鋼の意志でヒーローを目指す障子君を絶対に曇らせる妹 作:アキ山
皆様の暇つぶしになれば
燈華の意外なおねだりに私は思わず呆気に取られてしまった。
雄英は私でも知っている有名なヒーロー養成学校だ。
お兄ちゃん曰く関西にある士傑高校と並んで、プロヒーローへの登竜門とも言われているとか。
もっとも人間ではない私達にとっては縁がない場所だと思っていたのだが。
そんなところに入りたいなど、娘は何を考えているのだろうか?
思わずダメと言いそうになったけど、私は出そうになった言葉を飲み込んだ。
「えっと……燈華はどうして雄英に行きたいの?」
そして出来る限り優しく娘へと問いかける。
燈華は家族で一番の知恵者だ。
無駄にこんな事を言ってくるわけがない。
「シィィィィッ!【このまま家族が増えたら、人間に見つかる可能性が高くなる。俺達の繁殖方法が知られたら、人食いの化け物として攻めてくるに決まっている】」
「そうだね」
「ギィィィッ!【人間との生存競争になったらママや姉妹達が死ぬかもしれない。俺はそれが嫌なんだ】」
「もしかして、そうならない為に燈華はヒーローになる?」
「シャァァァッ!【うん。俺がヒーローになって名が売れたら、ママや家族に対する世間の見方が変わる。異形型個性を持つ人間として、それが無理でも人間に友好的生物として安全に暮らせるようになるかもしれない】」
なるほど、娘は彼女なりに一族の未来を憂いてくれていたのか。
本当に頭がよくて優しい子だ。
けど、燈華の希望を叶えるにはとても大きな問題をクリアしなければいけない。
「ボクたちの事を一杯考えてくれたんだね、ありがとう。でもね燈華、君は雄英高校には入れないんだ」
「シャっ!?」
「だって、燈華はまだ1歳じゃないか。高校は15歳にならないと行けないんだよ」
「ピィッ!?」
というか、ボクだってまだ高校受験の資格ないし。
生まれてまだ間もないあの子があるわけないんだよね。
自分の覚悟が空回りになったのがショックだったのか、巣穴の隅で丸まってふて寝してしまった燈華。
その姿を見て申し訳なくなったボクは、次の日の散歩は少し時間を遅らせた。
道中で寄った書店で手に入れたのは雄英入学試験の過去問題集、通称赤本だ。
少々探すのには手間取ったけど、身内が来年雄英を受験すると言ったら店員さんが勧めてくれた。
それを手に巣穴へ戻った私は、まだ丸まっていた燈華に赤本を差し出した。
「もしかしたら飛び級とかで受ける方法があるかもしれないから、まずは問題集で腕試ししてみよう」
「シャアアアアアッ!!【ありがとう、ママ!!】」
大喜びで私から問題を受け取ると、燈華は勢いよくページを開く。
「シャシャシャシャァァァ……【これでも元は大学生だったんだ! 高校入試くらい……】」
しかし少しすると燈華は徐々に勢いを失ってしまう。
「ギ…ギギ……ギィィ【なにこれ…ムズ。これで高校入試とか嘘でしょ……】」
カタカタと小刻みに震え始めたと思うと───
「……キューン」
悲しそうに一声鳴いて、またしても部屋の隅で丸まってしまった。
ふむ、あの子でも雄英の試験は難しかったのだろうか?
興味がわいたのでのボクも赤本を開いてみる。
そして目を通してみたのだが……
「あ…あれ? こんな漢字初めて見た。 えっと、うんと……この…を240として…い…いん……なんて読むんだろ?」
なんという事だろう。
小学校中退のボクでは問題すら読めなかった。
「……キューン」
ショックのあまり、私は娘のように一声鳴くと愛用のベッドで丸まった。
これは拙い! 拙いよ!!
私はこれでも一族を率いる女王なんだぞ!
そんな立場にいる者がアホだなんて……!
ここには勉強を教えてくれる人なんていない!
小学校を再開するにしても14歳の私じゃ通えないし、かといって小学校を卒業しないと中学も入れない!!
通信教育だって巣で受けるのは無理だ!!
くそぅっ! どう考えても手詰まりじゃないか!!
た…助けて、お兄ちゃん!!
