鋼の意志でヒーローを目指す障子君を絶対に曇らせる妹 作:アキ山
普通に面白かったし、今までの作品へのリスペクトも盛りだくさん。
初めての方もエイリアンファンにもお勧めです。
お陰でコッチの制作意欲がわいてきたゼェ!!
蛇腔病院の地下、殻木の築き上げた秘密研究所よりも更に深い位置にある恐らくは地球で唯一のゼノモーフが住まう巣穴。
その中心部、女王の間というべき場所には二つの影があった。
一つは巣の主たる大母、障子皐月。
もう一つは最近女王へと進化を遂げた皐月の長女、瞳である。
瞳は下腹部から長く伸びた産卵管を蠢動させて卵を産み、同時に四本の腕と複製腕を使って宝物を護るように母を抱いている。
そして時おり半ば微睡みの中にいる皐月の胸に口を付けると、その母乳を吸い上げているのだ。
「瞳もまだまだ甘えん坊だね……」
「ギュゥゥゥ……」
「いいよ。初めて卵を産むんだもん、不安だし栄養もいるよね。いっぱい、お母さんに甘えて」
自分の言葉に不満そうな声を上げる瞳の頬を皐月は優しく撫でる。
強い眠気が頭の中に靄を掛けていても、彼女の母性に陰りは見えない。
「グ…ギュグ……」
そして母の許しを得た瞳は再びその胸に顔を埋める。
皐月の出す母乳はある種、奇跡と言ってもいい代物だ。
遥かな昔、『エンジニア』と呼ばれる異星の超越種がこの星へ降り立った。
彼等はこの地で自らが主と崇める『ディーコン』なる生物の血を飲み干し、その身を一度遺伝子レベルで分解して新たな生命の種子となった。
生命的にも科学的にも頂点に近い位置まで発達した『エンジニア』達には、その代償として生命の根幹たる生殖能力が存在していない。
多くのモノが老い種族の滅亡が見えてきた頃、エンジニア中に産まれた一人の天才は己の身を代価に一つの生命を生み出した。
それが『ディーコン』。
その血を使えば生殖能力を失った己が種族でも新たな生命を生み出せると知ったエンジニア達は、ディーコンを主と崇めて彼の生物を生み出した偉大なる同族の天才を祀る神殿を建立した。
そして彼等は新たな生命創造の手段を手に、様々な星へ出向いてディーコンの血を使い命の種を撒く事となった。
エンジニアの遺伝子を紐解き、それを触媒にして産まれた数多の種族、その一つが地球の知的生命体『人類』なのだ。
しかし長年に渡る生命創造によって、何時しかディーコンの血は枯渇してしまう。
エンジニア達は新たなディーコンを生み出そうとしたが、彼の天才が齎した奇跡を再び起こすことはできなかった。
そこで次善の策として行われたのがディーコンの血を研究し、科学的に模倣する事だった。
しかし、この試みもまた失敗に終わった。
彼等の手によって生み出された黒い血は新生命創造には適さない生物兵器となってしまった。
『ブラック・グー』と呼ばれる災厄の種、それを投与された者の遺伝情報を書き換えると同時に全身の代謝を大きく加速させる。
しかし急激すぎる変化には殆どの生命が耐えることが出来ず、『ブラック・グー』を使用された者達の多くは命を落としてしまう。
中には体の変化に耐えうる者もいたが、それは幸福な結果には結びつかない。
何故なら『ブラック・グー』は投与された生物を醜く変異させ、攻撃性のある怪物を作り出してしまうからだ。
そして、この『ブラック・グー』によって誕生したのがゼノモーフである。
皐月はディーコンの血とエンジニアによって生み出された人類、そして『ブラック・グー』を基としてゼノモーフ双方の要素を持っている。
その為、彼女の母乳には十全とは言えないものの生命創造の力と遺伝子改変という二つの機能を備えているのだ。
ここより遥かな未来、もしかすると違う世界かもしれない。
宇宙へと進出した人類が接触したゼノモーフから抽出した体液を基にして、『Z-1化合物』なるモノを作りだした。
