げられ──そこにスタープラチナがしがみつき、ついでにスタープラチナにつられた空条先輩(本体)とそれに抱えられた私、という状態で全員揃ってケーブルカーへと乗り移ることに成功した。

 今のを一瞬で思いつく発想力やばくないです?

 

 

「せ先輩、そういうことするなら先に、先に言って」

「言ったところで何も変わらんぜ」

 

 

 変わる〜〜!!!

 主に私の心構えがァ〜〜!!!

 帽子を被り直す空条先輩にちょっとした殺意が芽生える。こっちは紐なし逆バンジーさせられてんだぞ、しゃあねえだろ。

 

 

「邪魔するぜ」

 

 

 ゴンドラ内には犬を連れた親子3人が乗っていた。

 横幅の大きめな女とアイスキャンディーを舐める男の子に、父親らしき男は居眠りをしている。

 

 

「おやまあ…変なとこから乗ってくるねえ…」

「気にしねーでくれ。おい坊や。そのアイスキャンディーにちょっと触らせてくれ」

 

 

 空条先輩が男の子からアイスキャンディーを受け取る。プルプルと震え出す男の子に、可哀想と同情してしまう。

 いや今はもっと大変な事態なんだけど…泣きそうな男の子の前にしゃがみ視線を合わせてフォローをいれておこう。

 

 

「ちょっとアンタ! 子供のものになにすんのさ」

「ごめんねえ、あとで代わりのアイスを買ってあげるから、今はちょォ〜っとだけ我慢してね」

「う、うん…」

「アンタの子か?」

「ちがうわよ」

「なら黙って景色でも見てな。熱してだめなら……」

 

 

 アイスキャンディーを右手に引っ付いたままのイエローテンパランスへくっつける。

 冷やされた黄色のスライムは再び形状を変え、今度は針のように尖った。

 熱も冷やすのもダメとなるとやっぱり本体を倒すしかスライムを剥がす方法がないということになる。

 

 

「ちょいとアンタッ! 火も氷も無駄なんだよッ!」

「!!」

「おれのスタンド『黄の節制(イエローテンパランス)』に弱点はないッ!! このビチグソがァ! ガァーハッハッハッ!!」

 

 

 女性の体が崩れ、中から再び自称ハンサム男が現れた。

 男の子が居眠りを続ける父親を揺さぶり、起こそうとしている。

 

 

「パパ! わんわんがわんわんがっ! 知らない人が3人も乗ってきたよ〜!!」

「トドメを刺しにきたぜッ! 承太郎先輩ッ!!」

「すでにこのゴンドラに乗っていたのか……」 

 

 

 予想通り気の長い性格ではないようだ。空条先輩の視線が一瞬だけ私に向けられた。これは…!

 覚えがある。エジプトへ向かう飛行機の中で同じように私に何らかのアクションを求めている目ッ!!

 

 ハンサム男のスタンドが素手で触れられないことはわかっているのだ。ならッ…!

 

 スタープラチナの手の中にダンス・マカブラで作ったバットを握らせる。

 そう…言うなれば死の舞踏(ダンス・マカブラ)黒化剣(バットエディション)……ッ!

 あまりにも厨二臭いので絶対に口にはしないけどなッ!

 

 

『おらぁ!』

「む! 速い! しかァあし〜〜!!」

 

 

 そうしてスタープラチナは装備したダンス・マカブラ・バットで触れないようハンサム男を殴りつけた。それすら自らのスタンドで再び防ぐ男は勝ち誇ったように笑い続ける。

 

 

「弱点はないと言っとるだろーがァッ! 人の話聞いとんのかこの田吾作がァ〜〜!!」

()()()…弱点はある」

「私のスタンドはいうなれば〝(パワー)を吸い取る鎧〟! 〝武器にもなる防御壁〟! 触れただけでエネルギーを吸収できるッ! アンタのスタンドがどれだけ肉に食いつこうが、力を吸収しようが、死の舞踏(ダンス・マカブラ)の前では意味がない──ッ!」

