鋼の意志でヒーローを目指す障子君を絶対に曇らせる妹   作:アキ山

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障子ニキの曇らせは終わりかって?

心配するな、銀の弾丸はまだ残っているぜ!!


第6話

「爆豪、お前はヒーロー科を除籍だ」

 

「なっ!?」

 

 開口一番告げられた言葉に驚きで目を見開く爆豪。

 

(なんで驚いてるんだ、コイツ。あれだけの事をしたのなら当然の処分だろうに)

 

 そんな自分の生徒の様子に、ミイラ男さながらの格好で生徒指導室のパイプ椅子に座る相澤は内心でため息を漏らす。

 

 爆豪が障子と喧嘩を仕出かしたのは今から二日前の事だ。

 

 結果は爆豪が一方的にブチのめされて保健室送り。

 

 お陰でオールマイトが担当する筈だったヒーロー学の授業が丸々一時間吹っ飛んだ。 

 

 貴重な授業を潰して行った1-Aの生徒達から事情聴取で分かったのは、爆豪が障子の退学宣言に突っかかって妹の事を悪し様に罵ったのが原因だということだ。

 

 さらに言えば先に手を出そうとしたのも、その際に個性を使おうとしたのも眼前のクソガキときた。

 

 そして一方的に倒された爆豪が怪我を負ったからだろう、1-Aの生徒達は障子に否定的な目を向ける者も幾人かいた。

 

(あの日の障子の雰囲気なら、経験不足の奴等が気圧された怯えから拒絶したくなる気持ちも分かるがな)

 

 相澤は事情聴取で顔色を悪くしながら己の気持ちを語っていた生徒達を思い返す。

 

 もちろん、今後もそんな有様ではヒーローなど務まらない。

 

 反省文の内容如何では、命じた幾人かも除籍にする腹積もりだ。

 

「何で俺が除籍なんだよ!?」

 

「校内でクラスメイトに喧嘩売って、そのうえ個性を使おうとしたんだ。ヒーロー失格の烙印を押されるには十分な理由だろ」 

 

 淡々と理由を口にする相澤に爆豪は思わず言葉を詰まらせる。

 

「そもそも、お前はなんで障子の妹を悪し様に言ったんだ?」

 

「あんなバケモンを自分のガキだなんて言える女だぞ! 頭がイカレてるか同じバケモンかに決まってるからだよ!!」

 

 唾を飛ばす勢いの爆豪の暴言に相澤は内心で頭を抱えたくなった。

 

 聞いた話ではコイツも件の怪物がヴィランを殺害する現場を見たという。

 

 方法は子供が見るにはあまりに凄惨なものだったらしいので、我知らずトラウマや恐怖心を持った可能性は十分にある。

 

 そして爆豪は本能的にその事に気付き、己の弱さを忌避する性格からそれを認めようとしないのだろう。

 

 障子妹への奴の攻撃性は、そこから来ていると考えられる。

 

「お前、障子とその妹の事情は聞いたはずだな」

 

「それがどうしたよ」

 

「だったら分かるだろ。相手は庇護すべき弱者だって事が」

 

 そう問いかける相澤を爆豪は鼻で笑う

 

「あのバケモン女が弱者? ヴィランをぶっ殺すような奴がかよ」

 

「彼女は地域ぐるみの虐待に加えて悪質な性被害にもあっている。しかも14歳の未成年、社会的に見ても常識に照らし合わせても弱者と見るのは当然だ。それと物事は正確に把握しろよ。お前の言う怪物は障子妹とは独立した存在だ。仮に彼女が言うように親子関係だとしても、その責は彼女にはない」

 

 悪態を正論で返されて不快げに顔をしかめる爆豪。

 

 そんな生徒の顔をじっと見つめながら相澤は顔全体に巻かれた包帯の内側で口を開く。

 

「爆豪。ヒーローの役目ってのはなんだ?」

 

「……ヴィランを倒して、完全な勝利を得ること」

 

「それはヒーローが成すべき事の一部、手段だ。断じて全てじゃない」

 

「だったら何なんだよ?」

 

「社会の秩序を守り、弱者を救う事だ」

 

 まるで個性を使った時のように真剣な光を灯す相澤の目に、爆豪は思わず息をのむ。

 

