幼馴染は競輪選手 ~失ってから始まる恋とチャレンジ~   作:寿垣遥生

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しばらくぶりです。色々執筆してたら投稿までに時間がかかりました…伸びない作品にここまで命をかけるのはバカバカしいのではと誰もが思ってることでしょうけど、僕は自分の作品に優劣はつけません。どの作品にも命をかけてますけど、特にこの作品の原作である『リンカイ!』は今ハマってる作品なので専念はしています。しかし、アニメの人気とは裏腹に二次創作は伸びないのが現実ですね…それでも僕は今回は人間ドラマと恋愛をメインにして書いていくのでどんな伸びなくとも、いや伸びるまでやめませんよ!それだけこの作品が好きなのですから。

今回は愛嵐が退院してからの話となります。彼は退院してどのように日常生活へ戻っていくのか…それを楽しみにしていてください!

それでは、また後書きにて…


障害者になった自分

side愛嵐

 

 病院を退院した僕は母さんの運転する車に乗って自宅へと向かっていた。その道中の風景を楽しみながら帰っていると、突然母さんは車をある駐車場に停める。

 

「とりあえず、ここで降りるわよ?」

 

 その停めた場所とはあの時に僕が泊まる予定だった旅館の駐車場である…今日はもう家に帰ることしか考えてなかった僕は突然のことで驚くしかない。

 

「母さん、今日はここで泊まるの?でも、予約はしてないはずだけど…」

 

「泊まるんじゃなくて伊東さんに挨拶しなきゃダメでしょ?心配をかけたことだし、同じ地区の人間として挨拶するのが礼儀。あんたも来るの!」

 

「う、うん…」

 

 僕は母さんに連れられて車を降りてから旅館の中へと入っていく。あの時は事故に巻き込まれて旅館に行くどころじゃなかったにしてもキャンセルするような形になってしまったから怒ってるだろうなぁ…キャンセル料とか請求されたらどうしよう?これを母さんに払わせることが申し訳なさすぎる。

 

「いらっしゃいませ…って、大石さん、お久しぶりです!」

 

 入口から入り、受付の前に来ると今の女将で泉ちゃんのお姉さんでもある伊東温(いとうあつむ)さんが声をかける。どうやら怒ってる様子はなさそうだが、これはもしかして助かったパターン?

 

「あら、温ちゃん…久しぶりに会ったら旅館の女将さんに相応しい顔になったわね。」

 

「ありがとうございます。愛嵐くんが来たということはもしかして泉に用があったりするんですか?少々お待ちください…泉、愛嵐くんが来てるわよ?」

 

「はーい!」

 

 温さんが外に向かって呼びかけると厚着をしている泉ちゃんが入ってきた。箒を片手に持ってるから恐らく庭の掃除をしてたんだろうな…

 

「愛嵐くん、おかえりなさい!やっと退院できたんだね…あの時からずっと心配してたんだよ?それなのにお見舞いに行けなくてごめんね。」

 

「ううん、気にしないで…泉ちゃんのことだからレースや自転車整備に旅館のお手伝いで大変だったでしょ?それにしても、僕も道中でトラックに轢かれるとは思わなかったな。でも、僕は天に救われたんだ…これからまたみんなと日常生活を過ごして行くよ。」

 

「愛嵐くんは本当に前向きね…それじゃあ、今からあなたのお母さんと話しをするから久しぶりに泉と会ったんだし少しぐらい話して行きなよ。」

 

「分かりました…それじゃあ、行こうか。」

 

「うん!」

 

 僕は泉ちゃんを連れて旅館の外に出てから外で保護者達の話の邪魔にならないようにした。こうして泉ちゃんと二人きりで話すのは久しぶりだからワクワクするよ…競輪選手になったことだし、プロの世界の実情とか質問してみようかな?

