月の標に浮かべて   作:Feldelt

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第4話

放課後、いつもの場所で待ち合わせた私とつーちゃんは馴染みの喫茶店「ルナ」に足を運ぶ。

 

「いらっしゃい、そろそろ来る頃合いだと思ったよ」

「マスター、二人席空いてる?」

「空いてるとも」

 

小洒落た狭い店内に漂うコーヒーの香り。学校が終わって小腹が空いてくる時間帯に食べるここのフレンチトーストは本当においしい。

 

「フレンチトーストとコーヒー、キャラメルマキアートをお願いします」

「君たちはもう、いわゆる『いつもの』という注文でいいんだよ?」

「それじゃあマスター、『いつもの』で!」

 

なんて会話をするくらい私たちは通い詰めている。

最初はつーちゃんだけでコーヒーを嗜んでいたっていう話らしいんだけど、一緒に来た時に私も常連になった。

 

「あ、Newtonの新刊だ」

「さすが気づいたかい」

 

おもむろに赤い表紙の雑誌を手に取って読むつーちゃん。これはつーちゃんが大好きな雑誌で、学校の図書室にも置いてあるから毎回目を通しているらしい。

 

「へぇ、ABC予想って証明されたんだ……」

「ABC予想?」

「うん、内容はうまく説明できないけど……そうだね。今まで『これが正しかったらいいな』っていう予想のうちの一つで、これが証明できると数学の世界がよりわかるようになるもの、かな」

「へぇ~」

 

さっぱりわからないけど、目を輝かせて話しているつーちゃんはとても可愛い。つーちゃんは数学が好きで、もっと言うと『よくわからないもの』に興味がある。それをわからないままでいることに納得できなくて、いろいろなことを調べてはより深いところまで知ろうとするのだ。

もっとも、つーちゃん自身が納得した瞬間にその対象への興味は薄れていくから、例えば本当にわからないもの、未解決のものに手を伸ばした後のつーちゃんなんかは「わからないことがわかった」って納得してたりする。

 

「はい、『いつもの』お待たせ」

 

そうこうしてたらマスターからいつものセットがテーブルに届く。

 

「ありがとうございます、マスター」

「いただきまーす」

 

フレンチトーストを口に運ぶ私と、眼鏡を曇らせながらコーヒーを一口飲むつーちゃん。

 

「ん~、おいしい!」

「そうだね」

 

コーヒーを置いてつーちゃんはフレンチトーストにクリームを塗り、ナイフとフォークで上品に食べる。一人で食べるには量が多いから、私たちはいつも半分こ。

 

「そうだ、つーちゃん。これからまた行くの?」

「そうなるね。七瀬さんには水羽のほうからもう話が行ってるみたいだから、到着次第すぐ調べられると思うよ」

 

話題に出したのは魔術属性を調べることについての話。

つーちゃんが魔術を使っているところを側で見ていても、私に魔術を使えるなんて自覚はまだ全くない。

それでどうやって調べるんだろうね、なんて話をする。

 

「イメージとしては……CTスキャンかな」

「寝っ転がって機械がういーんって動くあれ?」

「そう。魔力素子を全身にぶつけて反射してきた魔力素子の運動パターンを調べて統計的に結果を出すのが【グリモア】でやってる魔術属性の調べ方だね」

「なんというか、思ったよりも技術的だよね。魔術っていうからもう少しオカルトチックなものかと思ってたよ」

 

キャラメルマキアートを飲みながら、魔術というものへの感想を話す。

 

「だから、私は魔術師であることを受け入れたんだよ」

 

そう言うつーちゃんの眼は、やっぱり輝いていた。

 

 


 

 

「到着したようだね」

「来ましたよ、七瀬さん」

「こんにちは~」

 

会計を終え、人目の少ない場所で《魔術・返却》を使うことで【グリモア】本部に移動する。

毎度毎度、地理的座標がわかってないのにどうして【グリモア】は《魔術・返却》で移動できるのか……というか、毎度毎度同じ場所に到着するのは……

 

