名探偵コナン 影牢の生贄《プリンセス》   作:罠ビー

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 ここまでしか書いてないので惜しみなく。
 影牢DPから10年経つってマージですか?


影牢の生贄2

 

「紹介するねコナン君。新しく私のクラスに転校してきた冬野さん」

 

「冬野かなたです。よろしくお願いします」

 

 彼を見た時になんとなく私と近い何かを感じた。数多の死の運命が絡まっているその姿に。彼は姫《贄》なんだって。

 

 

 私は今新しく通うことになった学校の前にいる。

 

 帝丹高校。刻命館学院は私を抱えたくないのだろう。両親も私を引き取る事はなかった。みかげ労災病院での仕打ちを考えれば私という存在を無かった事にしたいのは明白だ。金銭と権力で私の転校は決まり、そんなあからさまに不良債権の娘に両親は干渉をしない。……もう少し好意的に考えてもいいのかもしれないがこういう思考に向かってしまうのは仕方ない。

 

 しかし退院出来るとは露にも思わなかった。ある時までは。

 私の身体は衰弱しておりもう長くない筈であった。これがリハビリを頑張ったからというような普通の回復なら良かったのだがそんな事はない。私の身体は継続して衰弱方向である。

 

 ならばなぜ一時的にとはいえ体力の回復が見込めているのか。それがarkの存在だった。

 

 ark。あの悪夢の世界で罠や超常能力を使うための力。古式ゆかしいロールプレイングゲームのMPのようなそれはこの世界に戻ってきた私も依然用いる事ができた。しかし何事もしなければ身体の維持に使って消えていく。

 ゲームのように寝ると回復するなら非常に良かったのだがこのarkというのは魔神由来の力である。そんなプラスの行動で扱えるはずがない。

 

 魔神の復活に贄が必要なようにarkは人を殺害する事で生産される。より残虐に、屈辱的に、華麗に殺害すると増える事から対象者の精神状態に大きく左右されるようである。

 幸い病院という場所は死ぬ人間も多くarkを集めるのに苦心はしなかったが、病院で死ぬ者はそもそも高齢であったり精神状態からたくさんのarkを得るには向いていなかった。

 

 ある日私の隣のベッドで医療ミスで死んだ患者が出た。その死からはたくさんのarkが回収できた。若い女が未来のある女が残酷に、それこそこんな急に死ぬなんて思ってなかっただろうから屈辱だったろう。

 ……真相はわからない、という事にしておく。その件で手に入れたarkは私の身体を退院可能と判断されるくらいまで動かすのに使えた。

 

 他人の生で生きながらえる自分に滑稽になる。しかし私はこの身体での現実に帰ると決めた以上ただ病床で朽ちるのは機械人形にも悪夢の姫にも申し訳がたたないとも感じた。

 

 そして病院のテレビで把握したが私の想像以上に現実も物騒らしい。殺人事件のニュースを聞かない日がないくらいだ。ともすれば外の世界でarkを手に入れる事も想像より困難ではないのかもしれない。

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「ごめんなさい、邪魔だったかしら?自操で行けるから気にしないで」

 

 

 声をかけられる。考え事に浸り過ぎたかしら。相手に謝罪をしてここから離れる事にする。面倒じゃない介助なんて。

 

 

「あの、お手伝いしてもいいですか?」

 

「え、ええ。ありがとう。ならお願いしようかしら」

 

 

 やや冷たく返したにも関わらず彼女は私の介助を提案してきた。少し面食らってしまい流されるように了承してしまった。偽善やエゴという事は理解出来るがそもそもそのように優しくされたのはいつ以来だったろうか。

 私の冷めた部分が悪意的に彼女の行いを捉えようとする一方で私は彼女の偽善が心地良く感じていた。

 

 

「冬野かなたです。よろしくお願いします」

 

「私は毛利蘭。よろしくね、冬野さん」

 

 

 これは信頼とか友情とかでは多分ない。甘い蜜に誘われた私が堕ちるのを構わないと感じてる一方で、彼女が私の毒を目の当たりにした際どういう咲き方を魅せるのか、彼女の事を醜悪な捉え方をしている自分もいる。

 

 arkを貪って生き永らえる怠惰で消極的な自殺行為に意味が生まれた。

 

 

 

 

 毛利さんとその友人の鈴木さんに連れられて来たのは毛利さんの家の下にある喫茶店だった。毛利さんの父は有名な探偵らしく、クラスにあった使われていない机は彼女のボーイフレンドの席だそうだ。

 毛利さんも鈴木さんも第一印象は好人物で普通の少女という感じだ。私は二人にまだ余所余所しいが彼女達は私に必要以上に構おうとする。

 優しいとも取れるだろうがおそらくは物珍しさが勝っているようにも感じる。

 

 

「それにしてもこの時期に転校なんて珍しいね冬野さん」

 

「それ、それアタシも思った。大人しい顔して何やらかしたのよこのこの」

 

「園子!!言いづらい事だったら別にいいからね」

 

 

 鈴木さんは私の事をからかうように肘でこつきながらそう口にする。毛利さんは申し訳なさそうに、気遣うようにそう言うが気になってはいるだろう。

 

 

「そうね。クラスメイトが殆どがある日突然眠ったまま起きなくなったの。とっても幸せな夢でも見ているように」

 

 