それは『ブラック・グー』由来の遺伝子改造効果でゼノモーフが持つ新陳代謝を自在に加・減速する能力を植え付け、他の惑星開拓に挑むには脆弱すぎる人類の身体を瞬く間に強化改造する為の薬だった。
『Z-1化合物』は失敗作に終わったが、皐月の母乳はその成功作に近いものと言えるかもしれない。
彼女はその母乳に交わった男達の優勢遺伝や個性因子を込め、子供達の肉体強化に使用している。
来るべき人類との生存競争に負けないのはもちろんのこと、子供や孫達が極力命を落とさないようにする為だ。
「キィィ……」
寝息を立て始めた皐月の前髪を、瞳は胸から生えた一対の手で優しく撫でる。
その様子は疲れて眠った子を労わる母のようだ。
最初の子である彼女は知っている。
母が人間を何より嫌悪し、同時に恐怖している事を。
今でこそ取り乱さないようになったが、ヴィランに捕まって初めて体を暴かれた時の様子は酷いモノだった
発狂したかのように泣き叫んでいた母の姿は、必要な事だと分かっていても瞳が飛び出したくなるほどだ。
その後も繁殖活動の度に母が嘔吐したり、湯浴みで自分の身体を血が出る程に擦っていたのを瞳は知っている。
それでも母は耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで群をここまで拡大させたのだ。
『子供達が多ければ、それは他の子達の助けになる。数は力だよ、瞳』
強美が産まれた頃、あまりの痛々しさから繁殖を休むように忠言した瞳へ母が告げたのはこんな言葉だった。
母の言うとおりだった。
群れの者が多くなれば出来ることが増えていく。
母が多くの者と交われば、乳によって子供や孫達は更なる力を得ることができる。
そして、より多種の耐性や強い個性があれば、人間と相対しても殺される可能性が減る。
瞳は己の遺伝子からゼノモーフ本来の女王が如何なるものかを知っている。
多少の情愛はあっても、女王にとって子供は群れを維持する為の兵隊であり働き手だ。
必要とあれば切り捨てる事も使い潰す事も厭わない。
それに比べれば自分達の為に身を削り続けた母のなんとありがたい事か。
『───燈華』
テレパシーを放てば、少しの間をおいて蒼い甲殻が特徴の妹が現れる。
女王となる事を捨てて自己強化に己のポテンシャルを全てつぎ込んだ彼女は、総合的な戦力では自分に次ぐ力を持つ。
なにより、どこから仕入れてきたか分からないその知見は群一番の知恵者の名を欲しいままとしている。
母が群の手綱を握れない現状では、強美と並んで最も頼りになる存在だ。
『ママは?』
『お休みになられておられます。お母様の安息をみだりに乱さぬよう注意なさい』
『おっぱい独占しながら言うセリフじゃないからね、それ』
『……長女特権です。それより、街の侵攻はどうなっていますか?』
『始めたばかりで派手に動いていないけど、今のところは順調だよ。癒威の子をメインで運用しているから怪我人は出ても重傷や死者は無し。傷を受けた奴ももう治ってる。あとは繭にしても旨味が無い奴をデコイに使って人間同士のいざこざに見せかけているから、俺達の事は掴まれていない筈だ。カメラや記録装置なんかも率先して潰しているしな』
現状、群は徐々に異能解放軍の本拠である泥花市を侵略している。
方法は夜間の内に朧のワープホールで実行部隊を現地へ送り、老人や一人暮らしなどいなくなっても気づかれにくい人間を狙って繭の確保を行っている。
行動の際には電磁パルスを放出する個性を持った者に指示して事前に監視カメラなどの眼を潰し、物取りに見せかける為に部屋を荒らしたり怨恨による殺人を装う為に囮にした相手を包丁で殺害するなど偽装にも余念がない。
メンバーが負傷した際には血による溶解痕が残らないように、個性使用による破壊として壁や床を壊す徹底ぶりだ。
作戦の主な指揮はメンバーの母親である癒威に任せていたが、知恵袋としてフォローを命じていたのが眼前の燈華なのだ。
