幼馴染は競輪選手 ~失ってから始まる恋とチャレンジ~ 作:寿垣遥生
今後は競輪初心者の読者にも寄り添った作品を作りますのでこちらの方もよろしくお願いいたします。
競輪用語解説
三連単
1着から3着も順番に当てる賭式。
先頭誘導員
別名ペーサー。残り2周から1周半までレースを先導して風よけの役割を担う。
(インターナショナル)先頭固定競走
今の競輪の全てで行われる競走方式で先頭誘導員ありの競走。ガールズケイリン(ここではリンカイ!リーグ)や競技のケイリンでは半周前から誘導員がスタートしてその誘導員がスタート地点を通過した時点でスタートするインターナショナル先頭固定競走方式が採用されている。
赤板(あかばん)
残り2周のこと、残り3周は青板(あおばん)。
ジャン
残り1周半から1周の合図で鳴らされる鐘、打鐘とも言う。
PIST6
千葉JPFドームで行われるケイリンのルールに準じた競輪。
まあ、こんな感じですかね?今回からは随時用語を解説していきます。本当に申し訳ありませんでした!
side愛嵐
事故から数日後、今日は病室に母さんである大石久美子(おおいしくみこ)がお見舞いに来ていて今は母さんと話をしている。あれから僕は担当医の先生から左足の骨折と右足がもうダメになっていたことから切断したということを伝えられた…とにかく今はかなり気が落ちているところだが、それでもお見舞いに来てくれた母親の存在が本当に唯一の拠り所だ。
「はい、りんごの皮剥いたわよ?沢山食べて元気を出しなさい。」
「ありがとう、母さん…いただきます。」
僕は母さんが皮を剥いてくれた林檎を1個まず手に取ってからそれを食べる。一口入れるとシャキっとした食感と広がる果汁がたまらない…林檎を食べるのは久しぶりだったけど、母さんが剥けば美味さは倍増だ。
「美味しい…少し元気が出た気がするよ。」
「嬉しい。あんたも色々不運があったかもだけど、こうして愛嵐が生きていて本当に良かった…もっと食べてね。」
「うん。それにしても、母さん…」
「どうしたの?」
「僕ってどうしてあの事故から助かったのかな?トラックにあのスピードで轢かれたら流石に死んでたと思うし…どうしてだろう?」
「もしかしたら、お父さんが守ってくれたのかもしれないわね…あの人もトラックに轢かれて亡くなったから、それを息子に繰り返したくないという思いもあったんじゃないかしら。個人的な推測だけど…」
「父さん、か。」
どうして助かったのかを母さんに訊ねると、父さんのおかげかもしれないと答える。そう、僕の父さん…クリストフ・ガスリーは自転車競技の選手で世界選手権のケイリンを10連覇したりオリンピックのケイリンも連覇等と長年に渡りフランス代表にて活躍していた鉄人で短期登録選手として日本の競輪でも活躍していたのだが、日本に引っ越してから3ヶ月後にフランス代表の合宿としてパリを訪れていた中で今回の僕と同じように猛スピードのトラックに轢かれてしまい37歳で帰らぬ人となってしまった。恐らく、僕は天国の父さんに守られたのだろうな…退院したら父さんのお墓の前でお礼を言わないとね。そんなことを思っていると病室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
「失礼します…」
母さんが部屋に入ることを許可すると扉が開く。そこにはもう二度と会えないと思っていたナナの姿がそこにはあった…しかもまだナショナルチームの練習中なのか練習着のままである。
「ナナ…」
「ナナちゃん、久しぶり…主治医の先生から聞いたわよ?今回は愛嵐を助けてくれてありがとう!ちょうどあなたが競輪場からの帰りの道中で本当に良かった…」
「いえ、私はとにかく助けるべき人を助けただけです。そんな凄いことはしていません…」
「そう。とりあえず、私は先に家に帰ってるわね…まだ在宅の仕事を残していたから。あとはナナちゃんとゆっくり話していて頂戴。それじゃあね!」
「う、うん…」
母さんはそう言うと、荷物をまとめてから病室を後にして家へと帰るのであった。これでナナと僕の二人きり…最近は直接会ってないし、声かけても避けられるし、別れ方も悪かったから気まずいよ。
「…」
「…」
二人きりになって1分ぐらい時間が経ったものの僕もナナもお互い話を切り出せない状態となってしまう…彼女が真顔で僕を見つめるのだからそれがとにかく怖いし、こんな時はどんな話をすれば良いのかなんて分からない。それだけ僕は家庭の都合とはいえ最悪なことをナナにしてしまったのだから…
「久しぶり、ナナ…元気にしてた?」
「…」
「えっと、今日も良い天気だね…絶好の練習日和じゃない?」
「ベロドロームは室内だけど。」
「あっ、そうだね…すみません。」
とりあえず、掴みとして挨拶とか天気の話とかをしてみたけど全然会話のラリーが成立せずにすぐに終わってしまう…それだけ僕のことを怒ってるのだろうけど、謝り方が分からない。単に『ごめんなさい』と謝るだけで済むのだろうか?