「その弱者は犯罪や災害の被害を受けた者に留まらん。仮に罪を犯した者であっても生い立ちや背景から相応の事情があるのなら、更生の為に手を差し伸べるのがヒーローの役目だ」

 

 ヒーローがなんたるかを語る相澤に、爆豪は何も言えない。

 

 爆豪がヒーローを志したのは、常に完全勝利を収めるオールマイトに憧れたからだ。

 

 たった一人で数多くのヴィランを倒す無敵のオールマイト、どんな敵でも叶わない最強のオールマイト。

 

 そんなオールマイトを超える事で、文字通り世界最強の男になる。

 

 それこそが爆豪勝己のオリジンなのだ。

 

 だからこそ力と勝つ事に固執し、ヴィラン退治こそがヒーローにとって最重要の役目と考えてきた。

 

 しかし相澤は今まで二の次と思っていた弱者救済こそ、ヒーローが成すべき責務だという。

 

 それは爆豪が今まで育ててきた価値観とは大きく相違していた。

 

「爆豪、お前にそれができるか? 迫害されてきた相手と知っておきながら、障子妹を化け物と罵ったお前に。障子妹の件だけじゃない。常に他人を見下して、暴言を吐き続けるお前に」

 

 だからこそ、爆豪は相澤の問いかけに頷けない。

 

 己が最強であることを世に知らしめずにチマチマと被害者を救う、そんな自分の姿を咄嗟に思い浮かべる事が出来なかったからだ。

 

「普通科に行ってヒーローが何たるか、自分の行動は周りにどう映っていたのかを見つめ直してこい。この処分に納得がいかないのなら、他校のヒーロー科にでも転校しろ。───以上だ」

 

 そう言い渡すと、相澤は爆豪を生徒指導室からの退室を命じた。

 

 廊下に出た爆豪は悔しさで音が出る程奥歯を食いしばった。

 

(この俺が除籍だと!? なんでだ! なんでこうなるんだ!?) 

 

 雄英のヒーロー科を首席で合格し、オールマイトを超えるNo1ヒーローになる。

 

 そんな彼の人生設計が音を立てて崩れ落ちていく現実は、爆豪にとって耐え難いモノだった。

 

 自分が何処で間違えたのか、爆豪にはそれが分からない。

 

 爆豪はヒーローに必要なのは圧倒的な力、そう信じてひたすらに自分の力を磨き上げてきた。

 

 憧れのオールマイトはそうやって完全勝利を収めてきたからだ。

 

 もちろん、人としての優しさや他者への気遣い、常識的な対応を彼の両親は何度も爆豪に教え込もうとした。

 

 しかし当の本人は『親とはいえ、所詮は一般人の言う事だ。将来のトップヒーローとなる自分には必要ない』とその言葉に耳を貸そうとしなかった。

 

 教師やクラスメイト、ご近所の大人などが個性だけを見て彼の行動を肯定し続けた事で、その自尊心が肥大した事も悪い方向に働いたのだろう。

 

 故に爆豪は相澤の決定に納得がいかない。

 

 大人に己を否定される事に慣れていない少年は、今まで大きな挫折に見舞われた事のない少年は、心に溜まっていく負の感情の澱みを整理する事が出来ない。

 

「クソッ! クソッ!! クソッタレがァァァァ!!」

 

 そんな彼が取った選択は、失敗の象徴となってしまった雄英高校から逃げ出す事だった。

 

 

 

 

 相澤によって爆豪の除籍が告げられた日の放課後、緑谷出久はオールマイトとゴミ掃除をした海岸に来ていた。

 

「相澤先生に言われました。あの日、僕達は事実を見誤っていたと」

 

 酷く落ち込んだ顔で、堤防で膝を抱えて座る緑谷。

 

 その様子にトゥルーフォームのオールマイトは頷く。

 

「そうだね。あの日の乱闘は爆豪少年が言い放った暴言が原因だ。けれど君達は一方的に打ちのめされた事に加えて負傷した爆豪少年を見た為に、加害者と被害者を取り違えてしまった」

 

 とはいえ、これについては一般的によくある事だ。

 

 事情はどうあれ、実際に相手へ被害を負わせた方を周囲の人間は非難しがちになる。

 

 原因が口論なら先に手を上げた方が悪い。

 

