俺と余語は心海、白傘達と合流した。
心海は息切れしていた。
「心海も白傘達も大丈夫そうか?」
「はいでまさか獣を放って箱を食べてしまうなんて思いませんでした。追いかけましたが足が速いですし追い付くのは厳しそうです」
「あまり無理するな」
「はい…」
そう言う心海はやっぱり疲弊していた。
「それにしても猪に狼に熊か」
「森の王者の集いだね」
「全員パワーとスピード、後は賢いな。授業で習った」
「みんな銃でパンできたら良さそうだけど」
「お前やれよ」
「ちょっと無理がある…」
「しかし追いかけなければ見つからないのも事実…」
白傘がそう言った時、ドドーンと木々が倒れる音がした。
「行ってみよう」
俺の声にみんなは頷く。
音のした方に行くとカオルがいた。
「桜ちゃん!?」と余語がすっとんきょうな声をあげた。
猪が目を回してひっくり返っていた。
「まさかカオルが猪を倒してしまうとは。さすがすぎる」
「でしょーふふん。あっ、でもこの猪の玉手箱空っぽだった」
「二つは幻術なんだ。狼か熊が本物を持ってるはずだ」
「残念。追いかけ回したけど速かったんだよね狼も熊も」
カオルは軽くそう言ってるがやってることは捜索ではなく狩りである。
「これならもしかしたら勝てるかもしれませんね」
心海がそう言った。
「そうだな、行こう」
俺達は森の奥へ進む。
歩いて30分経った。
川辺を見つけ水分補給をする。
「飲んで大丈夫かな?」
余語はそんなことを言う。
「飲まないと日射病だか熱中症のなって暑さで死ぬぞ」
「うーん。そうだね」
川の水がぶ飲みできて何ともないのは多分魔法使いだけだから真似はしないように。
カオルは心海の手を取って水に足を付けて遊んでいた。
余語もそこに加わりたいようで飛び込んでいった。
ザッバーンと水の跳ねる音がしカオルと心海の笑い声が響く。
「ああぁ生き返った飲んだ飲んだ。…そういえば俺、白傘達に聞きたいことがあったんだ」
「なんでしょう?」
「お前達は心海を本物の波魂姫にさせるつもりじゃないだろうなって思ってるんだ」
「なるほど…それは名案でございますね」
「っ!」
「冗談でございます。たしかに主のいないこの時、あの姫様こそ我らの波魂姫様です。名は違えど体格に声や仕草、怒り方もよく似ており瓜二つ」
「海靈とは仲が悪いと心海から聞いた」
「そうですね…よくお二方は喧嘩をしておられました。価値観や考え方。金銭でもしっかりしておられたのは姫様の方でした。対する海靈様は姫様よりも浅くあちらこちらと外へ行ってしまわれる。しかし優しいお方です。我らに生活する術を授けたのも海靈様なのですから」
「優しい神様か。まあ人間に対してではなさそうだがそこだけ聞くとそうかもな」
「しかし何も考えてないような薄さは姫様からしたら疎ましく感じたのかもしれません……。次第に会話は減りやり取りも少なくなり50年に一度行われる祭りの一週間前だけお会いする仲になったのです」
「…夫婦なんだよな?」
「左様です。おや…どうして泣いておられるのです?」
俺は何故か泣いていた。
見えない光景が見えた気がした。
「俺は二人に仲良くしてほしい。喧嘩してしまうのはしょうがないけど価値観や考えが違ってもきっと二人とも考えてたと思うんだ」
「…何をでしょう」
「二人で一緒にいることをだ」
「………」
「波魂姫はしっかりしているんだろう。考えも持っていてそれを見せれる器用さがある。
海靈は多分不器用だ。でも波魂姫のことが大好きなんだ。
心海が波魂姫じゃないことにも気付けないくらいその好きは盲目で薄く見えるくらい不器用だ。
それでも一緒にいたいからきっとここまで歩いてるんだ」
「ですが本物の波魂姫様はついぞ来ませんでした。海靈様や我々の情けなさや愚かさに呆れどこか遠い地へ行ってしまったのかもしれませぬよ」
「…来れない何かがあったのかもしれない」
「と言いますと?」
俺は首を左右に振った。
波が止まらなかった。
「…分からないよそんなの。でもお前達はもう少し主を信じろ」
「………。魔法使いの人の子よ。あなたの物語は面白いですな」
「言い返す言葉が思い付かなかったからってそれで返したつもりか妖が…」
「そうですな」
「顔を洗ってくる」