◆
今期の雄英受験は無事に終わった。
死力を尽くして己の成果に悲喜こもごもで帰る受験生たち。
その中に障子目蔵の姿もあった。
彼は自信家ではないが、今回の受験にはかなりの手ごたえを感じていた。
『他の連中もそうだろうが、俺は絶対に失敗できないんだ』
顔を覆うマスクの下で歯を食いしばりながら、障子は心の中で呟く。
幼少期から周りに忌み嫌われていた己の個性、それによって人の命を救った事が障子のヒーローを目指す理由だ。
しかし、彼がヒーローと言う職業に固執するのはそれだけが理由ではない。
『俺が有名になれば、皐月の耳にも届くかもしれない。そうすればきっと……』
三年前に家から忽然と姿を消した妹。
彼女のいない間に村ではもう死んでいるなどと心無い事を言われた事もあった。
同時に行方不明になった村人2名の件を妹の所為だと騒ぐ輩もだ。
しかし障子はそんな戯言など信じていない。
どういう理由で去ったかは分からないが、妹は絶対に生きている。
これは願望でもあるが、同時に同じ血を引く者としての直感だ。
彼女と再会する為にも、自分は世間に名を轟かせねばならない。
この超人社会では最も効率的にそれが出来るのはプロヒーローなのだ。
どこか心に残る不安を振り払うように校門へ歩を進める障子、その前に一つの影が現れた。
その影が何者か理解した障子は息をのむ。
何故ならそれはヒーローの中のヒーロー、平和の象徴にして日本国民ほぼ全ての憧れ。
オールマイトだったからだ。
「君が障子少年だね?」
「え…ええ」
オールマイトに声を掛けられた障子は緊張で乾く口内で、麻痺したかのように鈍くなった舌を動かす。
彼が雄英に教師として赴任するとは聞いていたが、まさか自分に声をかけてくるなど予想だにしなかったのだから当然だ。
「君に渡さなければならないモノがあるんだ」
言葉と共に右手を差し出すオールマイト、彼の手の上にあったのは包装とリボンが施された細長い箱だった。
「……これは?」
受け取って箱の蓋を開けてみると、中には通常のモノより少し高級品であろうシャープペンシルが入っている。
誰かが用意したプレゼントなのだろうが、生憎と自分には送り手に心当たりがない。
「君の妹さん、障子皐月少女から預かったモノだ。雄英の試験に挑む兄へのプレゼントだと言っていた」
そんな内心が態度に出ていたのだろう、オールマイトは彼の疑問の答えを口にする。
しかし、それを聞いた瞬間に障子は思わずオールマイトの背広の襟を掴んでいた。
「どこで! どこで皐月と会ったんだ!? アイツは無事なのか!!」
一瞬で頭に血が上った障子は脳裏に浮かぶがままに問いを吐き出しながら、オールマイトを力の限り揺さぶる。
「落ち着きなさい、障子少年」
しかし屈強なオールマイトは異形型の個性の関係で同年代どころか成人男性よりも剛腕な障子の力にもビクともしない。
そしてオールマイトがゆっくりと手を置くと、全力で掴んでいた筈の障子の指はスルリと彼の服を手放した。
「私が彼女と出会ったのはこの街だ。あれは全くの偶然でね、残念ながら今どこにいるかは分からない」
「そう…ですか。──失礼しました」
オールマイトの言葉に頭が冷えたのか、脱力して項垂れる障子。
そんな様子を見た平和の象徴は、お節介と思いながらも言葉を続ける。
「その様子を見るに、君と障子少女の間には何か事情があるようだね。よかったら私に聞かせてもらえないか?」
そう促された障子はポツポツと自身の過去と妹の事について語りだす。
本来、彼は己の過去を秘するモノと考えている。
ヒーローは他人を照らす存在だ。
その光が重く暗い過去を背負っているなどマイナスにしかならない。
それでも話したのは妹の行方を知りたい一心もあるが、相手がオールマイトだと言うのが大きい。
彼のなんでも受け止めてくれるという人柄が障子の口を何時もより軽くしたのだ。
「そうか……。すまなかった、障子少年」
