鋼の意志でヒーローを目指す障子君を絶対に曇らせる妹   作:アキ山

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お待たせしました。

もうすぐロムルスが公開という事で、頑張って筆を乗せました。

暇つぶしにどうぞ


第11話

 飯田天哉の死、それは雄英高校のみならず日本中に大きな衝撃を齎した。

 

 この件の始まりは、飯田の兄であるヒーロー・インゲニウムがステインによって重傷を負わされた事だった。

 

 一命はとりとめたモノの下半身不随になってしまった兄の天晴はヒーローとして再起不能になってしまう

 

 兄を尊敬し、ヒーローとしての目標としていた飯田はこの件に深く嘆き悲しんだ。

 

 そして自身の手でステインへ復讐する事を決意する。

 

 雄英側が最悪の結果となるのを防げなかったのは、一つはインゲニウム襲撃のニュースが障子皐月が雄英体育祭で行ったカミングアウトに伴うスキャンダル等にかき消されて埋もれてしまったこと。

 

 もう一つは飯田がこの件についてクラスメイトや担任の相澤をはじめ、誰にも気づかせなかった事だ。

 

 もとより彼は己や身内に降り掛かった不幸を周りに伝聞する性格の男ではない。

 

 それに加えて外部に漏らせば、自身の復讐計画を邪魔されると警戒していたのだろう。

 

 それらの要因に加えて職場体験期間中はヒーロー科1年の教員は比較的手隙になる、

 

 なので彼等はこの機に障子皐月の保護へ動こうとしていた。

 

 そこへ来てオール・フォー・ワンによる障子皐月襲撃と蛇腔病院の騒動まで襲ってきたのだから、各ヒーロー事務所へ預けた生徒に気を回す余裕はなかったのだ。

 

 結果、飯田が復讐の為に職場体験を利用して当時ステインが根城にしていた保須市へ乗り込んだ事に彼等は気付けなかった。

 

 そして職場体験半ばの夜に飯田は復讐を試み、怨敵の手によって返り討ちにあった。

 

 ステインはヒーローとは見返りを求めず、大衆の為に自己犠牲を顧みないで奉仕するモノという信念を掲げている。

 

 そんな彼からすれば復讐に身を焦がして自分を殺害しようとした飯田は、まだ卵でもヒーロー失格のまがい物だった。

 

 だからこそ、まだ子供であろうと彼は飯田をその命を以て断罪した。

 

 正史と言うべき異なる時空であれば、力及ばず絶体絶命の窮地に陥った飯田の為に轟と緑谷が駆け付けたのだろう。

 

 しかし、この世界では兄と父の蛮行によって己に宿った炎の個性を憎む轟はエンデヴァー事務所を職場体験に選ばなかったし、緑谷もグラントリノと共に蛇腔病院へ走った為に保須市へは立ち寄らなかった。 

 

 故に悲劇を食い止める絆の奇跡は起こらなかったのだ。

 

 当然ながら、この一件は雄英高校や職場体験受け入れ先にとって大失態である。

 

 雄英側はインゲニウム襲撃事件の把握はもちろん、職場体験希望に保須市を指定した飯田の思惑を見抜かねばならない立場だ。

  

 そして飯田を受け入れたヒーロー・マニュアルも、預かった以上は飯田を無事に親元へ返す義務があった。

 

 世間から向けられた怒りに彼等は自分の非を認める他なかった。

 

 新たな悲劇とヒーローの失態で世間が騒ぐ中、この件による影響が最も大きかったのはやはりヒーロー科1ーA組だろう。

 

 この短期間に離脱者が3名、内一人は死亡である。

 

 しかも飯田は学級委員長というクラスのまとめ役を担っていた。

 

 立て続けに起こった悲劇によるクラスの面々は落ち込みは大きく、学校側も授業時間を割いて専門家を呼んでのカウンセリングを行ったが効果は芳しくなかった。

 

 そんな中、緑谷達はクラスの友人として飯田の告別式へ参加する事になった。 

 

「行ってくるよ、母さん」

 

