月見台市立総合体育館。
月見台市の中心から少し離れたところにある、市民にも開放されている体育館。
月見台市の中総体の会場でもある。
「そろそろ大夢の出番かな?」
「みたいだね。女子バスケのほうは今終わったみたい」
歓声とともに立ち上がる少女たち。反対側には崩れ落ちる少女たち。勝負の世界は残酷だ。その身を投じてしまったのなら、後にはもう"勝利"か"敗北"の二択しかない。
「澪ちゃんもいるね~、ユニフォームめちゃくちゃ似合う、かっこいい~」
「ほんとだ、無口なイメージが強いけど……まるで刃物みたいな鋭さを感じるね」
そんな女子バスケ部の面々にドリンクやタオルなどを渡すのは桜ちゃんだった。遠目に見てもわかる。忙しそうだと。
「一人で回してるのかな……だったら大変だよ……」
「とはいえ、このプログラム表によると15分は余裕あるみたいだし、近くで見られる椅子を探すのが先決かな」
「おっけー」
そんな話をしながら私たちは2番コート……大夢くんの試合が始まるコートがよく見える席を見つけて座る。
バスケのルールの確認とか、ほかに応援に来てる霜月中学校の生徒とかも見やりながら、試合開始に備える。
「思えば、大夢くんの試合見るのは初めてかも」
「あーそっか。つーちゃんいっつも別件で出かけてたもんね」
「去年は季節外れのインフルエンザだったしその前は中学数学の選手権出てたからね……」
「結局あれ私も大夢もうつっちゃったんだよね、大夢だけはボロボロでも普通に動けてたのが今でもわけわかんないけど……そのスタミナが今活かされるってなると楽しみだね」
笛が鳴る。どうやら試合が始まったようだ。
「始まったみたいだね。プロは10分4クオーターだけど中学生は8分4クオーターか……このコートに10人がひっきりなしに動き回るのなら瞬発力も持久力も問われるし、脚は当然のことながら全身にうまく力をかけないと慣性とかでボールコントロールもままならないのが難しそうなところだね」
「わー、つーちゃん今それ呼吸してた?めっちゃ早口だったよ」
「そう?バウンドさせながら進むのはルールだけどそのバウンドだって繊細にコントロールしないとどこ飛ぶかわかったもんじゃないしシュートで投げるにしても綺麗な放物線をイメージするなら……でも高さが違うから一次関数と二次関数の交点を求める感じで、あーでも自身の現在座標を原点としたら二次関数は高校範囲か……」
歓声とボールが弾む音、キュッキュッっとバッシュが床を蹴る音、その音の中で私は思考は回る。集中できている。大夢くんは動き回っている。試合はまだ序盤だ。
試合終了。終わってみれば20点差で大夢たち霜月中学校は勝った。次の試合は2時間後、昼食を挟むようだ。
「私たち、ご飯用意してなかったね」
「だね……食べにいこうか」
確か体育館近くにショッピングモールがあったからそこで何か食べる?なんて話をしつつ、体育館の玄関で大夢たち3人に会う。
「あ、お姉さん!来てくれてたんですね!」
言うが早いか駆け寄ってくる桜ちゃんと、後を追うようについてくる大夢と澪ちゃん。選手の二人はジャージ姿で、ユニフォームの上に羽織るように着ている。
「プレー中、コートから見えてたぞ。応援ありがとな、姉貴。つきねぇも」
「コートからって……だいぶ余裕があるじゃない」
「どういたしまして。でも応援といえる応援はしてないよ」
「つーちゃん途中からノートに数式広げて見てたからね……」
「つきねぇらしいや」
聞くところによると、この三人も今から昼食らしい。次の試合が始まる30分前が集合時間らしいからざっと1時間は余裕がある。とはいえ私たちにはそのご飯がない。
「まぁご飯食べなくても観戦はできるからいいか……」
「よくないよつーちゃん、あれだけ頭動かしてたんだから相当お腹減ってるはずだよ」
「ラムネあるから足りるよ?」
「そういえばそうだったね……」
つーちゃんはその気になると24時間ご飯食べずにずっと数学をやってることなんてざらだからラムネは常備してるとは聞いてたけど……私は耐えられない。
「ん、どーした澪」
ふと、大夢のジャージの袖を引っ張って気を引いた後澪ちゃんは大夢に耳打ちする。
「澪はそれでいいのか?」
コクリと頷く澪ちゃん。すると大夢の背中に隠れるように動いて、何かに気づいたように桜ちゃんの後ろに移動する。
「姉貴、澪の弁当が量多いみたいだから食べて良いってさ」
「いいの?お姉ちゃん本当に食べちゃうよ?」
「だいぶお腹減ってるんだねほーちゃん……」
桜ちゃんが改めて確認を取るとやっぱりいいらしい。じゃあそうと決まればもう食べるしかないじゃないか!昼ご飯!私もうお腹ペコぺコだもん!