月の標に浮かべて   作:Feldelt

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第3話

つーちゃんから魔術師だよって言われた次の日。

ベッドから降りて朝のルーティンをこなす。

 

「つーちゃん、朝だよ」

「ん"……無理……」

「だよね……大夢も起こしてくるから後でね~」

 

朝の6時。私は平気だけど、つーちゃんは本当に朝がだめだ。

昔からつーちゃんはそうで、夜寝るときと朝起きた時でテンションの落差が激しい。

もちろんほかの人から見れば常にテンションが低いつーちゃんの落差なんて大したことはないだろうけど、もう10年も一緒に住んでるとよくわかる。

 

「大夢~、部活遅れるよ~」

「う~い……」

 

のそのそと起きる大夢は部屋の扉を閉じる。ここまでが朝のルーティン。

つーちゃんが起きるかどうかは結構運だけど……まぁ、昨日あんなに悩んでたからもう少し休ませてあげてもいいかな……

 

「おはよ、姉貴……んー……」

「起きたね大夢、顔洗っといで。パンは自分で焼いてよ」

 

トースターの音とともに大夢は洗面所に消えていく。

三人分の目玉焼きとサラダを用意しつつ、トースターから食パンを取り出しバターを塗る。

 

「あぁそうだ、つーちゃんのためにコーヒー淹れなきゃ」

「ん……」

 

つーちゃんが起きる。

いつもサイドテールにまとめてる髪は寝起きだとぼさぼさで、いつもの目に宿る冷たさともとれる鋭さも全くない。実のところ、私はこの状態のつーちゃんが一番好き。

 

「ちょうどコーヒーできたよ、そろそろ大夢も出てくるかな」

「お、つきねぇ起きたか、おはよ。ほい櫛」

「おー、大夢気が利くじゃん」

 

大夢から櫛を受け取り、つーちゃんの髪を梳かす。

つーちゃんはコーヒーを飲んで、大夢はパンを焼く。

 

「目が醒めちゃった」

「おはよ、つーちゃん。眠れた?」

「眠れてはいるよ。起きたくないだけで」

「なかなか無茶言うね……」

 

綺麗な雪色の髪をいつものサイドテールにまとめあげ、つーちゃんの瞳に鋭さが戻る。

 

「まぁ、無理なのはわかってるけど」

「つきねぇの分も焼いていいか?」

「お願いするよ」

「じゃあ、ご飯食べよっか」

 

 


 

 

月見台第一高校はただでさえ台地の月見台のさらに高台にある。

だから学校に行くとき階段や坂を上るわけだけど……おかげで毎日足が痛い。

 

「不親切な場所にあるなぁ……つーちゃん、昨日のあれですぐ行けたりしないの?」

「行けるけど……見られたら面倒だから使わないかな」

「それもそっか……」

 

ふと思い出して昨日の瞬間移動で行けないかと聞いてみたけど、結果はこの有様。

そこから会話が続かない。

 

(あれ……?会話が続かない……いつもなら、いつもならいろんな話をして教室に着くまでずっと話が続いているのに……)

 

「練習すれば」

「……?」

「練習すれば、使えるかな、あれ」

 

ふと声に出たのは魔術への興味。昨日帰る時、つーちゃんが使った《魔術・返却》は私も使ってみたい。私の知らない世界でつーちゃんが得たものを、私も。

 

「……そうだね。学校終わったら【グリモア】で魔術属性調べてみよっか」

「魔術属性?」

「あれ、話してなかったっけ?月火水木金土日の七曜属性のこと」

「つーちゃんの声だけしかわからなかった話だ」

「あぁ……」

 

これも昨日聞いた話。正直私は難しい話が苦手で、つーちゃんは難しい話をしてる時が生き生きしてるから話の内容よりそんなつーちゃんを見てるほうが好きなんだけど……つーちゃんは話の内容を聞いていて欲しいんだよね。

 

「じゃあ、つーちゃんは何属性なの?」

「月属性だよ」

「おー、さすが『月見台の白き月』だね」

「誰が最初に広めたんだろうね、その呼び名……」

「かっこよくて私は好きだけどな~」

 

『月見台の白き月』。いつからかつーちゃんがそう呼ばれるようになった。通り名というか、二つ名があるってかっこいいって思う。実際つーちゃんはかっこいい。それ以上に可愛い。でも、それを知っているのはこの月見台では私だけ。

 

「でも私は、ほーちゃんが『つーちゃん』って呼んでくれるほうがいいな」

「っ……ふふっ、私も『ほーちゃん』って呼んでくれるのが一番好きっ!」

 

二人して笑顔で歩く。さっき、《魔術・返却》で一瞬で学校に行くってことを考えたけど、この時間が、つーちゃんと並んで話す時間が無くなってしまうのは嫌だ。だから、つーちゃんは使わなかったのかな。

 

「朝からだいぶいちゃついてるわね。月夜、穂星」

「あ、水羽。おはよう」

「おはよー」

 

そんなことを思っていると、下駄箱でつーちゃんのクラスメイトの水羽ちゃんに会った。この子も魔術師なのは昨日知ったけど、正直個人的には苦手だったりする。

 

「のんびりしてるのはいいことだけど……あぁそうだ穂星。昨日の今日で悪いけど今日も【グリモア】本部に来てもらうわよ」

「その言い方……ほーちゃんに拒否権はないの?」

「……あるわよ、ただ急ぎのほうがいい要件ではあるわ」

「魔術属性の話?」

「そうよ、察しがいいわね」

「来る途中その話してたしね、私は全然いいよ」

「そう、じゃあ放課後に」

「おっけー」

 

水羽ちゃんの要請を受け入れて話を切り上げる。教室に入るためだ。でも残念ながら私は2年1組。つーちゃん達とは違うクラスだけど、毎日一緒だから寂しくはない。クラスにも友達はいるし、今日も元気にがんばるぞ!

 

「じゃ、つーちゃん。またお昼に!」

「うん、ほーちゃん。それじゃ」

 

これが私たちの日常。魔術師だろうが何だろうが、これが私の大切な、大好きな日常。

もし私が魔術師として色々することになっても、この日常だけは絶対に守っていきたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

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