「うん……」

 

 制服に身を包んで香典をジャケットの内ポケットへ収めた息子を、緑谷引子は複雑な表情で見つめる。

 

 ヒーローが危険な仕事だなんて百も承知だった。

 

 出久が遅咲きの個性に目覚めて雄英に受かった時点で覚悟は固めていた……はずだった。

 

 それでも息子の同級生が職場体験で命を落としたという凶報は、引子の心を揺さぶるには十分すぎた。

 

「……出久」 

 

「どうしたの、母さん?」

 

 玄関を出て行こうとする緑谷の背に思わず声をかける引子。

 

『ヒーローになるのを諦めて』

 

 思わず口を突きそうになる言葉を引子は奥歯をきつく噛み締めて堪えた。

 

 物心が付く前から緑谷が抱いた夢だ。

 

 それは無個性故に一度は諦めかけた息子が、やっとの事で手を伸ばす資格を得た宝物なのだ。

 

 親としてそれを捨てろなど、言える筈がない。

 

 その理由が彼の事が心配だからだとしても。

 

「……なんでもないわ。いってらっしゃい」

 

「うん、行ってきます」

 

 そうして緑谷を送り出した後、引子はその場に力なく膝を突いた。

 

 息子が入学してから、世の中に漂う空気は明らかにキナ臭さを増している。

 

 雄英の課外授業施設へのヴィラン襲撃に始まり、体育祭で暴露された村ぐるみでの異形型個性保有者への差別と虐待。

 

 幼馴染で才能豊かだった爆豪克己が除籍にされたうえに重傷を負い、さらには魔王とまで言われた超大型ヴィラン復活の噂が出回った。

 

 そこへ来て、悪名高いヒーロー殺しの手によって緑谷のクラスメイトが死亡したのだ。

 

 親としては生きた心地がするわけがない。

 

 本音を言えば雄英を…せめてヒーロー科を辞めて安全な場所へ移ってほしい。

 

 けれど、それを告げても息子を困らせるだけだ。

 

「あなた…早く…早く帰ってきて」  

 

 そんな引子に出来る事は海の向こうで自分達の為に汗を流す夫に縋る事だけだった。

 

 

 

 

 飯田天哉の告別式は問題なく行われた。

 

 緑谷達1-Aの生徒も焼香を行い、彼に最後の別れを告げた。

 

 棺の中で眠るように目を閉じている学友の顔に、八百万を始めとする女子の幾人は涙ぐむ場面もあった。

 

 なにより彼等の心を苛んだのは、飯田の家族による慟哭だった。

 

 特に事件の発端となったヒーロー・インゲニウムこと飯田の兄である天晴の様子は酷いモノだった。

 

「うあぁぁぁぁっ! ごめん、天哉! 俺がアイツに負けなかったら……! お前をこんな目にあわせなかったのに!! 弱い兄ちゃんでごめんなぁ!!」

 

 大人の男性が涙と鼻水を垂れ流して慟哭する様は、高校生の彼等には大きなショックだった。

 

 車椅子から転げ落ちてもなお、下半身不随の身体を引き摺って弟の棺へ這って行く鬼気迫る様には緑谷達も言葉が無かった。

 

 しかし、それも無理からぬこと。

 

 自分の仇を取る為に弟が無謀な復讐に挑んで命を落としたのだ。

 

 その自責の念と絶望は1-Aの生徒達には想像すらできない程に深いのだろう。

 

 そうして火葬へ向かう飯田を見送った彼等は暗い気持ちで帰路に就いていた。

 

 夕暮れに差し掛かった茜色の空の下、不意に口を開いたのは蛙吹梅雨だった。

 

「……みんな、お話があるの。少し時間をくれない?」

 

「梅雨ちゃん?」

 

「ごめんなさいね、お茶子ちゃん。大事な話なの」

 

 何の話かと問おうとした麗日だったが、悲壮感を宿した蛙吹の顔にその言葉を飲み込んだ。

 

「わかったよ」

 