 仮に手を上げられたとしても相手に過剰な怪我を負わせたり、気を失わせる程の攻撃を加えれば『やり過ぎ』と責める。

 

 そして事の原因が誰にあったかが有耶無耶になってしまうのだ。

 

「緑谷少年、悪意のある言葉は時に拳の一撃よりも人を傷つける。そして人間の心には他人が踏み入ってはならない領域があるんだ」

 

「障子君にとって、それは妹さんの事だったんですね。──僕はなんてことを……」

 

 悔恨の念と共に頭を抱える緑谷を見ながら、オールマイトは当時の事を思い返して彼等の対応も仕方がない所もあると考えた。

 

 あの時の障子はあまりに殺気が強すぎた。

 

 廊下で立ち去ろうとしていた彼は、オールマイトでも一瞬警戒態勢を取りかけたほどだった。

 

 あれほどの凄みと威圧感を感じたのは、ヒーローデビューして間がない時に一瞬で右腕をへし折られた武術使いのヴィジランテ以来だ。

 

 そんな鬼気迫る者がクラスメイトを一方的に叩きのめす様を見れば、ヒーロー未満の子供達が忌避するのもやむを得まい。

 

「緑谷少年、悔やむのなら自分が何をすればいいかを考えなさい」

 

「僕がすべき事……そうだ! 障子君に謝らないと!!」

 

 そう言って立ち上がる緑谷。

 

 それを見てオールマイトは満足げに頷く。 

 

「障子少年の行方は分からないが、きっと君達と道が交わる時が来る。」

 

 人間誰しもが間違いを犯す。

 

 それは緑谷はもちろんオールマイトも例外ではない。

 

 しかし真に見るべきは、その犯した間違いに対してどう向き合い取り戻していくかだ。

 

 そしてオールマイトは後継者と見込んだ少年が、その選択肢を間違えない事を確信していた。

 

(がんばれ、緑谷少年。共に障子少年達を暗がりから救い出そう!) 

 

 しかし彼等は気付かない。

 

 彼等が手を伸ばそうとしている者達がどれほどの闇と汚泥、そして阿鼻叫喚の血と肉片の奥にいるのかを。

 

 そして彼等の助けなど望んでいない事にも。

 

 

 

 

 どうも、アホの子クイーンの脱却を虎視眈々と狙う障子皐月です!

 

 USJでの大漁に喜んでから4日、産まれた子供達は立派に育ちました!

 

 単一生殖で産んだ卵から孵った子供達は15人。

 

 けど、この子達は戦闘力に関しては控えめにしているんだ。

 

 その代わり、ボクと同じように複数の個性因子を含んだ樹脂になる粘液を出す力を与えておきました。

 

 燈華の言っていたAFOが何時来るか分からないから、巣の改装だって急ぐ必要があるからね。

 

 それにはボク一人では手が足りないから、大工さん的な役割をお願いする子が欲しかったのだ。

 

 とはいえ、この子達だって無能という訳じゃない。

 

 繭が持っていた個性をしっかりと引き継いでいる。

 

 嬉しい誤算だったのは、その得た力の割合が6割程度と予想より高かった事かな。

 

 中でも工作班のリーダーを任せた『依子』がもっている『吸引』の個性は色々と役に立ちそうだ。

 

「ピィッ! ピィッ!!」

 

「はいはい、二人はまだまだ甘えん坊だね」

 

 姉達が手に入れた牛の肉をあっと言う間に平らげて、成体になった工作班達が巣の改築に勤しむ中、同時期に産まれた二体の子供達はまだボクに擦り寄ってくる。

 

 それは黒霧と脳みそ君を父とする娘達だ。

 

 【朧】と名付けた黒霧との子は、父親から引き継いだ『ワープゲート』という強個性故か成長が他の姉妹に比べてゆっくりだ。

 

 脳みそ君の子である【癒威】だけど、こちらは成長が他の子より遅いのは仕方がない。

 

 なにせ、彼女は次のクイーンとなるのだから。

 

 おっと、勘違いしないでね。

 

 ボクの寿命が残り少ないとか引退するってわけじゃないんだ。

 

 この身体だと、やっぱり卵を産む数に限界があるから、一族の繁栄がどうしても遅くなる。

 

