鋼の意志でヒーローを目指す障子君を絶対に曇らせる妹   作:アキ山

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エイリアン・ロムルスが制作中という事で、久々にエイリアンシリーズを一気見しました。

その結果、生まれたのがこの駄文です。

供養として投稿。

暇つぶしになれば幸いです、はい。


第1話

 個性全盛であるこの超人社会。

 

 全人類の8割が何らかの異能を持つに至った人類が営むこの世界は、その力の悪用によって昔に比べて治安が目に見えて悪化した。

 

 それはかつて安全大国と呼ばれた日本も例外ではなく、都市部も大通りを2つもズレれば廃ビルやヴィランと呼ばれる社会不適合者予備軍が屯する裏路地が広がっている。

 

 そんな血とすえた臭いが漂う一画、打ち捨てられたホテルの薄暗い一室で一人の少女がゆったりと祝福の時を待っている。

 

 年の頃は13から4歳程度だろうか。

 

 腰まで届くほどの漆黒の髪に抜けるように白い肌、顔立ちは十分に美少女と呼ばれる程には整っている。

 

 同年代に比べて小柄ながらも妖艶さが秘められた身体を、黒いワンピース型のマタニティドレスに包んだ少女。

 

 彼女の特徴を上げるなら四肢が付け根から黒曜石を思わせる光沢のある外骨格に覆われている事。

 

 そして槍の如く鋭利な穂先を備えた手足同様に甲殻を纏った尾が生えている事だろう。

 

 そんな彼女の深い紫紺を湛える瞳の先にいるのは、どこか生物の臓腑を思わせる暗灰色の幾何学模様な壁に下半身を塗りこめられた一人の男だ。

 

「やめろ…助けてくれ! 言うとおりにしたじゃねえか!!」

 

 男は最初に出会ったときに漂わせていたヴィラン特有の高圧さはどこへやら。

 

 頭と顔の上半分を覆うヘルメットの割れた部分から覗く眼からは滂沱の涙が溢れ、それどころか鼻水やよだれまで垂れ流す始末。

 

 この醜態を見た何人が、つい数日前まで彼がここ一体で幅を利かせていた事実に到達する事が出来るだろうか?

 

「そんなに嫌がらないでよ。あんなにボクの中にタネをつけたんだもん、その責任は果たさないと。ね、パパ」

 

 身も世もない男の嘆きに、眼前の少女は淫靡な笑みを浮かべながらドレスの上から自身の下腹部を摩る。

 

 数日前までは大きく膨らんでいたその部分は、もう空気が抜けた風船のように元に戻っているが。

 

 ニコニコと笑う少女の顔が悪魔の笑みに見えたのか、男は意味を成さない引きつった悲鳴を漏らす。

 

 しかし、彼が元気に騒げたのはここまでだった。

 

「がっ!? ぐぎぃっっ!!」

 

 くぐもった悲鳴と共に胸を前に押し出すように仰け反る男。

 

 そして壁に張り付けられていない自由が効く部分をバタバタと動かして苦悶を表現する。

 

「あははっ! がんばれ、がんばれ!!」

 

 滑稽な舞踏を思わせる彼の動きに、少女は無邪気にエールを送る。

 

 それから少しすると、炸裂音を上げて男の両手に生えた五指が全てはじけ飛んだ。

 

「ぎひぃっ!? がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「あらら、個性使っちゃったんだ。こうなるって説明したのに」

 

 男を町の片隅とはいえ、強者へ押し上げていた力の源泉。

 

 それは五指の先端に銃口があり、そこから弾丸を放つ異能だった。

 

 なので少女は捕らえた際に指の全てへ彼を捕えている物と同じ硬質樹脂をたっぷりと詰め込んでいた。

 

 そんな状態で銃を発砲しようとすれば、暴発は自明の理だ。

 

 こうして己の牙を自らへし折った男は絶望の声と共に血反吐を吐く。

 

 すると彼の胸の中央から血が噴き出し、シャツ越しにその部分が大きく盛り上がった。

 

 甲高い鳴き声と共に血染めの布地が破れると、そこから顔を出したのは奇妙な生物だった。

 

 それを端的に表すならば目の無い蛇。

 