「近くのマックに個室スペースあったから、そこに行こうぜ」

 

 緑谷は頷くと上鳴が挙げた場所へと一同は移動した。

 

 店員に店の奥にある大部屋を用意してもらった一同がそこに入ると、蛙吹は意を決したように口を開く。

 

「ごめんなさい、みんな。私、ヒーロー科を辞めるわ」 

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 そして飛び出した爆弾発言に1-Aの面々は度肝を抜かれた。

 

 唖然とする級友たちの顔を申し訳なさそうに見つつ、蛙吹は更に言葉を続ける。

 

「今日、飯田ちゃんのお葬式を見て思ったの。あの光景はヒーローになった私の可能性なんだって」

 

「それって、どういうことなの!?」

 

「もし私がヒーローになってヴィランに一生モノの傷を付けられたら、弟や妹が復讐に奔るんじゃないかって。それで妹たちがヴィランに返り討ちにされたら、私も飯田ちゃんのお兄さんみたいに……」

 

 そこまで口にして言葉を詰まらせる蛙吹に緑谷達は掛ける言葉が無かった。

 

 入学直後ならそんな事は無い、皆で力を合わせればヒーローは負けないと励ましていただろう。

 

 しかし、そんな風に考えるには1-Aの面々は社会の闇を知り過ぎていた。

 

 ヴィランの悪意、人の死、異形型個性保有者への差別と虐待、婦女暴行とそれに付随する女性の地獄。

 

 そもヒーロー・ヴィランと社会は善悪を定めているが、その争いの本質は個性を使った殺し合いだ。

 

 そしてヒーローは殺害厳禁でも、ヴィラン側はその限りではない。

 

 飯田が不幸な結果に終わった今、大きなハンデを背負わされてもなお『自分は負けない』と豪語出来る者はその場にはいない。

 

 さらに言えば蛙吹は女性だ。

 

 命を奪われなくても一生消えない傷痕を残す術がある事は、障子の妹が身を以て証明している。 

 

 可愛い娘が、愛する姉が、そんな目に遭ってしまっては家庭が地獄になるのは想像に難くない。

 

 その元凶を彼等が恨むのは当然だし、復讐に走らないと誰が保証できるだろうか。

 

「私は…自分の憧れや夢の為に、家族を不幸にはできないわ。そうなるくらいなら諦めた方がいい」

 

 目に涙をためて俯きながら言葉を絞り出す蛙吹。

 

 長年抱いていた夢を諦める彼女の心境はどれ程の物だろうか?

 

「オイラも……ヒーロー科辞めるわ」 

 

 いたたまれない雰囲気の中で皆が口を開けずにいると、おずおずと峰田が手を上げる。

 

「峰田、お前……」

 

「オイラは元々女の子にモテたくてヒーローを目指してた。だからさ、痛感したんだよ。そんな奴がやっていける世界じゃないって」

 

 切島の声に峰田は自嘲を浮かべながら答える。

 

「ヒーローってさ、華やかでキラキラしてるよな? マジでスターって感じでさ、売れれば人生勝ち組って感じさ。だからさ、その光に目がくらんで見えてなかったんだよ。実際は血生臭い仕事だってこと。しかも自分の命だけじゃなくて家族まで危険に晒すとなったら、流石にオイラみたいな凡人には無理だ」

 

 重苦しい雰囲気を嫌った峰田がおどける様に口にする言葉。

 

 それは俗物的な動機で、ヒーローというモノに深くのめり込んでいない彼だから見えるモノなのだろう。

 

「家族って…どういう事だよ!?」

 

「プロになって有名になったら、ヴィランだって真正面から挑んでこなくなるだろ? そん時に狙われるのは知り合いや家族だ。売れるヒーローはメディアの露出も必要だから、そうなればプライベートを隠そうとしても嗅ぎつけるファンも出てくる。そこから情報がヴィランに漏れた時、身内を守り切れる自信があるか?」

 

 オイラにはないわ、そう続けて峰田は深くため息を吐く。

 

