鋼の意志でヒーローを目指す障子君を絶対に曇らせる妹   作:アキ山

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お待たせしました。

思ったよりも長くなってしまったが暇つぶしにどうぞ。


第9話

「やれやれ……これで量産型の調整は完了かの」

 

 その日、殻木球大は新たな脳無開発に力を注いでいた。

 

 オール・フォー・ワンの後継者と目された死柄木弔を失い、ヒーロー社会をかき回す為の手駒となるヴィラン連合は壊滅。

 

 代替となる策には一応の目途が付いたとはいえ、彼等の計画は事実上振り出しに戻ったと言ってもいい。

 

 だからこそ、戦力の拡充を急がねばならない。

 

 宿敵オールマイトは自分達の暗躍を察している。

 

 頼みのオール・フォー・ワンも以前に宿敵から負わされた傷もあって、万全には程遠い状態だ。

 

「だからこそ、兵隊として脳無を大量生産せねばならんのじゃが……更なる魅力的な素材が来ると分かっておると作業にも身が入らんわい」 

 

 今盟友が回収しに行っているのは、交配した相手の個性を完全に遺伝させた子供が産めるという珍しい少女だ。

 

 しかも産まれてくるのは人間を大きく上回る性能を備えた異形の生物だという。

 

 死柄木弔というボディのスペアを失ったオール・フォー・ワンは、その娘を孕ませて産まれた我が子の身体を乗っ取る腹積もりらしい。

 

 殻木の方も遺伝の絡繰りを解き明かす事や、強個性持ちのヴィランと交配させて作った子を脳無の素体にするなど、殻木自身もやりたいプランはいくらでもある。 

 

 そんな事で頭がいっぱいだったからこそ、彼は自分の背後にワープゲートが開いた反応をセンサーが感知しても気にしなかった。

 

 黒霧の個性は偶然の産物であり複製は不可能、となれば盟友が娘のついでに回収してきたのだと推察した為だ。

 

 当然、オール・フォー・ワンが失敗したという可能性は考えない。

 

 あの個性の魔人が敗北する事などありえないからだ。

 

 故に殻木は我が身に降り掛かった災難を理解できなかった。

 

「ぐがぁっ!? ……え?」

 

 衝撃と共に腹部に広がる灼熱感を感じ、血や臓物の肉片と共に腹から飛び出た槍の刃のような穂先を持つ尻尾を見下ろしても。

 

「シィィィィィィッ!!」

 

 己を貫く尾によって無造作に体が持ち上げられ、脂肪塗れの腹が引き裂かれそうになっても。 

 

 自慢の頭脳が背後から放たれた癒威のインナーマウスによって研究所の床にブチまけられる瞬間まで、殻木球大は己の辿った末路を理解する事は無かったのだ。

 

 殻木が無残な最期を遂げると、間を置かずして120体に及ぶゼノモーフが次々とワープゲートから這い出てくる。

 

 

 彼等は蛇腔総合病院の地下に築かれた違法研究室を興味深そうに見まわしながら、各々が好き勝手に歩き回る。

 

 

 ただ、無駄に機材を弄って壊しに掛からない辺りは親のしつけが行き届いていると言えるだろう。

 

 そうしてワープゲートから最後に現れたのは人とゼノモーフのハイブリッド。

 

 彼女達の大母である障子皐月だ。

 

「お疲れ様、皆。ちゃんと邪魔者は始末してくれたんだね」

 

 腹部と頭に大穴が空いた殻木の死体を見下ろして、皐月は嬉しそうに笑う。

 

 とはいえ、彼女達の引っ越しはこれで終わりではない。

 

 むしろ、ここからが始まりだ。

 

「うん、ちゃんと地下にも大きな空間を作ってるね。さすがは悪の秘密研究所」

 

 癒威に抱きかかえられた皐月は、通気口に手をかざしてゼノモーフの超感覚を駆使して地下へ十分すぎる空間がある事を確認する。

 

「シィィィィ?」 

 

「燈華? 用があるからって外に行ったよ。もし、お願いされたらゲートを開いてあげてね」

 

 地面に降りた皐月に首をかしげて問いかける朧。

 

 その様子に皐月は微笑みながら朧の頭を撫でてあげる。

 

「よしっ! それじゃあ始めようか!」

 

 そして彼女達は新たな住処を舞台に蠢き始める。

 

 

 

 

 爆豪勝己は相澤から除籍を受けた後、雄英高校を去った。

 

 如何に雄英が国内随一のエリート校だろうと、No1ヒーローを目指す爆豪からすればヒーロー科以外に価値は無い。

 