 滑り気のある乳白色の外皮は、男の血がべったりと付いている為に酷く不気味だ。

 

「お疲れ様、がんばったね」

 

 労いの言葉は産み落とした男ではなく、その蛇に対するもの。

 

 嬉しそうに微笑みながら少女が手を伸ばすと、蛇は男の胸から抜け出して彼女の小さな掌に乗った。

 

 宿主の役目を終えた男は当然死んでいる。

 

 心臓を始め生存に必要な多くの器官を食い荒らされて胸に大穴をあけられたのだ。

 

 これで命を繋ぐには超再生クラスの強個性が必要だろう。

 

「はじめまして、ボクがママだよ。パパにお礼は……いいや。天国に逝っちゃったから、もう抜け殻だし」

 

 壁に磔にされたまま血まみれで力なく首を垂れる男だったモノ。

 

 それを一瞥すると、少女はマタニティドレスの肩ひもをズラして年不相応に大きく実った乳房を露わにする。

 

 蛇はそれを見ると少女の腕を伝い、母性の象徴の先端へ吸いついた。 

 

「しっかり飲んでね。そのミルクには君を強くする個性や耐性の元が入っているから」

 

 誕生を祝う歌を口ずさみながら異形を子として育む少女。

 

 その光景は明らかにおかしくありながら何処か神々しかった。

 

 そんな彼女達の背後では、壁の文様に溶け込むように擬態していた複数の黒い長身のナニカが蠢き始めていた。

 

 

 

 

 今まで持っていた全ての認識が裏返った日の事を、ボクは今でも覚えている。

 

 ボクが生まれたのは山間部にある田舎の村だった。

 

 超人社会が長く続いていると言っても、都市部はともかく田舎には異形型の個性を持った者を『畸形』と差別する認識が廃れていない地域がある。

 

 ボクが育ったのもそういった場所だった。

 

 ボクの家族は全員異形型の個性持ちだったが、父も母も外見が変わるようなものではなかった。

 

 けれどボクとお兄ちゃんは違った。

 

 お兄ちゃんの目蔵は複製腕と言われるもので、両腕の後方についている触手から体の一部分を複製させることが出来る能力を持っていた。

 

 その為に腕に触手が生えており、前腕部辺りから皮膜を伴って三又に分かれている。

 

 なのでお兄ちゃんの外見は明らかに通常の人間とは異なっていた。

 

 そしてボクは顔と身体は普通の人間だけど、手足は付け根から黒い甲殻に覆われて同様の尻尾があった。

 

 更には医者に見せてもボクの個性が何か分からないと答えられる始末。

 

 結果、ボク達は『忌み子』という蔑称と共に村の中で迫害を受ける事となった。

 

 彼等は言うのだ。

 

 穢れた子供が村に災いを齎さないように、血を以て罪穢れを祓うのだと。

 

 『血祓い』と奴等が呼ぶその暴力と差別を、お兄ちゃんもボクも4歳からずっと受け続けて育ったのだ。

 

 自分達と姿が違うというだけで嫌悪し、当然の如く子供を苛め抜くその姿は人間の醜悪さが凝り固まったかのようだった。

 

 ボクは幼少期から続いた奴等の暴虐によって自分の身体を嫌いになり、少しでも暴力を振るわれないよう個性を隠すようになっていた。

 

 女の子なのに自分をボクというのも、村のオジサンやお兄さんに変な事をされない為だ。

 

 本当は髪の毛も切った方がいいとお母さんは言っていたんだけど、個性の影響で腰くらいまですぐ伸びるからどうしようもなかった。

 

 一方のお兄ちゃんは村の者たちを恨むことなく、大人から暴力を振るわれた時もよくボクを庇ってくれていた。

 

 こんな劣悪な状況では日々暮らすのも耐え難い苦痛だったこともあり、ボクは両親に他の場所へ引っ越そうとよく訴えていた。

 

 しかし代々農家で先祖伝来の土地を大切にしてきた事もあり、父母は忌まわしいあの村から出ようとしなかった。

 

 そして移住ができないとなれば、村社会は近所の協力が必要不可欠。

 