 隣に座っていた佐藤の眼には、峰田の横顔は同い年とは思えないほどに酷く老け込んで見えた。

 

 彼もまた酷く狭き門を潜り抜けてヒーローの登竜門を登ってきた男だ。

 

 その情熱はここに集まる者に勝るとも劣らない。

 

 それでもなお、現実を見据えて夢を捨てる選択を選んだ。

 

 彼の心情を思えば、蛙吹同様に声を掛けられるクラスメイトはいなかった。

 

 その後、1-Aの面々は陰鬱な雰囲気のままに解散となった。

 

 一人帰路につきながら、出久はクラスメイト達の事を考える。

 

(寂しいけど蛙吹さんや峰田君の選択は責められない。家族が大事なのはみんな同じなんだ)

 

 彼等の懸念は出久にも当てはまる事だ。

 

 もし母がヴィランに襲われたらと思ったら彼だって背筋が凍る。

 

 そして、自分がヴィランとの戦いで死んでしまったら母はどれだけ悲しむのだろうか。

 

(そうか。家を出る時に母さんが言おうとしたのは……)

    

 母は今までの騒動から、自分の身を心配してヒーローから身を引くように言おうとしたのだ。

 

 緑谷は母の自分へ向けた気遣いと、それを口にしなかった配慮に深く感謝した。

 

(それでも…それでも僕は止まれない! オールマイトからワン・フォー・オールを受け継いだ以上、あの人のようなヒーローにならないといけないんだ!)

 

 級友達が教えた数多のリスク、オールマイトが今まで孤独に生きてきた理由を知った緑谷。

 

 けれど、それでも彼はヒーローを目指す事を止めない。

 

 憧れから手渡された平和の象徴たるバトンがあるから。

 

 しかし、そのバトンは果たして彼が思うような栄光への導なのだろうか?

 

 それが示す先にあるのは、もしかしたら終わる事のない修羅地獄なのかもしれない。

 

 

 

 一方、その頃オールマイトは警察署で塚内警部と情報交換を行っていた。

 

「塚内君、奴に付いて何かわかった事はあるかい?」

 

 蛇腔総合病院の一件から方々を駆け巡って宿敵の影を追っていたが、オールマイトはオール・フォー・ワンに関する有益な情報を手にすることはできなかった。

 

 そこで彼は独自に調査を進めているであろう、警察の組織力を頼る事にしたのだ。

 

「残念だが…障子皐月襲撃以降、オール・フォー・ワンの足取りは完全に途絶えたままだ。秘密研究所を調べた結果、殻木球大が奴の腹心というべき人間という事は分かっている。それが殺されたのに動きが無いのは明らかにおかしい」

 

 しかし、彼の期待に反して塚内警部は苦い顔で首を横に振る。

 

「障子少女は奴は新しい体を得る為に彼女を必要としていると言っていた。その為に必要な施設や人員を別の場所に用意していたという事だろうか?」

 

 内心の落胆を何時もの笑顔に隠してオールマイトは話を続ける。

 

 彼が見つけねばならないのは怨敵だけではないからだ。

 

「障子皐月も、あれから動きを見せていない。……最悪のケースも予測しなければならないかもしれないな」

 

「彼女がすでに奴の手に落ちているという事か。そういえば、障子少年の事は何か分かっているのかい?」

 

 オールマイトの問いかけに塚内警部は渋面を作る。

 

「裏社会で随分と派手に暴れまわっているみたいだ。一般人には被害は出ていないけど、小物のヴィランやチンピラの組織なんかは幾つも潰されている」

 

「そんな……」

 

 入学時や授業中の障子からは想像もできない……いや、雄英を去る時に見せた殺気を思えばあり得なくもない。

 

 喉まで出かかった『馬鹿な』という言葉を飲み込みながら、オールマイトは己の認識を改める。

 

「雄英在学中は隠していたようだが、彼は古武術を使うらしい。その所為で命があっても殆どの奴等が再起不能、死人も二けたを超えているらしい」

 

「古武術だって?」

 