 なにより除籍されたうえで他の科に通うなど、彼の高いプライドが許さなかったのだ。

 

 そんな爆豪が転校先に選んだのは勇学園だった。

 

「こっからだ! こっからトップヒーローになって、俺を除籍にした陰キャ教師も! 雄英の奴等も!! 全員土下座させてやる!! そんであのタコ野郎は借りを返して百万回ぶっ殺す!!」

 

 決意を固めて新たな学びの場へ向かった爆豪だったが、すぐさま孤立してしまう事になる。

 

 それは彼の傲慢で他者を見下した態度と暴言が依然変わらなかったのが原因だった。

 

 爆豪がそんな態度を取ったのは雄英を除籍になっても己に非は無いと自負していた事に加え、転校先の生徒が雄英の1-A程の実力がなかったからだ。

 

 轟のような自分以上の人間もおらず、認めたくはないが緑谷や他の1-Aの生徒達のように自分に迫りそうな後続もいない。

 

 それ故に爆豪は勇学園のクラスメイト達を見下してしまった。

 

 さらには蛇の異形型個性を持つ女子、『万偶数羽生子』へ「近寄んじゃねえ、蛇女!!」と暴言を浴びせた事も大きかった。

 

 『デク』や『クソ髪』など相手に失礼なあだ名を付けるのは、爆豪にとっては普通の事だった。

 

 しかし、それは世間の常識からは大きく乖離した価値観だ。

 

 万偶数はただ雄英へ進学した親友の様子を訊ねようとしただけであり、爆豪に声を掛けた彼女に悪意は無かった。

 

 さらに万偶数は蛇の個性が大きく出た自らの容姿が原因で長年友人ができなかった事もあり、大きなコンプレックスを抱いてたのだ。

 

 そこを痛く刺激された彼女は、その場で泣きくずれてしまった。

 

 おりしも雄英体育祭で障子皐月が語った村ぐるみの差別と虐待の証言もあり、異形型差別反対に世の風潮が動いていた時期だ。

 

 爆豪の言動は悪意が無くとも非常識とされ、クラスメイトからの軽蔑を集める事になってしまった。

 

 とはいえ、爆豪はもとより他者とのなれ合いを好まない一匹狼気質の人間だ。

 

 腫物扱いされる程度であれば問題は無かった。

 

 しかし、彼のクラスの一部の者たちはその程度では済まさなかった。

 

 無視やプリントを渡さない、爆豪の所持品を隠すなどの遠回しな虐めまで始めたのだ。

 

 爆豪は頭が回るうえにやられたらやり返す性格なので、罠を張るなど様々な手で尻尾を掴もうとした。

 

 しかし相手も個性を使用しているのか、彼一人の手では明確な証拠は掴めずに怒りを露わにしても白い目で見られるのみ。

 

 かと言って激発して個性を使えば雄英にいた時と同じ轍を踏むことになる。

 

 プライドの高さから教師にも頼れない爆豪は日々苛立ちに耐えていた。

 

 そんな中、休日に偶然テレビを見ていた爆豪はそこに映った血まみれの殺人犯と報道された少女に目を見開いた。

 

「なっ!?」

 

 何故なら、それはUSJで見た障子目蔵の妹。

 

『見てください! 異形型個性差別の被害者と思われていた少女が、殺人を犯してしまいました! 被害者は……何という事でしょう! 蛇腔総合病院の理事長、殻木球大氏のようです!!』

 

 彼がかつて『化け物女』と呼んだ人物だったからだ。

 

「あのバケモン女! ついに本性を現しやがった!!」

 

 それを見た爆豪はすぐさま家を飛び出した。

 

「ちょっと! どこに行くの、勝己!!」

 

「ヴィラン退治に決まってんだろ!!」

 

 共に夕食の卓を囲んでいた母親の抗議の声を背に、爆豪は両手から放つ爆発の勢いで宙へと舞う。

 

「待ってろ、クソ女! まずはテメエとテメエが産んだバケモンをぶっ飛ばす!!」

 

 勇学園での孤独の日々の中、自分を見つめ直した爆豪は認める事が出来た。

 

 あの日、自分が死柄木を殺した怪物に恐怖していた事を。

 

 もちろん、これは恥ずべきことではない。

 

 如何に被害者がヴィランとはいえ、眼前で人間が惨殺されたのだ。

 

 しかもそれを成したのは、人類にとって捕食者と言うべき異形の生物。

 

 恐怖を感じるなという方が無茶であろう。

 

 しかし人一倍プライドの高い爆豪は怯えた自分が許せなかった。

 