障子の話の全てを聞き終えると、オールマイトは彼に頭を下げる。
「や…やめてください、オールマイト! 貴方が謝る理由は……」
「いいや、私は君に謝らねばならない。一つはそのプレゼントだ」
オールマイトは視線で障子の副腕が持つプレゼントを指す。
「障子少女の想いを尊重するなら、それは試験前に君に渡さねばならないものだった。だが、もしも彼女と君の間に浅からぬ事情があれば、このプレゼントは君の心を乱す可能性がある。そう思って私の独断で渡すタイミングを遅らせてしまった」
申し訳なさそうに話すオールマイトだが障子は彼の気遣いに感謝していた。
「いえ、その判断は正しかった。もし事前に妹からとこれを渡されたら、俺は受験どころじゃなかったでしょうから」
「そう言ってもらえると助かる。もう一つは障子少女の事だ。彼女が自らを『忌み子』と言った時点で家族と確執があるのは分かっていた。それでも兄である君を心配して贈り物を用意したのだ。ならば君と会えるように何らかの連絡手段を確保すべきだった」
それを失念してしまったのが自らの落ち度だ、そうオールマイトは悔恨を滲ませる。
しかしその言葉だけで障子は救われた。
村では穢れとレッテルを張られて、女の子だというのに容赦なく大人から暴力を浴びて排斥された妹。
あの子を拒否せずに大切に思ってくれる大人がいるのだ。
それだけで障子には十分だった。
「顔を上げてください、オールマイト。妹が元気に生きていると知っただけで十分です」
「障子少年……」
「俺は諦めませんよ。皐月がこの街にいるなら、雄英に通いながら探します。そして今度こそアイツを護ってみせる!」
「ああ。私も及ばずながら協力させてもらうよ」
オールマイトは決意を新たにする障子をまぶしそうに見つめるのだった。
◆
女王がアホの子であることが発覚してから数日後、障子燈華は食糧確保をすべく巣の外へ出ていた。
女王から生まれたゼノモーフたちは働きアリにして兵隊蜂。
巣の繁栄と母を護るために日夜働く事こそが存在意義だ。
エネルギー効率のいい自分達とは違って、母は食料が無ければ飢えてしまう。
なのでこれも成体となったモノの大切な役目なのだ。
「シィィッ!【ま、前までに比べたら随分とマシになったけど】」
夜闇の中、裏通りに建つビルの外壁に張り付きながら小さく唸る燈華。
少し前までは母の分に加えて幼生が成長する為の餌に次のタネ兼繭候補の確保など、結構な重労働だったのだ。
今は群に幼生もいないし出産禁止期間なので男を攫う必要もない。
手持ちの荷物が少なくて済む。
そんな事を考えながら燈華は垂直に切り立った壁を這って進む。
Fラン大の自分には一流高校の入試すら解けない、非情な事実を忘れる為にも彼女は労働に精を出す気でいたのだ。
しかし、そんな考えも裏街道の一画に視線を落とした時に吹き飛んだ。
そこには蒼い炎に包まれた何者かと、それを見下ろす黒髪で体の所々が焼け焦げてその上に強引に皮膚を張り付けた男がいたからだ。
そして燈華は体の奥底から感じる遺伝子の蠢動で確信した。
あの男が自分の父親だと。
次の瞬間、削れるほどに強くビルの壁を蹴った燈華は男へ向かってダイブした。
「シャアアアアアアッ!!」
意思を込めていない蛇を思わせる威嚇の声。
それを鬨の声として顔の前に突き出した両手から放たれるのは、眼下で揺らめくのと同質の蒼炎だ。
「!? チィッ!」
ほぼ完璧と言ってもいいタイミングの奇襲。
それに勘づく事が出来たのは、荼毘という男が今まで積み上げた鍛錬と修羅場の経験故だ。
荼毘が大きく後ろへ跳んだのに間を置かず、降り注いだ蒼い炎は着弾と同時に渦を巻いて周辺を焼き尽くす。
「おいおい。ソイツは何の真似だ、化け物野郎」
気の抜けたような物言いとは裏腹に、交差させた両手を横に振りぬいて放った荼毘の蒼炎は苛烈だった。
出力としては先ほど放った燈華のモノと同等。
「シャアアアアッ!!」