 

 

 ダンス・マカブラと触れた部分から一気にイエローテンパランスの(パワー)を吸収していく。あのクソ猿の一件からスタンド使いとの戦いでダンス・マカブラと相手との相性が良すぎてメタ張りをしているような気分になる。あるいは実際にそうなのかもしれない。腐ってもディオの娘ということだろうか。

 

 

「なにィ〜〜!!?」

 

 

 触れた部分からついさっきの偽ハイエロファントグリーンのように崩れていくイエローテンパランスにハンサム男は焦りを見せ始める。

 勝った!

 黄の節制戦 完ッ!!

 

 

「なんて…言うと思ったかァ〜? この間抜けェ!! ならば本体をォ狙うまでっつー話なんだよォ!! クソ(アマァ)ッ!!」

「ッ!!」

「エコー…ッ!!」

 

 

 バットの触れた部分と逆側から拳のように振りあげられた黄色の塊に殴りつけられた。

 それにはとんでもないパワーをこめられていたようで、ゴンドラの窓に背中から叩きつけられ、窓を破りそのまま落下して──。

 

 ダンス・マカブラが(本体)を守ることを優先して落下していく私を追ってゴンドラを飛び降りるのが見えた。

 視界を布のように()が埋め、そのまま全身を包まれる。

 

 

 トプン、と水の中に落ちたような感覚がした。

 プカプカと重力の弱い水中で冷たい()に覆われている。

 ああ、なつかしい。

 

 ──Stella, stellina,(お星さま、小さなお星さま) ……。

 

 

 長い微睡みのなかで穏やかに歌う母の声がいつまでも聴こえていたのを思い出す。

 

 

 ──男の子でも女の子でも、産まれてくるアナタに()()()と名前をつけると()()していたの……だからアナタはエコー。

 

 

 ──わたし()()の子よ。

 

 

 

 何かに首根っこを掴まれ、無理やり引き上げられる感覚がした。

 

 

「おいエコーッ! しゃんとしやがれ!!」

「……く、空条先輩…ッ…ゲホッ」

 

 

 ダンス・マカブラに覆われたままのセーラー襟をスタープラチナが掴んで私ごと水から引き上げていた。

 すっ、と呼吸が戻り、途端に腹部に激痛が走り思いきり咳き込む。

 

 

 岸に乗せられ、咳き込む私を空条先輩が見下ろしている。あ〜空条先輩だ。

 先ほどの幻影のような母のショックから頭がようやく現実に戻ってきた感じだ。

 

 

「あの野郎は倒したぜ……じじいのいるホテルに戻る。歩けるか」

「う、うう…へ、へいきです……」

「……」

 

 

 うめきながら、立ちあがろうと足を動かすも膝に力が入らず上手く立てなくなっていた。

 ダンス・マカブラで防御してなきゃあ、そりゃあそう。久しぶりの痛みで通常戦闘というのはこういうものなのだと思い出させられた。

 

 

「うぅ…す、すみません」

「担いだ方が速い、いちいち謝るんじゃあねえぜ」

 

 

 なかなか立ち上がれない私に業をにやした空条先輩に俵担ぎをされ、そのままホテルへと戻ることに。

 

 

 

「まって、先輩…戻る前に列車のチケットを買わなきゃあ……」

「ホテルにテメエを置いてからいく」

「そんな…でも、簡単なお使いもできない高校生なんて思われたら恥ずかしい……」

「……やれやれだぜ」

 

 

 低い声で口癖を呟き、ホテルの方へ向かいかけていた足を駅の方へと向けてくれた。

 いわれたことはきちんと済ませておかないとホテルには戻れませんよって。

 私は肩に担がれたままだ。

 道中とっても衆目を集めたけどこっちものっぴきならない理由があるんでね…(腹が痛い)

 

 

 

 こんどこそ節制戦

   〜完〜

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