月の標に浮かべて   作:Feldelt

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第2話

「魔術師……?」

 

それは空想の世界じゃないのかと言いたそうで、でも私の言うことだから信じてはいるといった、文字通り半信半疑の顔を浮かべている。

 

「そうだね……どこから説明しようか」

 

そもそも魔術とは大気中に存在する素粒子、魔術素子の運動であるとされている。その魔術素子を感知、干渉できる存在が魔術師である。

同時に、魔術師と魔術素子との反応により運動パターンが大きく6通り発見されており、六星分布として魔術師の属性分けがされていた。水金地火木天というやつである。

しかしそれは《蒼銀の魔術師》が現れたことでこの10年の間に定義が変わり、今は七曜分布として日月火水木金土の七つの属性に分けられている。

 

「ここまでがまぁ定義的な話で、具体的な魔術の話に入るけど……」

「ストップ。月夜、穂星から煙が出てるわ」

「だよね……って水羽、いつの間に」

「そうね、六星分布のあたりからかしら」

 

ほーちゃんをうちわで扇ぎながら水羽は続ける。

 

「まぁ、あなたたちをここまで連れてきた《魔術・返却》は原理不明のまま使っている魔術なのだけど……《蒼銀の魔術師》はどうしてこれを誰でも使えるようにしたのかしら」

「原理がわからないのに使えるなんて、私としては許せないけど」

「つーちゃんならそう言うよね、私は最初からさっぱり」

 

《魔術・返却》、それが私たちをここ【グリモア】の本部に連れてきた魔術。

現代魔術のブラックボックス、原理不明の魔術。

 

「でも主題はそこじゃない、わかってるでしょ月夜」

「だから、主題への前置きをこれでもかと置いてるんだよ」

「……そう」

 

そう言って再び口を開こうとした水羽。

何かに気づいたように目を見開いて、伏せる。

 

「七瀬さんに報告するわ。説明は任せるわよ」

「了解」

 

水羽の去った部屋の中、おもむろにほーちゃんの隣に座ってその肩に頭を預ける。

 

【挿絵表示】

 

「悩んでるときのつーちゃんだ」

「そうだね……選択はもう決めてはいるんだ。ただ……」

「納め得ると判断できてない、って?」

「ふふっ、そうだね。誰の真似?」

「かっこよくてかわいい私の幼馴染みだよ」

 

二人して笑みが漏れる。繋がれた手のぬくもりと頬に触れるアムブロジア色の髪の感覚が愛おしくて、ここに来た理由を忘れそうになる。でも、それは違う。

 

「……じゃあ、その幼馴染みが今からとんでもないことを言うよ」

「なぁに?」

 

一拍置く。

これを伝えてしまったら、引き返せなくなる。でも、今私を支えている幼馴染みはいなくならないと確信を持っている。だから、安心して言える。

 

「私は魔術師で……どうやら、ほーちゃんも魔術師なんだってさ」

「……そっか。じゃあ私たちは同じなんだね」

「同じ、か……そうだね、そうだよ」

 

目を瞑り、握る手の力を強くする。いつでもどこでも、この子がいるなら大丈夫。

これから魔術師の世界でも生きていくけれど、それでも大丈夫だと思える。

 

「ごほん。あ、あぁ……お邪魔して悪いがそれだと語弊があってだな……」

 

目を開くとばつが悪そうに立つ初老の男性。

厳格そうな雰囲気漂う短くまとまった白髪と髭はただ物ではないと思わせている。

 

「あぁ、七瀬さん。水羽の報告を聞いてきた感じですか」

「いかにも。さて、初めましてお嬢さん。儂はここ【グリモア】の長を務めている七瀬というものだ」

「初めまして、鶴火穂星です」

「鶴火……ほう、あの"コートの火の鳥"と同じ苗字……お姉さんかな?」

「え、七瀬さん大夢くんのこと知ってるんですか」

「なんでっ!?」

「実は儂は【グリモア】配属以前弥生中学校のバスケ部コーチでな……」

「知らなかった……」

 

とまぁ、蓋を開けてみれば普通のおじいさんに見える。

物腰も柔らかで話しやすく、表情も豊かでこの人が本当に魔術師なのかと疑いたくもなるけれど、実力は相応のものらしい。

 

「さて、では本題に入るとするが……月夜くん、君は特異魔術師である以上穂星くんと完全に同じとは言えない」

「……わかってます、私のこの瞳がその元凶であることも」

「その件に関しては不自由を強いて申し訳ないと思っているが……残念ながら、君を野放しにはできないのだ、本当にすまない」

 

頭を下げる七瀬さん。理由はわかってる。だから反発もできない。

 

「その……特異魔術師ってなんですか?」

「簡単に説明するならば……指名手配、といったところだろうか」

「つーちゃんは何も悪いことしてないのに?」

「そうだね、その通りだ」

 

特異魔術師は、現代魔術師において定義されない謎のある魔術師が一時的に区分されるものであったが、長い期間特異魔術師に指定されているのは私と《蒼銀の魔術師》しかいない。

 

「使う魔術がよくわからない、というのが特異魔術師の基本だね。現に、月夜くんの右目、『月紅の瞳(げっこうのひとみ)』は原理不明で今のところは光信号を媒介として受信した対象の意識を奪うことしかわかっていない。なぜそのようなことが可能なのか……それがわからないんだ」

「なるほど……」

 

実際、私もよくわかってないままこの力を使っている。つい最近だとほーちゃんがナンパにあったところを問答無用で意識を吹っ飛ばした時とか……あとで水羽に聞いた話だとそれから3時間は起きなかったらしいけど……

 

「もっとも、月夜くんの場合は瞳よりも体質……『魔術素子の運動情報そのものに干渉し付与した魔術効果が歪曲させられること』のほうがよっぽどの謎だね、魔術素子に干渉できることが魔術師の条件ではあるが、動き始めた魔術素子の運動そのものを変えるのは……少なくとも珍しいの範疇には収まらないほどの存在だね」

「へぇ……」

「ほーちゃんからまた煙が出てる……無理もないか……」

「新しいもの、知らないものを過剰摂取したようだからね。今日はもう帰ってゆっくり休むといい」

「そうさせてもらいます」

 

一礼して踵を返す。【グリモア】本部の地理的場所は不明だけど、《魔術・返却》は誰でも使える。

移動先の座標を鮮明に意識すればあとは即座に移動できる。

 

「着いたよ」

 

ほーちゃんと一緒に私たちの家の前まで移動する。そろそろ大夢くんも帰ってきてる頃合いだろうし……ごはんの準備しなきゃだね。

 

「おー、つきねぇ、姉貴、おかえり」

「ただいま大夢~、姉ちゃん今日はヘトヘトだよぉ~」

「そうかい、つきねぇもヘトヘトっぽそうだし、俺が作るよ」

「いいの?大夢くんだって部活終わりで疲れてるはずでしょ?」

「素麺ゆでるくらいならできるって……ほら、手ぇ洗って」

「ありがと大夢~」

「制服を脱ぎっぱなしにするんじゃねぇ!下着姿でひっつくな!」

 

とまぁ、非日常は終わって日常に戻っていく。

変わっても、変わらない。それが本当に大切だと思った。

 

「つきねぇ!こいつなんとかして!」

「私も着替えるから……任せるよ」

「んなぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

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