(それにしても、ナナをこうして久しぶりに間近で見たけど…いつの間にか可愛い女の子からまだ幼さは少し残っていても綺麗な女性になったな。銀の髪の毛は艶があって綺麗だし、出るとこは出てて締まってるところは締まってる…それでいて太ももはやはり競輪選手故に官能的。7年後の大人になった姿を見てドキドキが止まらないよ!)
「何?そんなに見られると恥ずかしい…」
すると、僕の視線に気づいたのかナナは顔を赤くして困ったような顔になり恥ずかしがる。ようやく真顔が崩れたことは安心要素だけど、掴みとしてはあまり良くない。
「ごめん!そんなつもりじゃなくて…久しぶりに見て成長したなと思ってね。最後に会った時はまだ子供の時だったし、大人の顔つきになりつつあって胸も大きくなったから…ナナももう大人なんだなって保護者的視点で見てただけだよ!決してやましいことは思ってないからね!?」
「…変態。」
僕は必死に取り繕うとしてナナを褒めようとしたつもりだったが、恥ずかしそうな感じで『変態』と罵られる。それはそうだ、最後にこうして会った時に子供だった中で大人になった姿を見れば視線を外すことなんてできない…特に膨らんだ胸に関しては大人の女性の象徴で、ナナのはグラビアモデルのサイズには遠く及ばないけど、服の上からでもそれなりに主張する程度はある。まあ、彼女はアスリートなので僕は別に巨乳とかを求めるつもりはないのだが…好きな異性の胸はサイズ関係なくどうしても気にしまうんだよね。
「とりあえず、最近会ってもいないのに僕のことを助けてくれただけでなくてナショナルチームの練習で忙しい中で来てくれてありがとう…遠かったでしょ?とりあえず、このりんごは食べて良いから栄養補給はしっかりね。」
「私は大丈夫、さっきお昼にチームから支給されたお弁当を食べてきたから。それと、ここはベロドロームの近くの病院だから愛嵐は気にしないで…」
「そ、そうなんだ。近いのなら気軽に行けて納得だね…」
彼女は僕の不安に対してまた冷静さを取り戻してから質問に答え、りんごを食べないかと訊ねたらお昼は済ませたと断る。なるほど、この病院は練習場所の伊豆ベロドロームと近いんだな…(というか、今さっき名前を呼んでくれた!?)
「とりあえず、あなたが無事でいてくれて本当に良かった…愛嵐には死んでほしくないと思ってたから。」
「そんな風に思ってたの?僕なんか君からすれば死んでしまえば良いと思ってるだろうなって考えてたんだけど…」
「そんなことは誰も思わないけど…どうしてそんな悲しいことを言うの?」
「えっ…!?」
すると、ナナは少し悲しみを帯びたような声で僕に訊ねてくる。そうにしても過去とこれまでの冷たい態度を踏まえてしまえば僕に怒っていて二度と会いたくないだろうから死んでしまえば良いと思ってるだろうな…とも考えてしまっていた。
「だって、君は怒ってるんだろう?僕が勝手に黙って君の前からいなくなったし、それをまだ根に持っていて競輪場で声をかけた時も目を逸らしたりして無視してたんでしょ?本当にあの時はごめん…どうしても家庭の都合で日本に引っ越さなきゃいけなかったんだ。それがどうしても言えなかったし、何よりもナナに『さようなら』を言いたくもなかったから。自分勝手だよね…でも、ナナと別れるのが辛かったんだよ。手紙では伝えてもそれを口で伝えなかった僕って薄情だよね?」
僕はあの時のことを思い出すだけでも申し訳ない気持ちでいっぱいとなって俯き頭を抱える。置き去りにしといて平然と再会したらその罪のことを忘れて平然と声をかけてしまうものだから厚かましい人間と思われても仕方ないはず…それでもナナはそんなことを思っていないのだろうか?
