鋼の意志でヒーローを目指す障子君を絶対に曇らせる妹   作:アキ山

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スパロボが進まぬので、エイリアンを投稿です。

お暇なら見て行ってくださると幸いです


第4話

 雄英高校ヒーロー科1-A組の野外授業。

 

 災害救助を目的とした演習施設USJ【ウソの災害や事故ルーム】で行われる予定だったソレに横やりを入れたのはヴィラン連合を名乗る犯罪集団だった。

 

 担任のイレイザーヘッドやUSJでの監督教員であるヒーロー13号が生徒を護ろうとするが、それを嘲笑うかのように黒霧と呼ばれた男が持つ転移の個性で1-Aの面々は散り散りになってしまう。

 

 そうして飛ばされた先では、混乱と恐怖で動けないであろうヒーローの有精卵達を狙う捕食者たちが舌なめずりをして待っている。

 

「来たぜ。打ち合わせ通りだ」

 

「じゃあ間引きを始めよう。───クールにな」

 

 倒壊エリアにある比較的安定したビルの一室でヤニを吹かしていた男は、窓から双眼鏡を構えていた男の言葉に口角を吊り上げる。

 

 男は全身から刃を生やせるという比較的強個性の持ち主ながら、未だ名の売れていないチンピラだ。

 

 ヴィラン連合なんて胡散臭い烏合の衆に参加したのも、孵化する前のヒーロー共を踏み潰してヴィランとして実績を作る為だった。

 

「けど、奴等ってエリートなんだろ? 実は激強とかあるんじゃね?」

 

「心配すんな。場数も踏んでないガキ共に負けるかよ」

 

 尻込みするビビりな仲間の言葉に男は鼻を鳴らす。

 

 将来一流ヒーローの座を約束されているとはいえ生徒共は命のやり取りはもちろん、個性を使ったドンパチの経験すらない法律順守のいい子ちゃんだ。

 

 裏社会で血を流しながら生き残ってきた自分達の敵ではない。

 

 己が持つ力への絶対的な信頼と共に肘から鋼の刃を生やす男。

 

 しかし、そんな自負は次の瞬間には脆くも崩れ去る事になった。

 

 男が天井ダクトの下を通った瞬間、そこから飛び出た何かが彼の身体を掴み上げたのだ。

 

「あ…うぁぁ……!?」

 

「シィィィィィィッ!」

 

 何事かと混乱しながら上を見た男の視線の先にいたモノ、それは涎を垂らしながら開いた口の奥から第二の口を覗かせた悍ましい怪物の姿だった。

 

 その後、意識を断たれた男は微かな物音を残してダクトの奥に広がる闇へと消えた。

 

 彼が何処へ行きついたのか、それは誰も知らない。

 

 一方、水難エリアでもヴィラン達は飛ばされていた雄英生達を狙っていた。

 

 獲物は人工の湖に浮かんだ船で右往左往している。

 

「おいおい。マジで何もしてこねえぞ、アイツ等」

 

「俺達が怖くて震えてるのさ。もしかしたら漏らしてるのかもな」

 

「はははっ! だったら冥途の土産におむつでも用意してやるか!!」

 

 水棲生物の個性を持つヴィラン達は反撃の兆しも見えない雄英生達を嘲笑う。

 

 もっとも彼等のホームグラウンドである水中に獲物が飛び込んで来れば、その身を文字通り藻屑と変える気なのだが。

 

 しかし、呑気なヴィラン達は気付かない。

 

 湖を周回する度に自分達の仲間が一人、また一人と消えている事に。

 

 そして暗い昏い湖の底で───

 

「シャァァァァァァ……」

 

 己よりさらに上位の捕食者達が牙を剥いている事にも。

 

 

 

 

 祝! 単体生殖解禁!!

 

 身体の進化が捗ったお陰で、男の人と交配しなくても一人で卵を産めるようになりました!

 

 これも子供達の言うとおりに産休日を設けたおかげ!