 周りに波風を立てない為に彼等はボク達の事を助ける事が出来なかった。

 

 そんな中、決定的な事件が起きてしまう。

 

 ボクが11になった年の梅雨の時期、長く続く大雨によって村近くの川が氾濫した。

 

 親の手伝いで田畑の見回りに出ていたお兄ちゃんは、偶然にも川のほとりで溺れかけていた幼い女の子を見つけた。

 

 同行していたボクが怖くて動けない中、お兄ちゃんは迷うことなく個性を使って女の子を助け出した。

 

 しかしそんなお兄ちゃんに返ってきたのは村の大人達からの罵声と暴力だった。

 

『忌み子が触れたら子供が穢れる』

 

 そんな根拠のない理由で女の子の親を始めとする男達は、お兄ちゃんに集団で暴行を加えた。

 

 その中でお兄ちゃんの口元が裂け、大量の血が飛び散る様を見たボクは反射的にお兄ちゃんを庇おうとした。

 

 しかし小さなボクが大人たちを止められる筈もなく、女の子の父親が振るった棒を側頭部に受けて気を失ってしまった。

 

 薄れゆく意識の中で『皐月ぃッッ!!』とボクを呼ぶお兄ちゃんの声、そして女の子の甲高い悲鳴と私を殴った男の『薄汚ぇガキが! 血祓いだ! そのままくたばっちまえ!!』という罵声が酷く耳に残った。

 

 ボクが再び目を覚ましたのは、それから1週間が経った夜の事だった。

 

 病院のベッドから体を起こしたボクは酷く奇妙な感覚に襲われた。

 

 意識が戻ったことを涙ながらに喜ぶ両親とお兄ちゃん、これはいい。

 

 しかしその背後に控える看護師、それが同じ人間…いや、同族に思えなかったのだ。

 

 その後も医師や怪我の原因を探る警察など、多くの人間に出会ったが結果は同じだった。

 

 家族以外すべてウシかブタ、下手をすれば虫けらのようにしか認識できなくなっていた。

 

 それに加えて頭の中から猛烈な本能が沸き上がるのを感じていた。

 

 ボクの中にいる何かが大音量で訴えかけてきたのだ。

 

『産み、増やし、全てを蹂躙せよ』と。

 

 そしてボクは自分の個性の正体を知る事となった。

 

 この身に宿る個性は『ゼノモーフ』。

 

 遥か太古に人類を生み出した何者かが宇宙の果てで誕生させた最凶の生物兵器、その特性を持っているのがボクだった。

 

 なるほど、地球上に存在しない生物なら医者も判別が付かなくて当然だ。

 

 それからのボクは別人のように変わった。

 

 いや、文字通り別人になったのだろう。

 

 自分が何者かという認識が人間からゼノモーフへと切り替わってしまったのだから。

 

 そうなれば村人の迫害など恐れるに足りない。

 

 その気になれば容易く殺せる相手を怖がるなんて馬鹿らしいにもほどがある。

 

 だから内気な自分を捨てたし、必死に隠していた個性も思うがままに解き放った。

 

 始めて殺人を犯したのも、あの時だった。

 

 種族繁栄という身を焦がす衝動を叶えるには、当時のボクは身体が幼過ぎた。

 

 第一歩である産卵はもちろん、その前段階の性交すらも体に多大な負担を強いてしまう有様だったからね。

 

 なのでボクは子を産むのに必要な卵と繭を外部から仕入れる事にした。

 

 ゼノモーフの繁殖方法は基本女王が卵を産む事だけど、限られた状況下だと捕らえた獲物を卵に作り替える事もある。

 

 もちろん個性として彼等の特性を持っているボクもそれは可能だ。

 

 他にも繁殖には卵から産まれた幼生がある程度成長するための寄生先、すなわち繭も必要となる。

 

 少し考えた結果、ボクは兄を傷つけた男を『卵』に変えて『繭』には私を殴った少女の父親を選んだ。

 

 抑え込んでいた個性を解放したボクにとって、一般人に毛が生えた程度の個性しか持っていない人間など物の数ではない。

 

 夜闇に紛れて襲撃すると、男二人は誰にも気づかれる事無くあっさりと仕留める事が出来た。

 

