夢覚めぬ者   作:うろ底のトースター

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【ノコギリ鉈】
狩人が獣狩りに用いる、工房の”仕掛け武器”の1つ

変形前は人ならぬ獣の皮肉を裂くノコギリとして
変形後は遠心力を利用した長柄の鉈として、それぞれ機能する

刃を並べ血を削るノコギリは、特に獣狩りを象徴する武器であり
酷い獣化者にこそ有効であるとされていた


ともだち

この混沌とした戦場も中盤に差し掛かっていた。多くの自信家が伸びた鼻と骨をへし折られて退場していく中、淘汰を生き残った者は未だ闘争に耽っている。

 

が、轟音と共に広いグラウンドで戦っていた全ての生徒の動きが止まった。

 

校舎が半壊していた。

 

その場にいた半数以上がぽかんと口を開けて固まり、状況を正確に受け止められた生徒の殆どが自主的にリタイアした。

 

そして、一割にも満たない”本物”は、新たな強敵を求めて校舎だった瓦礫の山へ走っていく。

 

闘争は、加速する。

 

 

 

【ともだち】

 

 

 

「やってくれたわね」

 

幸いに、と言えばいいか、校舎の崩落に巻き込まれた玲香は、大小様々な傷は抱えていても戦闘困難になるような重傷は負っていなかった。

 

とはいえ、元々元々腹部を刺されている身である。このまま連戦すれば、仮に勝てたとしても失血死は免れないだろう。

 

「潮時かしら」

 

叶うならまたあの感覚を味わいたかったと、少し悲しげな表情を見せる。

 

「玲香?」

 

そんな彼女を呼ぶ声がした。どこかで聞いたことのある声だと、その方向に目を向けると、今朝会ったばかりのフレアが物陰から顔を覗かせていた。

 

「大丈夫?」

 

「そう見える?」

 

「ボロボロだね」

 

知り合いとは言えここは戦場。自分以外は全て敵であると、武器を構えて警戒する玲香を見て、困ったようにフレアは笑った。

 

「本来なら敵同士だよね」

 

自身の性格を恨めしく思うも、ほってはおけないと諦める。そして、フレアは玲香の傷に向けて手を向けた。

 

暖かな光が、その手から放たれる。

 

「これは・・・回復?」

 

「そうだよ。ま、さすがにそのお腹の傷は無理だけどね」

 

その日初めて、玲香は混乱した。ここは戦場であり、フレアは敵。フレアにとっても自分は敵。なら戦うのが普通だろうと。

 

ならなぜ、こうして治療されているのか。

 

「玲香がこんなにボロボロじゃなきゃ攻撃してたよ」

 

そんな疑問を知ってか知らずか、フレアは口を開いた。

 

「公平さ、とか?」

 

「いやいや、知らない人にはやらないって」

 

「ならどうして」

 

「友達だから」

 

即答だった。

 

「うん、軽い怪我はもう治ったね」

 

「・・・ありがとう」

 

一応感謝はするものの、玲香はその行為を納得していない。友達だから助ける、何故ともだちなら助ける?そんな疑問が脳裏巡っていた。

 

分からないということはそこそこに腹が立つもので、彼女の内で、少しずつ不快感が溜まり始めていた。

 

 

 

「それで、戦う?」

 

「いやいや、治しておいて戦うってのもおかしな話じゃない?」

 

そういうものだろうか、玲香は首を傾げた。ともかく、戦意がないのであれば今のところは敵ではない。なら、今警戒するべきは、この崩落を見て集まってくる腕自慢たち。

 

『へぇ、こんなことやらかすんだからとんでもないマッチョがいると思っていたんだけど。随分華奢だね、ちゃんと食べてる?』

 

流暢な英語が耳をつく。

 

靡く桃色の長髪。威圧感のある高い身長。そして、それらを差し置いて余りにも目立ちすぎる、身の丈を大きく超えた大鎌。

 

「Hello♪」

 

いかにも死神といった風貌の女が、瓦礫の山で不敵に笑った。

 

瞬間、玲香はフレアを蹴り飛ばす。一瞬遅れて、2人の間に大鎌が振り下ろされた。

 

「っ!やるね!」

 

「それほどでも」

 

速すぎる、それが2人の感想だった。

 

まず間違いなく、一歩で踏み込める距離ではなかったはずだ。仮に高さを利用して跳躍してきたとしても、予備動作があるはず。

 

が、実際には反応するだけで精一杯。

 

目は離さなかった。予備動作どころか筋肉の動きさえなかった。

 

何かしら能力持っている、まずはそれを明かす。

 

「速いなら、面で焼いてやる」

 

互いに言葉なく、それでも前衛と後衛に明確に別れた。

 