「はい」
というかあの三人ずっと遊んでたのか。
俺は心海とカオル、びしょ濡れになっていた余語に声を掛けた。
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「びしょ濡れですね志郎さん」
「飛び込んだからね頭から」
「あとでドライヤーだね志郎くん」
「お願いするね」
「お前らなぁ…」
ここから二手に別れて獣を追い込むように誘いこみ仕留めようという作戦だ。
どちらかに前衛が必ず必要ということであり余語も心海も前衛向きではない。
「俺とカオルがどっちかに付かないとな」
白傘達じゃ恐らく仕留めきれない部分もあるはずだからな。
「さて、チーム分けは…」
「龍太、俺久しぶりに桜ちゃんと組んでいいかい?」
「ん?なんかあるのか」
「うん、いつもはパトリシアとだけど桜ちゃんの速さも借りたくてね」
「なるほど。カオルは?」
「オッケーだよ!食らいついてきてね」
「え?が、がんばるよ…」
「それなら俺が心海とだな。よろしく」
「お願いします龍太さん」
「よしじゃあ追い込み猟を開始だ」
ところでパトリシアはどこで何をしてるんだろう。
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「龍太さん白傘達と仲良くなれましたか?」
「見てたのか?」
「はい、やはり一緒に行動する以上は会話は必要ですから」
「さすが波魂姫様。ご慧眼です」
俺ではなく白傘が返事をした。
「白傘、他の白傘達は?」
「私の指示で赤傘達の動向と獣の探索をお願いしてるんです」
「作戦は完璧だな」
「そうですね」
「姫様報告です」
白傘の一人が茂みから出てきた。
「どうしました」
「西より狼が進行中です」
「わかりました。ありがとうございます」
心海がそう言うと白傘は再び茂みに姿を消した。
「どうやらあちらから来てくれるようですね」
「はい、手間が省けましたね」
「向かうか」
「行きましょう」
俺達は西へ歩く。
しばらくして風が切る音がする
「来る…!」
俺の声と同時だった。
巨大な狼がこっち目がけて走ってきた。
振るわれる爪と牙を俺は防ぎ狼の頭に光を灯した拳を叩きつける。
ガンっ!と岩でも叩いた音がした。
「いってえぇ!!」
想像以上に固かった。
狼は一声吠えた後再び攻撃姿勢を見せた。
「海の契りを!!」
心海の身体に水の羽衣が現れる。水で出来た鮫が狼を吹き飛ばす。
「おおすげぇ」
感心してしまう俺。
だが決め手にはならなかった。
狼は素早く立ち上がり風のような速さで迫る。
身構えたその時だ。
俺達の背後から稲妻が轟いた。
「今のは…!」
俺の声の先にいたのは右手に紫色の雷鳴を纏わせていた男。
海靈だ。
狼の口から玉手箱が出てきて海靈はそれを開けるが空っぽだ。
海靈はこっちを振り向いた。
「これで一対一だ海琴」
「…。一対一じゃありませんよ。大事な物が入ってるんですよ妖様。だから必死なのに」
「…うん。そうだね。ん?…おや?そちらの彼は人の子かな?そういえばさっき俺と目があったね。君でしょ」
「……」
さっき泣いてしまった時、二人の記憶がいくつか入ってきた。二人の会話が本物の波魂姫と海靈と会話が同じすぎて勘違いしそうになる。
「聞いてるー?」
「?え……あぁ、そうだ」
「どうしたの?あぁルール違反とかは思ってないから心配しないでいいよ。海琴は人海戦術にすごい長けていたからね。俺の知らない所で思い付かない作戦も立てたりもしたから。あの天魔のお嬢さんと言い…君といい。今回も完璧の布陣というわけだ」
この男、めちゃくちゃ強い。いったいどれ程の来歴と力を得ているんだろう。
「あとは熊か…」
「そうだね。手強いだろうけど負けられないから。大事な物入ってるから」
右手には蛇の稲妻が巻き付いており大きな力を持っていることが分かる。
「それじゃあ、先に行くよ」
紫の稲妻の閃光を残して消えていった。
「俺達も熊を探そう。
追い込み作戦は成功しているからな」
「はい…!」
そうして歩いてる内に滝の見える絶壁に着いた。
「これは壮観ですね」
「カオルや志郎もどこかでこれを見れただろうか」
というかパトリシアはマジでどこに?