 そこで巣を株分けすることで、子孫を作る速度を増やそうと考えたのだ。

 

 幸運にも超再生に超パワーっていう、女王にとって喉から手が出るほど欲しい個性を持つパパが手に入ったんだもん。

 

 コッチだって頑張ってスーパーフェイスハガーも産むってものさ。

 

 そんな訳で、この二人は一応成体になっても母乳をせがんでくるんです。

 

 子供達を差別する気はないんだけどさ、二人の役目を思うとより多くの栄養が必要なのも事実なんだよねぇ。

 

 この辺は母親として悩ましいところだ。

 

 とはいえ、昔の人は言いました。

 

 『働かざる者食うべからず』と。 

 

「それじゃあ、朧は個性の練習をしようか。おっぱいはその後だよ」

 

「ギィィッ!?」

 

「不満を言ってもダメ。それじゃあ、巣の入り口まで飛んでみよう! あ、癒威は他のお姉ちゃん達と一緒に影に入っててね」 

 

「シャアッ!」

 

 ボクが指示すると影子が癒威をボクの影の中に収め、朧が後頭部に出来た冠から黒霧と同じように黒い靄を出す。

 

 それがボク達を包めば、ふわりと浮くような感覚の後には目に映る景色が一変する。

 

 下水道とボク達の巣の境目……あれ?

 

 暗いコンクリートに覆われた空間に出ると思ったら、ボクの目に広がっていたのは何故か大きな競技場みたいな場所。

 

 しかも立っているのは実況席っぽいボックス席だった。

 

「朧、失敗しちゃった?」

 

「ギィッ!? キシャシャっ!!」

 

 ボクがそう問うと当人にとっても予想外だったのだろう、朧は焦ったように左右を見回している。

 

「おい、お前は誰だ?」

 

「ウチの生徒じゃねえよな。つーか、そのクリーチャーはなんだよ? どっから現れた?」

 

 声に釣られて隣を見ると、そこには金髪を逆立ててサングラスを付けたおじさん。

 

 そして長くて黒いボサボサ髪で顔中に包帯を巻いたミイラ男がいた。

 

「おじさんたち、だれ? ここは何処かな?」

 

「質問しているのは俺達なんだが、まあいい。ここは雄英体育祭の実況席、俺達は雄英の教師だ」

 

 あらま、どうやらボク達はトンデモない場所に迷い込んだらしい。

 

「そっか、ボクは障子皐月。この子の個性を練習してたんだけど、間違ってここに来ちゃったみたい」

 

「障子って……お前、障子の妹か!」

 

 こちらの名前を聞いて黒髪のオジサンが驚いていたけど、ボクは返事を返せなかった。

 

 何故なら朧が胸に顔を擦りつけてきたからだ。

 

「キュー! クルクルクル……」

 

「ああ、訓練が終わったらって約束してたもんね」

 

 失敗したから無しという訳にもいかないか。

 

 ボクは朧の顔を軽く押して退かせると、マタニティドレスの肩ひもをズラして胸を出した。

 

「おいおい! 何する気だよ!?」

 

 横から飛んで来た金髪のオジサンの声など気にもせずに、朧はその胸に吸い付いてくる。

 

「朧は甘えん坊だねぇ」

 

「ジュッ! ジュルッ! ギュウッ!!」

 

 うんうん、吸いながら返事しなくていいからね。

 

 ボクもくすぐったいしさ。

 

「……その歳で母乳って、マジかよ」

 

「お前な、俺達がいるのに何やってんだ。恥ずかしくないのか?」

 

 唖然とする金髪さんと呆れたような眼を向けてくる黒髪のおじさん。

 

 しかし妙な事を聞いてくるなぁ。

 

「別に。というか、ボクの裸なんて皆見飽きてるでしょ」

 

「どういう意味だ?」

 

「ボクを攫ったヴィランが言ってたんだ。乱暴した時の事と卵を産む様子を動画に撮ってネットに流すって」

 

 あ、二人の顔色が変わった。

 

 朧の頭を撫でているのと逆の手で携帯を取り出したボクは、ネットで動画の検索履歴を探ってみる。

 

 この携帯はあの時のヴィランから拝借したものだからアップしたサイトは記録されている筈……あった!

