月の標に浮かべて   作:Feldelt

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第12話

桜ちゃんとの集合場所に向かう前、私は一人【グリモア】の本部に足を運ぶ。

気になる通知が私の元に来たからだ。

 

「七瀬さん、これなんですか」

 

開口一番七瀬さんに見せたのは通知欄。『特異魔術師』、冥鶉河穏(めうずらかの)が消息不明になったとの情報。

 

「文字通り、【グリモア】で監視していた河穏くんが消息不明になった。現在あらゆる手段を用いて捜索している」

「……それが、なぜ私だけに通知を?」

「河穏くんは……『雛鳥の第三予言』の証明に近づくことのできる魔術を持っている」

「……魔術の複素拡張性……」

 

私も少し水羽から聞いた、雛鳥の第三予言。

もしこの予言が成立するのなら、量子力学的見地も魔術に必要になると思うけど……

 

「うむ。河穏くんの固有魔術は……実数範囲における観測で不自然な点が多くある。だが量子力学的観点から見たら……」

「シュレディンガー方程式……まさかそれにあてはめてうまくいったっていうことですか」

「みたいじゃな……だがそれ故に危険であることも事実。気を付けてくれたまえ」

「了解」

 

それだけ言って、集合場所に向かおうとする直前、スマホが鳴動する。

ほーちゃんからの電話だ。

 

「もしもし?」

「もしもしつーちゃん!?今どこ!?」

 

血相を抱えた声音である。何か良くないことが起こったのは明白。

 

「今集合場所に向かってるとこ。何かあったの?」

「桜ちゃんと桜ちゃんのご両親が一緒にショッピングモールに来ていてね、先に買い物に行ってる~って言ってたんだけど……今そのショッピングモールから魔術素子が跳ねて……しかもなんかよくわからない振動してるからとりあえずつーちゃんに連絡しなきゃってなって……」

「魔術素子の振動……?よく見るものじゃないの……?」

 

実際魔術素子は物理的な振動をすることで魔術を起こしていると言っても過言じゃない。なのに……ただの振動でそんな血相の抱え方をするなんて想像がつかない。それよりも、『跳ねた』という表現のほうが引っかかる。どれにしてもまずほーちゃんと合流しないとなにもわからない。

 

「う、うん」

「了解、すぐ行くね」

 

電話を切り、すぐに《魔術・返却》を使ってほーちゃんの近くへ移動する。

 

「おまたせ」

「わ、さすが《魔術・返却》だ。早いね」

「まぁ、ね。それで、件の振動って……!?」

 

見て驚いた。魔術素子の振動が三次元的なものじゃないからだ。

確かに振動してはいる。それは感覚でわかる。でもその方向が、ベクトルが、感覚だけではわからない。魔術素子に干渉してはじめて魔術素子がどのように振動しているかがわかる。

 

「箱の中の猫が生きているのか、死んでいるのか……」

 

うわごとのようにこぼれた仮説の話。

 

「箱……?ねこちゃん……?」

 

この魔術素子の状態が複数の振動の重ね合わせの状態で、魔術師が観測することで確定するのなら……量子論的な観点で現代魔術を調べることができて、つまりシュレディンガー方程式に当てはめることができたら……魔術は複素数を絡めた世界に拡張できる……

 

でも、今重要なのはどうしてそれがここで起きているのかだ。

 

「……急ごうほーちゃん。悪い予感がする」

 

七瀬さんから聞いた特異魔術師の失踪、量子化している魔術素子、そしてそれが見つかったショッピングモール……その中に桜ちゃんとそのご両親がいるのなら……嫌な創造が頭をもたげる。

 

「うん、つーちゃんと一緒なら大丈夫だよね……!」

 

ほーちゃんの声は震えてる。脚も同じように。きっと、私がした嫌な想像も脳裏によぎったんだろう。否応なしに異常なものを見て恐怖を感じたのだろう。

 

「大丈夫。二人なら」

 

正直、私も怖い。手は震えてるし妙な寒気も感じる。でも、隣にほーちゃんがいるのなら大丈夫だ。そう信じられる。だから私たちはしっかりと手を繋ぎ、ショッピングモールに足を進めた。

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