 

 いやぁ、本当にウチの子はいい子ばかりだ。

 

 さて、此度の進化によって私の繁殖方法は大きく変わった。

 

 まずお腹の中で今まで蓄えてきた遺伝情報と個性因子を組み合わせて卵を作る。

 

 そしてだいたいウズラの玉子くらいの大きさの時に胎内から輸卵管へと移す。

 

 この輸卵管こそが単一生殖に並ぶ新しい繁殖方法の目玉なのだ!

 

 輸卵管はボクの陰部から伸びた薄桃色の管で太さはだいたいバスケットボールが入るくらい、長さは私の身長の半分といったところ。

 

 この中身は胎内と同じ環境になっていて、卵達はここから僕からの栄養を受けてスクスクと育つ。

 

 そして十分に育てば、卵は輸卵管から産み落とされるという訳だ。

 

 今までは胎内で最後まで育て切っていたから、産む際にはどうしても身体に負担が掛かった。

 

 でもこれなら小さい内に胎外へ出しているし、輸卵管は柔らかくてゴムみたいによく伸びるので産むのも凄く楽になった。

 

 その証拠に進化してから15個も卵を産んでいるしね。

 

 まぁ、その分お腹の減りも凄いから御飯がいくらでも入るようになった。

 

 強美が何処かから持ってきたウシ丸々一頭分の肉を全部食べちゃうとは思わなかったよ。

 

 そのくせ、まったく太らないしさ。

 

 村にいた頃は凄く小食だったのを考えると、やっぱり子供を産むって栄養がいるんだなぁ。

 

 あと、エ●ラの焼き肉のたれは偉大である。

 

 そして卵の数がそろえば、次に必要となるのは『繭』である。

 

 これについては、私のご飯を取りに行ってくれていた弾美が耳寄りな情報を持ってきてくれた。

 

 なんでも食料を回収した帰りに、チンピラ達が話している会話を盗み取ったらしい。

 

「キュゥゥゥゥン……」

 

 ボクの膝枕に頭を乗せながらあの子が言ったのは、悪党が徒党を組んで雄英の生徒を襲う計画を立てているという事。

 

 その目的はオールマイトという人の命だそうだ。

 

 オールマイト…オールマイト……どこかで聞いた事がある気がするんだけど、誰だっけ?

 

 ともかく、『ヴィラン連合』なる組織をくみ上げたチンピラ達はUSJなる施設で計画を実行に移す気なんだとか。

 

 調べてみるとUSJは救助訓練施設という事もあって、廃墟や湖面に各種吸排気ダクトなど身を隠す場所が盛りだくさんだ。

 

 見えない場所に隠れての奇襲を得意とするゼノモーフにとって、そんな場所へ赴くヴィランの群は絶好の狩場だ。

 

 そんな訳で、ボク達も噂のUSJへお邪魔することにしたんだ。

 

 雄英に合格したらしいお兄ちゃんの姿が見れるかもしれないしね。

 

 目的はあくまで繭の原料を確保することなので、無理に強個性を狙う必要はない。

 

 お陰で被害なく卵の個数分の繭はあっさり手に入れる事が出来た。

 

 やっぱり吸排気ダクトや天井裏、水路を制する者は最強だね!

 

 目的も達成したし、雄英のジャージを着たお兄ちゃんの元気な姿も見れた。

 

 それじゃあ撤収! と思った瞬間だった。

 

「ヴィランよ、こんな言葉を知っているか!? ──プルス・ウルトラァァァァッ!!」

 

 筋肉ムキムキマッチョマンと戦っていた黒い怪人が、殴り飛ばされて施設の屋根を突き破ってしまったのだ。

 

「あ…あわわ……」

 

「キシャアっ!?」

 

「ギィィっ!?」

 

 その余波はボク達が隠れていた吸排気ダクトにまで及び、ちょうどボクがいる場所の底が抜けてしまったのだ。

 

 拙い! 拙い!!

 

 今は子供達の姿を人に見せるわけにはいかない!!