「顔を上げて…」
「えっ?」
ナナから『顔を上げて』と言われた僕はその通りに顔を上げてナナの顔を見る。彼女からは怒りのオーラを感じることはなく表情は穏やかだ…これってまさか怒ってないパターンだったり?
「やっと愛嵐の気持ちを声として聞けて良かった。大丈夫、今の私はもう怒ってないから…黙っていなくなった時は怒りもあったし悲しかったけど、大人に近づいていくうちにあなたの気持ちも分かるようになった。『さようなら』を言いたくなかったのは私も同じ…だって、私とあなたは幼馴染でかけがえのない親友だから。」
「ナナ…そうだとしたらどうして声をかけた時にあんな冷たい態度を取ったの?結構ショックだったよ。」
「ごめんなさい…私もできることなら愛嵐にも笑顔で手を振りたかったけど、私もあなたに合わせる顔が無くてどんな風に向かえば良いのか分からなくなってしまったからつい…それでも、また日本で愛嵐に会えたことが何よりも嬉しかった。いつもあっちのお友達を連れて私のことを応援してくれるあなたには感謝してる。本当にありがとう…」
ナナは冷たい態度を取ってしまったことを謝ってから僕に笑顔で感謝の気持ちを伝える。子供の時からずっと見た目からクールな女の子だったけど、たまに見せるこういう笑顔を見てると幸せになれるし…何よりも『ありがとう』の言葉が胸に響いて心の底から嬉しくなる。こういうナナのクーデレなところは本当に惹かれてしまうものだ…
「嬉しいな。僕もまた日本でナナに会えて本当に良かったよ…一度別れた時はいつまた会えるのか分からなかったけど、君が日本で競輪選手になると聞いた時はその時からもう応援しようと思ってたんだ。気づいてくれるかどうかの保証はなかったけど、こんな形ながらまた話すことができたことが不幸中の幸いかな。こちらこそ僕のことを忘れないでいてくれてありがとう…」
「うん。それで、今回の事故で右足を切断することになってしまったけど…愛嵐は辛くはなかった?」
「そうだね。右足を事故で失ったことはショックだよ…でも、命は天国にいる父さんが守ってくれたんだ。命と比べれば足なんて安いものさ…とりあえず、今は左足の怪我を治しつつ義足を作ってくれる業者さんを探さないとだよ。簡単に見つかるかな?」
「それだったら私が知り合いにパラサイクリング専門の義肢装具士がいるからその人に頼んでみる。だから、愛嵐はリハビリの方に専念していて…それで、退院して心も身体も元気になったらまた競輪場で私のことを応援してくれる?」
「もちろんさ!その時までに義足を手に入れて骨折も治したらすぐ君のいる競輪場まで応援しに行くよ…函館でも、佐世保でも。」
「ありがとう…それじゃあ、私は練習に戻らないといけないからこれで。競輪場で愛嵐のことを待ってるから…リハビリ、頑張って。」
ナナは笑顔でそう言い残してから荷物を持って練習場所である伊豆ベロドロームへと戻っていく。彼女はフランスにいた時からずっと変わらず僕に勇気を与えてくれた存在で日本の血が入っていることが理由で周りのフランス人からいじめを受けた時も真っ先に助けてくれたし、自転車の楽しさも教えてくれて最高の親友である…何よりもフランス語が拙かった僕に日本語でずっと話しかけてくれたり、僕の通訳を自ら進んでやってくれたのは本当に頼もしかったな。そう思いつつ外の景色を見ながら残りのりんごを食べていくのであった…
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その翌日、今日は母さんがお見舞いに来れず、ナナは昼休みになっても来る様子はなく、競輪仲間はみんな平日だから大学に通って授業を受けている。そのため、お見舞いに誰も来なかったらここに入ってくるのは主治医の先生と看護師ぐらいかな…僕の病室は一人個室だからね。
(暇だな…とりあえず、本の続きでも読もうかな?)