夜闇とビルの外壁を炙って天へと昇るそれを燈華は尻尾でビルの壁を叩き、その反動を使う事で回避する。
同時に両足の裏から炎を発してアフターバーナーの原理で加速、かぎ爪で肉を抉りにかかる。
「お前……なんでその炎を使ってやがる!」
その一撃を紙一重で躱した荼毘は、隙を見せた燈華の顔面に炎が灯った右拳を放つ。
強かに右の頬へ突き刺さった荼毘の拳、それはインパクトの瞬間に纏った炎を爆炎に変える。
砕けた外骨格の欠片をまき散らしながら大きく顔を跳ね上げる燈華。
だが彼女もやられっぱなしではない。
「ゴォォォォォアァッ!!」
食らった右ストレートの反動をそのままに体を回転させると、その勢いを乗せて蹴りを放ったのだ。
「チィッ!!」
常人ならば身体が千切れかねない一撃を荼毘は咄嗟に両手を十字に組んで防ぐ。
「──ってぇなぁ、バケモン!!」
そして反動を殺すべく自ら後ろへ跳ぶと、足から出した炎で上昇しながら蒼炎をまき散らす。
「ギィッ!?」
鉄すら熔かす程の炎が直撃した燈華だが、宇宙空間でも生存可能なゼノモーフの甲殻と個性による耐火・高温の耐性で強引に突破する。
そして夜空へと向かう荼毘へ放ったのは、先ほど彼から受けたものとうり二つの炎だ。
「そいつは誰の猿真似だ、オイ!」
それを炎を纏った両手で切り払うと、右の掌から火炎放射のように猛火を放つ荼毘。
しかし燈華は荼毘が先ほどやったのと同じように、己を食らおうとする炎の蛇を蒼炎を纏った両手で断ち切る。
クロスレンジに飛び込まれた事で反射的に荼毘は拳を放つが、燈華はそれを受け止めると自分の方に引き寄せてカウンターで裏拳を相手の鼻っ柱へ叩き込む。
鼻血の軌跡を残して後退した荼毘は、ここで初めて表情に憎悪を乗せた。
「舐めんじゃねえぞ、バケモンが! その炎はテメエ如きが使っていい代物じゃねえんだよぉぉ!!」
憎悪と憤怒がふんだんに込められた声と共に荼毘は五指から光線状に高圧縮した炎を放つ。
エンデヴァーの必殺技、赫灼熱拳ヘルスパイダーだ。
荼毘にとって己の炎は特別なモノだ。
父から受け継いだ個性。
父よりも高温を出せるエンデヴァーを、オールマイトを超える力!
あの最高傑作から自分へ父の目を向けさせるための導!!
それを目の前の化け物は何の遠慮も無く使ってきたのだ。
もしかすれば類似する個性なのかもしれない、それ以前に化け物固有の力で個性ではないのかもしれな。
それでも見た目が同じで己に拮抗するというだけで、荼毘にとって燈華の炎は許しがたいものだった。
一方、四方からビルをも寸断する熱閃に襲われた燈華。
彼女は脚と尻尾から噴き出した炎を推力に空中での姿勢制御を行い、間一髪で死の檻から脱出する。
その際に肩口の甲殻が削られたが、バラバラされることを思えば軽いモノだ。
そして燈華は先ほどから一段間合いを詰めると両手を大きく振り上げた。
「なっ!?」
次の瞬間、荼毘は我が目を疑う事になる。
なんと振り下ろされた黒い五指から放たれたのは、先ほど荼毘が撃ったヘルスパイダーだったからだ。
(野郎! 俺の…お父さんの技をッ!!)
奥歯が砕けるかと思うほどに歯を食いしばった荼毘は、高圧縮した蒼炎を手刀から放って熱閃が己に食らいつく前に全て断ち切る。
「シャアアアアアアッ!!」
その間に間合いを詰めた燈華は蒼い炎を穂先に込めた尻尾を振るう。
「ぐあっ!?」
それは横一閃に荼毘の胸を浅く抉り、移植された皮膚を引きちぎる。
「舐めるなぁ! 赫灼熱拳……ジェットバーンッッ!!」
足からジェットの如く噴出した炎を推進力にして間合いを詰めた荼毘は、燈華の腹に蒼炎を圧縮した拳を叩きつける。
インパクトの瞬間に開放された轟炎によって大きく後ろへ吹き飛ばされる燈華。
追撃の為に荼毘が火炎を放つが、既のところで体勢を整えた燈華はそれを後退ではなく前進しながら紙一重で躱す。
「ギィィィィィィィッ!!」
「ぐおおっ!?」
そして間合いへ飛び込んだ彼女が放ったのは荼毘と同じ蒼いジェットバーンだった。