 

「君達は先に家に帰って! ボクは大丈夫だから!!」

 

 心配する子供達へ指事を出すと同時に、体を襲うふわりと浮かぶような感覚。

 

「ひゃあっ!?」

 

「ぶべぇっ!?」

 

 地面に叩きつけられる痛みを覚悟していたんだけど、感じた衝撃はそれほどでもなかった。

 

「うん?」

 

 その代わり、なんか太腿とお股がムズムズする。

 

 視線を下に降ろすと、落ちてきた際に圧し潰してしまったんだろう。

 

 僕の足の間から緑色のモジャモジャな髪が生えた頭が見えた。

 

「えっと…ごめんね?」

 

「あ…あへ……」

 

 急いで退いたんだけど、下敷きになった人は酷い有様だった。

 

 白目は剥いているし、頬だって私の内腿に備わった甲殻で少し切れている。

 

 何より酷いのは鼻血。

 

 顔の下半分が赤く染まる程に大量出血だ。

 

「あ……砂浜を掃除していたお兄さんだ」

 

 何処かで見た事があると思ったら、あの日に見たヒーロー志望のボランティアだった。

 

 雄英受けるって言ってたけど、ちゃんと受かったんだね。 

 

「よっこいしょ……」

 

 とにかく放っておくのも忍びないので、ボクは気を失っている彼を抱え上げた。

 

 尻尾を巻き付けて持ち上げてるのは、両手が短かいから抱っこは無理という事で勘弁してほしい。

 

「君は障子少女!」

 

 声がした方に目を向けると、先ほどまで激戦を繰り広げていたマッチョマンがこっちを見ている。

 

「おじさん、誰? どこかで会ったっけ?」

 

「えっと、それはだね……」

 

 そう返すとマッチョマンは言いよどんだので、ボクは気にしないことにした。

 

 ここで普通に答えを返せないのって、ヤバい奴が多いしね。

 

 ボランティアの人をどうするかと視線を巡らせていると、人工池の淵で顔を出している彼と同じジャージを着た男女がいた。

 

 きっとあの人たちも雄英生だろう。

 

「カエルっぽいお姉さん、この人の事お願いしていい?」

 

「それは構わないけど…あなた、パンツはどうしたの?」

 

 池の淵まで行って尻尾に巻き付けたボランティアさんを差し出すと、スカートがめくれておしりが見えたらしく、こんな事を言われた。     

 

「邪魔だからはいてない。ほら、尻尾あるし」

 

 卵産む時とかいちいち脱ぐのも面倒だしね。

 

 出来れば、このマタニティドレスも無しにしたいくらいです。

 

「緑谷ぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! あんな可愛い子にナマ顔面騎乗されるなんてぇぇぇぇぇっっ!! お前俺と代わ──ぶべらっ!?」

 

「峰田ちゃん、いくら何でもそれはアウトよ」

 

 そして何故か血の涙を流したブドウっぽい頭の男の子がボランティアさんの胸ぐらを掴んでガックンガックン揺さぶってたんだけど、カエル風のお姉さんの舌でビンタされてしまった。

 

 あの子、なんであんなに羨ましがってるんだろう?

 

 顔の上に座るくらいやってあげるのに。

 

「死柄木弔、どうしますか?」

 

 軽く呆れていると、私の鼓膜を男の声が打った。

 

 声の方に視線を向けると、そこにいたのは黒い上下を来て全身に手を象ったアクセサリーを付けた白髪の男。

 

 もう一人は顔や周辺に黒い靄を纏った異常な男だった。

 

「黒霧、あのガキの所に飛ばせ」

 

「オールマイトとは知り合いのようですが、人質にするのですか?」

 

「いいや、殺す。そうすれば奴の矜持をへし折れる。脳無を潰した借りを返すのにちょうどいい」

 

 ボソボソ声なので他の人間には聞き取れないだろうけど、ゼノモーフと同等の聴力を持つボクの耳は聞き逃さない。

 