 何時もの自分なら臆せず飛び掛かるのに脚が震えて力が入らなかった。

 

 自慢の個性も使おうとした瞬間にニトロの匂いを嗅ぎつけられて、死んだヴィランのように捻り潰されるかと不安で堪らなかった。

 

 あの時の爆豪に出来たのは、顎に力を入れて合わない歯の根がガチガチと音を立てるのを必死に抑えるだけだった。

 

 認めてしまえば、USJの惨劇は爆豪にとって緑谷に敗れた以上に忌まわしい記憶だった。

 

「俺は負けっぱなしで終わらねえ! 絶対にあのバケモンもクソ女も跪かしてやる!!」

 

 故に彼はその記憶を消し去る為にも蛇腔総合病院へと急ぐ。

 

 果たして、その肥大した自尊心が招くのは勝利か、それとも破滅か?

 

 

 

 

 どもども、初テレビ出演にワクテカしている新米ママ(子供は100人以上)の障子皐月です。

 

 

 まずはボクが置かれている状況を説明しよう。

 

 舞台は夕暮れ時の蛇腔総合病院の1階エントランス。

 

 周りには病院の職員や入院患者、そして見舞客や来院者が遠巻きに人だかりを作っている。

 

「殻木先生、そんな…酷い……」

 

「あんな立派な人をどうしてこんな……」

 

 看護師や患者さんから洩れる声を聴くに、この悪の科学者は随分と見栄えのいいネコを被っていたようだ。

 

 地下には実験用の人間や作りかけの改造人間に失敗作が山のようにあったのにねえ。

 

 そしてボクの前、ちょうど入り口を塞ぐように陣取っているのは雄英体育祭で見た黒髪ボサボサのオジサンと金髪ヒゲグラサン。

 

 ネズミ校長に際どい衣装をきた綺麗な女の人。

 

 あとはマッチョマンと……あれって燈華が攻撃されたっていう荼毘君のお父さんだ。

 

 テレパシーで人相を見せてくれたから間違いない。

 

 ちなみにボクが秘密研究所から病院に姿を現して、ヒーロー達が来るまで一時間以上かかってる。

 

 それまでは野次馬が来たり、通報を受けて駆け付けた警官隊に囲まれたり報道関係が機材をもって乗り込んできたりと色々だ。

 

 聞けばこの病院って京都にあるらしんで、静岡在住のマッチョマン達が駆け付けるのに時間が掛かるのは当然なんだ。

 

 ちなみに警官達の話だと地元のヒーローは手が離せない状態らしい。

 

 なんでも有名な観光地になっている大きな寺で事故があったらしく、京都を活動の場にしているヒーローは皆ソッチに駆り出されてるんだとか。

 

 話を戻してボクはといえば、大部分が溶けて布切れ同然になったマタニティドレスを身に纏って、その奥にある体は血まみれ。

 

 さらには顔と腹に大穴が開いた悪の科学者の死体を引き摺っている。

 

 これって普通に見れば、殺人犯を逮捕しようとするヒーローの図式だよね。

 

 とはいえ、これもこれからの平穏な巣の運営の為には必要なリスクだ。

 

 子供や孫たちの為にもしっかり演じてみせようじゃないか。

 

「───障子少女、正直に答えてくれ。その人を、殻木理事長を殺したのは君なのか?」

 

 USJで強美が死柄木を殺した時と同じような表情で、マッチョマンがこちらに問いを投げてくる。

 

 他のヒーロー達も顔を強張らせて固唾を呑むと言った感じだ。

 

「そうだよ」 

 

 だから私はさも当然のように答えてやる。

 

「何故だ!?」

 

「コイツがボクの住処を滅茶苦茶にして子供達を殺した男の仲間だから。そのうえ捕まったボクを改造して産む機械にしようとしたんだもん、殺す理由としては十分でしょ。それとも化け物なんて死んで当然とでもいいたいのかな、正義のミカタ?」 

 

 怒りと嘆きをぶつけるかのように叫ぶマッチョマンだったけど、ボクは冷徹に返すと一気に顔色が悪くなる。

 

 演技にはあんまり自信が無いんで、村にいた時みたいに無表情を心掛けているけど大丈夫かな?

 

「改造だって? それに君の子供達が殺されたというのはどういうことだい?」

 

「……白々しい。ネズミさん達だって盗聴器で聞いていたんでしょ? ボクの住処にオール・フォー・ワンが乗り込んできたのを」

 

「それはすまないと思っているのさ。けれど、君を保護する為には所在を知る必要があったんだ。ヴィランに襲われた時に駆け付けられるようにもね」

 

「その割には今回だって誰も来なかったけどね」

 

 皮肉げに口元を吊り上げて見せると、ネズミさんの後ろにいるヒーロー達はバツが悪そうな顔をした。

 

 一番罪悪感を感じてそうなのがマッチョマン、反対に荼毘君のお父さんは無表情だから殺人犯のボクには同情の余地はないって感じかな?

