「先生、何か調べ事ですか?」
シャーレの執務室にて、コーヒーを煎れてくれたユウカがパソコンを覗き込みながら聞いてくる。
「うん、ちょっと気になる生徒がいてね。まだそんなに調べられてはいないんだけど」
「珍しいですね。先生ならそういう生徒がいれば直接会いに行きそうなのに」
お礼を言ってコーヒーを飲みながら一息つく。
「私ってそんなに猪突猛進かな?」
「わかりやすいので」
「まだシャーレに来てそんなに経ってないよ?」
「それだけわかりやすいってことです」
私ってわかりやすいんだ...
「私もそうしたいのはやまやまなんだけどね」
「?何か不都合でもあったんですか?」
「それが、最初はどうにか直接会おうとしてみたんだけど、その生徒の活動範囲がかなり広くてね」
「活動範囲が広い?でも、せいぜいがその生徒の所属する学園程度じゃないんですか?まあ、DUだったり、先日のアビドスだったりの例外はあるとしても」
「次からはちゃんと準備して行くことにするよ」
「はい、是非そうしてください。それと公共交通機関を利用する際は領収書を忘れないようにお願いします」
「はい」
心のメモに追加っと
「それで、先生がそんなに熱心に調べている生徒さんは一体どこのどなたなんですか?」
これまでの話を聞いていたノアがユウカの後ろからひょこっと顔を出す。
「うん。これ以上は2人に聞いた方がいいかもしれないね」
「「?」」
「獅子堂ミズキって知ってる?」
途端に「ああ、あの人のことか」という顔をする2人。
「あれ、もしかして知り合い?」
「うーん、知り合いと言うか...」
「ミズキくんは、ミレニアムへよく機械やプログラムの制作を依頼されるお客様の1人なんです」
「その関係でよくミレニアムに来るんですけど、ミズキさん本人は''お客様''ではなく''一生徒''としてミレニアムの生徒たちと交流をしてて、その一環で私達ともそれなりに話す機会があって」
「へぇ。私が調べて見た内容とはかなり違う感じだね」
結構物騒な内容の記事とかあったんだけど。背鰭尾鰭でもついたのかな?
「「あ〜」」
「え、何その反応。2人は彼のことを調べたことがあるの?」
「調べたと言うよりは...」
「自然と入ってくるんです。このキヴォトスでは当たり前なのかもしれませんが」
「先生も少し調べた段階で、既に知ったとは思いますが、」
ネットには色んな情報が飛び交っていてどれも目を引くものだった。
彼が動く。それ即ちゲヘナが動く。とも言われるほどにゲヘナ含む不良生徒にしたわれている、現ゲヘナの給食部部長。
何より目を引いた記事。
とある掲示板の投稿。
キヴォトス唯一の男子生徒
「おそらく、先生がお調べになって出てきたミズキくんの情報はほぼ全部間違いないと思います」
「え?じゃあゲヘナの三第トップで、不良生徒の元締で、実質ゲヘナの全生徒の弱みを握ってる極悪人っていうのも!!?」
「まあ間違ってはないです。一部を除いて」
「一部?」
「ミズキくんは極悪人じゃないですよ」
「本人がいたらこういうと思います」
「「料理人だよ」」
「料理人?確かに所属はゲヘナの給食部みたいだけど」
「本人がかなりの料理好きで、作ることはもちろんですが誰かに食べてもらうことが好きな方なんです。それで、依頼関係でミレニアムに来る際もよく技術者向けの手軽に食べられるものを持ってきてくれていて、生徒たちの間でもかなり評判なんです」
「ユウカちゃんも、ミズキくんの作るフルーツサンドにはいつも夢中になってますよね♪」
「ノ、ノア!?それはっ!?」
「そっかぁ、ユウカも夢中になる料理かぁ」
「べ、別に、夢中という程では...」
「でもユウカちゃん、ミズキくんのフルーツサンドを食べている時はいつもより咀嚼が3割ほど増えて2割ほど無口になってます」
「ノア!?」
「ふふふ♪」
ノアにからかわれて照れるユウカ。ユウカをからかって楽しそうなノア。
うーん、平和だなぁ。
「そういう話を聞くとやっぱりネットの掲示板の情報と違いすぎるね」
「あ、まあ、そうですね。ゲヘナ入学当時のミズキさんはそれはもう荒れていたそうですから、おそらく悪い噂の大半はその時にできたものかと」
「でも当時からミレニアムと取引していたので、ミレニアムで問題を起こしたことはほとんどないですよ。一部を除いて」
うん?
「ちなみにその一部って?」
「ミレニアムのC&C、他の学校で言うところの風紀委員会のような組織、そのトップのネル先輩と何度か本気でぶつかった結果校舎の一部がひどい有り様に...]