そう考えた時だ。
カラカラカラカラと音が鳴った。
紐が伸び俺と心海の足を打った。
罠だと気付いた。
「姫様!」
白傘が心海に袖を伸ばし掴む。だが俺…心海と白傘は滝へと落ちていった。
ーーーーーーーーーーーー
「…きてくだ……お……くだ……い」
誰か俺を呼ぶ声がする。
俺は目を覚ます。
いや正しく言うと夢を見ていた。
心海が俺を呼んでいた。
「心海…?」
「……いえ…その…海宮海琴と言います」
俺は起き上がれないでいた。
「本物の波魂姫…?」
そっくりだ…というかほぼ顔立ち同じだ…。これは間違えて不思議はない…かもしれない。
「身体を…酷く打っている…みたいです…」
「しばらくは起きれないな」
「私が…傷を癒しています…それまでは…」
「今まで…どこに?」
「ごめんなさい…近く…です。でも…わかりません」
「…???」
「あなたは…夢から繋がりやすいから…私の声が…届きました。どうか…私を…見つけて…」
彼女がまだ何かを言っている。
聞こえないよ。
見つけるって?
どこに…?
夢が終わりを告げていくのが分かる。
見つけるってどこに?
ーーーーーーーーーーーー
パシン!とほっぺを叩かれて目を覚ました。
「っいたい!」
「龍太!」
パトリシアがそこにはいた。
「パトリシア…!今までどこに」
俺は身体を起こす。
もう痛みはなかった。
「あなた…誰かと会ってた?」
パトリシアは俺の瞳を覗き込んだ。
「あぁ…。多分本物の波魂姫と会ってた。見つけて…って」
「そう。まだ見つけれてないの」
「もしかして今まで探してたのか」
「私、波魂姫は封印されたんじゃないかって思ってその路線で探してたの。でも赤傘と白傘…思ったよりガードが堅牢で…祭りの当日まで言えなかったのよ。でも当日になってあいつらはどちらが勝ってもいいようにその後の行動をしてるのよ」
「…?!?ちょちょ…!ちょっと待ってくれパトリシア。その言い方だと元凶は赤傘と白傘になるんだが…心海と海靈と波魂姫は被害者になる」
「そう言ってるでしょ!」
「しかも封印?誰が?何のために?」
「決まってるでしょ」
「傘達…?」
「そうよ」
「まさか…最初からグルだったのか…」
思えば怪しい要素はあった。
心海に対しては心を許していたが俺達に対しては距離を取るように話していた。
それは心海が波魂姫だからであり俺達は人間だからと思っていたが違ったんだ。
邪魔が増えたと思っての警戒だったんだ。
あの罠は恐らく白傘達が仕掛けたもの。
「封印された波魂姫はどこに?」
「私が知るわけないじゃない。封印された可能性が高いってだけ。それより龍太、心海と一緒じゃなかったの?」
「え……」
俺は気付く。心海がいない。
落ちた時にはぐれたんだ。
「まずい…!白傘達と一緒だ!」
俺は立ち上がり動こうとするが足がまだ動かなかった。
パトリシアは舌打ちした。
「しょうがないわね…!」
パトリシアは俺を片手で抱えた。
「龍太!飛ぶわよ!掴まってなさい!」
「いや待て掴まるてどこにぎゃぁぁぁぁぁ!!」
パトリシアは翼を広げて跳躍する。
飛ばれるのは無理だ。
ーーーーーーーーーーーー
「大丈夫ですか?」
「はい、少し足を痛めたくらいに過ぎません。姫様を守れたなら誇りの痛みでございます」
私は落ちてく中、白傘が身代わりとなって肩代わりをしてくれました。
龍太さんとははぐれてしまいましたがきっと無事です。
大きな狼の攻撃にも耐えた人なのですから。
まずは合流しましょう。
あの罠は赤傘達の仕掛けた罠。
おそらく獣を引っかけて捕まえて仕留める手筈の物と思えます。
「ここで少し休みましょう白傘。せめて足を治療させてください」
「姫様自ら…なんと。しかし…」
「いいのです。私を助けてくれたのです。当然のことをするまで。すぐ戻って来ますね」
私は川に行き、水の元素を取り込みます。
目の前に壊れた社がありました。
「こんな所に社?」
かなりボロく小さく手入れもあまりされてないような状態でした。
人というより妖が手入れしているような社です。
そこに一つ大きな化粧箱がありました。
「化粧箱…?」
開けると薄紫色に弱く光る真珠が一つ入っていました。
「大きい箱に一つですか…」
何となく持っておいたほうがいいような物と思えました。
「姫様ここで何を?」
「すみません、お待たせしました…。っ?!」
