【2951/08/16 オリヒメ内"井坂屋"】
翌日、俺はダイゾウと共にブラウザーや仕事上がりの労働者が集まる飲食店『
何のことはない、ユキヒグマ討伐のささやかな祝杯だ。
ついでに酒場にお馴染みの
「「かんぱーい!」」
ダイゾウの掲げたジョッキに俺のをぶつける。
もはや何百回何千回と繰り返した動作だが、いつになってもこの瞬間は愉快なモンだ。
そしてなみなみと注がれたディセンバーベリー*2の果実酒を煽る。
「っかァ~~~~~~!たまんねえなぁ!」
「お~いダイゾウ、ちゃんとツマミも食えよほら。胃傷めちまうぞ?」
そういって俺は、ハイテンションでバカバカ酒を飲み干していくダイゾウの口にチーズを突っ込む。
コイツはある程度の所で止めないと酒代が洒落にならんからな…
「むぐむぐ…折角だしもうちょい食いもん頼むか。」
「おー、何がいい?」
「エンカルが食いたいの頼んでいいぜ、俺もそれにする。」
「お前考えるの面倒くせえだけだろ…」
「あ、バレた?」
コイツは割とこういうところがある、まぁ本当に好き嫌いしないから別に構わんのだが。
しばらく悩んだ後、鹿肉山菜炒めを注文した…うん、美味い。
「腹も膨れたことだし、また稼ぎに出るかぁ」
「…だな、俺達の船の為に。」
そう、俺達には夢がある。
自分の陸上航行船を持ち世界中を探索して回るという夢が。
当然そうなれば大金が要る。
数人規模のキャラバンで運用する小型船ですら1000万エネは下らないのだ。
だから昨日のユキヒグマの稼ぎも奮発したこの一杯以外は全て貯蓄してある。
俺達は食い終わった皿を後にし、
今日も今日とて、ホットスポット内で終わる簡単な体力仕事から、危険だが報酬の良い仕事まで多種多様な依頼が張り出されている。
俺はそれらをざっと見まわして、そのうちの一枚を手に取った。
「ダイゾウ、これなんかどうだ?」
「んー?『オリヒメ近郊で観測された咆哮の調査・および脅威の排除』…?」
「いつも受けてる猛獣討伐と違って、鳴き声しか聞こえてねえから相手が分からんパターンだな。」
「へっ、まぁ相手がなんだろうと関係ねえ、やろうぜ。」
「よし、依頼人に会いにいくか。」*3
【同日 オリヒメ外壁観測所】
「ミカドさん、こんちわ。」
俺達は依頼人であるオリヒメ
ミカドさんは男勝りで銃の腕も立つ、女傑って言葉の似合う人だ。
狙撃から近距離射撃、果ては格闘まで幅広くこなせる技量を持ち、対人射撃戦でも指揮と戦闘を同時にこなすマルチタスクぶりを見せる。
弱冠27にしてベテラン揃いの警備隊で隊長に選ばれるのも納得の若きモンスターだ。
俺に気づいた彼女は黒髪のポニーテールを靡かせながらこちらを振り返ると、頬の爪跡が印象的な顔でニカッと笑いかけてくれた。
「ん?おお、エンカルじゃねえか!なんか用か?」
「コイツを請けようと思いましてね。」
俺は依頼書を差し出す。
それを見たミカドさんは、なぜか微妙な表情だった。
「あー…コレか、まだ請ける奴がいるとは驚いたな。」
「…え、なんかワケありっすか?」
「どうしたダイゾウ、ビビってんのか?」
「ちげえよバカ!」
「はいはい、お前らの相棒コントはいいから説明するぞ。」
「「あ、はい!」」
話題が脱線しかけた俺達だったが、ミカドさんの一声で襟を正す。
「今回調査して欲しいのはこのエリアだ。」
ミカドさんは取り出したタブレット端末に表示されている地図を示すと、オリヒメから1キロもない、目と鼻の先と言っても過言ではないエリアを赤くハイライトした。
「近くないっすか?」
「そう、近すぎるんだ。咆哮が聞こえたと報告のあった地点がここだ。」
ダイゾウの疑問にミカドさんは地点マーカーを追加しながら答える。
マーカーはエリアの端、扇状のハイライトの中心点にあった。
「報告地点から大まかに、聞こえた方角にあたるエリアって事ですか。」
「あぁ、何も見つからなければそれで良い。だがもしも危険生物と遭遇した場合は…」
「仕留めちゃって良いって事っすよね!」
「…頼むぞ。」
俺も端末を持っているのでミカドさんからマップデータを貰ったあと、俺達は指定の場所へと向かった。
目的のエリアを探索した結果、危険な生物は見つからなかった。
代わりと言っては難だが、奇妙なものを見つけた。
「おいエンカル…これって…」
オニグマの死体だった、それもかなり大振りな個体。
おそらく咆哮の正体はコイツだろう。
俺は死体に近寄ると毛をかき分けて傷口を観察する、すぐに違和感に気づいた。
「穏やかじゃねえな、こんな傷口見たことねえぞ。」
「そんな変なのか?」
「あぁ、銃創とも刃傷とも違う。強いて言えば何かとんでもない怪力で引きちぎったような感じだな。」
「オニグマを、素手でか?そんなバケモンいるかよ。」
「いてたまるか!…と言いてえが見れば見るほど、そうとしか思えねえんだよな。」
その時、周囲を警戒していたダイゾウが何かに気づいたのか俺の肩を叩いた。
「どうした?」
「おいアレ、アレ見てみろって。」
「んー…何だアレ?」
俺はダイゾウの指差す先を見やる。
吹雪で見づらいが、岩の裏に確かに何かの影があった。
「…近づいてみっか?」
「あぁ、ただし慎重にな。」
「分かってるっての。」
もしかするとオニグマを引き千切った犯人かもしれない、銃を構えたまま、音を立てないよう慎重に、それに近づいてみた。
距離が縮まって初めて分かるが、それは生き物ではなかった。どちらかと言うと金属質の…
「これ、アウターワンのコンテナか。」
「…こんなオリヒメの近所にかよ?」
「俺が開けてみる、ダイゾウは何かあった時のために警戒を頼む。」
「よっしゃ、任せろ!」
背後を相棒に任せ、俺はコンテナの扉へ歩み寄る。
衝撃で歪んだのか少し隙間の空いている部分を見つけ、手をかけた。
「さて、何か貴重な物が入ってればいいが…」
漠然とした期待と一抹の不安を胸に開け放った扉の奥には―――
「…残念ながらスッカラカンだ。」
「おいおい、そんな事あるかよ!?」
「仕方ないさ、欲しいモンが都合よく転がってるワケがない。」
―――ブチ破られたコンテナの外壁と、見飽きた雪景色が広がっていた。