「ああ、個性の複製腕と合わせて相当な脅威になっていると思われる。検死に立ち会った柔道の先生は、こんな綺麗かつ徹底的に壊された人間を見るのは久しぶりだと言っていた」

 

 塚内の言葉にオールマイトの口元から笑みが消える。

 

 個性が全盛となって社会から消え去った武術、1-Aに属する尾白のように使い手が完全に絶えたわけではないが、それでもかつてに比べれば使用者は風前の灯火と言えるだろう。

 

 基本的に無個性の対人限定であり時代遅れと揶揄される技術だが、オールマイトは知っている。

 

 それを極めた者がどれほど危険で恐ろしいか。

 

 そして今から30年ほど前に、無個性ながら古武術一つでヴィラン達の屍山血河を築き上げた武の鬼がいた事を。

 

「プロヒーローのデステゴロが彼を捕まえようとしたらしいが撃退されている。その際に右腕の肘と肩の関節を完全に破壊されているらしくてな、ヒーロー復帰は絶望的だそうだ」

 

「……そうか。彼は気骨のあるヒーローと聞いていたので、残念だ」

 

「今の障子目蔵は口元に付いた特徴的な傷や敵対者を容赦なく再起不能にする事から、『傷』『壊し屋』という異名で裏社会では一目置かれる存在になりつつある。そして彼も障子皐月の事を探しているらしい」

 

「だろうね。彼が雄英を去ったのは、障子少女を守る為だから」

 

「我々も兄妹という事で障子皐月が頼る可能性も考えた。なので障子目蔵に監視を付けていたんだが……」 

 

「見つかってしまったか」

 

「ああ。尾行していた署員は右腕を折られて『関わるな』という警告を持たされて帰ってきたよ。腕の方は壊されずに綺麗に骨を折られていたから、早く治るのが唯一の救いだな」

 

 額に手を当てながらため息を吐く塚内警部。

 

 その顔には高校生に警察が手玉に取られた事への情けなさがにじみ出ている。

 

「今はお互い収穫なしということか」

 

「一つだけ障子皐月の件で妙な話がある」

 

「それは?」

 

「彼女の動向をアメリカのエージェントが追っているらしい。ヒーロー公安の方にも国内での調査を行うと申し出があったそうだ」 

 

「アメリカがどうして障子少女を?」

 

「むこうが言うのは彼女と同じ個性を持つ者が現れた場合の対処の為に、詳細な情報が欲しいからという事だ。けど、俺の勘が言うんだ。この一件は妙にキナ臭いってな」 

 

「つまり、何らかの悪意を持って彼女を追っていると?」

 

「蛇腔総合病院で彼女が口にしていただろう。彼女の産む娘を殻木球大が戦力にしようとしていたと」

 

「まさか…!」

 

「捜査員の中には障子皐月と同じ個性を持つと自称する女もいるらしい。だが、彼女は障子皐月と違って個性の影響が薄く娘は人間だそうだ。もし、その女からアメリカ政府が件の個性を研究して殻木球大と同じ結論に達したとしたら……」

 

「障子少女を捕らえて兵器転用を目論んでいる可能性が高い、か。国際問題にすらなりかねないとは、本当に厄介なことになった」

 

「だからこそ、是が非でもアメリカやオール・フォー・ワンに先んじて障子皐月を保護しないといけない。ヒーロー公安からの圧力もあったんだろう、警察の方も上から捜査員の大幅増が指示されたよ」

 

 更なる混沌の様相を呈する障子皐月とその周辺、これからの事を考えたオールマイトと塚内は同時にため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 どうも、新居に入って孫が増える一方の障子皐月です。

 

 いやはや、癒威の産卵速度は本当に凄い。

 

 ボクの2…ううん、3倍は早いんじゃなかろうか。

 

 ここは母親として負けていられないと言いたいところなんだけど、身体の大きさなんかもあって張り合うのは難しいかな。

 

 そんな訳で日々着実にボクの一族は繁殖しているんだけど、やはりと言うべきかその為の資材が足りなくなってきた。

 

「キュウ! キュウ!!」

 