 

「ほら、これ」

 

 小さな画面で展開されているのは、三年前のボクが男達に好き放題されている様子だ。

 

 あの時ってまだ交配の経験無かったから、痛くて泣いちゃったんだよね。

 

 繁殖のいい機会だから待機させていたとはいえ、【瞳】もよく我慢してくれたもんだよ。

 

「なんで…なんでこんなモン流されて平気な顔してんだよ!!」

 

「なんでって、犬やネズミに裸見られても恥ずかしくないでしょ? オジサンってそういうのも気にしちゃうタイプなのかな?」

 

 そんな風に返すと金髪のオジサンは何とも言えない表情で黙り込んだ。

 

 ボクの認識では人間はそんな感じだ。

 

 優秀なら子種でそれ以外は繭。

 

 こうしてコミュニケーションは取るけど、それだって犬猫とじゃれている的な感覚だ。

 

 だからどんな姿を見られたところで恥ずかしくなるはずがない。

 

 というか、ここの会話って外に流れてるんじゃない? 

 

「障子少女!!」

 

 ほら、USJで見たマッチョマンが乗り込んできた。

 

 なんかスーツ着た二本足で歩くネズミさんもいるし。

 

「ひさしぶり、おじさん」

 

「ひさしぶりって、君は今までどこにいたんだ!」

 

 そう言って近づいてくるマッチョマンだけど、それに待ったを掛けたのは顔の前に突き付けられた朧の尻尾だった。

 

「ギィ! ギギギギッ!!」 

 

「おじさん、ストップ。朧はおっぱいの邪魔をされるのが一番嫌いなの。揉めたくないからそっとしといて」

 

 少しキツめの口調でそう言うと、マッチョマンは足を止めた。

 

 そして複雑そうな顔でこう言ったんだ。

 

「障子少女、お兄さんは学校を辞めてしまったよ。君を探すと言ってね」

 

「えぇ!?」

 

 予想外の事態にボクは思わず声を上げてしまう。

 

「お兄ちゃんがヒーローを目指す邪魔にならないように別れたのに、辞めちゃったら意味ないじゃん」

 

 まったく、なんてことだ。

 

 あちゃーってな感じで額に手を当てていると、今度はネズミさんが声をかけてきた。

 

 というか喋れるんだね。

 

 ネズミ人間的な個性かな?

 

「障子皐月さん、私はここの校長をしている根津なのさ」 

 

「はぁ、障子皐月です。──あ、朧。あれは御飯じゃないからね、食べちゃダメだよ」

 

 校長先生がネズミなのは思うところがあるけど、名門校を束ねるくらいだから小学校中退のボクより頭がいいのだろう。

 

 あとウチの子をけしかけるつもりは無いから、引くのはご勘弁。

 

「ゴホンッ! 君の事はオールマイトや1-Aの生徒から聞いているのさ。だから我々で君を保護しようと思うんだけど、どうかな?」

 

 これは思わぬ提案だ。

 

 というか、どうしてそうなった?

 

「USJの事件で障子少年から君の身の上は聞いている。失踪人として捜索願も警察に出されているし、婦女暴行の被害者としても見過ごせないんだ」

 

「それにさっきの映像の件もある。お前さん自身か親御さんが手続きしないと、デジタルタトゥーとして永遠に残り続けちまうぞ」

 

 ネズミ校長に続いて、マッチョマンと黒髪のおじさんが畳みかけてきた。

 

 なるほど、なるほど。

 

 つまりはボクが家を飛び出したツケが回ってきたという事だね。

 

「うーん。信用できないし、身を護るなら子供達がいるからいらない」

 

 だが、断る。

 

 そう答えを返すと、ネズミさん達は意外だったのかポカンとした表情を浮かべた。

 

「おいおいおい。信用できないって、俺達はヒーローだぞ」

 

「ボク、今まで一度もヒーローに助けてもらった事ないもん。そもそも興味もなかったしね」

 

 金髪グラサンのオジサンが抗議してきたので、そう返したら鼻白んだ。

 

「お前、ずっとオールマイトさんの事をオジサン呼びしていたが、それはヒーローが信用できないからか?」

 

「オールマイト? 誰それ」

 

 黒髪のおじさんにそう尋ねると、マッチョマンを指さした。

 

「オジサン、オールマイトって言うんだ。ごめんね、知らなかったよ」

 

「そ…そうかい」

 

 なんだかマッチョマンはショックを受けているみたいだぞ。

 

 ヒーローは人気商売だから知らないって言われると困るのかな?