夜空を大きく吹き飛ばされた荼毘はなんとか体勢を整えると腹部のダメージでせり上がった血を吐く。
彼の身体から立ち上る煙からは焦げ臭さが微かに漂っている。
燈華はゼノモーフの鋭敏な感覚からそれが人の肉が焼ける匂いであることに気が付いていた。
そう、ここに来て荼毘…いや轟燈矢の弱点が顔を覗かせたのだ。
とはいえ対する燈華もダメージが無いわけではない。
荼毘の拳を受けた右頬と腹部の外骨格は叩き割られ、その部分は一部白く炭化しているものもある。
如何に高温炎熱への耐性があっても、内側に炎が入り込めばその限りではないという訳だ。
「───ムカつくな、テメエ。人の業、簡単にパクリやがってよ」
荼毘は口の中に残った血反吐を吐きだすと、対面で滞空する燈華を睨む。
彼が振るうのはエンデヴァーに叩き込まれたモノを自分なりに昇華した技術だ
そこには父への偏愛と執念、そして自らを見捨てたあの男と焦凍への憎悪が込められているのだ。
なのに、今までの人生の集大成と言っても過言ではないモノを容易くマネされては堪ったものではない。
荼毘にとってそれは眼前の化け物を恨み、焼き尽くすには十分すぎる理由だ。
「シャアアアアアッ!!」
一方、燈華にとっても眼前の父親は万死に値する。
母を抱いておきながら己の糧にもならずに逃げた男、それはゼノモーフとしても皐月の娘としても許しがたい事実だ。
もちろん、彼女は母が如何にして眼前の男と肌を重ねたかを知っている。
個性目的にフェロモンで魅了しての愛など全く存在しない行為、公平な目で見れば8:2で母に過失があるだろう。
しかしそんな事は燈華にとってどうでもよかった。
ゼノモーフ的にはタネを付けたオスなど繭くらいしか価値の無いカスなのに、それに逃げられた時点で生まれる前から自分は屈辱を与えられたに等しい。
なにより大好きなママをヤリ逃げした罪は100回インナーマウスで顔面に風穴を開けても気が収まらなかった。
互いに殺す以外に選択肢が無い親子、その激突は必然だった。
夜空を奔る二ツの蒼い彗星がぶつかり合う度に血と黄土色の液体、そして砕けた外骨格が舞う。
当初は個性の使用と戦闘経験に一日の長がある荼毘が優勢だった。
しかし、激突が回数を重ねるごとにその差は目に見えて埋まっていく。
その理由は二つあった。
一つはゼノモーフと人間のスペック差だ。
仮に燈華が無個性の人間から生まれてきたのなら、荼毘は身体能力面でも互角に渡り合えただろう。
しかし現実は彼女も個性持ちである。
ゼノモーフと人類の能力の差は埋まる事無く、狩るモノと狩られるモノという立場は依然として変わっていない。
もう一つは生物兵器として生み出されたゼノモーフが持つ戦闘と狩猟に特化した本能だ。
これによって燈華は荼毘の戦法という優秀な手本を、乾いたスポンジが水を吸い込むように次々と吸収しているのだ。
そうして何度目かの激突で、間合いを空けた二人は睨み合う。
互いに息は荒く、全身は傷を負っていない部分が少ない程だ。
それでも両者の間に渦巻く殺意に衰えはない。
「しつけぇ野郎だ! だったら、コイツで跡形もなく焼き尽くしてやるよぉ!!」
そう叫ぶと荼毘は全身から青い炎を噴き上げる。
「赫灼熱拳……プロミネンス! バァァァァァァンッッ!!」
そして両腕を十字にクロスした後、両足と共にそれを開くと纏った炎は自身の前方一帯を薙ぎ払う強力な熱線へと変化する。
これは彼の父、エンデヴァー最強の技だ。
ヘルフレイムを超える個性を持つ自身が撃てば、その威力は更に上を行く。
猿真似野郎に防げる道理はない!
勝利を確信した荼毘だったが、次の瞬間我が目を疑う事になる。
『グォォォォォォッ!!』
今までとは違う野太い咆哮と共に、全身に蒼炎を纏った燈華が両手を十字に交差する姿が見えたからだ。
それはまさしく己が放ったプロミネンスバーンそのもの。
(馬鹿な!? いくらなんでも。コイツまでパクれるわけがない!!)