体勢を建て直したフレアが術式の構築を行う。玲香はそれまでの時間稼ぎだ。

 

杖を構えた。

 

「Hmm...」

 

目の前から女が消える。

 

大鎌を振りかぶった女が、フレアの目の前にいた。

 

「フレア!」

 

「マジっ!」

 

咄嗟に屈んで回避。お返しとばかりに簡易の炎魔術を展開し、浴びせる。

 

「これを躱すか!」

 

「せめて熱がってほしいな」

 

腕を振る。それだけで、まるで蝋燭の火が拭き消されるかのように、炎が払われた。

 

「フッ」

 

「Huh?」

 

蛇腹剣が女を襲う。まだ姿が消えた。

 

「玲香、後ろ!」

 

「っ!」

 

反射的に杖に戻し、山勘で首元を守った。金属同士がぶつかる音が響く。

 

「Wow!変形する武器か!面白い!」

 

「私は全く面白くないのだけど」

 

突き。消える。炎の術式。消える。蛇腹剣の追撃。消える。

 

「条件なしのテレポート、こんなに厄介だなんて」

 

「苛つく」

 

完全に遊ばれている。或いは、観察されている。余裕綽々といった立ち回りに、玲香の不快感は限界を迎えていた。

 

そして同時に、女が玲香を()()

 

「へぇ」

 

「っ!」

 

余裕のあるにこやかな表情は消え去り、凍てつくような視線が刺した。

 

「Hey」

 

彼我の距離が殺される。

 

「ちょっと付き合ってよ」

 

悪寒さえ感じる間もなく、グンッという衝撃とともに景色が変わった。

 

 


 

 

無事だった建造物の屋上に、私は背中から叩きつけられた。勢いこそなかったものの、疲れが出始めた身体には効く一撃だった。

 

「その程度で痛いのか?」

 

「死ね」

 

振った杖が捕まれ、カウンターに右頬を打ち抜かれた。

 

「ぐっ」

 

視界が揺れた。倒れ込みそうな体が、髪を引っ張られて無理矢理に立たされる。

 

「一つ聞きたい」

 

「これが人にものを聞く態度?」

 

「・・・ヒト、ね」

 

乱雑に放り投げられた。そして、立ち上がる間もなく首に鎌の刃が当てられた。少しでも動こうものなら、頸動脈を斬られてリタイアさせられるだろう、そんな殺気の籠った刃だ。

 

()()()()()()()()()()?」

 

「は?」

 

「答えろ」

 

まただ、実験動物でも見るかのような冷めた目。不愉快だ。消してしまいたい。

 

「・・・人よ。それ以外の何に見えるの」

 

「・・・知らないのか」

 

何かを呟いたが、私にはそれが聞こえなかった。いつの間にか鎌は下ろされ、彼女はもう私を見ていなかった。

 

代わりに、先程と変わらない腹の立つ表情が貼り付けられてる。

 

「これは単純な興味だから別に答えなくてもいいけどさ、なんで怒ってるの?」

 

「貴女もしかして馬鹿なの?」

 

私も大概だが、この女は度を越して人の機微が分からないらしい。自分が怒らせたってことくらいは分かってほしいものだが。

 

「あーいや、違う。私が怒らせたのは知ってる」

 

「なら何よ」

 

「戦ってる前にもうキレてたでしょ、なんで?」

 

訂正。この女は、随分と人の感情に敏感だ。

 

そもそも、何でと言われても困る。私にだって一般に持ちうる感性は知っている。苛立ちの原因である疑問も、他人からすれば笑い飛ばせるようなものだというのも、何となく分かる。

 

でも、聞いてみたくなった。どうせ他人、私にとってこの女は何者でもないのだから。

 

答えが得られるならそれでいい。

 

「ねぇ、ともだちは助けるもの?」

 

「知らない、それは人が作ったものでしょ」

 

「聞いて損したわ」

 

一々癪に障る女だ。攻撃でも当たる気がしないので、手は出さないが。

 

「けど、あんた1回エルフの子を助けようとしなかった?」

 

「・・・あった」

 

術式構築中のフレアをこの女が狙ったとき、咄嗟にフレアを気にかけていたことを思い出す。

 

私が、他人を助けようとした?なぜ?

 

「何でって顔してるけど、その答えがともだちなんだと思うよ」

 

「何それ」

 

「あとは自分で探せば?」

 

女はそう言って去っていった。相変わらず目の前から消えるのを観届けて、そういえばと女の言動を思い返す。なんだか、まるで自分は人ではないかのような口ぶりではなかっただろうか。

 

本当に、死神だったりして。

 

「まさかね」

 

考えても分からないことは置いておくべき。とりあえず八つ当たりに使える相手を見つけないと。

 

そして私は、屋上から校舎の中へ足を進めた。

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