 

「マジかよ!? オールマイトは日本の子供だったら誰でも知ってるぞ!」

 

 そんなボクの疑問に答えたのは、金髪グラサンのおじさんだった。

 

「そう? 助けてくれないヒーローの名前なんて覚える必要ないと思うけど」

 

 だよね? と朧に聞くとキィッ!と同意してくれた。

 

 というか、そんなに有名ならボクが知らないくらいで落ち込む必要ないだろうに。

 

「騒がしくなってきたし、そろそろ帰るね。ほら朧、おっぱいは終わり!」 

 

 そういうと朧は渋々ボクの胸から口を離して、頭の後ろに付いている冠上の突起から黒い靄を出し始める。

 

 そういえば、黒髪のおじさんが朧を呼ぶ度に微妙な顔をしているのはなんでだろう?

 

 そして靄が広がってワープゲートを作りだした時だ。

 

「駄目だよ、皐月君。公的な場では個性の使用は許可がいるんだ」

 

 ネズミ校長がこんな事を言ってきた。

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

 他の人に確認すると黒髪のオジサンが頷く。

 

「うーん。でも村だと大人たちはみんな個性を使って僕達を虐めてたよ? 火の球や水流、掌くらいの石もぶつけられたなぁ」

 

「なんだって!?」

 

「あれって、みんな許可をもってたのかな? それとも村の中は公的な場じゃないの?」

 

「いや、そんな事はないはずだよ」

 

 オールマイトが驚く中ネズミ校長に問いを投げると、彼は渋い顔のままそう呟いた。 

 

「そんなもん、どう考えても個性の違法使用じゃねえか! どうして警察に言わなかった!」

 

「だって、駐在さんも村の人達と一緒になってボク達を虐めてたんだもん。自分の警棒で棒を使った人の殴り方とか村の人達に教えてたし」

 

 あの時はお兄ちゃん、左腕折られたんだよね。

 

 駐在さんは結構な歳だったし村出身って言ってたから、『血祓い』の儀式を当然だって考えてたのかも。

 

 警察云々と言っていた金髪グラサンのおじさんが黙ったところで、私達はマッチョマン達に背を向ける。

 

「それじゃあ、お邪魔しました!」

 

 そして黒い靄を潜れば、今度はちゃんと巣へと帰る事が出来たのだ。

 

 あと後日に新聞で見た話だけど、あの時のボク達の会話は全部競技場に漏れていたらしい。

 

 その所為で一部の生徒が失速したり調子を崩したそうで、大会はかなりグダグダな終わり方をしたんだとか。

 

 ワザとじゃないんだけど、運動会を台無しにしてごめんなさい。

 

 

 

 

 アメリカ・ワシントンDCの一画にあるオフィス。

 

 その一室では30代前半の一人の女性が一枚の写真を注意深く見ていた。

 

 厚手の手袋に包まれた指が摘まむ写真に写るのは一人の少女。

 

 日本人で手足が黒い甲殻に覆われ、同色の尾をもつのが特徴か。

 

 しかし容姿に他の生物の特徴が現れるなど、この超人社会では珍しいモノではない。

 

 写真の少女も調べによれば犯罪歴などないタダの一般人だ。

 

 しかし女は鋭い目つきで写真を見ている。

 

 その瞳に映るのは怖れ、そして敵意だ。

 

「エレン、またその写真を見ているの?」

 

 そんな彼女に声を掛けたのは、星条旗をモチーフにしたコスチュームに身を包んだ金の髪と鍛え上げられた肉体が特徴の女傑だ。

 

 掛けられた声にエレンと呼ばれた女性は声の主へ笑顔を向ける。

 

「ええ、やっぱり気になってね。キャシーこそ、今日は仕事は終わりかしら?」

 

「ステイツ全域を駆けずり回ったんだもの、これ以上はオーバーワークよ」

 

 キャシーと呼ばれた女傑は肩をすくめるとエレンの向かいに座る。

 

「写真の娘にご執心なのはいいけど、ちゃんと家に帰ってるんでしょうね? ママがいないんじゃアマンダが寂しがるわよ」

 