『町の人間が外部へ助けを求める可能性は無いのですね?』
『あの町は反政府組織に牛耳られている。外部から警察やヒーローが来たら痛い腹を探られる可能性があるから、その手は使わない筈だ』
燈華の報告に少し思案するそぶりを見せた瞳は、意を決したように顔を上げる。
『では街の侵攻を早める為に頭を潰しましょう。お母様はじきに長い休眠に入ります、それまでに群を盤石なモノにしなくてはいけません』
『ああ』
『燈華、これからは貴女にも群の運営を担ってもらうことになります。外に憂いがあるのなら、次の作戦が始まる前に片付けてしまいなさい』
『わかった』
自分の言葉に短く答えると燈華の気配が消える。
それを背後の器官で感じながら、瞳は完全に眠ってしまった皐月を寝台へ横たえた。
『お母様、貴女は私が必ず護ってみせます。───たとえ、あの男が敵に回ったとしても』
万感の想いを込めて思念を送ると瞳は天へ向かって大きく吼える。
それは聞いた者全ての心胆を凍り付かせる魔獣の王の声だった。
◆
エンデヴァーこと轟炎司が自宅へ帰ってきたのは一週間ぶりの事だった。
「……焦凍の奴、まだ帰っていないのか」
一つも電気が付いていない真っ暗な部屋を見て、炎司は舌打ちを漏らす。
この家に人の気配が消えてどのくらい経っただろう?
妻の冷と長女の冬美は病院。
興信所を使って調べたところ、次男の夏雄は大学の友人の下宿先にてルームシェアで暮らしている。
最も目を掛けている焦凍は同じクラスの緑谷という生徒の元に転がり込んでいるらしい。
「まったく、奴は何を考えているのだ!? トップヒーローになる為には遊んでいる時間などないのだぞ!」
愚痴りながら炎司は冷蔵庫から取り出した缶ビールを一気に煽って、その底でテーブルを叩く。
そうしてアルコールによる軽い酩酊感で苛立ちが薄れれば、少しだけ冷静さが戻ってくる。
現状においてヒーロー・エンデヴァーの立場はすこぶる悪い。
蛇腔病院で行われた障子皐月による轟家の虐待問題、その裏取りが成されてしまったからだ。
ゴシップ紙の記者が目を付けたのは、当時から家を離れていた夏雄。
炎司に隔意を持っていた彼は記者の質問を肯定し、当時の様子を事細かに語った。
それに加えて妻と長女が入院している病院襲撃の様子が監視カメラで撮影されており、その時の様子からヴィラン・荼毘が数年前に事故死した筈の長男、燈矢だと確定してしまった。
その不始末も相まってエンデヴァーに対する世間からのバッシングは強烈なモノになっている。
炎司はもとより人気商売で食ってきたわけではない。
凶悪ヴィランの検挙とその報酬で生計を立ててきた。
その為に事務所の営業自体は可能だが、それでも世間の信用を失った事で一般市民からの通報などが減ったのは痛い。
「……燈矢、お前に何があった? 今どこにいる?」
小さく呟かれた心配の声は、家人が絶えた家の闇に空しく消えていく。
蛇腔病院の騒ぎから今まで、日本のヒーローや警察はこぞって障子皐月の行方を追っている。
これはオール・フォー・ワン復活を恐れたヒーロー公安が、彼女の保護を最優先としたためだ。
そう、殺人犯であるにもかかわらず逮捕ではなく保護である。
少年法と照らし合わせればおかしな事ではないのだが、公安にしては随分と手緩いと炎司は考える。
この場合、オール・フォー・ワン復活を阻止するのならば障子皐月を消すのが最も効率がいい。
世論や法が黙っていないというモノもいるだろうが、国にとって有害と感じれば誰がどう言おうと邪魔者を排除するのが公安という組織だ。
それがヒーローを使ってまで保護に走るなど、炎司には何か裏があるとしか思えない。
もっとも、保護したところで『不幸な事故』に遭うというシナリオの可能性もあるが。
そんな不信もあって皆が障子皐月の行方を探る中、炎司だけは皐月を探すフリをして燈矢を探し続けている。