 そして手男が黒霧と呼ばれた奴の靄に消えると、次の瞬間には目の前に現れた靄から這い出てくる。

 

「しまった!? 障子少女!!」

 

「ケロッ! 駄目よ! 逃げて!!」

 

 辺りに響くマッチョマンとカエルなお姉さんの切羽詰まった声。

 

「ひ…ひひ……! まだゲームオーバーじゃない。これで引き分けだ、オールマイト!!」

 

 ボクの顔に向けて伸びる男の右手。

 

「……は?」

 

 けれど、それは狙ったモノを掴むことは無かった。

 

 男の腕を止めたのは、ボクの影から生えた黒い甲殻に覆われた剛腕。

 

 それは更に逞しくパンプアップすると、掴んだ肘を紙屑のように握り潰した。

 

「あ……があぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 腕が使い物にならなくなって悲鳴を上げる手男。

 

 その間にも腕の主はズルリと陰から現れる。

 

 後ろへ大きく伸びた頭にボクより太い槍の穂先の鋭さを持つ尾。

 

 4メートル近い身長に姉妹に比べて二回りが大きい体躯は、内側の発達した筋肉が外骨格を押し上げている。

 

 彼女はボクの護衛を務める娘の一人、家族の中で最も腕っぷしの強い強美だ。

 

 そんな強美の肉体美に見惚れたのか、場にいる全員が動きを止める。

 

 しかし、それが致命的な隙になった。

 

 強美は素早く男の背後に回ると、もう一方の手を取って同じように肘を握り潰した。

 

「がぁぁっ!? 黒霧ぃぃぃっ!!」

 

「死柄木弔ッ!!」 

 

 手男の悲鳴にモヤ男が助けようと頭を覆っているモヤを飛ばす。

 

 けれどそれよりも強美の尻尾が男の胸を貫く方が速かった。

 

「がはっ!?」

 

 自分の胸から突き出た血塗られた穂先を信じられないモノを見る様に見下ろす手男。

 

「シャアアアアアアッ!!」

 

「がァァァァァッ!?」

 

 そんな手男の身体を強美が無理やりに自分の方へと引き寄せると、尾が更に深く傷を抉って男は顔に付けた手を象ったマスクから血反吐をまき散らす。

 

「そんな…俺は…オールマ──」

 

 男のか細い断末魔は放たれたインナーマウスによって、後頭部から顔面を撃ち抜かれる事で中断された。

 

 そして強美は止めとばかりに男の身体を尾が刺さった位置から上下二つに引きちぎると、力任せに地面へと叩きつけた。

 

 土煙と共に飛び散る血と肉片。

 

 粉塵が晴れれば、そこにはミンチになった手男の死体で紅く彩られた小さなクレーターが二つ出来ている。

 

「グオォォォォォッ!!」

 

 賊を仕留めた事を誇るように咆哮を上げると、強美はボクの身体を持ち上げる。

 

「はっ! 障子少女!!」

 

 それを見て先ほどまで唖然としていたマッチョマンが飛び出そうとする。

 

 けれど、その足はすぐに止まる事になる。

 

「キュー! クルルルル……」

 

「うんうん、ボクを護ってくれたんだね。ありがとう、強美」

 

 何故なら強美は甘えてボクの頬に頭や顔を擦りつけていたからだ。

 

 一番身体が大きくて力が強いのに甘えん坊、こういうところが可愛いんだよね。

 

「よくも…よくも死柄木をぉぉっ!!」

 

 仲間が死んだのが堪えたのだろう、激昂した黒霧とかいう奴が頭の靄をこちらへ伸ばそうとする。

 

 けれど、それも対策済みだ。

 

 ああ、ボクじゃなくて護衛の娘達がね。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 まず黒霧の影から伸びた手が奴の足首を掴むと、次の瞬間には全身が蒼い炎に包まれた。

 

 そして奴が黒焦げになった奴の身体から炎が消え去ると同時に、右の足首を掴んだ黒い甲殻に覆われた手が奴の身体を影の中へと引きずり込む。

 