「大丈夫よ。昨日だってちゃんと誕生日を祝ったわ」

 

 からかうように言葉を紡ぐキャシーに、エレンは苦笑いで答える。

 

 彼女達は家が隣同士な幼馴染だ。

 

 キャシーとその妹は、年下のエレンを本当の妹のように可愛がっていた。

 

 だからこそキャシーが全米で最も有名になっても親しい付き合いは続いているのだ

 

「そのお嬢さん、まだ見つかっていないみたいね」 

 

「ええ、最悪の事態になっていなければいいけど」 

 

 そう言ってエレンが携帯端末で呼び出したのは、小さな子供をガラの悪い男達が嬲る唾棄すべきものだ。

 

 そこでは11歳程度の少女が男達の前で涙ながらに卵を産んでいた。

 

「下種共め」 

 

 その光景にキャシーは反吐を吐くかのように悪態を吐くが、エレンの眼が捉えていたのは生み出された卵の方だった。

 

「女の子はともかくとして、このクソ共の方はどうなの?」

 

「消息不明よ。ただ、他国の事だしヴィランだから社会的な情報が掴みにくいって事もある。だから本当の意味でどうなったかは分からないのよ」   

 

 キャシーの問いかけにエレンは憂いを帯びた顔で答える。

 

「この下種共が卵を処分しているならよし。もし最悪の事態だったとしたら、あなたの言う通り人類を滅ぼしかねない化け物が産まれるのね」

 

 そんなキャシーの言葉に応えるように、エレンは右手に嵌めた手袋を外す。

 

 黒革の手袋の中から現れたのは、写真の少女にそっくりの黒い外骨格に覆われた異形の手だった。

 

「あの娘は私より遥かに浸食率が高い。きっとあの声に影響を受けているはずだわ」 

 

 成長し初潮を迎えた時、エレンは脳内に響く声を聴いた。

 

『産み、増やし、全てを蹂躙せよ』

 

 己の奥から聞こえてくる理性を打ち壊して獣へ貶めるような声。

 

 そして声が響く夜に眠ると夢に出る、冒涜的で悍ましい怪物とそれに蹂躙される生物達が織りなす地獄絵図。

 

 それはエレンの身体が子供を宿す準備が出来る度に頭に響き、一時はノイローゼになりかけたほどだ。

 

 だからこそ、愛娘のアマンダが普通の人間として生まれてきた時は涙が止まらない程に嬉しかった。

 

 アマンダの出産を終えてから彼女を苛んでいた内なる声はパタリと止んだ。

 

 けれど、エレンは脅威が去ったとは考えなかった。

 

 あの忌まわしい声が、我が身に宿った個性によるものだと本能的に分かっていたからだ。

 

 この世界には同じ、もしくは似たような個性を持つ者は多くいる。

 

 もし、自分と同じ個性を持つ者がいるのなら。

 

 その者があの声に誘われて、悍ましい怪物をこの世に生み出してしまったら。

 

 アマンダを腕に抱けば抱く程、そう言った不安はエレンの頭を支配した。

 

 結果、彼女は政府の調査機関へ就職し、大国であるアメリカの力を借りて己と同じ個性を宿す者がいないかと警戒網を張っていたのだ。 

 

 そうして二人の間に重苦しい沈黙が降りる中、不意にエレンの携帯が音を立てた。

 

「はい、エレンです。──課長? 分りました」 

 

 それを受けたエレンは通話を切るとすぐに席を立つ。

 

「ごめんなさいね、キャシー」

 

「気にしないで。上司からの連絡が吉報であることを祈っているわ」

 

 そうして向かった先には合衆国諜報部の一セクションを担う課長がいた。

 

「課長、どのような御用でしょうか?」

 

「エレン、例の少女の手がかりが分かったぞ」

 

 老年の上司が告げた言葉にエレンの表情が強張る。

 

「どこに…どこにいるんですか!?」

 

「落ち着きたまえ。数日前に日本の雄英高校が課外授業中にヴィランの攻撃にあったのは知っているな?」

 

「はい。オールマイトの活躍で雄英側の死者は無し、ヴィランの方は首謀者が死亡したと」

 

「実はな、その際に例の少女が現れたという報告あったのだ。──未確認生物を引きつれて」

 

