「始まっちゃった〜よ〜」
チワッス、山陰寺影丸でございます。武器はなし、仲間ありでついに始まったバトルロワイヤルですが、開始地点がランダムなので獅白さんと雪花と合流しないといけません。
武器がないときはどうすればいいのか、武芸に秀でた爺ちゃんは言った。
奪え、と。
よし、盗るか!
できればいっぱい欲しい。引き出しは多いほうが、戦闘は楽に進むからな。
ひとまずは槍からにしようかな。
「ってことで、一つアドバイスだよ」
背後に、静かに近付く槍使いに声を掛ける。
「殺気は抑えな?」
焦ったように突き出された穂先が当然空を斬り、お返しに振り向きのついでで裏拳を顔面にぶち込む。
「くぅっ!」
「ごめんけどさ」
槍を掴み、相手の腕関節に手刀を浴びせる。握力が緩んだらすぐさま槍を奪い、反転、そして喉を貫いた。
「この戦いが終わるまで、ちょっとこれ借りるね?」
敵は青いポリゴンになって消えた。
ほんとに死体残らないんだなぁ。多分魔術だろうけど、どうなってんだろ術式。
さて、予め3人で決めた、というか獅白さんが指定した合流地点は別棟2階の化学実験室。ここは第一体育館裏だから、距離的にはそこそこ離れている。
体育館は素通りとしても、廊下を歩いてたらそれなりの敵と鉢合わせるだろうから、格下で、武器を持っていて、単独行動をしていて、俺一人でも即殺できる相手を選んで拝借すれば、それなりに武器は集まりそうだ。
さて、次は刀か片手剣が欲しいところだけど。刀はともかく片手剣は扱い易い部類だし、持ってる人が何人かいたっておかしくはない。
手頃な相手を見つけて「てりゃぁ!」っと!
背後からの踵落としを、前転して回避する。ズドン、というまるで砲弾でも撃ち込まれたみたいな音とともに小さなクレーターができあがった。
てか今殺気なかったな?殺す気ないのにあの威力って何?
「ちょーっとめんどいのが来たな?」
見たところ武器はなし。つまりは徒手空拳だ。拳相手に槍は相性が悪いので、仕方なくこちらも拳を構える。
それ見てにやりと笑った下手人が、ゆっくりと立ち上がった。
そして、視線が交わる。
「よお」
先に口を開いたのは、少女だった。
「タイマン張れよ」
「ごめんなんて?」
ふにゃふにゃだった。
【戦影】
「たいま、スゥッ、タイマン張れよ!」
「あ、うんよく聞こえたわ頑張ったな」
滑舌が悪いというかなんというか、とにかく言葉の節々がふにゃっとしている。赤ちゃん言葉Lv100みたいな感じだ。
ただふにゃっとした口調に反してその構えはしっかりしてる。右側を突き出す形で半身になり、肩幅程度に両足を開いて軽く何度もはね続ける。典型的なボクサースタイルだ。
ただ、右腕を軽く曲げつつも脱力し、左右にゆっくりと振っている。
「フリッカージャブか」
速度と連打に長けた構え。元来牽制用であるジャブを攻撃に特化させている。またコンビネーションの起点としても優秀だ。
そしてジャブを嫌って下から潜り込もうものなら、左のアッパーカットが待っている、と。
けど最も警戒しなければならないのは、蹴り。奴の大本命だ。
なら、俺のやることは一つ。
バトルロワイヤル副監督、その一人に、大空スバルがいる。学園内序列は15位。
影を思わせる黒髪の男子生徒と、銀髪で毛先が淡い紫の少女。
手元の資料より、少年の名が山陰寺影丸、少女の名が轟はじめであることを知った。
はじめはフリッカーを主体としたボクサースタイル。フリッカーこそ珍しいものの、ボクサースタイル自体はこの学園では珍しくない。
問題は、対する影丸。
(なんだ、あの構え)
まるでシールドのように右腕を突き出して立て、左腕は腰の横に置いている。握りこんでいる右手に対して左手は開かれ、手刀を作っていた。
それはさながら、盾を構えた槍兵だった。
───
影丸の構えは、伽羅昏流古式空手『甲』。盾に見立てた右腕を押し付け、敵の動きを阻害し、制圧する。逮捕術にも通ずるもの。
そして、槍に見立てた左腕は空拳暗殺術『穿』。眼、喉、鳩尾を貫き戦闘不能にする、次の手要らずの殺人拳である。
仲間との合流しなければならないという、一分一秒が惜しい現状。加えて、武器集めも急務。そのため影丸は、即座に倒すための最適解を選んだ。
一瞬の静寂。
(─────始まる!)
初手、影丸の縮地。一気にお互いの拳の間合いへ。すかさずはじめのフリッカージャブ、の初撃が、速度が乗る前に右肘と激突した。『甲』による制圧段階、その一段目、抑えである。
が、しかし、何を感じたのか、影丸は受けから流しへ切り替えた。自由になったフリッカーが押し返し、距離を離したところにハイキックが頭蓋を狙う。
対して、『甲』の抑え。しかし、これもまた流してしまう。
知る人からすれば、影丸は悪手を取り続けている。抑え、押し切り、潰し、この三工程の初段が成っていない。
だが、スバルはその理由を見抜いていた。
「痺れるな」
2度の抑えの失敗により、影丸もまた、それを知る。
「防御を貫通する雷、魔力の性質変化だな?」
「バレたか」
開き直ったのか、或いは隠す気などなかったか。はじめの四肢が帯電する。
───性質変化。魔力の持つ特異性の一つ。肉体を巡る魔力は、本人が持つ適性や血統により、その性質をより現実に沿うように変化させる。炎の適性があれば高温の熱発として、風の適性があれば荒れ狂う暴風として、肉体から外界に現れるのである。
性質変化はその特性上、適性が多いほど変化する性質が
(つまり、このゴリッゴリの近接職の本業は魔術師!)
と、いうのは、魔術至上主義のヨーロッパでの話。ここでは、性質変化を利用した前衛は珍しくない。
影丸は、読み違いをしてしまった。
(め、めんどくせぇ〜)
魔術師は傲慢にして悪辣にして他人を見下すくせに10や20は奥の手を用意してくる、というのが影丸の持つ先入観。つまり、本気で戦えば長期戦は確実。
ただの勘違いだが。
「来ないならこっちから!」
はじめが動いた。フットワークをやめた突進、からの前蹴り。無論帯電しているため完全防御は不可能であり、そうでなくとも雷による加速は先程以上の威力を生み出す。
しかし、距離を離した影丸には届かない。すかさず、蹴りによって上がった右足を深く踏み込ませ、左ストレート。完璧な顔面コースだった。
空振り。
「は?」
手首が掴まれていた。両の足は地を離れ、まるで躓いたかのように身体が前屈みに倒れていく。
伽羅昏流合気術『気龍』
相手の重心をずらすことで、体勢を崩す技の総称である。
「これしきのことで!」
勢いのまま前転、すぐに振り向いて相手の攻撃に備える。
そこには誰もいなかった。ひゅ〜っと虚しく風が吹き、はじめの額を慰めるように撫でていった。
「・・・逃げた?」
数秒後、事態を理解したはじめが地団駄を踏み、それを遠くから見ていた友人が苦笑した。