そんな荼毘の動揺をよそに燈華は収束させた炎を放つ。
襲い来る灼熱に食らいつくのは瓜二つの獄炎。
二つの蒼炎が絡みつき、喰らい合い、そして一つとなる。
その炎は最終的には熱せられた大気が上昇気流となった事で天へと昇っていく。
しかし余波によって、裏通りの全てを焼き払っていった。
そんな灼熱地獄の中、視界の全てを蒼に染めた荼毘はその奥から迫りくる影に気が付いた。
それは背面に生えた突起から吹かせた炎を、まるでブースターユニットのようにして飛ぶ燈華。
「シャァァァァァッ!!」
「ぐあぁっ!?」
プロミネンスバーン使用による体内に籠った熱でオーバーヒートした荼毘に、燈華の特攻は躱せなかった。
二人は夜空に渦巻く蒼炎から脱すると、表通りにほど近い裏路地の入口に落ちた。
燈華の身体は酷い有様だった。
外骨格前面の大半は炭化して艶を失い、一部は灰となって崩れ始めている部分もある。
それでも彼女はまだ生きていた。
そして驚愕に目を見開く荼毘の顔に向けて、歯をむき出しにすると涎を垂らしながら口を開く。
その奥で牙をむくのはゼノモーフの奥の手、インナーマウスだ。
必殺の一刺しが父親の顔面をブチ抜こうとした瞬間───
「ピギィッ!?」
深紅の炎が燈華の脇腹を強かに打ち据えた。
「おい! 大丈夫か!?」
野太い声と共にこちらへ駆け寄ってくる陰、その正体に荼毘は目を見開いた。
何故ならそれは己の父、エンデヴァーだったからだ。
「立てるか?」
「いらねえよ」
差し伸べられた手を払い除けながら体を起こす荼毘。
そう言えば嫌がらせの為に事件の一つでも起こそうと、この男の管轄に来ていたなと思い起こす。
ふら付きながらも荼毘が立ち上がった時だ。
『キシャアアアアアアアアアアアアアッ!!【荼毘! いや轟燈矢!! ママに俺を孕ませて捨てたお前を絶対に許さねえ!! お前はこの障子燈華が殺す! 絶対にだ!!】』
周辺にまで響き渡る耳をつんざく甲高い咆哮。
それを聞いた二人の脳裏には、少女の怨嗟に満ちた声が響き渡った。
今まで思念を乗せていなかった咆哮の主は、ここぞとばかりに声に怨嗟を乗せると炭や灰になった甲殻の残骸を落としながら三階相当のビルの外壁を蹴って闇へと消えていく。
そして脳内の声、いや声が発した名前に一瞬茫然自失となったエンデヴァー。
(この男が燈矢だと? まさか!? いや、そう言えば冬美が言っていた。アイツは生きていて、孫まで作っていると!!)
デマだと見向きもしなかった長女の言、それを裏付ける事態に驚くエンデヴァーの目に走り去ろうとしている荼毘の背中が入った。
黒と白のツートンカラーに見える男の髪、それはよく見れば黒く染めていたモノが高温で染料が落ちた結果であることに気付く。
「燈矢……お前は燈矢なのか!?」
エンデヴァーの声に振り返る事無く荼毘は夜闇の中に消えていく。
「燈矢……」
エンデヴァー、いや轟炎司は悔恨と堕ちた息子と対面する恐怖、なによりあの化け物の言う通りなら自分は息子と孫が殺し合う現場にいたという悍ましい事実から彼を追う事が出来なかった。
一方荼毘は己が長年温めてきた計画を台無しにされかかったことに耐えがたい怒りを覚えていた。
「あの化け物が! 絶対にぶっ殺してやる!!」
そして引き金を引いた実の娘にいっそうの殺意を向けるのだった。
荼毘「これがお父さんの技だぁぁぁ!!(実の娘をバラバラにする為にヘルスパイダー)」
燈華「これが爺ちゃんの技かぁぁぁぁっ!!(実の父親を消し炭にする為にジェットバーン)」
2代先まで技術継承完了。
笑えよ、エンデヴァー。
楽しい轟家
妻(精神を病んで入院中)
長男(悪党・殺人犯・中学生ヤリ逃げ疑惑あり)
長女(情緒不安定・あの日以来義妹予定を無意識に探している)
次男(何やってんだよ、クソ兄貴!! 兄の父親適性の無さに自分もそうなのではと怯えている・親父が死ぬほど嫌い)
三男(特訓の邪魔だとエンデヴァーから上の姉弟に緘口令が敷かれた為に教えてもらっていない・親父が死ぬほど嫌い)
義娘(人類種の天敵・タネ違いの子供が百人いるビッチ)
孫(エイリアン・父親絶対に殺すウーマン)