 肝心かなめの子種に関しては村の男と交わるなんて御免だったので、ごく身近なモノで済ませたけど。

 

 今にして思えばあんな特殊な方法だったのに、初めての子供はよく無事に生まれてきてくれたものだ。

 

 父親と同じ個性を持つその子に『瞳』と名付けたボクは、彼女が成体へ育つのを待って村から姿を消した。

 

 ボクの目的はあんな辺鄙な村では叶えられないし、何よりあのまま残っていたらボク達は村の人間を皆殺しにしていただろうから。

 

 如何に辺鄙な村でも、全滅となれば世間の注目を浴びるのは避けられない。

 

 そうなれば、唯一生存するであろうボク達家族に疑いの眼が向くのは自明の理。

 

 ボクは人間は脆いながらも結束すれば侮れない力を発揮する事を知っている。

 

 個性などという特殊能力が芽生えた超人社会なら猶更だ。

 

 だからこそ、こちらの勢力が十分に整うまで我々の存在は秘匿しておくべきだと判断したのだ。

 

 その後、瞳に運ばれて大きな街まで出た私は早速活動を開始した。

 

 ボクの個性はゼノモーフが持つ高い戦闘力を備えているけど、それ以上に女王として子孫を産み増やす事に主軸が置かれている。

 

 なので一目見ただけでその個体が持つ遺伝子の優劣が分かるし、子種を得る為にオスを誘引・魅了するフェロモンだって出せる。

 

 元々人だったこの身が発する代物だから、人間の男性への効果は抜群だった。

 

 そうしてボクは強個性を持つ者や知能・肉体に優れた相手と交わった。

 

 この身体は注がれた子種から個性因子や遺伝子中の有益な成分を抽出して取り込むことができる。

 

 つまり、子を成す過程でボクも相手の個性を取り込んで強化することができるのだ。

 

 もっとも個性の取り込みには得手不得手があるようで、炎や氷などの放出系個性に関しては使えてもオリジナルの2割程度の力しか出せない。

 

 反面、所有者が自分の個性で傷つかないようにする為の耐性や再生能力、筋力の増強など身体に関わるモノは100%を超えて反映させることができる。

 

 これは女王というボクに課せられた役割ゆえに、戦う事よりも生き残る事に特化している為だろう。

 

 そして生まれた子供は父親を繭にすれば、受け継いだ個性を更に強化・安定できることも知った。

 

 なので、子育てのルーティンも5人目を産むまでには確立する事が出来た。

 

 行為が終わって賢者タイムになっているところを狙って、子供達が男を巣穴へ拉致。

 

 そこから樹脂で拘束(抵抗が激しいようなら四肢をもぐ事も)し、卵から産まれた我が子を父親に寄生させて適齢期になるまで育てさせるのだ。

 

 少し前に父親の使命を全うした指鉄砲男のようにね。

 

 ボクたちの繁殖の犠牲になって今まで何人もの男が死んだけど、悪い事をしたなど微塵も思わない。

 

 だって、子供を養育するのは父親の義務でしょう?

 

 ボクの身体で好き放題に気持ちよくなって孕ませたのだ、責任くらいは取ってもらわないと困る。

 

 あと、父親の選定についてはヴィランやチンピラなど社会不適合者を標的にしている。

 

 消えても気にする者が少ない、いなくなって多くの者が利する人間を選ぶのはボク達の生存戦略には必須だ。

 

 まぁ、ヒーローを目指している兄の足を引っ張らない様にという配慮もあるけどね。

 

 ボク達は社会性生物、家族に愛着を持つのはおかしなことじゃない。

 

 たとえそれが異なる存在だとしても。

 

 

 

 

 村を出てから2年が経った。

 

 あれから子供達は順調に増えていき、今では60を超えるほどになっている。

 

 それだけの出産を経験したからか、ボクの身体も徐々に多産へ適応できるように進化しているようだ。

 

 これは、あらゆる環境の変動にすぐさま適応・反映していく我が種族の真骨頂と言えるだろう。

 

 このまま行けば今まで取り込んだ遺伝情報や個性因子を組み合わせて、タネを必要としない単一生殖が可能となる日も近いだろう。

 