 

「まず、あの時はごめんね…折角予約を入れたのに事故で来れなくて。」

 

「ううん、事故なら仕方ないよ。それで、平塚さんから聞いたけど右足を切断して今は義足なんだよね?今はこうして歩けてるけど、辛くなかった?」

 

「最初は辛かったし、大変だったね…その上左足も骨折してたから歩けないことがどれだけ心も身体も大変なのかということか身をもって勉強できたよ。それでも、同じくトラックとの事故で亡くなった父さんが守ってくれたこととナナが毎週お見舞いに来て僕を励ましてくれたことが活力になり、リハビリもして退院できたんだ。もちろん、義足が手に入ったことも希望だったよ…」

 

「私も愛嵐くんがこうして戻ってきてくれたことが凄く嬉しいんだ。だって、あなたは身近にいた中でただ一人競輪の話がより深くできるお友達だったもん…陸くんもそうだったけど愛嵐くんは特別、熊ちゃんや絹ちゃんや巫子ちゃんやなごちゃんはみんな遠距離だったからね。それでもいつも横にいてくれた愛嵐くんは私にとって一番の親友だよ。本当にありがとう!」

 

 泉ちゃんは笑顔で僕が戻ってきた嬉しさとこれまでの分の感謝を伝える。彼女はナナとは正反対で元気で感情豊かなタイプだからナナにはない魅力を持っている…あっちもこれぐらい元気な娘だったらなという理想はあるけど、みんな違ってみんないいという言葉があるからね。一人一人違う人間だから人間関係というのは楽しいんだ!

 

「そう言われると照れるなぁ…あっ、そうそう!泉ちゃんのレースは病院で見させてもらったよ。プロは流石に厳しくて洗礼も受けてるけど、かなり優勝したりして頑張ってたね…流石は卒業記念レースでナナを倒して優勝しただけあるよ。流石は在所成績1位!」

 

「いやぁ…でも、養成所にいた時は私よりも上がいたしデビュー当初はかなり苦戦したからね。それでも頑張れたのは久留米さんが養成所に入った時から私のことを見込んでくれたことと仲間達の支えが大きいかな?プロになってからは壁もあった中で私に期待してくれるお客さんの声と久留米さんみたいになりたいという夢があったからこそここまで来れたんだ。」

 

「本当に泉ちゃんは久留米選手が好きだね…いやぁ、僕も彼女は本当に凄い競輪選手だと思うよ。まだ29でしょ?競技ではオリンピックと世界選手権のスプリントで金メダル、競輪ではグランプリは立川選手と優勝を分け合いながらももう4回優勝していてGIもグランドスラムしてるし。まだ現役だけど、これだけの功績を残されたら国民栄誉賞は確定だよね…それで美人でしょ?スタイル良いでしょ?しかも性格も良いでしょ?もう最高の競輪選手だよね!そうでしょ?」

 

「うん!私も久留米さんみたいなトップクラスの選手になりたいなぁ…それで好きな人のことを振り向かせたいよ。愛嵐くんとか…」

 

「えっ、僕がどうしたの?」

 

「いや、何でもないよ?とにかく来年行われるルーキーファイナルの参戦が決まっていてそこで平塚さんとまた戦うことになるから、今度は絶好調で万全の平塚さんに勝ってみせるよ!あの子がグランプリを勝っても負けても私は負けないから…応援しててね。」

 

 泉ちゃんは力強い笑顔を見せて出場が決まっている3月のルーキーファイナルへの意気込みを語る。それにしても、性格が元気でもどこか消極的なところがあった彼女は競輪選手になってすっかりプロの顔になったものだ…とりあえず、僕はナナを応援する身ではあるけども泉ちゃんのことも同じぐらい応援していこうと思った。

 

「うん、僕も競輪場へ応援に行くから…ナナも泉ちゃんも応援するからね!でも、オーバーワークはほどほどにだよ。怪我をしたら元も子もないから。」

 

「ありがとう!」

 

「泉〜、愛嵐く〜ん、話終わったわよ?」

 

「「はーい!」」

 

 ちょうどその時、保護者同士の話が終わったのか温さんが僕達を呼ぶ。そこには母さんも一緒にいてどうやら機嫌は良さそうだ…満足いく話ができたのだろうか?

