始まりは2873年、地球の平均気温はマイナス70℃未満を記録し、夏の最高気温すら当然のように0℃を下回るようになった。
地球は氷間期を終え、再び氷河期へ突入したのである。
地上面積の半分以上がアネクメーネ*1と化し、各国は温暖な地域を目指して領土戦争を始めた。
そして2924年、各国正規軍は赤道上で混戦を繰り返し実質的に壊滅。
本土に取り残された人々は限られた資源を持ち寄り原始的なコミュニティを形成して白銀の地獄を生き延びている。
そして急激な気候の変化が齎したのは冷え切った世界だけではなかった。
『ホワイトアウト』―――地上と海上を遍く吹き荒び世界を覆い尽くした吹雪は、旧時代の航空機を手の込んだ鉄クズに変えてしまった。
『アウターテクノロジー』―――正体不明の存在が、人類に未曾有の超技術を与えた。
しかし技術がいかに発展しても、共同体を維持するには資源が不可欠となる。
危険を顧みず集落を離れ、命懸けで氷雪を歩む探索者たち。
人は彼らを『ブラウザー』と呼んだ。
【2951/08/15 日本列島本州】
「おい!聞いてんのか!?」
意識の外から呼びかけられ、ハッとして顔を上げる。
目の前にいたのは見慣れた親友の顔だった。
「……あぁ悪いダイゾウ、何だ?」
「お前の装備はチェック済んだのか?何回も声かけたんだぞ? 大丈夫かよ?」
「問題ない…少しボーっとしてだけだ」
「また気温差ボケか?ヘマやって死ぬんじゃねえぞ」
俺はエンカル、職業はブラウザー。
そして今立っているのは、日本でも他に類を見ない移動式ホットスポット*2『なかつくに』の船底ゲート前だ。
今朝は俺たちブラウザーが物資収集と交易を兼ねた外部探索へ出発する直前であり、命綱である探索用機器と物資の最終チェックが行われている所というわけだ。
一歩踏み出せば全てが白銀の極寒地だが、ここより奥地に向かえばまだマシらしい。
今回の目的地は山の麓に位置するホットスポット『オリヒメ』だ。
吹き荒ぶ風は山が抑えてくれるが、なかつくにの図体がデカすぎて廃墟や起伏を越えて直接乗りつけられないため、車列を組んで向かう必要がある。
俺たちの拠点にして母艦である『なかつくに』は、旧文明の軍艦を改修した
そのため行く先々のホットスポットで交易したり、ブラウザーへの依頼を請けて生計を立てている。
今回の旅程もその1つというわけだ。
「お前ら準備できたか!? そろそろ出発するぞ!!」
今回の部隊を率いるエクスプローラー*4、プラウさんが号令をかける。
それを聞いた各々が最後の一押しに自分の装備を流し見していく。
そんな中、俺の前にプラウさんが歩いてくる。
「ほれ、お前さんの車両だ。」
「あ、はい!荷物チェックですよね」
「ああ、頼んだぜ。」
そういって渡されたのは金属製の板を波型に削った、旧式のシリンダーキー。
ツマミに刻まれた番号から俺の車両を見つけ、トランクを開ける。
「…リストチェックよし、荷物は全部揃ってるな」
「おぅ、商品も弾もバッチリだ。あとは出発を待つばかりってわけさ。」
そうそう、さっきから喋ってるコイツは俺の親友で幼馴染みのダイゾウ。
口調や行動は荒っぽいし短絡的なお調子者だが、仲間想いなナイスガイ。
そして銃の腕も良い、頼れる奴だ。
「全員整列!! これより出発するぞ!!」
「「「「「応!!!!」」」」」
先頭車両の荷台に据えられた銃座に旧時代から何百年と活躍を続ける老兵、M2ブローニングが佇んでいる。そこへプラウさんが乗り込み、出発の音頭を取る。
景気づけに張り上げた鬨の声は、吹雪を忘れそうなぐらい暑苦しいモンだった。