 そんなボクだけど、今は静岡のとある小学校に来ている。

 

 もちろん、失踪人の身分なので学校に通っているわけじゃない。

 

 いま潜んでいる場所も校内に張り巡らされたダクトの中だしね。

 

「動くなよ、先公! ガキの顔面が醜く焼け爛れるのを見たくなけりゃあ大人しくしてろ!!」

 

「うわぁぁぁぁん! たすけて、せんせぇぇぇぇ!!」

 

「待って! いうことを聞くから、野薔薇ちゃんを傷つけないで!!」

 

 ここに来た目的は眼下の教室で大立ち回りをしているヴィランの身柄である。

 

 網目状に奔るダクトの通風孔から見える光景はこうだ。

 

 赤い髪の明らかに人相の悪い筋肉質の男が左腕を背後から頭にバラの花を付けた小学校低学年の女の子の首に回し、右掌には個性で生み出した炎をチラ付かせて脅しをかけている。

 

 そんな男と恐怖で顔を引きつらせながらも必死に交渉をしているのは、白い髪と眼鏡が特徴の若い女性の先生。

 

 他の子供達は先生の後ろで怯えている。

 

 普通の人やヒーロー志望が見れば、義憤の一つにでも駆られるのかもしれない。

 

 けれど、ボクには虫達が何やら蠢いている程度にしか感じない。

 

 まあ、これは今更の話だ。

 

 考えても詮無い事だろう。

 

 このまま行けば結末は駆け付けたヒーローがヴィランを倒すか、もしくはヴィランが子供を何人かローストして逃げるかのどちらかだろう。

 

 もしかしたら教室一つを人質に取って逃走資金云々なんて流れになるかもしれないけど、どうでもいい話だ。

 

 こちらにとって重要なのは、あのヴィランが逃げた父親の代わりにお腹の子の繭になるという事実のみ。

 

 気合を入れたボクはけっこう膨らんできたお腹を一撫ですると行動を開始した。

 

 現在護衛に付いてくれているのは、対象の影に潜む個性を持つ『影子』と4人の子供。

 

 炎や高温に対する耐性は早い内から手に入れているので、ボクの母乳を飲んで育ったあの子達なら甲殻が持つ元来の防御力と相まって、あのヴィランの個性程度ではビクともしない筈だ。

 

 もっとも、あの子達に頼るのは最終手段。

 

 今はボク達が増え続けているという事を人間に悟られるわけにはいかないもんね。

 

 そんな訳で音もなくダクト内を移動したボクは、ヴィランの背後を取れる位置を取った。

 

 金属製のダクトを殆ど音を立てずに移動できるのも、隠密行動を得意とする我ら種族ならではだ。

 

 そして男との相対位置を確認したところで───

 

「えいっ!」

 

 先端を下に向けた尻尾を思い切り振り降ろした。

 

 村にいた頃ならいざ知らず、今のボクの尻尾は合金製の分厚い板も一撃でぶち抜く自慢の品だ。

 

「ぐあああああああああっ!?」

 

 なので穂先はアルミ製ダクトなんて簡単に貫き、その勢いのまま男の背中に深く突き刺さった。

 

 そしてここですかさず過去のパパ達からせしめた個性の一つ、麻酔効果がある体液を注入。

 

「う…あぁ……」

 

 するとヴィランはうめき声を漏らしながら前のめりに倒れた。

 

 獲物がいびきをかき始めたのを見計らって、ボクは穴が開いたダクトを蹴り破り下へ降りる。

 

「あ…あなたは?」

 

「賞金稼ぎみたいなものだから気にしないで。そこのヴィラン回収したら出て行くし」

 

 教師の戸惑った声に適当な答えを返し、ボクはヴィランの襟首を掴んで持ち上げる。

 

 むむ……いまだ140の大台に乗らないこの身体には少々大きいすぎかも。

 

 ここは護衛の一人『強美』に運んでもらったほうがいいかな?