 

「我々の手が届かなかった事に付いては申し訳ないと思っている。だが、これからの為にも教えてほしい。障子少女、君はいったい何をされた? 改造とはどういう事なんだ!?」

 

「オール・フォー・ワンはオジサンと戦って体がボロボロなんだよ。だからボクに子供を産ませて、その子の体を乗っ取るつもりだったんだ」

 

「だから、君の身体に手を加えようとしたというのか!?」

 

「正確には加えた、だね。あとこれも」 

 

 そう言ってボクは自分の股に手を当て、それを軽く振った。

 

 すると濡れた音と共に床に張り付いた白くドロリとした粘液、それを見た大人たちはヒーロー、野次馬問わず顔を蒼褪めさせる。

 

「それってまさか……」

 

「そのまさか。さっき産む機械って言ったでしょ? 奴等は自分達の戦力向上のために、兵隊を生み出す母体にするつもりだったんだ」

 

 口元を押さえる際どいコスチュームのお姉さんにそう告げると、痛ましそうに歪んでいたヒーロー達の顔が別の意味で強張る。

 

「ボクは個性の関係で子供ができやすいし、生まれる子供はほぼ確実に父親の個性を遺伝させる。ついでに言えば個性が無くても普通の人間より遥かに強いし、早いと数日で成体になるからね。だからあの男や腐れ医者は子供達を兵隊や改造人間の素体にするつもりだったみたい。このハゲがボクを犯したのも生産の経過観察と実験だそうだよ」

 

 そう言って科学者の死体を蹴れば、さっきまでこちらへ向いていたヒーロー達の多くが敵意を完全に無くしている。

 

 それでも黒髪のオジサンや荼毘君のお父さんは違うみたいだけど。

 

 視線や汗の匂いからボクの動きを警戒しているのは丸わかりだもん。

 

「……つぅッ!?」

 

 そんな視線なんて知らぬとばかりに、ボクは左手を前に突き出すと自分の尻尾でその中心を貫いてみせる。

 

 かなり痛いけど、この程度は村で受けた暴力の日々に比べたらかすり傷だ。

 

「な…なにを!?」

 

「いいから見てて」

 

 焦るマッチョマンをぴしゃりと黙らせて、ボクは左手を改めて皆に見えるようにする。

 

 向こう側が見えるくらいの大穴が開いたボクの掌、そこから流れ出る普通の人より少し赤みが薄くなった血が床に落ちるとジュウッと音を立ててリノリウムが溶けていく。

 

 そして溶解する床から上がる煙の中でみるみる内に再生していく。

 

 伸びた骨が接がれ、そこに筋肉と腱に血管が絡みつき、最後に黒い外骨格が覆えば、穴などなかったかのようにきれいさっぱり元通りだ。

 

「これが実験でこのハゲに植え付けられた力、超再生の個性。ボクの事を調べたのなら、以前はこんな力が無かったのは分かるでしょ?」

 

 村にいた頃はよく怪我をしていたし、回復力も少し傷の治りが早い程度でしかなかったからね。

 

 ボクが受けていた虐待の過程で診療所の診断書は見ているだろうから、その辺は彼等も理解している筈だ。

 

「どうしてそんな力を?」

 

「出産の負担を減らす為だよ。男の人は分からないだろうけど、子供を産むのは大変なんだ。特にボクは体が小さいからね、短い間隔で何人も産んでいたらすぐに壊れちゃう。だから、長く使う為に植え付けたんだよ」

 

 ネズミ校長の問いかけに言葉を吐き捨てると、ボクは背後に下がって通路の横で口を開いた地下へ続く入り口を指さした。

 

「この奥にハゲの地下研究所があるよ。改造人間やその失敗作があるから、信じられないなら調べてみたら?」

 

「──相澤君」

 

「わかりました。申し訳ないが、何名か警察の方も同行願います」

 

 そう促すと黒髪ボサボサのオジサンが警官を連れて隠し通路へ入って行った。

 

 彼等が階段を下りていくのを確認したボクは、野次馬の中に混じった看護師さんへ声をかける。

 

「ねぇ、裏口はどこかな?」

 

「う…裏口?」

 

「そう。玄関はムサ苦しいオジサン達が邪魔で通れないみたいだからね」

 

「えっと、その通りをまっすぐ行って左です」

 