僕は暇潰しに朝早く読んでいた母さんが昨日持ってきてくれた週刊『リンカイ!リーグ通信』の最新号の続きを読む。本当に右足がないのは不便だ…ナナには命と比べたら安いものなんて言ったけど、左足は骨折してる上に右足がなくて歩けないことは物凄く不便である。歩けないから病院内にあるコンビニで買い物すらできないからね…そんなことを思っていると誰かが病室の扉をノックする。
「どうぞ。」
「失礼します。」
僕はそのノックしたお客さんを受け入れると、中に入ってきたのはスーツを着た20代後半~30代前半のまあ若い男性である…しかも大きな荷物を持った助手と思われるさらに若い男性も一緒に入ってきた。
「あなたが大石愛嵐さんですね?」
「はい。そうですけど、どちら様でしょうか?」
「これは申し遅れました…私は道場晃(みちばあきら)、パラサイクリングの日本代表の専属義肢装具士をやっています。こちらが名刺なので何かありましたらこちらの連絡先にお願いしますね。」
そう言われて僕は道場さんから名刺を受け取る。義肢装具士ってことは俗に言う義足職人だ…しかもパラサイクリングのナショナルチームの専属。見た目は若いのにそれを任されるということはこの人はかなりの職人かもしれない…
「あの、すみません…失礼ですが道場さんはおいくつでしょうか?見た目がかなり若そうなので…」
「私ですか?8月で30になるので今は29ですね…それと結婚もしていて来月にはパパになります。」
僕が道場さんに年齢を質問したら29歳(8月で30になる)であることだけでなく結婚してることも奥さんが出産予定であることも答えてくれた。一の質問を百で返すとかこの人は人間ができすぎている。たった10歳離れてるだけでここまでの人間になる育ち方が気になるものだ…
「とりあえず、あなたのことは平塚さんから聞きました。今回は大石さんのために義足をご用意してきたので感想お聞かせください。」
そう言うと道場さんは持ってきた義足を入れ物から取り出し、僕に見せる。その仕上がりに関してはまさに職人芸…やはりナショナルチームの専属職人は違うなと感じさせられてしまうものだ。
「とりあえず、一番右のやつからお願いします。」
「分かりました、装着するので右足をこちらに出してください。」
そう言われて僕は膝より下がない右足を道場さんに差し出すと、彼はそこに義足を慣れた手つきでスムーズにセットしていく…それでいて作業は丁寧、この人は若いながらもベテラン感が出ている。
「どうですか?」
「ジャストフィットですね…僕、これにします!」
「良いんですか?他のも履いた方が良いかと…」
「いえ、いきなり自分にぴったりなものが見つかったので大丈夫ですよ。ありがとうございます!」
「それは良かったです。これからはこの義足があなたの右足にして命なので大事にしてくださいね?」
道場さんは笑顔で感謝した僕に返事をする。流石はナナが太鼓判を押した職人、彼女にも感謝しないといけないな…とりあえず、これで元の生活に戻るための下地は整った。
「分かりました…それで、お代の方はどうすれば良いでしょう?これだけの義足ですし、お高いですよね…」
「安心してください。費用に関しては平塚さんがもうお支払いしてくださったので大石さんからは取りませんよ…ただ、これであなたが日常生活に戻れれば私は満足です。」
「良いんですか?すみません…ナナからの紹介とはいえここまでしてもらって。ありがとうございます…」
僕はあまりもの道場さんの優しさに感謝の言葉しか出なかった。ナナの仲介があるにしろないにしろここまでしてもらったらいくら下げても足りないぐらいに頭が足りないよ…こんな凄い彼と知り合いだったナナってマジで何者だろうか?
