【仕込み杖】
狩人が獣狩りに用いる、工房の”仕掛け武器”の1つ
刃を仕込んだ硬質な杖は、そのままで十分に武器として機能するが、仕掛けにより刃は分かれ、武器のように振るうこともできる
武器を杖に擬し、獣に対するに鞭を振るう様は、様式美の類である
それは、自ら獣狩りの血に飲まれまいとする意思だったろうか
白亜の巨城。
建設時の監督者は、学園校舎をそう言い表し、そして異名として定着した。その大きすぎる校舎は耐久性に優れており、魔術やら高火力の銃火器やら、巨大な怪物の突撃さえ防ぐことが可能だ。
無論これは、内から外への衝撃も防ぐ。もしろそちらこそが真の目的だ。
つまりは、
今更ながら、やはりとんでもないところへ来てしまったと思う。
周りを見れば、目に見える自信家ばかりが歩いている。胸を張り、自分は強いのだと誇示し、中には得物を見せびらかしている者もいる。
およそ一般高校生的に見えている私は、恐らくはこの学園では少数派なのだろう。
血気盛んな自信家達は教室に入ると早速序列の形成を始めるらしい。鍛え上げた筋肉を晒しながら腕相撲を始める男群やら、煌びやかな魔術を競う術士郡やら、まるで前哨戦である。広い教室の理由は、こうした野蛮人集団が暴れられるようにできてるいるためかと納得した。
幸いにも、私の席は彼らのフィールドの外にあった。
「わ、可愛い子!顔がいいクラスメイトがいっぱいで、うへへ、船長眼福ですぅ!」
どうやら野蛮人以外もうるさいのがいるらしい。しかも隣の席だった。
「あ、Ahoy!宝鐘マリンですぅ!ねね、良かったら放課後、船長とちょっとご休憩のあるホテルに行ってみない?」
「
「あれ、お返事は?名前だけ?おーい、おーーーい」
どうやら悪質なナンパ師だったらしい。この先、無視が有効だ。
「マリンおはよー。同じクラスだったね」
「フレたん!ねぇねぇ聞いてよ!この可愛い子に放課後遊ぼってさそったんだけどさー?」
「どういう風に誘ったのさ」
「え、それは、その、ね?」
「君、無視して正解だよ」
「フ゛レ゛た゛ん゛!?」
非常識が形を成したようなこの学園にも常識人はいるらしい。
「私は不知火フレア、よろしくね」
「叶不玲香、よろしく」
「あれ、玲香たん、船長とはよろしくしてくれないの?」
「会えて嬉しいわ、フレア」
「こちらこそ」
「玲香たん???」
常識人のフレアは私の前の席に座った。どうも、慢性的な苛立ちに悩まされることはなくなったらしい。
仲の良さそうな2人の漫才を聞き流していたら、入学式の時間が近付いていた。どうやら体育館で執り行われるようで廊下に並ぶよう指示される。
向かったそこは、やはりというか、目を見張るほどに大きく、さながら野球場のようだった。
年寄り方の長話が続くが、大抵の生徒は聞いていないようだった。隣のマリンに至ってはコソコソと話しかけてくる始末だ。彼らの話に興味があるわけではないが、煩わしいとは少し思った。
入学式の最後に、バトルロワイヤルに関する情報が明かされる。
マイクの前に立ったのは、意外にも教員ではなく、私達と同じ生徒だった。
『皆さんこんにちは!今回、第一回バトルロワイヤルの監督を務める、3年の白上フブキです!』
「あれがフブキ先輩か〜」
「・・・」
「あれ、ここはさ、しってるのか!?ってなるとこじゃない?」
「興味ないもの」
「冷めてるなぁ」
『さて、今から皆さんには殺し合いをしてもらいます』
そんなに物騒なのか。せいぜい気絶したら退場程度のものだと思っていた。
「ホロライブ学園3年、学年内序列第3位。”神狐”白上フブキ。この学校の最強格です」
「主要キャラの説明をするモブみたいね」
「酷くない???」
『これから行われるバトルロワイヤルでは、皆さんは魔術によって死から保護されます。つまり
「だから殺し合い」
「流石エリート校、やってることのスケールが違いすぎるんだワ・・・」
『死を恐れる者には誰も守れません。なので皆さん!存分に力を振るい、殺し合ってください!ルールはなし!チーミングも漁夫もなんでもあり!』
周囲の緊張感が跳ね上がった。その雰囲気はまるで、戦場。
【開戦】
『それでは皆さん、死力を尽くして戦ってくださいね♪』
教室に帰され、それぞれが準備に入る。騒々しさは消え去り、緊張感が場を支配していた。
ウォーミングアップをする者、型を確かめる者、得物に最後の手入れをする者。ここまで来れば、戦いとは無縁だった私も、今から戦いに出るのだと実感し始めるというものだ。
夢の後に得たいくつかの武器のうち、手に取ったのは杖と短銃だった。
そして時間は過ぎていき、やがて全員が示し合わせたかのように席に座った。
『時間になりました。転送を開始します』
光が、教室に溢れ出す。
眩しさに目を細め、やっとまともに見えるようになったそこは、広く長い廊下だった。
『第一回バトルロワイヤルの開戦を宣言します』
1学年の第一回バトルロワイヤルは、上級生は参加しない、同学年のみで行われる特別な戦闘試験。入学時点での序列形成と特出しすぎた生徒の早期発見が目的であり、また監督に3年、副監督に2年を置くことで、不測の事態の対応能力を育むという目論見もある。
この監督と副監督は、普通は、それぞれの学年序列50位以内からランダムに選出される。
そして、今回は普通じゃない。
白上フブキ含めた今回の監督及び副監督は、任命されている。
「あれが叶不玲香ちゃんか」
細めた視線の先、杖と古式銃を持って呆然と佇む少女。特待生は、本来は3人のみのはずだが、”上”が4人目の枠を用意し、彼女を指名した。
その際の”上”の様子は、虚ろ。まるでなにかに操られているような、或いは取り憑かれているかのような、そんな様子だったと。
連絡員の1人が変死体で発見されたのは、その数日後だった。
「学園長からの命令は警戒。そして危険だと判断した場合は、消す、か」
嫌な役割を担っちゃったな〜っと、盤面を眺めながら呟いた。