「ありがと」

 

 怯えながらも素直に教えてくれた看護師さんにお礼を言って背を向けたけど、当然ながら簡単に行ける筈はなかった。

 

「待ってくれ、障子少女! どこへ行くつもりなんだ!?」

 

「決まってるでしょ」

 

 ボクはマッチョマンの声に足を止めると、ゆっくり振り返る。

 

「───オール・フォー・ワンを殺す」

 

 その顔に張り付けたのは先ほどまでの無表情ではなく、夜叉のごとき怒りの相だ。

  

「ボクにした事はどうでもいいけど、アイツは子供達を殺した! 絶対に許さない……あの子達の無念は奴を肉片にして晴らしてやるっ!!」

 

 今まで笑ってるか締まりのない顔しか見せていなかったせいだろう、オールマイトはボクの怒気に驚いているようだった。

 

「駄目だ! 君の無念は分かる! 家族を奪われた悲しみや憎しみは耐え難い程だろう! でも、それはいけない!!」

 

 けれど、そこはNO1ヒーローと言うべきか。

 

 すぐに持ち直してこちらを説得しようと言葉を紡ぐ。

 

「奴は危険な男だ! 君では返り討ちに会う危険性が高い!!」

 

「だからオジサン達に任せて、あとは泣きながら暮らせって? 嫌だよ、ヒーローなんて信用できない。仮に倒しても牢屋に入れて終わりでしょ? そんなので納得できるわけないじゃん」

 

「だが……!!」

 

「別にオジサン達に殺せって言ってるわけじゃない、こっちで勝手に殺るから放っておけって言ってるの」

 

「障子少女!」

 

 さらに言い募ろうとしていたマッチョマンの肩を後ろから掴む者がいた。

 

 それは荼毘君のお父さんだ。

 

「もうよせ、オールマイト。これ以上は時間の無駄だ。相手は殺人犯、説得などしなくても逮捕すればいい」

 

 なるほどなるほど、そう来ましたか。

 

「……殺人犯ね。つまり、オジサンはボクに抵抗せずに実験体で産む機械、あとはヴィラン達の性処理の道具になっておけっていう訳だ。さすがは轟燈矢君のお父さん、ボクをさんざん犯した上に子供が出来たら上の子達と一緒にゴミ捨て場に棄てるような人間の親だけあるよ」

 

 意趣返しにそう言ってやると、相手の顔には面白いほど動揺が浮かぶ。

 

「なにを……」

 

「オジサンも会ってる筈だよ。燈矢君とあの子が殺し合ってるところに乱入したって聞いたし」

 

「あの化け物はまさか……!」

 

「誰が化け物だよ。女とヤッてる時に『どうやったらお父さんに見てもらえるかなぁ』とか言って、相手を焼くお前の長男の方がよっぽどバケモンだっつーの」

 

 そう言ってボロボロのマタニティドレスをめくると、その奥に除く下腹部の火傷を見た荼毘君のお父さんは顔が土気色になる。

 

「あと、オジサンって子供の事を失敗作とか言ってるらしいね。燈矢やその妹さん、あと次男君もその烙印を押してネグレクトしてるんでしょ? それでお兄ちゃんと同級生な轟君が成功作。 ボクも親だけどさ、子供にそんなひどい事を言うなんてまったく理解できないよ。あれかな? 産みの苦しみを味わったことがないから、そんな酷い事が言えるのかな?」 

 

 あっはっはっはっ! ついでだから荼毘君から聞いた轟家の闇もバラしちゃおう!

 

 母親の前で自分の孫を化け物呼ばわりしたんだもん。

 

 野次馬の中にテレビもいるみたいだけど、このくらいは許されるよね!

 

「き…きさま……」 

 

 あまりの事に二の句が継げない様子の荼毘君のお父さん。

 

 さて、そろそろ茶番劇もお開きにしようかな。

 

 そう思った瞬間だった。

 

「ばぁぁぁぁけぇもぉぉん! 女ァァァァァァァl!」

 

 もの凄い声と共にガラス張りになっていた病院の出入り口の上の部分が砕けた。

 

 砕けたガラスを伴って飛び込んできたのは……えっと、誰だっけ?