「やっぱり足りないよねぇ。京都はヴィランもあんまりいないし……ふぅ」

 

「ギャウッ!?」

 

 ふらりと立ち眩みを覚えたボクを、孫の一人である薫子が支えてくれる。

 

 もう一つの問題はボクの体調が安定しない事だ。

 

 病気じゃないし原因も分かっているんだけど、これが本格的に始まるとボクはまとまった期間動けなくなる。

 

 それまでに巣の運営を軌道に乗せないと……。

 

 薫子に寝台へ乗せてもらいながらそんな事を考えていると、斥候を任せていた影子が帰ってきた。

 

「お帰り、影子」

 

「キシャ! キシャ!!」

 

 ボクが声をかけると影子は嬉しそうな声を上げて額を胸に擦り付けてくる。

 

 群れの中でも古参になったこの子だけど、まだまだ甘えん坊だ。

 

「それでどうだったの、泥花市の方は?」

 

「ギィッ! シャシャシャ!!」

 

 ボクの問いかけに影子が返したイメージは一見するとごく普通の平和な町。

 

 けれど影に潜んだこの子が少し探りを入れれば、その薄皮はペロリと剥がれる。

 

 この街の住人の殆どは個性使用が許可制でありプロヒーロー以外には原則使用禁止な今の社会を疎み、誰しもが個性を自由に使える新しい社会体制を欲する思想団体の構成員だったのだ。

 

 その団体の名は『異能解放軍』

 

 うん、学歴が残念なボクでも知っているよ。

 

 これってテロリスト団体ってやつだよね。

 

 大勢を率いて国をひっくり返そうなんて、ヴィランより質が悪いじゃないか。

 

「───よし!」

 

 だったら、一般人でも繭にして大丈夫だよね。

 

 異能解放軍とかいうのを燈華が知っているかを確認して、襲撃計画を───!?  

 

 ベッドから立ち上がって皆に指事を出そうとしたんだけど、それに先んじてボクの頭に響く念があった。

 

「……瞳? 影子、瞳の所へ行こう」

 

 念の主は長女の瞳だった。

 

 近頃は癒威が産んだ子供達の世話と若手の教育をしてくれていたんだけど、今感じた念には苦しいという感情が含まれていた。

 

 巣に誰かが侵入した可能性も考慮に入れていたボクは、影子の影渡りで辿り着いた瞳の様子に息を呑んだ。

 

 何故なら身体が二回りほど大きくなった彼女の甲殻は内側からはちきれる様に破れ始めていたからだ。

 

 この状態をボクは何度も見ている。

 

 そう、脱皮だ。

 

 そして成体となったゼノモーフが脱皮する理由は、燈華のような事例を除けば一つしかない。

 

「グオオオオオオオっ!!」

 

 咆哮と共に古い皮を脱ぎ捨てた瞳。

 

 その姿は癒威に比べると小柄だけど、明らかにクイーンのものだった。

 

 特徴的なのは本来の両手に加えて胸元に生えた新しい手の方にも複製腕があることか。

 

「おめでとう。瞳もこれで自分の群が持てるね」

 

 私は脱皮を終えた瞳の頬を優しく撫でる。

 

「キュー! ククク……」

 

 実は瞳が辿った変化はおかしなものじゃない。

 

 ゼノモーフは優れた個体が経験を積むと、プレトリアンという中間形態を挟んでクイーンへ進化することがあるのだ。

 

 本来ならこの進化は巣の女王が健在の場合は封印されている。

 

 群れの中に二つの統率者がいれば、それは混乱や勢力争いを引き起こす原因となるからだ。

 

 けれど、癒威がいる事で分かるようにボクの群はその限りじゃない。

 

 ボクはお母さんとしてしっかり皆に愛情を与えているお陰で、勢力争いなんて物は起きないのだ。

 

 瞳が女王へ成ったという事は、強美や影子も同じように進化する可能性が高い。

 

「う……」 

 

 新しい女王の誕生を感知した所為か、身体の中から沸き起こる疼きもより強くなっている。

 