 燈華と影子がボクの影から黒霧のモノへ移動して奇襲を仕掛けたのだ。

  

 さて、こちらへ危害を加えようとしてきた奴等はいなくなったし、帰ろうかと思っているとマッチョマンが厳しい顔で寄ってきた。

 

「シャアアアアアッ!!」

 

「障子少女。ああしなければ君が危なかったのは分かっている。それを止めるべき私が動けなかった事に関しては弁解の余地もない。それでも敢えて聞かせてくれ。───どうして殺してしまったんだ?」

 

 強美の威嚇も意に介さないと言わんばかりに、マッチョマンは私へ問いかける。

 

「そりゃあ、殺されそうなったからだけど」

 

 何を当たり前の事を聞いているのだろうか、この人は?

 

「だがっ! それだけの力があるのなら、殺さず無力化する事も出来た筈だ!!」

 

「どうしてそんな事をしないといけないの? 人を殺そうとしたんだから、負けたら殺されるのは当たり前でしょ」

 

 他人を殺そうとするなら自分も殺される覚悟を持つのは当然じゃないかな。

 

 あの手男はボクを殺そうとした、強美はボクを護るために手男を殺す気で襲いかかった。

 

 結果、敗北した手男が死んだ。

 

 至極自然の流れだと思うんだけど、このオジサンはいったい何が不満なのか?

 

「障子少──「皐月ッ!!」」

 

 さらに表情を厳しくしたマッチョマンが挙げる声に、もう一つの声が重なった。

 

 そしてこちらへ駆けてきたのは、お兄ちゃんだった。

 

「お兄ちゃん、久しぶり!」

 

「皐月! お前、どうして家を出て行ったんだ! 俺がこの三年間どれだけ心配していたか……!!」

 

 ボクがあっけらかんと答えると、お兄ちゃんはマスクから覗く目に怒りと嬉しさを綯交ぜにしたような光を灯して近づいてくる。

 

 けれど、そんなお兄ちゃんの前に強美の尾の先端が付きつけられる。

 

「シィィィィィッ!!」

 

 逞しい腕越しに伝わる意志はお兄ちゃんへ向けた威嚇。

 

 あと一歩お兄ちゃんがこちらへ踏み出せば、穂先はその頭を撃ち抜くだろう。

 

「皐月……」

 

「障子少女! 個性を収めるんだ!! 障子少年はずっと君のことを心配していたんだぞ!!」

 

 私に拒絶されたと思ったのか、ショックを受けたようなお兄ちゃん。

 

 それにマッチョマンのフォローの声が重なる。

 

 うん、何か勘違いされているね。

 

「オジサン、この子は個性じゃないよ」

 

「なら、その怪物はなんなんだ!?」

 

「ボクの娘」

 

 瞬間、周囲に静寂が訪れた。

 

 見れば、そこにいる全員が絶句している。

 

 まぁ、この反応も仕方がないと言えば仕方ないか。

 

「……娘? お前の……子供?」

 

「うん、そうだよ。強美、あれが目蔵伯父さん。ボクのお兄さんだから憶えてあげてね」

 

「シャアアッ!!」

 

「個性で産んだ、とかじゃないのかしら?」

 

「違うよ。ボクがちゃんとお腹を痛めて産んだ子」

 

 呆然とするお兄ちゃんに代わってか、カエルのお姉さんの質問をボクは否定する。

 

 普通はそう考えるだろうけど、何事にも例外はあるのだ。

 

「おい。マジで言ってるのか、それ」

 

「テメエみたいなガキが、そんなバケモン産めるワケねーだろうが!! 馬鹿も休み休み言えや!!」

 

 けれど、彼等はそれを認める事が出来ないらしい。

 

 爆発したみたいに髪の毛がツンツンになっている男の子と髪の毛が紅白な男の子がって……あれ?