 

 あの子って父親から受け継いだ筋肉増強の個性で、ムキムキになれるから重い物を運ぶの得意なんだよね。

 

 そのパパは筋繊維を増したり増幅したそれで体を覆って防御力上げたりで、確保するのも子種を貰うのも結構苦労したのだ。

 

 水鉄砲で強酸を吐ける子が、アイツの筋繊維を溶かしまくってくれなかったらどうなっていたことか。

 

「ちょ…ちょっと待って! あなた、中学生くらいでしょ? なのにそのお腹……」

 

 酷く戸惑った様子でこちらに声をかけてくる教諭。

 

 まぁボクの歳と体でお腹が膨らんでいたら、良識のある大人なら文句の一つも言いたくなるか。

 

「うん、子供がいるよ。だから、この子を育てる為にがんばってる──」

 

 ため息交じりで答えを返そうとしたボクは、改めて女性教諭の目を見て息をのんだ。

 

「……あれ、荼毘くんの身内?」

 

「え?」

 

 我知らず口からこぼれ出た呟きに戸惑う教諭。  

 

 この遺伝子配列の類似性、間違いない。

 

 年からして母親と言う事は無いだろうから兄妹だろう。

 

「あの…荼毘って誰のこと?」

 

「……そういえば、荼毘って名前は偽名だったっけ」

 

 本人がそれで通しているとか言ってたから、ついそっちの方をデフォにしていたよ。

 

 しかし本名を知らないという訳ではない。

 

 子供達の名前は父親から一文字貰う事にしているので、フェロモンによる魅了が聞いている間に相手から本名を聞きだしているんだよね。

 

 たしか荼毘君の本名は───

 

「えっと……燈矢。そう、轟燈矢だ。この子のお父さんは燈矢君なんだよ」

 

 ボクがそう答えると、女性教諭は顔を蒼褪めさせながらも柳眉を吊り上げた。

 

「あなた、私をからかってるのかしら?」

 

「なんで?」

 

「燈矢は私の兄だけど、ずっと前に亡くなっているの! それをあなたのような小さい子を妊娠させたなんて……冗談にしても許されないわ!!」

 

 ふむ、荼毘君にそんな過去があったとは。

 

 人の事を言えないけど色々と難儀な人生を送っているなぁ。

 

 女教師改め妹ちゃんが激おこなのは別にどうでもいいけど、ゼノモーフの女王(予定)としては嘘つき呼ばわりのままはいただけない。

 

「燈矢君は生きているし、お腹の子の父親なのも本当だよ。写メ撮ってるから見る?」

 

「ええ」 

 

 万が一パパに逃げられた時の為に、相手の写メを取るのもボクの習慣なのだ。

 

 まぁ、今回はその所為で拉致する前に逃げられちゃったんだけどね。

 

 過去のパパから拝借したスマホを操作すると、画面にはホテルのベッドに腰掛けて一服している上半身裸な荼毘君の姿が。

 

 全身移植された肌に焼け焦げた身体、そして体の至る所に付いている皮膚固定用の医療用ホチキスは何度見ても迫力満点だ。

 

 それを妹ちゃんに渡すと、画面を見た彼女はヒュッと息をのむのが分かった。

 

「髪の毛黒いけど、それって身内に正体がバレない様に染めてるんだって。あと顎の下は作り物が入れてあって、本物は昔の事故で無くしたって言ってた」

 

 ボクの言葉を聞いた妹ちゃんはゆっくりと携帯から視線を上げる。

 

 元々色白だったその顔は、今や相当に蒼褪めている。

 

「それに荼毘君ったら、ヤッってる最中に蒼い火で炙ってくるんだよ。子供ができたって知ったらあっと言う間に逃げちゃうし、本当に酷いよね」

 

 言葉と共にドレスのスカートを上げれば、妹ちゃんには下着を履いていない下腹部に刻まれた手の形をした焼け爛れた傷が見えた事だろう。

 

 炎熱耐性モリモリのボクだからこの程度で済んでるけど、普通だったら内臓まで焼き切れていてもおかしくない。

 

 ぶっちゃけ、荼毘君ってかなりのサイコパスじゃなかろうか。

 

 あ、ヴィランなんてやってるんだからおかしくて当然か。

 

「そ…そんな……燈矢兄さん」

 

 妹ちゃんはショックのあまり、その場に崩れ落ちてしまった。

 