 私の冷たい言い様と荒唐無稽な話に鈴木さんと毛利さんは息を呑む。ズズっと珈琲を口に含んでから発言を撤回する。

 

 

「冗談です。前の学校の人とは合わなかったの」

 

「そ、そうよねー。冬野さんもお茶目なんだから」

 

「びっくりするじゃない」

 

 

 

 

 

 

「ねえねえお姉さん?お姉さんは刻命館学園って学校の人?」

 

 

 

 横からひょっこりと聞こえた声。小学生くらいの姿をしているがその彼にまとわりつく濃厚な死の運命の密度に身体が反応する。とっさに喫茶店内に張り巡らせた罠の一つを起動してしまう。テツクマデが少年の足下に現れ、それを踏んだ少年の側頭部に熊手の柄がぶち当たる。

 

 

「痛っ」

 

「大丈夫コナン君」

 

 

 彼はコナンというらしい。あらためて彼の事をまじまじと見る。数多の人の死に触れてきたであろうことが彼が蓄えているarkから感じられる。それこそ悪夢の世界で出会ったいくつもの世界の姫達、魔人の贄と変わりないくらいに。

 

 ……つまり彼がこの世界の“姫”なのではないだろうか。

 

 ともすれば油断をしてはならない。どんな方法で彼がarkを集めているのだろうか。本命は罠だろうけれど姫によって細かい力には差異があった。頭をさすりながら目を白黒させる少年に声をかける。

 

 

「大丈夫?」

 

「うん大丈夫だけどお姉さんが殴ったんじゃないの」

 

「冬野さんはコーヒー飲んでいたから違うわよ」

 

 

 殴ってはいない。欺瞞だが。

 

 

「それでお姉さんはこの学校の人だよね」

 

 

 そう言って少年はスマホでニュースを見せてくる。高校生連続昏倒事件と評された事件のニュース。そして一人の生徒が昏倒から回復した事まで書かれている。名前こそ出ていないが怪事件として世間を少し騒がせていたみたいだ。

 

 

「そうね。確かにその昏倒から回復したのは私ね。それで何が聞きたいのかしら」

 

「何があったの?なんで冬野さんは回復できたの」

 

 

 

 何があったか。彼からはこの怪事件に対する興味を強く感じた。そしてその過程で私の心に与える影響とか微塵も考えていない。まあ私が事件や生徒達に感じる事なんて今更ないけれど。起きてから出会った安室と同じだ。不躾で踏み込んで来ようとする視線。私立探偵を名乗ったあの男みたいに。

 

 

「覚えてないわ、寝ていたから。なんで起きたかは医者が考える事よ。だから私は解決に協力できないわ」

 

 

 そういうと露骨に落胆をした様子を見せる。いやダメでもともとといったところだったのだろうか。今彼と話しているだけだけれどまったく年齢と中身が釣り合っていない気がする。

 ああでも彼のarkの量。これを掠め取れれば生きやすいのではないだろうか。ならば彼と関係を作るのは得策かもしれない。

 

 

「そうね、みんなとても残酷で華麗で屈辱的な、とても甘美な夢を見ているのでしょうね」

 

 

 私に死を貢いで頂戴、小さな探偵さん。

 

 

 

 

 蘭が連れてきた車いすの女子高生、冬野かなたとの話を聞いているとき一つのニュースを思い出した。

 

【高校生連続昏倒事件】

 

 事件というが事故なのか病気なのか全く判断がついていない怪事件。刻命館学院と近隣のみかげ労災病院の関係者でしか発生していない奇病。もしこれが何かの薬などの実験であるなら組織の関与も考えられるしアポトキシンの解析のヒントになりえるかもしれない。

 

 そう思い蘭たちと彼女の会話に入り込む。車いすの横から机に身を乗り出したところで足は何かを踏んづけたことを告げると右の頭に衝撃が走り冬野さんの車いすにもたれかかってしまう。

 

 今何が起きた?急いで衝撃が来た方に目を向けるが何も見当たらない。冬野さんが殴ったかと確認をするが違うらしい。とりあえずぶつかってしまったことを謝罪しようと冬野さんに視線を合わす。

 

 黒髪が長く、体つきは華奢を通り越して弱弱しさを与える。足に至っては筋肉がまともについておらず装具をつけている様子から立ち上がりもままならないと感じさせる。彼女が昏倒から回復した生徒なのはほぼ間違いないだろう。

 赤いフレームの眼鏡の奥。瞳は信じられないくらい昏く淀んでいた。まるで生に価値を感じていないかのような、かつて見たことが無いような目だった。それでいて雰囲気は組織の奴らみたいなようで決定的に何かが違う。重いが鋭いというよりはすべてを沈める沼のような陰鬱とした、そんな様子だ。

 

 まるであの日トロピカルランドで見た、場に似合わない気色悪さを感じるような欠損の多い自動人形のような。

 

 そう思うと彼女の後ろにあの時の自動人形を幻視する。

 

 

 冬野かなた。彼女はいったい何者なんだ。




ark……影牢で経験値にあたるもの。罠の開放等が主な使い道だが作品によってはただのスコアとしての側面もある

 ダークサイドヘヴン(コナン時空)。探偵の因果でarkを集めたい魔神さんvs人死にを増やしてarkをかすめたい車椅子の悪夢の姫vsまたしても何も知らないコナン君vsダークライの構図。
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