L.O.S.K.A.   作:火焔茸

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3 Handsome, Tiny, Mysterious Ledy

もぬけの殻だったコンテナを何度も何度も恨めしげに振り返るダイゾウを引きずって、とりあえず俺たちは帰還することにした。

壊れたアウターワンのコンテナとオニグマの死体以外に目ぼしい物はなかったし、オニグマを素手で引きちぎる怪力の持ち主が居るなら俺たちの手に負える相手じゃない。

それなら少しでも早く戻って情報を伝え、偵察隊なり討伐隊なりを編成したほうが良いと判断したのだ。

そうしてオリヒメへと向かう道中、ふとダイゾウが立ち止まった。

俺はやれやれと肩をすくめてから、振り返って声をかける。

 

「何だよダイゾウ、今更『もっかいコンテナ確認しよーぜ』とか言うんじゃねえだろうな?」

「シー…静かに。」

 

だが先ほどまでのしょぼくれた雰囲気は既になく、ダイゾウは人差し指を立てた。

その様子に俺も異変を感じ取り、同じく耳をすませる。

 

「…銃声か。遠いが、よく聞こえたな。」

「ま、野生の勘ってやつ?」

「風呂好きの野生ってなんだよ…それより、思ったより激しいな?」

「もしかしたらオリヒメの人かも知れないし、見に行こうぜ。」

 

音を聞いている限り、実弾とエネルギーが入り交じり複数人でバカスカ撃ちまくっている様子だ。怒号のような声も微かに聞き取れる。

ダイゾウの言葉に頷き、俺達は銃声の聞こえた方へと走り出した。

 


 

ある程度銃声が近づいた俺たちは、適当な木や茂みを利用して身を隠しながら接近していく。

そうして遂に銃撃戦の現場が目に入った。

そこに居たのはボロ着とジャンク品の寄せ集めみたいな車で武装した集団…まぁオリヒメの住人ではなく野盗の類だろう。

 

「なんだこのガキ!?全然狙いが…ぐぁ⁉

「この野郎、よくもジョンソンをギャンっ!

 

そんな事はどうでもいい、寧ろこの場で目を引くのは彼らの銃口が向いている先―――軽やかに、しかし変則的な挙動で銃撃を捌きながら、丸腰のまま野盗を次々に殴り倒していく姿。

銀色のツインテールを靡かせたそれは、見るからに少女…下手をすれば幼女と見紛うほどの幼い出で立ちであった。

 

「…ありゃ、何者だ?」

 

俺は考える、まず間違いなく普通の子供ではない。

オリヒメの住人でもないだろう。白髪になる年でもあるまいに、あんな髪色の人間は見たことがない…居たら相当目立つだろうし、俺だって忘れるとは思えない。

そもそも、何故彼女は野盗と交戦しているのだろうか。普通に考えれば良いカモだと思って野盗が襲ったんだろうが…ホットスポット外に一人で、しかも丸腰でいること、始末した敵から銃も奪わずに丸腰で戦っていること、とにかく不審点が多い…

 

「そ、狙撃だ!新手か!?」

 

考えを遮るように、すぐ横から銃声が聞こえた。

EML*1特有の放電音と、硝煙の代わりに漂うオゾン臭*2

野盗の1人が頭を吹き飛ばされ、近くに居た別の奴がこちらを指さして叫んだ。

 

「ダイゾウお前何やってんの!?!?」

「エンカルこそ何ボーっとしてんだ!あんな小さい子が襲われてんだぞ!?助けないと!」

「お前のそういう所、好きだけど嫌いだよチクショウ!」

 

俺は叫ぶが、実際考えすぎて行動が遅れがちなのは事実だしダイゾウの判断の速さに救われたことは少なくないので、一言だけ言い返すに留めて愛銃であるR45のセーフティ(安全装置)を解除する。

もう相手方に存在がバレた以上は隠れる意味もない、俺はフルオートで3,4発ずつ敵の居る方を狙って撃ちこんでいく。当たらなくてもいい、敵が頭を出せなければ十分だ。

 

「ダイゾウ!」

「あぁ見えてる!」

 

敵が引っ込んで射撃が止まった隙に、お返しにダイゾウが発砲。

車に隠れた野盗を板金ごとブチ抜いていく。

ダイゾウの等活(HELL-44)は1発撃つたびにリチャージで時間を食うのが欠点だが、その威力は折り紙付きだ。

そんな調子で順調に数を減らしていった俺達だが、破れかぶれになったのか野盗の1人が体を晒してフルオートで乱射し始めた。

その狙う先は―――先ほどの少女。

 

「しまった……ッ!」

「間に合え―――!!」

 