「……」

「月夜くん?」

「いや、ここの足元にもしかすると《魔術・返却》の到着座標を固定している何かがあるのかなって思って……」

 

しゃがんで足元を調べるつーちゃん。

制服をスラックスタイプにしてるから見られる心配もないのかのびのびと足元を調べているつーちゃん。確かにこの足元はおあつらえ向きに少し盛り上がっているけど……

 

「当たりだよ。詳しい話はのちにするとして、今は本題を優先しないかね?」

「……わかりました。行こう、ほーちゃん」

「うん」

 

七瀬さんに連れられるまま、【グリモア】本部の一室に入る。

 

「ではこれから穂星くんの魔術属性検査に入る。装置の中に入ってはくれないか」

「はい」

 

装置と言われた機械は中心を囲むように立っていて、私が立つことで初めて動くようになっているのあなと思った。

 

「これで、いいですか?」

「うむ。それでは始めるぞ」

 

七瀬さんの声とともに機械が起動して動く。私の周りをぐるぐると動いている。

 

「ふむ、もうよいか」

 

機械が4周したところで七瀬さんが機械を止める。

私に残る感覚と言えば、少し熱いと思うくらい。それも機械が動いたことによる放熱にあてられたのかなって思ってたんだけど……

 

「穂星くん」

「はい、わかりましたか……?」

 

額に汗が浮かぶ感覚があったからハンカチを取り出す。やっぱりちょっと熱い。

 

「君は火属性魔術師だ」

「火属性……」

「今、ほーちゃんは熱いでしょ?それはほーちゃんにぶつけた魔力素子の運動が火属性魔術の、物理学的に言えば熱運動に関わってるからだよ」

 

???

何を言ってるかわからない。つーちゃんは考え事モードに入って集中し始めている。

 

「穂星くん、まずは事実だけを受け止めたまえ。とはいえ、【グリモア】において火属性魔術師は君が初めてでね」

 

改めて事実だけを七瀬さんは提示してくれる。

私は火属性魔術師。今日はこれがわかればいい。

 

「さて、では月夜くん。魔術の使い方を教えてあげてほしい」

「……魔術を使うことがないかもしれないのに?」

「君の言い分はわかる。だが、君がそうだったように……」

「あぁ、そういう」

 

つーちゃんと七瀬さんの会話は私に魔術の使い方を教えるという話。

魔術かぁ、どうやって使うんだろ。

 

「水羽くんにも話はしておくよ」

「了解です、でも今日は帰ります」

「そうするといい。儂もこちらで調べておこう」

 

一礼してつーちゃんとともにまた《魔術・返却》で【グリモア】を後にする。

 

「つーちゃん」

「ん、なぁに?」

 

足を止めて振り返るつーちゃん。歩調が速くなってるときのつーちゃんは考え事をしてる時で、決まってその考え事は良くない方向に進んでいる。

 

「私が、魔術師になるのは嫌?」

 

思えば、つーちゃんの表情は暗いままだった。ずっと悩んで、苦しんでるような。

私もわかっていた。私が魔術師であることを教えてくれた時も、こんな表情をしていたから。

 

「そうだね……嫌じゃないと言えば嘘になるけど、嫌だと言っても嘘になるかな」

「そっか」

 

でも、聞いたらつーちゃんは答えてくれる。

 

「私のわがままだよ、私は結構狙われること多いから……巻き込みたくないんだ」

「狙われる……?」

 

なんで?そう続けようとしたのに、つーちゃんが急に私の手を取って駆け抜ける。

思考も何も置いていかれて、私がわかったのはさっきまで私がいた場所に光が降ってきたことだけ。

 

「……最悪、よりによって今来るんだ」

「つーちゃん?」

 

周りには覆面のいかにも怪しい人影が3人。囲まれている。

 

「さっき狙われてるって話したでしょ?まさに今がそれ」

 

大きいため息を吐きながら、つーちゃんは私の前に立って3人を見据える。

 

「怖い?そうだよね。だから、巻き込みたくなかったな……!」

 

 

 

 

 

 

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