 

「それじゃあ、私達は帰るわね…温ちゃんも泉ちゃんもそれぞれ頑張って!」

 

「ありがとうございます。またいつでもお越しくださいね?」

 

「愛嵐くん、またね!」

 

「うん、ありがとうございました!」

 

 そして、僕達は旅館を後にしてから自宅へと帰るのであった。泉ちゃん達はとりあえずキャンセルしてしまったことを怒ってないどころかむしろ帰ってくることを待ってくれてたんだな…本当にこの姉妹は優しい人達である。こんな優しい人達に囲まれてる僕は幸せ者だと思っていたのだが、この翌日にそれが打ち崩されてしまうことなど想像できなかった。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 翌日、僕は自宅から電車を利用して静岡市内にあり自分や競輪仲間が通っている静岡富士山大学のキャンパス内へと踏み入れる。大学に通うのはもう半年ぶりぐらいだろうか?みんなには迷惑と心配をかけてしまったけど、今日からまた頑張らないとね!

 

「おはよう!…あれ?」

 

 僕は1時間目の講義がある講堂に入りいつものように挨拶をする。しかし、みんなの反応がない…まるで僕に誰も気づいていない様子だった。

 

(もしかして、サイレントトリートメントの要領で後々になって復帰祝いをするのかな?)

 

 そんなこんなでみんなからの『おかえりなさい』を待ちながら席へ向かおうとすると、その中で陸、雅彦、新田先輩のいつもの競輪仲間が話していた。彼らなら声をかければ反応するだろう…

 

「おはようございます!大石愛嵐、事故から復帰しました!!」

 

「誰だてめえ…知らねえ顔だな。」

 

「えっ?」

 

 僕が声をかけると新田先輩から他人のふりをされてしまう。これは何かのイタズラとかドッキリに違いない…とりあえず、落ち着こう。

 

「誰って大石愛嵐ですよ?平塚ナナ応援団の団員、団長をしてる先輩がチームのメンバーを忘れるとか酷いじゃないですか。からかうのはやめてくださいよ?」

 

「雅彦、そんな愛嵐とかいうメンバーってウチにいたか?」

 

「陸先輩、いたっすよ…平塚ナナの幼馴染を名乗ってた熱心なファンが。まあ、そいつは事故に遭って右足を失い障害者になり退学処分になりましたけどね!」

 

「ああ、いたな…そんなやつ!まあ、死んだってことで良いよな?所詮は障害者という奴隷にもなれない社会のゴミだから。アハハハハ!」

 

 そんな中で陸と雅彦までもが僕をからかうどころか勝手に退学したことにまでしてしまう。どうしてこの二人までも酷いことを言うんだろうか?しかも、障害者をそんな風に思っていたとは…自分も障害者手帳を入院していた間に取得した人間として思うけど、あまりにも酷すぎるし許せない。日本中の同じように苦しんでる人がこの場にいたら怒るし悲しむだろうね。

 

「二人とも、流石にそれは言い過ぎだと思うしドッキリにしてはもう溜めすぎじゃないの?ほら、僕のことを良い加減思い出してよ。僕達、親友じゃないか…」

 

「うわっ、障害者に触られてエキスを伝染された!ぐわああああ、頭と身体がおかしくなっちまうううう!!」

 

「陸先輩!あんた、よくも陸先輩にエキスを付けて障害者にしやがったな!?この人外野郎め!!」

 

 僕はヒートアップして陸の肩に手を触れると彼は『エキスが付いた』と叫んでから『障害者になっちまう』と言って蹲り、雅彦が胸ぐらを掴んで怒り狂う。これってもはや差別としか思えないというか小学生のいじめと同じだ…障害者になったとしても彼らはナナや伊東姉妹のように優しく受け入れると思ったらむしろ差別する側だったらしい。

 

「何の騒ぎだ!もう講義が始まるのに何をしてる?」

 

 そんな時にこのトラブルを聞いた講義の担当の講師が講堂に入って僕達の間に割って入る。この人なら分かってくれるかもしれない…僕はとにかくそれを信じた。

 

