夢覚めぬ者   作:うろ底のトースター

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サイドストーリーです



サイドストーリー
春影


魔術は、大まかに分けて”血統魔術”と”基礎魔術”の二つがある。

 

前者は、その名の通り、特定の一族のみに伝わる特殊な魔術を指す。”氷魔術”や”星魔術”などがこれに当たる。そして、”血統魔術”の保有者は”基礎魔術”を保有することはできないという特性も持っている。

 

後者は、魔術の基礎となる六属性を操るもの。それぞれ、炎、水、風、雷、光、闇があるが、誰もが六属性全て操れるというわけではなく、”適性”を持つ属性のみが使える。

 

【2022年版非術士でも分かる魔術基礎論】より

 

──山陰寺家(ウチ)から言わせればふざけんな、である。

 

基礎は、正しくは()属性。

 

千年か、もしくはそれよりも前の時代には、前述六つの属性ともう一つ、影があった。本家、ウィスプ家の蔵書には七つ目の影を示唆するような記述がある。

 

これさえ公表すればもうちょいウチの評価も変わるだろうとは常々思っているのだが、

 

──影も知らぬ愚か者に見せてやる筋合いなどない

 

というのがウィスプ家とその分家である山陰寺家の意思である。愚か者って・・・いや否定はしないけど。

 

魔術貴族なんて所詮ろくでなし集団だ。少なくともヨーロッパではそう。

 

閑話休題。

 

この影魔術、忘れ去られるまで衰退していった明確な理由がある。

 

一重に、汎用性の低さと習得難度。

 

だってできることなんて影に潜って影から出るくらいなもんだし、影の内部が液体みたいになってるから潜水技術が必要だし・・・。物突っ込めるからバックパック要らずではあるんだけどそれだけのためにこんなの習得すんのも、ねぇ。

 

なんなら、そもそも他の属性に比べてとーっても適性を得にくい。

 

要らない子扱いされても仕方がないところはあるよね。ウチが没落貴族化するのも無理はない。

 

ま、そうやって影魔術は衰退を続け、ついにその存在を明確に知っているのがウィスプ家の系列のみになったんだけど。

 

そんな折に、影にとんでもない適性を持った俺が産まれた。

 

はい、英才教育開始です。

 

うん、分かるよ。一族の悲願背負ってんのは分かるんだけどさ、当時何も思わなかったけど手始めに潜水の練習のためにって湖まるっと一つ買うのはおかしいじゃん?

 

プール新しく作るよりマシ?そうかなぁ。

 

まぁ、おかげで面白い出会いもあったから、結果としては万々歳かな。

 

 

 

【春影】

 

 

 

日本、ホロライブ学園。もはや説明不要な超絶エリート校。無事に卒業できれば将来安泰な、戦闘能力を高めるためのぶっ飛び学園だ。

 

入れだそうです。

 

試験突破しちゃいました。

 

行きたくないです。だめ?そんなぁ。

 

要は、お前の影魔術で俺TUEEEEしてきな、ってことらしい。無理じゃない?化け物揃いなんて言われてるんだよこの学園。

 

行きたくないな〜入学式くらいバックれてもバレないんじゃ痛い痛い痛い痛い。

 

「ぐら、ちゃんと歩くから引き摺らんでくれ」

 

「あれ、手を引いてただけなんだけど」

 

「おめぇの背丈とパワーで引かれりゃそうなるんだよ」

 

俺が歩いてなかったのも悪いけど。

 

この近距離パワー型幼女は”がうる・ぐら”。なんかすごくいいところの娘でなんかすごく強い。サメを模したパーカーを好んできている。

 

制服は、背丈が合うのがなかったらしい。小さすぎんだろ。

 

ぐらとは、祖父が買った湖で会った。初見のこいつはトビウオみたいに水面からぶっ飛んだりしていたので普通に恐怖だった。なんなら何も着ていなかったからもっと引いた。

 

基本テンションの高いこいつだが、今日余計に高い。

 

「そんなに楽しみか?」

 

「うん!」

 

あらま元気のいい返事だこと。分けてほしいわ。

 

影丸(かげまる)は楽しみじゃないの?」

 

「だって、魔術師とかいるでしょ?魔術師ってのは陰湿なんだよ」

 

「影丸も魔術師!」

 

「心が痛い」

 

魔術師はろくでなし。少なくとも欧州の奴らはそうだった。こっちはどうかは知らんが、期待して得することはないだろう。

 

さて、ぐらはバタバタと自分の教室に向かっていき、ついに俺は1人になった。友達作れっかな、俺。帰りてぇな。いやいやせっかく来たんだから俺の教室の様子くらい・・・。

 

ダメだなんかブツブツ言ってる奴か筋肉見せびらかしてる奴しかいねぇ。男子群全滅や。え?女子?(一般的な)女性経験ほぼ0の俺に何を期待しているんだ。

 

帰ろう。無理だ。田舎モンには厳しい世界だったんや。

 

「何してるの」

 

「わぷっ」

 

影丸は、めのまえが、まっくらになった!