わお
「やんちゃなタイプなのかな?」
「当時はネル先輩が興味から軽い手合わせを申し出たようなんですが、いかんせん本人も『興が乗ってきた』と言ってエスカレートしてしまい、ネル先輩自体がミレニアムの最高戦力ということもあって、拮抗している2人の戦いに誰も止めに入ることができず...」
「それでそのまま決着がつくまで見ているしかなかった、と」
このキヴォトスでの問題になる戦闘行為って、どれだけ壮絶なものだったんだろうか。
「あ、いえ、決着自体はつきませんでした」
「え、そうなの?引き分けだったとか?」
「それが、他の生徒の野次馬の中にウタハ先輩という方がいまして、その方がミズキくんの幼馴染だったようで、声をかけてくださったおかげでなんとか止めることができたんです」
「なるほどね」
幼馴染ってすごい。
「でもそれって大丈夫だったの?一応は他校の生徒がミレニアムで問題を起こしたってことでしょ?」
先日のアビドスで経験したことだけど、それぞれの校区内で別の学校の生徒が問題を起こした場合はかなりの大事になってしまう。
「そちらに関しては
「それに、先ほども言ったようにミレニアムにとっては
「確かに、極悪人ってわけではなさそうだね」
知れば知るほど不思議な生徒だなぁ
「それにしても
「依頼内容に関しても詳しいことは言えませんが、ミズキくんの人徳は主に料理とコミュニケーションですね」
「ふむふむ、詳しく聞かせて」
「わかりました」
ユウカが全員分のコーヒーのおかわりを淹れにいく。一瞬遠い目をしていた気がしたけど気のせいかな?
「まず、ミズキくんは自身を料理人と名乗っています」
「実際ゲヘナの給食部部長みたいだしね」
「はい、それにゲヘナ各地で移動式屋台を開きその腕を振るってもいます」
「そうだったんだ。もしかして結構長くやってる?」
「時期的にゲヘナ入学時からの活動ですね。ですが、それはなにもゲヘナ限定で、というわけではありません。D.Uを始めゲヘナ以外のキヴォトスの殆どの学区内にも訪れています」
「?でも、それって」
「もちろん問題行為です。屋台を開き料理を振る舞うこと自体に何も問題はありませんが、別の学校の生徒が別の学校でそれを行う。スパイや犯罪行為のための下見、暴動の煽り、最悪はテロまで考えられます」
「でも現状を見ると、そうはならなかった、だよね」
「ミズキくんの行動に各学園が警戒して危険分子を排除しようとする動きをみせる中、真っ先に反応したのが連邦生徒会長です」
「連邦生徒会長」
「ミズキくんと個人的な面談、という名の審問を行い、彼の人となりを見て、料理を食べて、『問題なし』と判断を下しました」
「それだけ?」
「それだけです。今現在失踪しているとはいえ、連邦生徒会長のお墨付きというのは先生が思っている以上に影響が大きいものでした。何よりもともとミズキくんの開いた屋台は各学校のトップ陣からすれば不穏でしかありませんでしたが、訪れた先々では住民からも生徒からも評判は良かったんです。値段も良心的で量も質も申し分なし、それでも余裕のない生徒には無料で提供を行う」
「無料で提供までしてたら、それはそれで別の問題になったりしたんじゃ...」
「なりました。でも一瞬で解決しました。こちらに関しては主に不良生徒たちとのことなので、詳しいところは私にはわかりません。他には...」
それからノアに色んな話を聞いた
おかわりを淹れにいったユウカの遠い目は気のせいじゃなかったみたいだ。
「うん、やっぱり1度会ってみたいなぁ」
「相手のことを知りたいならそれが一番でしょうしね。でもどうしてミズキさんのことをお調べに?先生は私たちと違ってキヴォトスに来たばかりで基本的にシャーレにいますよね?噂は届かないはずですが...アビドスでも噂されていたとか?」
「そうだね。それもあるけど」
「けど?」
「アビドスでね助けてもらったんだ」
「ミズキくんにですかっ?」
ノアが食い気味に聞いてくる
「う、うん。バタバタしてたからお礼も言えてなくてね。たまたま居合わせたゲヘナの生徒に名前は聞いてたから、それで調べてみたんだ」
『先生、もしゲヘナに行くことがあって、その時困った事になったら『獅子堂ミズキ』の名前を出すといいよ。先生個人のことだとわからないけど、生徒が関わっているならあいつは動いてくれると思う』
『あ、そのときはミっくんによろしく伝えておいてね!』
『便利屋68の経営は順調よ!、てね」
『わ、わたしは、元気です。とだけ、、、』
アビドスを目指して歩いていた時、危ないから、と水をくれた彼(その後結局倒れた)。ヘルメット弾の襲撃時とセリカ救出時の数の合わない人数。ヒフミを捕まえ損ねた生徒の足元に転がった弾丸。他にもアビドス滞在中に感じた様々な違和感。
その答えを知りたい。
もし自分が思っている通り、違和感の正体が彼なら、ちゃんとお礼を言いたい。
大人として。
何より、先生として。
感想、ご意見、評価よろしくお願いします。