「師匠、そろそろ…」
「分かった。すみません、次の仕事が入ってるもので…失礼いたします。また何かあったらいつでも呼んでください。すぐに駆けつけますからね。それでは…」
道場さんはお弟子さんを連れて病室を後にする。こんなにも優しくて紳士な義肢装具士の人を紹介されたことが何よりも幸せだ…この人だけじゃなくてナナも良い仕事をしてくれた。この人達のためにリハビリを頑張らないと…そう思い、僕はまた生きる希望を取り戻した。
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あれから半年の月日が流れ12月…義足を手に入れてから僕はリハビリを積み重ね、左足の骨折は治りギブスも包帯も外れた後に何の支えも不要で歩けるようになった。まあ、右足に関しては義足だけどね…これでやっと日常生活に帰れるんだな。
「この度は愛嵐がお世話になりました…このご恩は一生忘れません。」
「いえいえ、これは私達だけの力ではなくて愛嵐さんの努力の結果でもありますよ…片足を失ってもなお不屈の闘志で立ち上がる姿には私も感動しました。」
「とりあえず…明日からはまた学校生活に戻れると思いますけど、まだ体力は完全に戻ってはいないので無理はしないようにお願いしますね?」
「はい。ここまで僕を支えてくださってありがとうございました!行こう、母さん。」
「ええ、ありがとうございました。」
僕は主治医の先生と看護師さんに頭を下げてお礼を言ってから母さんを連れて病室と病院を後にした。実際に歩いてみても右足が自分の足じゃない違和感はあってもそこは慣れれば良いだけの話…とにもかくにも自由自在に歩ける喜びを噛み締めながら母さんが車を停めている駐車場までの道のりを歩いた。
side out
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「…」
ちょうどその頃、伊豆ベロドロームのトレーニングルームではナナがウェイトトレーニングをしていた。本来ならナショナルチームの練習は今月いっぱいオフなのだが、彼女はこの先のレースや国際大会を見据えて居残りで練習をしている。
「お疲れ!」
「久留米さん…」
そんなタイミングでこれまた居残りにして現在のリンカイ!リーグの女王にしてスプリントの世界女王である久留米美虹がナナに声をかけ、ナナは練習を中断してから美虹のもとへと歩み寄る。
「本当に平塚っちって練習好きだね…はい、アクエリアス。私の奢りだよ♪」
「ありがとうございます。ところで、久留米さんは帰らなかったんですか?立川さんは帰りましたけど…」
「うーん、まあ…久留米に帰ってもやることないし、年末のグランプリは静岡でしょ?久留米から行くのってめちゃくちゃしんどいもん。」
美虹は口をとんがらせてからナナの質問に答える。そう…この先に控える年末には女子競輪の総決算である『リンカイ!グランプリ』が今年は静岡を舞台に行われ、そこにはここにいる美虹とナナももちろん出るのだが…ナナに関しては早期卒業のルーキーながら最後のグランプリ選考であるGI競輪祭女子王座戦で三強に対してGI初出場初ファイナルにも関わらず逃げ切りで優勝してグランプリへと滑り込んだ。もちろん、L14期生の中でただ一人なのは言うまでもない。
「子供みたいですね…」
「そういうあなただって居残りしてるじゃん?人のこと言えないよ。」
「私はただ練習以外することがないだけです。競輪と競技のこと以外何も考えてませんから…お気楽なあなたとは違って。」
「うへぇ…平塚っちはストレートに物事を言うね。でも、そんなあなたに良いニュースがあるんだけど、知りたい?」
「何ですか?良いニュースって…」
「実はね…道場っちからさっき聞いたんだけど、あなたがお見舞いに行ってたお友達がさっき退院したらしいよ?」
「えっ、愛嵐が!?」
美虹がナショナルチーム専属の義肢装具士の道場から聞いたニュースを話すと、ナナは大きな声で喜び半分で驚く。これには少し美虹もびっくりしてしまった…
