二階席に座り、ノートに広げた数式を眺めつつ昼食をとってる大夢くんたちを見る。
「おいしい……!ほんとにいいの澪ちゃん!?」
こくりと頷く澪ちゃん。本人はもう食べ終わったらしく、桜ちゃんの横でぼーっとしてる。
「いいんですか、月夜さん。本当にご飯食べなくて」
「うん。私低燃費だからね」
実際糖分ないしブドウ糖さえ補給できれば脳は動くから、なんて言いながら大夢くんたちを観察する。いつも大夢くんの近くにいる澪ちゃんがなぜか今日は大夢くんを避けていて、桜ちゃんも理解を示しているようだった。喧嘩?いやそんなことはないだろう。普通に会話してるし……会話なのかはわからないけど普通にコミュニケーションが取れている。
「……」
「月夜さん?」
「あぁ、ちょっと不思議でさ。いつも澪ちゃんは大夢くんと一緒にいるのに珍しいなって」
「それはユニフォーム姿だからですよ」
曰く、ユニフォーム姿の澪ちゃんは試合に集中するためパンツとユニフォームしか着てないようで、絆創膏で見えないようにしているとか。わーお
「なるほどね……」
「桜、うるさい」
「いや、それで集中できるって言ってるのに大夢には恥ずかしがってるのめちゃくちゃかわいくて話したくもなっちゃうって」
「ボール、投げる」
「勘弁してよぉ、大夢だってもう知ってることじゃない!」
「……桜、マネする?」
「しないわよ!」
なんてわちゃわちゃした会話に発展する。それを横目に大夢くんは黙々とご飯を食べている。
ほーちゃんはというと驚愕してて、ご飯が進んでないようだった。
「大夢、あんたなんで知ってるのよ」
「……ノーコメント」
遠い目を大夢くんはしていた。きっと色々あったのだろう。
とりあえず……話題を変えようかな。
「それより、次の試合も二人は出るの?」
「あぁ、出るよ。澪も」
「ん」
試合の話を切り出すと、二人の表情はプレイヤーのそれに変わる。真剣な表情で、私を見る。
「そっか。私も見るよ、二人の試合。ね、ほーちゃん」
「だね。弟とそのカノジョの晴れ舞台ときたら見るしかないって。ごちそーさまでしたー」
ありがとうと言って澪ちゃんに完食した弁当箱を返すほーちゃん。どうやら集合時間も近づいてきたようで、そこそこ急いで大夢くんたちは片づけを始める。
「んじゃ、俺たちはいくよ。応援よろしくな」
「もちろん、姉ちゃんに任せなさい!」
「後半も頑張ってね」
そう言って見送った選手たちの背中を見送りながら、私たちは二階席からコートの様子を見るのだった。
終わってみれば、男子も女子も大夢くんたち霜月中学校は勝ち進んだ。それで明日は桜ちゃんも一緒に買い物にいくことになった。話の流れで。大夢くんは澪ちゃんとデートらしい。
勝利の余韻じゃないけれど、大夢くんと澪ちゃん、桜ちゃんはみんな笑顔で帰路についている。
もっとも、この時点での私は知る由もなかった。
──明日の私たちが巻き込まれる悲劇のことを。