 

「そこの髪が白と赤のお兄さん、荼毘……轟燈矢君の弟さんだよね?」

 

 ボクがそう言うと紅白さんは息をのんだ。

 

「お前、燈矢兄のこと知ってるのか?」

 

「うん、子供達の父親の一人は燈矢君だからね。前に小学校の先生をやってる妹さんにも言ったよ。──そうだ! 燈華、出ておいで」

 

 またしても場の空気が凍り付く中、私の影から蒼の甲殻に身を包んだ燈華が現れる。

 

 荼毘君との戦いを得て、燈華の個性は更なる力に目覚めたのだ。

 

 個性進化が誘発した脱皮によって大破した甲殻を脱ぎ捨てたあの子の体を覆うのは、耐火と耐高熱性能が更に増した蒼い甲殻。

 

 燈華が個性を使うと甲殻の内側で蒼い炎が揺らめくみたいな紋様が出るのがカッコいいんだよね。

 

「シャアアアアアアアッ!!【障子燈華だ。あの野郎の血縁なんてクソ食らえだし、荼毘のカスは俺が絶対に殺す。だからよろしくしなくていいぞ】」

 

 声に物騒な思念を乗せた燈華は紅白のお兄さんを掠める様に蒼い炎弾を放つ。

 

「ごめんね。この子、燈矢君のことが滅茶苦茶嫌いなんだ。あと、お父さんにも言っておいて。この子と燈矢君の戦いを邪魔しないでって」

 

 唖然とした顔の紅白さんにそう告げると、お兄ちゃんが座った眼をこちらへ向けてきた。

 

「皐月、聞きたいことが多すぎる。一から全部説明してくれ」

 

 お兄ちゃんがそう言うなら構わないか。

 

 というか、あの目は完全に怒ってるし。

 

「うーんと……まずボクが家を出たのは、あのままいたら村の皆を殺しちゃうからなんだよね」

 

 私がこう切り出すと雄英の人達が息を呑むのが分かった。

 

「なあ、障子って村出身だったのか?」

 

「ああ、地方の小さな村だ」

 

 峰田だっけ、ブドウみたいな頭の男の子の質問にお兄ちゃんは村について説明してくれた。

 

 異形型だから受けていた暴力と差別や、それが原因でボクが昏睡状態に陥ったことも。

 

「あの時、ボクが目を覚ます事が出来たのは個性が暴走して影響を強くしたからなんだ。人間のままだと植物人間になっていたと思うよ」

 

「そうだったのか」

 

「個性の影響が増した副作用かな、ボクは自分の攻撃性が強くなったのが分かったんだ。今までみたいに虐待を受けたら絶対反撃するって。ほら、この尻尾で人間の顔や首を突いたら一発で死んじゃうって分かるでしょ」

 

 ボクが自分の尻尾の先を指差すと、手男の最後を思い出したのか生徒達の顔色が悪くなる。

 

「そうなったらお父さんやお母さんは村にいられないし、ヒーローになりたいって言ってたお兄ちゃんにも迷惑が掛かる。だからボクは家を出たんだ」

 

 本当は違うけど、おおむね嘘は言ってない。

 

 当時のボクなら虐待を受けたら絶対に反撃するだろうし、ゼノモーフの影響が増した身体なら一般人に毛が生えた程度の村人なんて卵と繭にした奴等みたいに簡単に狩れるだろうからね。

 

「そうしてこの街に来たんだけど……うん?」

 

 続きを語ろうとしていると燈華からテレパシーが来た。

 

【ママ、俺の考えたシナリオを話してくれ】

 

【どうしてかな?】

 

【さすがに今までのママの行動をヒーローに話すのはヤバいよ。それより被害者側に立った方がいい】 

 

 ふむ、それもそうか。

 

【じゃあ、イイ感じに誘導してね】

 

【OK!】

 

「どうしたんだ?」

 

「ああ、なんでもないの。この街に来てすぐにね、ボクはヴィランに捕まったんだ」

 

「なんだと!?」

 

 ボクの告白に気色ばむのはお兄ちゃんとマッチョマンだ。

 

 えっ、アレに荼毘君加えるの?