「そ、そう…大石愛嵐くんって子だったかな。平塚っちとはフランス時代の幼馴染だよね?」
「はい、その愛嵐が退院したって本当ですか?」
「うん、愛嵐くんのお母さんから道場っちに電話があったって…」
「そうですか…良かった。」
ナナはこの知らせが本当だということを知って胸を撫で下ろして安心する。それもそうだ、あの日以降も最低週に1回はお見舞いに行ってたぐらい心配していた親友が退院したのだから…これ以上に嬉しいことはないだろう。彼女は心の中で大喜びし、外面では控えめに喜んだ。
「おおっ、平塚っちったら嬉しそうだね。競輪と競技以外に興味ないとか言っといて愛嵐くんのこと気になってんじゃん♪」
「うっ、別に気になってません!彼には競輪場に来て私に票を入れてもらわないと…私の活力になってほしいと思ってるだけですよ。」
「そんなこと言っちゃって…顔が赤くなってるよ?まさか、幼馴染の愛嵐くんに恋しちゃってたりとか!?」
「違います!とにかく、練習を再開するので邪魔しないでもらえますか?久留米さんも練習した方が良いですよ…グランプリもまた私が勝ちますからね。」
「はいはい、言ってくれるじゃないの…それじゃあ楽しみにしてるね、大型新人さん♪」
ナナは顔を赤くして照れ隠しに美虹をトレーニングルームから追い払ってから美虹も素直に部屋を後にし、見送ってからまたウェイトトレーニングを再開した。
(とにかく、愛嵐が退院したからには私も頑張らないと…恋のことはまだ分からないけど、確かなことは彼の前で勝ちたいという気持ち。久留米さんにも立川さんにも誰にも負けたくない…私が一番になって彼に凄いと言われてみせる。愛嵐の地元のグランプリを勝つのはこの私、平塚ナナだから!)
それからもナナはウェイトトレーニングだけでなくバンク内を自転車でもがいて汗を流した。彼女の心はこれまでで一番燃えている…親友の愛嵐と日本で再会できたこととそんな彼が退院したことが何よりも大きな活力だ。彼女はもうとにかく前へと突き進む…いつまでも、どこまでも。
大石久美子(おおいしくみこ)
CV:湯屋敦子
身長:158cm
体重:??
誕生日:9月1日
年齢:46歳
愛嵐の母で日本人。元々はテレビ局のアナウンサーだったが、オリンピックでの自転車競技の取材でフランス代表だった後に愛嵐の父になるクリストフ(後々プロフィール紹介)にインタビューをしたことがきっかけで好きになり、その後にテレビ局を退職してフランス代表のマネージャーに転身してやがては恋をして結婚。愛嵐が産まれてからは子育てに専念して、夫のクリストフが亡くなっても最後は女手一つで在宅でネット声優の仕事を受ける中で遺産を元金にして投資で稼ぎつつ愛嵐を成人するまで育てた。
道場晃(みちばあきら)
CV:神谷浩史
身長:178cm
体重:65kg
誕生日:8月10日
年齢:30歳
パラサイクリングの日本代表専属の義肢装具士。物腰柔らかな紳士で若いながらも作業の正確さも相まって業界からの信頼は厚い。美虹からは年下ながらも『道場っち』と呼ばれている。
競輪用語解説
伊豆ベロドローム
伊豆にある自転車競技場、東京オリンピック並びにパラリンピックの自転車競技(トラック)の会場。
ナショナルチーム
その国の代表チームのこと、ここでは自転車競技の日本代表を示す。
競輪祭女子王座戦
女子によって行われるGIの一つで競輪祭の中で行われる大会、出場基準に関してはWikipediaを参照。(僕でもまだよく分からない…)
パラサイクリング
パラリンピック等で行われる自転車競技のこと。使われる自転車は健常者と同じタイプと手で漕ぐタイプと二人漕ぎのタンデムタイプの3種類がある。
もがく
自転車を全力で漕ぐことを意味する。
用語解説はこんな感じでしょうか?とりあえず、こんな感じで次回は愛嵐が日常生活に戻ります。どんな感じなのかはお楽しみに!
感想、お気に入り登録、高評価の三点セットをお待ちしております。それでは…