ダイゾウが咄嗟に狙いを変えてソイツを先にブチ抜こうとするが、俺は何もできずに臍を嚙むだけだった。

だが発射直前で銃身を逸らしたのが災いしたか、ダイゾウの放った軌跡は奴の頭部の横数センチを素通りしていく。

そして鉛の雨が彼女に降り注いだ………

…………………が、彼女はポカンとした顔で今しがた己を撃った男を見返しただけだった。

黒いコートは穴だらけだが、その肌は微塵も赤く染まることなく。

呆気にとられた全員が凍り付き、残弾を撃ち切った小銃がガチリ。とボルトストップの音を虚しく響かせた。

 

「…敵対。」

 

撃たれた少女が小さく呟く。

刹那、彼女は再び動き出し野盗たちへと迫った。

 

「なんで傷ひとつ無えんだよ!バケモノか!?」

「なんでお前逃げようとしてんだコラぁ!」

銃が効かねえんだよ!

 

阿鼻叫喚の渦に叩き落される野盗たち。

追い打ちをかけるように、少女がとんでもない光景を見せた。

 

「障害物…破壊。」

 

野盗たちが遮蔽として使っている車に手をかけたかと思えば、次の瞬間―――

鋼鉄製の車体を素手で引きちぎりやがった。

 

うわぁああああああああああ!

「どうなってんだコイツ!?」

「こんなん勝ち目ねえ!俺は逃げるぞ!」

 

俺は驚くと同時に納得した、コイツがオニグマをやった犯人かと。

どんなカラクリなのかはともかく、これだけのパワーの持ち主ならあの不可解な現場にも説明がつく。

…とはいえ、あんな怪力に敵対されては叶わんので俺は誤射しないように細心の注意を払いながら遮蔽を失った哀れな野盗を片付けていく。

遮蔽もなく恐慌状態の野盗なんぞ物の数ではなく、1分もしないうちに野盗は死体だけになった。

逃げようと試みる奴もいたが、脚も速いのかアッサリと少女に追いつかれて殴り倒されていた。

少女と、野盗と、俺たちという三者入り交じっての乱戦がひと段落し、俺たちは先ほどの少女に対話を試みる。

改めて見ると、ずいぶん整った顔立ちをしていた。あまりにも整いすぎていて、却ってそれが無機質さを感じさせるような寒気のする美少女だ。

 

「えーと…無事か?」

「肯定、本体損耗はきわめて軽微。活動に支障なし。」

「…すいぶんと機械的な語彙力だな。」

「…?発言の意図が不明、対話に支障の恐れがありますか?」

 

…が、容姿とは対照的に会話はぎこちないことこの上ない。のっけから不安しかないやりとりである。

交渉などは俺に丸投げするのが通例となっているダイゾウは特に何をするでもなく、野盗の持ち物漁りに興じていた。

 

「いや良い、それより君は…その、何者だ?」

「何者…現在の活動目標は現地の探査、および最重要神格の座標特定です。」

「ふむ………つまりこの辺を調べて回って、その『最重要シンカク』?っていうのを見つけるためにここに居るわけか。」

「肯定、ですが3日14時間27分前以前の記憶のうち約61%が欠損しています。」

「…記憶喪失って奴か?」

「肯定、最重要神格に関する情報が破損しており、活動再開に深刻な障害が発生中。」

「なるほどね…どうすっかな。」

 

彼女の事情は分かったが、じゃあ俺たちはどうしたモンかと困っていると状態の良さそうな装備品や消耗品をカバンに詰め込んだダイゾウが口を挟んできた。

 

「記憶喪失で行くアテ無いんだろ?じゃあオリヒメに連れて帰ろうぜ。」

「…マジで言ってんのか?」

「だって可哀想じゃん、それに味方になってくれたらすげえ心強いし!」

「そりゃ、そうだが…」

 

他にどうするワケにもいかず、ダイゾウのいう通りに彼女をオリヒメまで案内することにした。

予期せぬ供が増えた帰り道、ふと気になったので彼女に1つ尋ねてみた。

 

「なぁ、1つ質問なんだが…」

「…?」

 

首を傾げる少女、俺たちの胸よりも低い銀髪がコテンと揺れる。

 

「君の名前を聞いてなかった。俺はエンカルで、こっちは相棒のダイゾウだ。」

「よろしくな!んでお嬢ちゃんの名前はなんだ?」

「理解、本機のコールサインは―――」

 

3人分の足跡が描く、HERIOSの余波で溶けかけた雪に描く軌跡の先頭。

泥混じりの銀世界を背負い、彼女はこう名乗った。

 

ロスカ(L.O.S.K.A.)

*1
レールガン,コイルガン,ハイブリッドガンなど、電磁力で射撃する実弾兵器の総称

*2
激しいプラズマ放電によって発生する酸素の同素体O3の臭い。古いブラウン管テレビの裏なども同じ臭いがする

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