 

「ば…爆豪少年!?」

 

 どうやらマッチョマンは知っているらしい少年は、手から放った爆発を推力にするとボクの方へカッ飛んでくる。

 

「死ぃねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 殺意マシマシで振りかぶられた手はボクの頬に叩き付けられたと同時に起爆する。

 

 とたんに小柄な体全体を包み込む炎と衝撃波。

 

「へっ! どうだ!!」

 

 薄い硝煙の向こうで少年が勝ち誇った笑みを浮かべているけど……残念。

 

「──よっと!」

 

 ボクは頬に当てられたままの少年の手を両手で掴むと、グッと外側に捻る事で肘関節を極める。

 

「ぐがっ!?」

 

 そしてそのまま上へと引き絞れば、骨が砕ける乾いた音と共に彼の手は曲がってはいけない方向へ折れ曲がった。

 

「があああああああああっ!?」

 

 途端にロビー中に響き渡る少年の悲鳴。

 

 これでもお兄ちゃんが習っていた武術のお師匠様に護身で技を幾つか教わっているのだ。

 

 村にいた時は怖がって殆ど使ってなかったから随分と久々になるけど、上手くいって一安心である。

 

 今のボクには脳みそ君のショック耐性に加えて、荼毘君をはじめ多くの炎系個性使いから得た炎熱耐性がある。

 

 なので、この程度の爆破では傷一つ付きません。

 

 話は変わるけど、この病院の1階フロアは少し変わった作りになっている。

 

 入り口からエントランスの半ばまではガラス張りで日の光がよく入る一階建て、その奥にある待合室へ受付のある部分が病棟の内部といった具合だ。

 

 何故そんな説明をしたかというと、そのガラス部分の天井を突き破ってボクの目の前に何かが降ってきたからだ。 

 

「キシャアアアアアアアッ!!(ただいま、ママ!!)」

 

 濛々と立ち上る粉塵、それが晴れた先にいたのは燈華だった。

 

「うげぇぇっ!?」

 

「きゃあああああああっ!?」

 

「な…なんだ、あの怪物は!?」

 

 そして燈華を見た野次馬達からは口々に悲鳴が上がる。

 

 このまま化け物がなどと悪意を向けられるのかと思っていたけど、予想外の反応もあった。

 

「お前、失礼な事を言うな! ニュースを見ていないのか!?」 

 

「あの子は虐待の影響で個性が変質して、ああいう形でしか子供を産めなくなったんだ!!」

 

「それを化け物だなんて……異形型差別よ!!」

 

 声の方に視線を向けるとクマ型と猫型、そしてカミキリムシによく似た容姿の人達が他の野次馬と揉めている。

 

 ああ、あれが異形型差別反対な人たちか。

 

 そういうのがいるとは耳にしていたけど、実際に見るのは初めてだなぁ。

 

「あ…アイツは……」

 

「あれは障子少女の娘の一体!」

 

「USJの映像だと、たしか蒼い炎を出す個体だったわね」

 

 一方でヒーロー達の反応は警戒だった。

 

 荼毘君のお父さんは顔色を青くし、マッチョマン達は燈華が何かするのではと厳しい目で見ている。

 

「おかえり、燈華。大丈夫だった?」

 

 周りの評価なんてどうでもいい。

 

 ボクにとって重要なのは、娘が無事かどうかである。

 

 なにせ、今日のこの子は荼毘君を狙って外を動き回っていたのだ。

 

 前は死ぬかと思うくらいにボロボロだったから、正直言って気が気じゃない。

 

「ギィィィィィッ!!(うん。もうあのクソ親父の炎なんか効かないからな!)」

 

 娘の報告を聞きながらケガは無いかと体をチェックしたけど、幸いにも目立つような傷はないみたいだ。

 

「うんうん。それでどうだったの?」 

 

「ギシャシャシャっ!!(トドメはさせなかったけど、判定だと完全に俺の勝ちだった!)」

 

「さすがは燈華だね」

 

 脱皮で手に入れた新しい甲殻は家族の中でも頭二つは抜けた高温・耐火性能を持っているからね。

 

 しかも何処からか生えてきた氷結に似た個性で体の内側を冷やして、体内の温度が上がり過ぎないようにも出来るから一層熱には強い体になったもん。

 

 荼毘君の力が出会ったときと同じなら、この子を燃やすのは不可能だろう。

 

「シャアアアアアアアッ!!(あと戦ってる途中で病院に突っ込んだんだけどさ、そこに婆ちゃんと冬美オバちゃんがいたんだよ)」

 

「婆ちゃんって、燈矢君のお母さん? そう言えばDVで精神を病んで入院中とか言ってたっけ」

 

 あと、冬美は多分小学校で出会った荼毘君の妹だろう。

 

 というか、彼女も入院していたのかな?