 これから瞳の妹達が女王になったらボクはこの衝動に抗えなくなるだろう。

 

 残された時間はそんなに多くない。

 

 今のうちに群の方針と泥花市への侵攻に関する指示はしっかり与えないと。

 

 長い眠りに就くまえに……。




オリキャラ・プロフィール

名前・障子皐月(しょうじさつき)

ヒーロー・ヴィラン名・無し

種族・人間→ゼノモーフ

個性・ゼノモーフ→人間(障子皐月)

誕生日・8月23日

年齢・14歳

身長・132cm

体重・32.4kg

スリーサイズ・93・47・86

所属・無しもしくは己の群

好きな物・焼き肉

CV(作者イメージ)花澤香菜

・個性について

彼女の個性であるゼノモーフだが、当初は血液が弱酸性となり手足に強靭な甲殻、脚の倍の筋力を誇る尾を得る程度の異形型個性だった。

しかし皐月が瀕死となった際に生存本能故か、ゼノモーフの要素が肉体の人間的構成要素を大きく浸食。

それによって肉体的にも精神的にも大きくゼノモーフへと傾き、人間から人とゼノモーフ双方の特徴を兼ね備えたハイブリッド・ゼノモーフへと進化した。

彼女と真の意味での同族を上げるなら『エイリアン4』のリプリー・クローン、もしくはニューボーンと言えるだろう。

その能力は強酸となった血液と人間を大きく凌ぐ筋力。

他者との性交によって相手の遺伝子情報を確保し、そこに刻まれた優れた要素を生み出した子に遺伝させると同時に、己の肉体を強化改造する事が出来る。

遺伝情報から習得したのが個性だった場合、肉体改造で十全に機能するのは筋力や再生速度などのフィジカル面と各種個性への耐性のみ。炎や電撃などの放出系はオリジナルの2割程度しか使用できない。

これは女王として戦闘能力より生存力を優先した結果である。

・性格

人間時は周囲からの虐待や親に半ば見捨てられたこともあり、口数も少なく昏い性格だった。

唯一自分を護ってくれる兄に依存し、本当の意味での家族は彼以外にいないと終始ベッタリとくっ付いていた。

傷つけられる苦痛を知る為に暴力を酷く嫌っており、それに加えて周囲から己は忌み子であり死んで当然と半ば洗脳のように言われていた為に、個性を使う事も忌避していた。

死の淵から蘇ってからは、ゼノモーフの残虐性と攻撃性から他者を傷つける事への忌避感は消失し、殺人も厭わなくなった。

彼女にとって戦いとはどちらかが滅びるまで行う生存競争であり、そこに容赦は一切介在することはなく如何なる手を使っても敵は殲滅する事を信条としている。

一方、群の子供達には深い愛情を注いでおり、本来のクイーンエイリアンのように使い捨ての兵隊にする事は無い。

女王ではなく母親、祖母として動くのは統治者としては褒められた事ではないのだが、それが群れを構成するゼノモーフ達の忠誠と親愛を集めているので一概に欠点とは言い難い。

・知能

最終学歴が小学校中退の為に学力という面では酷く低い。

この事は本人も気にしており、『アホの子女王』と脱却を誓っている。

しかし地頭は悪くなく、女王として群を率いる立場上、狡猾さや戦略眼・状況判断能力は高い。

今までの経験と短い間とはいえオール・フォー・ワンからの薫陶もあって、弱者の立場を利用する事や相手を煽って隙を作るなどの駆け引きも覚えている。

・目的

種の繁栄であり、何時かは人間からこの星の主導権を奪取する事を大目標としている。

それは本能的な部分もあるが、幼いころから受け続けた虐待が精神の深い所に根を張っている為に人間を恐れ嫌悪している事も大きな原因。

本音を言えば男と肌を重ねるのは嫌なのだが、種族の繁栄と自分達を護るために我慢している。

繭となる事に抵抗する者の四肢をもぎ取るなどの残虐性はその嫌悪感の反動である。
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