 

この柔らかい感覚は・・・。

 

「カリ?」

 

「お前今私のこと何で把握した?」

 

「それはもうおっ、なんでもない」

 

危うく首が飛びかけたぜ。

 

このデカパうおっほんナイスバディなピンク髪のねーちゃんは、森カリオペ。死神である。

 

死神である(ガチ)

 

こいつ怒らせたら多分自分の魂の色を知ることになってしまうので注意だ。

 

「なんでお前がって、制服着てるってことはそういうことか」

 

「私もここに入学した。キアラとイナニスも同じ」

 

マジかよ化け物揃い(比喩)が化け物揃い(ガチ)になるじゃん。

 

「”議会”もいるよ」

 

「転校!転校します!」

 

「ダメ。ぐらに逃がすなと言われてる」

 

「[英国スラング]!!」

 

畜生なんでアイツらもいんだよ。世界の代弁者共がこんな多少すげぇ程度の学園に来るなよ。

 

「このクラスにはいないようだから、とりあえず頑張ってみよう」

 

「分かったよ・・・」

 

カリに言われて、そういえば座席表見てなかったと思った。知り合いがカリしかいない以上、近くだったらいいなと思うわけだけど・・・。

 

「雪花ラミィ、雪花ぁ?」

 

おいおい前の席、氷魔術の大御所じゃねぇか。

 

「転校します!」

 

「ダメだって!」

 

「嫌じゃー!魔術師にまともな奴はいないんだよー!どうせ『へ〜没落したんだ〜』って煽られまくるに決まってる!もうやだ!」

 

「その魔術師に対する歪んだ偏見いい加減に捨てろ!」

 

嫌だぁもうイギリスみたいにいじめられたくない終わったぁ俺はどうせ没落貴族なのをいじられて学校に来れなくなって引きこもりになって一生フリーターで過ごすんだやだぁ死にてぇ。

 

「私がそばにいる」

 

「頼もしすぎかよ結婚しようぜ」

 

「バカなこと言ってないで」

 

なんか一気にやる気出てきた。

 

「隣が、獅白ぼたんか。傭兵だっけか」

 

「確かね」

 

傭兵に魔術の大御所に死神。随分と波乱万丈な高校生活になりそうだな。

 

「ちなみにさ」

 

「ん?」

 

「なんでみんな武器持ってんの?」

 

「・・・」

 

え、絶句?

 

「影丸、この学園の恒例行事を知らないの?」

 

「知らん」

 

「バトルロワイヤルだよ」

 

「生徒で?イカれてるなぁ。で、いつ?」

 

「今日」

 

「ん?」

 

「今日」

 

・・・。

 

「帰るね♪」

 

「ダメだって」

 

「やめろ!引き摺るな!なんでお前らはいつもいつも俺を引き摺って歩くんだ!散歩嫌いなペットか俺は!」

 

「似たようなもんでしょ」

 

「ひっでぇや」

 

 


 

 

カリから、友達でも作りな、とのありがたーいアドバイスを貰ったはいいものの、見知らぬ他人との会話の仕方を忘れてしまったために、結局自分の席に座ってうんうんと頭を悩ませている。

 

驚いた。自覚こそあったものの、俺がこれほどコミュ障とは。

 

ついでに言うならタイミングも悪い。これはカリのせいだ。

 

カリは、ナイスバディにイケメンフェイスを吊り下げた男女ともにウケのいい外見をしている。普段のクールさも相まって注目度はバカ高い。

 

既にクラスメイトに囲まれている。俺?周りに誰もいねぇや。悲しいね。

 

にしても、”傭兵”獅白ぼたん。どんな奴なんだろうな。ライオンの獣人で女子ってことしか知らないんだよな。

 

きっと屈強なんだろうな。スーパーマンにおっぱいくっつけたみたいな──。

 

「君が影丸くん?」

 

オウイェイ、声かけてくれた相手の顔見てぇのに壊れたブリキ人形見てぇに首がギチギチ言ってんの。

 

「しししししししし獅白さんですかかか?」

 

「なんか壊れたラジオみたいになってね」

 

うっわぁすっごい美人さん。強い女子ってみんなたわわなのかな。髪きれ〜い。戦場暮らしでなんでそんなにサラサラしてんの。犬歯かわっっっっ!

 

「すんませんした!!!」

 

「え?」

 

気付けば俺は地面に頭を擦り付け、心の底からの謝罪を叫び上げていた。

 

これが俺の数ある渾名の一つ、初手謝罪男の語源である。

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