 荼毘君の居場所を知ってるかなと思って話したんだけど、空振りのようだ。

 

「少し話し過ぎたね。それじゃあ、ボクは行くよ」

 

 よっこいせとヴィランの身体を担ぎ上げたボクは、窓を開くとその枠に足を掛ける。

 

「待って!」

 

 そうして飛び出そうとした瞬間、悲鳴のような感じで妹ちゃんが声をかけてきた。

 

「……何処へ行くの?」

   

「このヴィランを然るべき場所に持って行って、報酬を貰ったら家に帰るの」

 

「あの…よかったらウチで暮らさない?」

 

「……なんて?」

 

 なにやら意外過ぎる言葉が飛んで来たぞ。

 

「だって、お腹の子は燈矢兄さんの子供なんでしょ? なら私はその子の叔母になるわけじゃない。だったら貴方も私の家族よ。それに貴方はまだ子供だし、お腹に赤ん坊がいるのよ。ヴィラン狩りなんて危ない事でお金を稼ぐなんてダメよ! そんな事をしなくても出産費用も生活費も私達が出すから、その子が産まれるまで……ううん、それから先も一緒に暮らしましょう!!」

 

 そして怒涛のマシンガントークである。

 

 メガネの向こうに見えるお目目がグルグル状態なので、完全に正気を失っているな妹ちゃん。

 

「荼毘君には責任を取ってもらうつもりだけど、家族を巻き込むのは違うと思うなぁ。それに一回きりの行きずりの関係だし、あまり気にしないでいいよ」

 

 なかなかに楽しそうな提案だけど、私はすでに人間の生活とはおさらばしているので受けるわけにはいかない。

 

 それに巣には子供達が待っているからね。

 

「でもっ!」

 

「どうしても何かがしたいのなら、姪っ子が無事に生まれるのを祈ってね。───それじゃ!」

 

 このままでは埒が明かないと思った私は、妹ちゃんの言葉を待たずに窓から飛び降りた。

 

 背後で『お父さん! 大変なの、お父さん!!』と妹ちゃんの錯乱する声が聞こえるけど、気にしてはいけない。

 

 そして校庭の脇に入ると、木陰から伸びてきた『影子』の手が私を影の中へと引きずり込んだ。

 

 あとは護衛の子に繭を預けると、影子の個性で誰にも気づかれずに巣穴までGoだ。

 

 荼毘君ほどの火力は無いけど、同種の個性ならある程度の補填は利くだろう。

 

 だから元気で生まれてきてね。

 

 

 

 ここは…どこだろう?

 

 たしか俺は通学中にトラックに轢かれたはずだった。

 

 あのタイミングだと間違いなく死んだと思ったし、万が一生きていても病院のベッドの上の筈だ。

 

 けど、俺の前に広がっているのは一面蠢く肉の壁だ。

 

 あ、これ多分見てないわ。

 

 ピンと来たけど、今俺が視界って感じてるのは他の感覚で得た情報を脳内で視覚として投影しているだけだと思う。

 

 ともかく、ここから出なければ話は始まらない。

 

 幸い、身体は自由に動くんだけど何故か手も足も感覚が無い。

 

 その代わりに這い回るのが妙に簡単になっている。

 

 肉壁でミッチミチに固められている所為で自分の身体を見れないのがチト不安だが、その辺は外に出てから考えよう。

 

 手も足も出ないこの状況でハンサムな俺はどうやって脱出するか?

 

 その方法は本能っぽいものが教えてくれた。

 

 邪魔な肉壁を食い破ればいいのであるッ!!

 

 必死に口を動かして邪魔な肉を千切っては投げ千切っては投げ、偶に腹が減ったらそのまま食って進む事しばし。

 

「キシャアアアアッ!!」

 

 布らしきものを噛み千切った俺はついに外へ出る事が出来た。

 

 けど、俺の口から出た声ってバケモノのそれじゃね?

 

 ようやく巡らせられるようになった首を動かすと、俺の背後にあるのは胸に大穴が空いた人相の悪いオッサンの死体。

 

 そしてそこから突き出た白い蛇のような我が身だった。

 

 ……これってあれですよね。

 

 洋画界に名を刻んだレジェンドモンスターの幼体にして皆のトラウマ、チェストバスター。

 

 え、もしかして俺ってエイリアンに生まれ変わったって事!?