死んだと思っていた長男に言いたい事も聞きたい事も山とあった。
それに加えて障子皐月が産み落とした化け物に狙われているとなれば、そちらを優先するのは当然と言えた。
しかし、ヒーロー活動の合間とはいえ数日にも及ぶ捜索は全て空振りに終わった。
「……くそっ!」
自分の至らなさに悪態を吐くが、そんな炎司の言葉を聞く者はこの家には一人としていない。
それは自分の野望…いや夢の為と家族というモノを斬り捨てて行った結果だ。
仮にそれが炎司なりに家族を想ってやったことだとしても。
その夜、炎司は台所に灯った小さな光の中で酒を煽り続けた。
今まで己が築きあげた物を徐々に削り取られていく恐怖を忘れる為に。
◆
その日、リプリーとアッシュは泥花市を訪れていた。
「こんな地方都市に何があるの?」
「ここの事はFBIの調査資料に載っていたのでね、様子を見に来たんだ」
「FBIの資料に? なぜ?」
突然キナ臭い話を振られて驚くリプリー。
そんな彼女の様子に表情一つ変えずにアッシュは言葉を紡ぐ。
「この街に多くの工場を建設し多額の献金をしているサポートアイテム開発企業『デトネラット社』、その本当の顔は過激派組織『異能解放軍』だ」
「じゃあ、ここはテロ組織に乗っ取られているって事なの!?」
「声量を下げてくれ、リプリー。誰が聞いているか分からない」
「ご…ごめんなさい」
少し眉をひそめたアッシュの注意にリプリーは思わず手で口を覆う。
「それより、その事は公安に通報しなくていいの?」
「日本の公安もその事は気が付いている。一斉検挙の為の証拠集めとして、内調も行われている筈だ」
「そう。じゃあ、どうしてこの街へ?」
「少し前から日本で起こっているヴィランや社会不適合者の相次ぐ失踪、私はそれを障子皐月の手によるものと考えている」
「それってまさか……!」
「そうだ。ゼノモーフの生態が君の言う通りだとすると、彼等の繁殖には寄生する宿主が必要になる。そして障子皐月がそれを人間に定めたのなら……」
「消えても社会的に問題になりにくい裏の人間を狙う」
「その通り。そしてここはテロリスト、またはテロリスト予備軍が住む街だ。異能解放軍を率いているデトネラット社の四ツ橋社長なら、仮に問題が起こっても公権力やヒーローの介入を望まない」
「彼女達の狩場として申し分ないという事か」
そう呟いたリプリー。
しかし次の瞬間、彼女の直感が何かを捉えた。
「どうした、リプリー?」
「こっちよ、アッシュ」
怪訝そうに彼女を見つめるアッシュを誘導してリプリーが向かったのは街から少し外れた薄暗い路地裏。
そこに差し掛かった彼女は見てしまった。
過去に何度も夢で現れた怪物、ゼノモーフが意識を失った人間を担いで移動しているのを。
「くっ!」
「リプリー! よせ!!」
全ての生物があれに蹂躙され、自分もまた胸に植え付けられた幼体に食い殺される。
そんな悪夢の光景がフラッシュバックしたリプリーは反射的に抜き放った銃の引き金を引いた。
銃声と共に薄暗い路地を照らすマズルフラッシュ。
標的とされた2体のゼノモーフに向かって牙を剥いた弾丸は一つは左側の個体の頭部、もう一発は右の個体の胸へと食らいつく。
しかしゼノモーフ達は高強度の甲殻に加えてショック吸収の個性によってまったくの無傷だ。
「シィィィィィッ!」
何より彼等は狩りの邪魔をされたことに憤った。
彼等は母から今は群にとって大事な時と教育を受けた。
それ故に邪魔をするモノなど許せるわけがない。
怒りの声と共に獲物を捕らえていない方のゼノモーフがリプリーへ襲いかかる。
「ひっ!?」
対するリプリーはゼノモーフの速度があまりに早い事と悪夢のフラッシュバックの影響で動くことができない。
「危ない、リプリー!!」
そんな彼女を護るべく、アッシュが一人と一体の間に割って入る。