「そんなっ!?」 

 

 エレンは悪い予想が当たったことに蒼褪める。

 

「少女のその後の動きは不明だが、雄英には少女の兄が所属しているらしい。彼等に張り付いておけば、再び姿を現すかもしれん」

 

「わかりました。すぐに日本へ飛びます」

 

「頼んだぞ、エレン。エレン・リプリー捜査官」

 

 綺麗な敬礼を上司へ向けたのち、エレンはその部屋を後にした。

 

 それを見送った上司は、ドアが閉まるのを確認して携帯を取り出す。

 

「W・湯谷社特務部ですか? エドワードです。室長に繋いでいただきたい。───目標αがβを生産した事を確認しました」

 

 そう告げる男の顔には暗い笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 雄英の運動会にお邪魔して数日後、ボクは一人の男と対峙していた。

 

「始めまして、障子皐月君。早速だが僕の子(スペアボディ)を産んでくれ」

 

パパ()になってくれるの、ありがとう!!」

 

――――

 

◆オマケ【木曜洋画劇場・拳の闘魂祭り エイリアン2】

 

 目を覚ますとLv426(エイリアン2の舞台の植民惑星)でクイーンになっていた障子皐月ちゃん。

 

 何だかよく分からないけど、本能に従って繁殖活動頑張るぞ!!

 

 けれどそんな彼女を倒すべく、人間たちが海兵隊を送り込んできた!

 

 一族の繁栄の邪魔をされるわけにはいかない!

 

 忠実な娘達と謎の軍師君の知識を活かし、小癪な人間共を駆逐せよ!!

 

 美少女ママに襲いかかるメンツはこれだ!!

 

アラン・ダッチ・シェーファー(シュワちゃん)(声・玄田哲章)

 

アーサー・ビショップ(ジェイソン・ステイサム)(声・山路和弘)

 

ニコライ・ラチェンコ (ドルフ・ラングレン)(声・大塚明夫)

 

ジョン・ランボー(スタローン)(声・佐々木いさお)

 

アリス・アバーナシー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)(声・本田貴子)

 

チャンス・ブードロー(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)(声・山寺宏一)

 

ブレイド(ウェズリー・スナイプス)(声・菅原正志)

 

マックス・ロカタンスキー(メル・ギブソン)(声・鈴置洋孝)

 

ジェームズ・ブラドック(チャック・ノリス)(声・銀河万丈)

 

エレン・リプリー(シガ二―・ウィバー)(声・幸田直子)

 

 今度の人類はノストロモ号なんて比じゃない曲者ぞろい!

 

 果たして君はクイーンの軍師として、海兵隊を全滅させられるか?

 

 キャッチコピーは『宇宙では、奴等の悲鳴は誰にも聞こえない!!』

 

         『今度も戦争だ!!』

 

 がんばれ、軍師君! 勝てれば皐月ちゃんと子作りが待っているぞ!!   




ショータ! 俺娘が出来たんだ!
俺と同じ朧って名前なんだぜ!! 可愛いだろ?

【白雲朧(黒霧)辞世の句】


新加入・エイリアン娘



個性ワープゲート

性格は社交的で明るい楽天家

でもママのおっぱいが手放せない甘えん坊。

父由来のワープゲートは制御に難あり。

使いこなせれば、姉妹屈指のサポーターになれる期待の星。


癒威

個性 超再生・怪力・ショック吸収

皐月が繁殖加速の為に巣を株分けすべく生み出した新たなるクイーン。

エイリアンの版権を持つ20世紀フォックスをディズニー社が買収したため、彼女もディズニープリンセスとなった。

対オールマイト用脳無を父に持ち、彼から三つの個性を完全に受けついだ。

母のように男性と交配して相手の個性や遺伝子をその身に取り込んだり、子供に受け継がせることはできない。

しかし母よりも格段に繁殖能力は高く、一日で100の卵を産むことが可能。

さらには母性遺伝により、3~5割の割合で超再生・怪力・ショック吸収の個性を子供へ受け継がせることが可能。

巣の形成に成功すれば、当人の能力も相まってゼノモーフ屈指の強力な群になる事は間違いない。

ディズニープリンセスのエロ蹲踞からの産卵を見られるのはエイリアンだけ!!
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