 

「キシャアアアアッ!?」

 

 驚きと嘆きのままに叫ぶと精一杯開いた口から蒼い炎がっ!?

 

 一体全体、どういう事だってばよ!

 

「生まれたばかりなのに、もう個性が使えるんだね。優秀な子で嬉しいよ」

 

 混乱の極みにいると、凄く優しそうな女の子の声が聞えた。

 

 声の方へ頭を振れば、そこにはロリ美少女がいました。

 

 女の子はアイマスの鷺沢文香を雰囲気を少し暗くして14歳くらいに若くした感じ。

 

 なにより特徴的なのは、そのけしからんボディ!

 

 なんだそのマタニティドレスを大きく押し上げる胸部装甲は!

 

 その年で大山脈を持つなんて、教育的指導ですぞ!!

 

「はじめまして、ボクがママだよ」

 

 笑顔でこちらへ手を伸ばす女の子。

 

 彼女の手はまるでエイリアンの成体のように黒い外骨格で覆われていた。

 

 そこで俺は合点がいった。

 

 彼女は俺の吐いた炎を個性と言った。

 

 つまり、ここは『僕のヒーローアカデミア』の世界なのだ。

 

 そして女の子の手と背後で揺らめく尻尾から推測するに、彼女はエイリアンの個性を持っているのだろう。

 

 母親と名乗ったのを見るに、俺は彼女がクイーンよろしく産み落とした卵から生まれたと。

 

 な…なんてこった……。

 

 いくら転生物がネタ被りまくりだからって、こんな境遇で生まれてくるとかありなのか!?

 

 というか、エイリアンとして生まれてきたとかヴィラン確定じゃないですか、ヤダー!!

 

 なんて絶望に浸っていた俺だが、そんなものは一発で吹き飛んだ。

 

「おいで」

 

 何故なら少女がけしからん胸部キャノンを片方解放して俺を呼んだからだ。

 

 これはつまり公認でロリ爆乳を堪能できるという事!

 

 オトコだったらこんなご褒美前にして悩んでなんていられないだろう!!

 

「キシャアアアアッ(ママ―)!!」

 

 歯を立てないように吸いついた先端から流れてくる栄養価たっぷりの液体。

 

 ああ、体に感じる温かさにふわふわの柔らかさ、そして口に広がる甘味の全てが俺の穢れた魂を浄化してくれる。

 

「これからよろしくね、『燈華』」

 

 うん、彼女がママなら俺エイリアンでもいいや。     




障子皐月・ゼノモーフの個性を持つ娘。村での事件で認識が人間からゼノモーフへと入れ替わった事で、その本能に従って繁殖を行うようになる。

より強い子供を求めて男たちを受け入れるその様は、まさにエイリアン2でリプリー姐さんがクイーンへ吐いた『●ッチ』という言葉がふさわしい。

彼女のお陰でヴィランが大きく数を減らした為、日本の治安は安定傾向にある。

代わりに個性持ちのエイリアンが大量発生しているので、後々の事を考えるとシャレにならない。

放置しておくとAFOなんて眼じゃないくらいの災厄に化けること間違いなし。

将来的にはアメリカのW・湯谷社や某宇宙のハンターに狙われる模様。



障子燈華・障子皐月が荼毘をフェロモンで魅了して作った個性『蒼炎』を持つゼノモーフ。

父親は体質が合わない為に己の炎で我が身を焼くデメリットを持っていたが、彼女は母乳を通して母親から得た耐火・耐高温の因子によって十全に個性が扱える。

実は転生者で前世は男だったが今生は見事なまでに女、というか生まれたゼノモーフは全員メスである。

転生当初は自分達がヒロアカ世界を崩壊させることを危惧していたが、ゼノモーフの本能と美少女ママから与えられるミルクで即人間性を捧げた。

これから皐月の所為に、勢力増強の先兵として元気に活動する予定。

あと、ヤリ逃げした事を知ってからは親父が死ぬほど嫌い。

見つけたら全力でブチ殺して個性強化の素材にする模様。
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