その姿を捉えた時、私の意識は消えました。
ーーーーーーーーーーーー
「目的は立場の入れ替わりと信仰の略奪だ」
「立場の入れ替わりは分かるわよ。でも信仰の略奪って何?」
パトリシアに抱えられたまま俺は喋る。
ちなみにあまりの激しさに一回吐いた。
「あいつらには神様としての名前が与えられている。波魂姫命、海靈尊命だ。神様ってのは人間の祈りや願いが信仰として存在感を強く発揮する。この世界が魔法に包まれる前はそれだけだった」
「続けて」
「でもここは魔法の世界となって大きな力を使えるようになった。肉体を持てなかった彼らはその大きな信仰心を器として受肉にすることで精神と共に肉体を持った。だがそうじゃなかった時もこの祭りは続いてて二人の神は会うことが少なかった。傘達からしたら面倒くさく力を持った二人を厄介な関係に見えたはずだ」
「その面倒と厄介を取り払って自分達がその場所に立とうとしてるってことね」
「多分…。50年前からそして今。その月日の間のどこかで波魂姫は傘達に見つかり封印されてしまった。その間に信仰を受けれなくなった波魂姫は自らの力で封印を解くことができなくなった」
「そして今度は海靈を封印しようと目論んでいるってこと?」
「そうだと思う。あわよくば心海も封印しようとするかもしれない。すごいそっくりだからな」
「神って封印できるものなの?」
「その白傘と赤傘も神だから出来たんだ」
「…は?なんですって…?待って、名前もあるのよね?」
「今なら分かる。七福神の一体…大黒天。でもどういったわけか黒から真っ白になった。今のあの傘は大白天っていう妖そのものだ。白は昇華を意味するが赤は怒りも意味する。あの二人の神様を見ていて何か思うところが傘達にあったのかもしれない」
「なんで毎回変なものを私達は背負ってくるのかしら…。
カオル達と合流するわよ」
「了解」
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目を覚ますと大きな海ユリを手折った檻の中にいました。
こんな檻、簡単に破れてしまいそうなものですが手や足は海ユリの粘液が枷の代わりを果たしていてほどけません。
「お目覚めですか姫」
白傘と赤傘が並んでいた。
「…私を解放してくださいお祭りは途中です。それにどうして赤傘と一緒に」
「存じております。勝負は海靈が勝ちます。しかし姫が封印されそれを知った海靈は暴れ回り海を壊す。そして物の怪となった海靈は魔法使いに滅される。それができなかったら封印して力を削いで滅しましょう」
「封印…?どういうことですか?」
「姫、わかりませんか?
姫が探している波魂は我々が封印し力を失ったことに」
「そんな…」
「最早姫はただの娘と代わり映えしません」
「この真珠は…」
「おや、お持ちでしたか?それは没収させていただきます」
「ダメ!返しなさい!」
「あぁ…握り潰せば簡単に死んでしまいそうですね」
白傘は真珠を強く握る。
「あっ…!!がはっ!」
私は首を絞められたように悶える。
「やはり似ているからでしょう。気付かないと思っていたんです?"繋がりやすい"。抵抗は諦めてください姫」
私は理解した。
目的が何かは分からないですが波魂姫と妖様を封印して自分の地位を持とうとしているのだと。
「あなた方は…妖様から農業や製塩を教わり生活できるようになったことを感謝をしていたのではないんですか」
「えぇもちろん感謝しています。我らの自立のために。そのために姫、あなたも封印させていただきます。祭事のことはご心配なく。我々が滞りなく終わらせますから」
檻が狭まり力がどんどん抜かれていく。
もう限界です。
思い出すことは妖様のことでした。
海琴海琴ってあんなに自分を思ってくれるなら心海と名乗れば良かったような気もします。
故郷にも帰れませんでした。
読みたい本も沢山あったのに。
オロバシ様は別の世界で楽しく釣りをしながら生きてますと伝えたりもしてみたかったですけど。
…無理そうです。
魔法使いの皆さんご無事でしょうか…。
どうか後を頼みます。
そう思って瞳を閉じた時でした。
稲妻と炎と目映い光が辺りを包みました。
「無事か海琴?」
「そりゃ無事でしょ」
「なんとか間に合って良かった」
妖様とパトリシアさんと龍太さんの姿がそこにはありました。
最終決戦に入りましょう