 

「シィィィィィッ!(そう! それでさ、クソ親父の野郎が婆ちゃんやオバちゃんがいるのに俺を倒そうと全力の炎をぶっ放しやがったんだ)」

 

「うわっ、大丈夫だったの?」

 

「キシャアアアアッ!(ああ、俺が守ったからな! 家族は大事にしろってママに教えられてたし)」

 

 胸を張る燈華の言葉にボクは感動した。

 

 これって子供達みんなに言い聞かせていたことだけど、ある意味でボクへの戒めでもあったんだ。

 

 女王の側面が強くなると、どうしても子供達を巣を護る兵隊に見ちゃいそうになるから。

 

 そんな風じゃあダメだって、子供達に教えると同時に自分へ言い聞かせていたのだ。

 

 うん、ショックで顔を土気色にして半ば白目をむきながら『馬鹿な…』『そんな…嘘だ……』なんて呟いているどこぞのダメ親父とは違うという事だね。

 

「ママの言う事を覚えていてくれたんだ、えらいえらい」 

 

 その事を覚えているだけじゃなく、想定とは少し違うけど実践してくれたのは本当にうれしい。

 

「キュゥゥゥゥ(ところで、ママ)」

 

「ん?」

 

 右手で頭を撫でてあげていると、燈華は何故か逆の手の方を見ている。

 

「キシィィ(それ、なに?)」

 

 娘の問いかけに視線の先へ目を向けると、ボクの左手には肩口から千切れて主を失った人間の腕がプランプランとぶら下がっている。

 

 そして燈華の足元には背中と腰のあたりを踏み潰されて、うつ伏せに倒れている件の腕の持ち主が。 

 

「うーんと、キミが踏みつけている人の腕だね。いきなり襲ってきたから、久々に葛を使って折っておいたんだっけ」

 

「キシャ?(カズラ?)」

 

「お兄ちゃんが習っていた古武術では関節技の事をこう呼ぶんだよ。ボクも護身の為に少し齧ってたんだ」

 

 こっちとしてはここまでする気はなかったんだけど、燈華が落ちてきた時の衝撃の所為でこうなったんだねぇ。

 

 うーん、運が無い。

 

「シィィィィィッ!!(ママを襲ったとかふざけやがって。コイツ、頭踏み潰していい?)」 

 

「ううん、放っておこう。ここで殺しをすると後ろの人達がうるさそうだし」

 

 そう言いながらボクは爆発君の髪の毛を掴んで持ち上げると、千切れた腕と一緒にマッチョマンめがけて放り投げた。

 

「爆豪少年! しっかりしろ、爆豪少年」

 

 血の筋を引きながら飛んだ彼は狙い通りにマッチョマンの胸まで届き、彼の逞しい腕に受け止められる。

 

「幸いここは病院だし、すぐに見てもらったら命は助かるんじゃない? 運がよかったら千切れた腕もくっ付くかも」

 

「おい! なんだよ、その言い方は!?」

 

 ヒラヒラと手を振ると、金髪グラサンのヒーローが抗議の声を上げる。

 

「先に襲ってきたのはその人だし、顔面爆破までされたんだから腕を折るくらいは正当防衛でしょ。あと、燈華に踏まれたのは完全に事故だから」

 

 妙に響く声に過敏な聴覚がかき回されて不快だけど、その辺は表には出さないでボクは言ってのける。

 

「言い方云々についても、オジサンに言われたくないよ。人の会話を盗聴した挙句子供を何度も化け物呼ばわりするような奴にはね」

 

 そう返してやると、今度は金髪グラサンの方も顔色が悪くなった。

 

「な…聞こえてたのか?」

 

「オール・フォー・ワンはヒーロー、とりわけそこのマッチョマンに嫌がらせする事に命を懸けてたからね。出会ってすぐにそっちの音が盗聴器を通じて聞えるように改造したんだよ」

 

「という事は、会話の中で盗聴器に気付いたような仕草をしたのは演技だったという事か」

 

「そういうこと。けど、文句は言いっこなしだからね。盗聴器を仕掛けるなんて失礼な事をしたのは、そっちが先なんだから」

 

 ネズミ校長の言葉にうなずいたボクは、今度こそ裏口へ向けて歩き出す。

 

「あと、オジサンが化け物って呼んだ朧は死んだよ。よかったね」

 

 金髪グラサンにそう言ってやれば、奴のいる場所から息を呑む音が聞えてきた。

 

「どうしたのさ? 体育祭の時みたいにテンション高く喜べばいいじゃん。あの子は親友を穢す存在なんだろ? 笑えよ、ほら!」

 

 振り返って怒りの表情で追撃してやると、蒼い顔のまま俯いて何も言わなくなる金髪グラサン。

 

「ちょっと! 待ちなさい!!」

 