もちろん捨て身の献身などという訳ではない。
天才シールド博士が携わったアッシュのボディは、並の増強系個性なら片手でねじ伏せる程のパワーを誇る。
そしてボディも人工表皮の下は最新式の対個性装甲とショック吸収機能を兼ね備えた特注品。
それに最新鋭のセンサーが伴えば、彼の怪物と言えど攻撃を受け止められるとアッシュは信じていた。
しかし、そんな自己性能への絶対の信頼は脆くも崩れ去る事になる。
「ぐ…はっっ!?」
「アッシュ!」
袈裟斬り状に振り下ろされたゼノモーフの右腕はアッシュの右肩に食らいつくと、そのまま力任せに体を斜めに引き裂いたのだ。
彼等は個性、それも筋力増強系のモノを持ったゼノモーフの脅威を甘く見ていたのだ。
乳白色の人工体液をまき散らしながら地面へ落ちるアッシュ。
その光景に震えるリプリーの首を片手で掴んだゼノモーフは力任せに彼女を吊りあげる。
「あ…ぐぅ……」
気管を圧迫された事で酸素を求めてバタバタと暴れるリプリー、その顔をゼノモーフは自分の眼前へと近づける。
本来ならインナーマウスを使って顔面を撃ち抜くのだが、彼等の優れた嗅覚がトドメの一撃を止めた。
人間の匂いがする、しかし同時に同族の匂いもする。
これは幼体の時に乳を与えられた群の頭である祖母にどこか似ている。
もしかしたら、目の前の人間のメスは祖母と関係があるのかもしれない。
そこまで考えた彼女の脳裏に祖母から与えられた命令が過る。
『家族を大事にしてね』
「キュゥゥゥゥ……」
ゼノモーフはそう唸るとリプリーの首から手を放した。
もし自分の予測が正しかった場合、殺せば取り返しのつかない事になる。
その思いから彼女はリプリーに背を向けると、もう一匹を伴って路地裏の先に広がる闇へと姿を消した。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
一方のリプリーは九死に一生を得た事で路地にへたり込んだまま動けなかった。
自分が何故助かったかは分からない。
しかし、一歩間違えば自分は二度と愛娘を抱くことはできなかっただろう。
そう考えると体の震えが止まらなかった。
しかし、安堵から静かに涙を流すリプリーに無粋な声が掛かる。
「リプリー、ここから…離れよう……。私の事を…日本政府や…デトネラット社……に…知られると……拙い」
「わかったわ。どこに行けばいい?」
「いったん……人目に付かない…場所へ。そこで…湯谷の日本支社へ……私が連絡を取る。そうすれば…迎えが…くるはずだ」
「体は持っていけばいいのね?」
「すまないが頼む」
「いいえ。助けてくれてありがとう」
切り裂かれたアッシュの上半身を持ち上げると、リプリーは彼に向けてそう微笑むのだった。
その笑顔を見ながらアッシュは無線通信を飛ばす。
『目標βと接触。交戦状態となった結果、当該機体は大きく損傷せり。対象の戦闘力は想定よりも大きく上回っていると予測される。捕獲の際は注意されたし』
彼の報告をウェイランド・湯谷本社の中枢で受けたコンピューター『マザー』は、返答代わりに無機質な電子音を立てるのだった。
◆
「シィィィっ!?【なんだこりゃ!?】」
そして父・轟燈矢との決着を付ける決意をした燈華だが、標的の生体フェロモンを追った先にあったのは意外なモノだった。
場所は町はずれにある廃ビルの一室。
四方に置かれたドラム缶の焚火によって妙に暑苦しいその中心で、燈矢は椅子に縛り付けられる格好で虚ろな目で虚空を見つめていたのだ。
「ギュゥゥゥ【いったいどうなってやがる?】」
状況が掴めないままに周囲を警戒する燈華。
すると燈矢のすぐ横にある柱の陰から一人の男が現れる。
「キィッ!?【アンタは!?】」
「──よく来てくれた。歓迎するぞ、伯父としてな」
それは母の兄、燈華にとっては伯父に当たる男。
障子目蔵だった。