 

 まあいいけど……

 

「それで乱暴されて子供が出来たんだ。ボクが個性の影響で卵を産むって知ったら、アイツ等面白がってさ。何人も産まされたよ」

 

「……卵?」

 

「うん。目を覚ます事が出来た代償っていうのかな。お腹の中も変わっちゃって、人間が産めなくなったみたい」

 

「そんな……」 

 

 半ば呆然とした感じのお兄ちゃんの問いかけに応えると、カエルのお姉さんが絶句した。

 

「そうして飽きられた後、荼毘…燈矢君が拾ってくれたんだけどね。彼も子供ができたってわかったらすぐに逃げちゃった。酷いよね。抱いている時はボクの身体を個性で炙ってくるし、捨てる時も子供達と一緒にゴミ捨て場だしね」

 

 苦笑いでそう言うと紅白君の顔色が真っ青になった。

 

 ねえ、燈華。

 

 本当にこれでいいの?

 

 ……そりゃあ荼毘君が参加していない事とか、ボクを攫ったヴィランを瞳が全部『繭』にしちゃったとか、そういうの除いたら七割くらい本当の事だけどさ。

 

 ───本当に君って荼毘君嫌いだよね。

 

「オジサンは人を殺した事を責めたけど、強美がそうしたのは嫌な記憶を覚えてるからなの。産まれたばかりなのに父親に踏み潰されそうになって、庇った母親が何度も踏みつけられた上に笑いながらオシッコまで掛けられた。そんなことされたんだもん、人間がボクに近づいたら攻撃するのも仕方なくない?」

 

 笑顔でそう問いかけると、マッチョマンは口を一文字に結んで何も言わなくなった。

 

 さて、思ったより長居しちゃった。

 

 巣に帰らないと他の子が心配してきちゃうよ。 

                        

「影子、いいよ」 

 

 ボクが自分の影に声をかけると身体が少しずつ沈んでいく。

 

 それは強美や燈華も同じだ。

 

「待ってくれ、皐月!!」

 

 それを見ていたお兄ちゃんが慌てたように声をかけてくる。

 

「なに、お兄ちゃん?」

 

「村に帰れとは言わない! けど、俺と一緒に暮らそう!!」

 

 そう言って手と複製腕を伸ばすお兄ちゃん。

 

 でも、ボクの答えは決まってるんだ。

 

「ごめんね。ボクはお母さんだから、子供達を放っておけない」

 

「だったら、子供達も一緒に……!」

 

「十人以上いるから豪邸でもないと暮らせないよ? それにボク達がいたら周りの人に怖がられるかもしれない。それじゃあ村にいた時と同じでしょ?」

 

「それは……」

 

「だからいいや。元気でね、お兄ちゃん」

 

 その言葉を最後に影の中に完全に潜った私達は巣穴を目指す。

 

 え、どうしたの燈華?

 

 ……オールフォーワンねぇ。

 

 さっき殺した手男のボスか、念のために対策をしておかないとね。

 




今回の被害者

障子目蔵

妹が子持ちでした。

妹(正確には姪)が殺人を犯しました。

姪っ子が化け物です。

姪っ子の一人の父親はクラスメイトの兄です。

クラスメイトの兄が中学生の妹をヤリ逃げしました。

妹はもう人間が産めません。

妹が悪い男に暴行を受けて子供をいっぱい作りました。

障子君のヒーローメンタル(ポキィッ!!)


轟焦凍

死んだはずの兄がクラスメイトの妹を孕ませていた。

死んだはずの兄がその妹と子供を捨てて逃げた。

死んだはずの兄がヤッてる最中にその妹を炙っていた。

姉や父親はこの事を知っていた。

診断結果:家族不信増加。父親への嫌悪と不信加速。

荼毘

謂れのない誹謗中傷で家族から人間の屑と思われる。

実の娘(これもみんな、轟燈矢って奴の仕業なんだ!!)
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