 その様子を確認して再び歩き出すと、例の際どい衣装の女性らしき声がする。

 

 もっとも、やるべき事はすべてやったので相手をする理由はない。 

 

「燈華、お願い」

 

 そう告げると娘はボク達と彼等を隔てるように蒼い炎の壁を作り出す。

 

 それを見て騒ぐ野次馬の間を通り抜けたボク達は、非常口を抜けて人気のない場所に行くと周りを炎で囲った後で朧が生み出した迎えのワープゲートに姿を消した。

 

 

 

 

「みんな、お疲れ様!」

 

 ボクは新たな巣になる予定の地下道で子供達を前に音頭を取った。

 

 みんな、口々に声を上げて結構な音だけど迷惑だなんて苦情は出ない。

 

 なにせここは病院から地下20mは下がった場所だ。

 

 ご近所さんなんていないからね。

 

「わっ!? ちょっと癒威、まだおっぱいほしいの? 女王になったのに、子供達が見たら笑われるよ」

 

「ギィ! ギィィッ!!」

 

「冗談、冗談。はい、どうぞ」

 

 ボクを抱き上げた癒威はOKを出すと嬉しそうに口を胸に埋める。

 

 いやはや、少し前まではボクが抱っこする立場だったのに、子供の成長は早いなぁ。

 

 そんなボク達の様子を見た子供達は、ズラリと一列に並び始める。

 

 言うまでもなくおっぱい待ちの列である。

 

 しかしボクの胸はどうなっているんだろうか?

 

 事あるごとにこれだけの人数に吸われているのに、まったく母乳が枯れる気配がない。

 

 しかも萎むどころか、むしろさらに大きくなってるしさ。

 

 我ながら本当に不思議である。

 

 さて今回は盛大な茶番劇を行ったんだけど、その目的は新しい巣の安全の確保にある。

 

 まず、今までの体験でボクは被害者である事の優位性に気が付いた。

 

 種族の繁栄には繭が必須である以上、これからも人を攫ってくることになるだろう。

 

 癒威が産卵できるようになった事もあり、これは更に頻度が増すはずだ。

 

 となればヴィランだけを狙っていても、大規模な失踪事案という事で警察やヒーローが動くのは避けられない。

 

 けれど、ここでオール・フォー・ワンが脳無という改造人間を造っているという事実を明かせば、その疑いは先生へ向くはずだ。

 

 そして彼等はすでにこの世にいない先生を追って、見当違いな捜査を続けるに違いない。

 

 さらに先生の被害者という立場をアピールすれば、ボクへ向く疑惑の目は更に外れるというオマケ付きである。

 

 ちなみにハゲ親父の遺伝子が入った粘液だけど、あれは当人のモノである。

 

 オスというのはどんな生物でも死に際には子孫を残そうとするものだ。

 

 それは高齢のハゲも同様で、頭をブチ抜かれて痙攣している時に少し刺激を与えてやると最後の力を振り絞ってビュッと出したわけだ。

 

 後はそれを研究所にあったスポイトに入れて、リアルさを出す為に自傷行為で体に塗りつけた血糊で溶けてぼろ布同然になったスカートの内側に仕込んでおけばOK。

 

 お陰でヒーローや野次馬なんかの同情をバッチリ引く事が出来ました。

 

 第二の手はハゲ親父の秘密研究所をヒーロー達に発見させる事で脳無製造の事実を明かすと同時に、その地下に造った巣のスケープゴートにする事だ。 

 

 図書館で借りてきた心理学の本では、人間は捜査において一度調べ尽くした場所には意識が向きにくいという。

 

 だからボクは敢えて研究所ではなくその地下に続く通路を根城にする事にした。

 

 幸い、研究所には物資搬入や廃棄物処理の為に複数の大きな地下道が地中深くへ伸びていた。

 

 なので、違和感がない所で工作班の子供達の持つ個性を使って研究所から続く地下通路を塞ぎ、人の眼が届かないようにしたうえで巣の制作に取り掛かる事にしたのだ。

 

 なお、地下道を隔てる壁は研究所の捜査が終わってほとぼりが冷めた頃に撤去する予定である。

 

 当面は巣の制作に力を入れて朧の力を借りながら各地でヴィランを狩るつもりだけど、それでも癒威の産卵ペースを考えると繭が足りなくなる可能性が高い。

 

 あぁ、どこかに町全体がヴィランとかいう狩場はないかなぁ。




アホの子クイーンの汚名返上したぞ!

巣の運営管理と一族繁栄を担うクイーンエイリアンの特性を持っているので、小学校中退で知識はないけど地頭は悪くないのだ。



     
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