「先生、聞いてくださいよ…こいつ、もう既に障害者になって退学処分になったのにも関わらず登校してるんすよ?それに俺達に迫って金銭の要求をしてました。」

 

「陸、何を言って…!」

 

「なるほど、話は分かった。新田と栗田は学年が違うし1時間目は待機だろ?お前らは図書館で自主勉強をしていなさい。」

 

「「うっす。」」

 

 先生に言われて新田先輩と雅彦は講堂を後にしてから図書館へと向かうのであった。これで先生の前に残ったのは僕と陸のみ…まあ、あれだけのトラブルの引き金は僕だろうから怒られるのは避けられないか。

 

「それで、大石はどうしてここに来てるんだ?」

 

「どうしてってそれはここの生徒だからですよ。先生までご冗談はやめてください…」

 

「俺がふざけてるとでも言いたいのか?お前は知らないと思うが、もう既に大石は退学処分になっているんだ。半年も入院していて知らんと思うがな…」

 

「退学?何を勝手なことを言ってるんですか?それを決めるのは学園長であってあなたに権限はないはず!」

 

「それが学園長がお決めになったことだ。退学届に関してもこの通りこちらで書かせてもらった…要するにお前はもう我が校の生徒ではないんだよ。」

 

 そう言うと先生は僕の名前が記してある退学届のコピーを見せつける。しかし、本人の同意もなくこういうことをするのは文書偽造に当たるのではないだろうか?それも学校ぐるみでやってるのは質が悪い。

 

「ちょっと待ってください!これは僕は書いてませんし、これは文書偽造の罪に該当します。どうして僕をそこまで退学処分にさせるつもりなんですか?」

 

「どうしてもこうしても理由は簡単、お前が障害者だからだ。」

 

 僕は先生から言われたことに僕は何も言えないというかこれが教育者としてやって良いことなのかと疑問に思ってしまう…確かに僕が障害者になったことはどう足掻いても変わらない事実である。だけど、それだけの理由で退学というのは差別以前の話…何を考えているんだ!

 

「えっ、どうして?」

 

「どうしても何も我が静岡富士山大学は静岡の国公立の中でも高いブランドを誇る学校だ…そんなところに障害者という頭のおかしい犯罪者予備軍がいてみろ?ウチの大学は地域密着型だから悪評が出ると地域だけでなく全国的にも印象が悪くなって入学者は減るばかりだ…それを避けるためにはお前のような害悪を排除する、それも我々の仕事だからな。そういうことでお前はこの学校に必要ない…出ろ。」

 

「そうだそうだ、障害者なんてこの世から消えてなくなっちまえ!」

 

「お前がいたら俺は就職できねえんだよ!大人しくいなくなれってのゴミ野郎!!」

 

「おいおい、こいつにゴミとかゴミに失礼だろ?こんなゴミ以下の存在なんかはクズだよ!」

 

「いやいや、クズも失礼だって…結局こいつは何だろうな?アハハハハ!」

 

 僕はみんなからの罵倒に押し潰されそうになり何も言えずにこの場を後にした。もう僕に仲間なんていないし、居場所もない…仲良くしていた仲間も先生もみんな僕が障害者になったら敵になっていた。この絶望感はとても計り知れないものである…みんなが伊東姉妹やナナや母さんや道場さんや病院の人達のように優しい訳じゃないんだな。そして、障害者の社会での扱いの酷さも我が身をもって知って傷ついた。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「ただいま…」

 

 僕は絶望感を抱えたまま自宅へとたどり着く。本当にここまでの道は辛いことしかなかった。今までの仲間から捨てられることはとにかくショックしかない…ナナとの別れ以上に辛いし心が痛すぎた。こんなことを経験することになるとは思わなかったよ。

 

「おかえりなさい。随分と早い帰りね…」

 

「まあ、うん…学校で色々あって。」

 

「それなら丁度良かった…あんたが入院していた時にナナちゃんからこれを預かってたんだけど、何か困ったことがあったらこの番号に電話してって。試しに電話してみたら?」

 

「うん、ありがとう。」

 

 僕は母さんから一枚の紙を受け取ってから階段を上り、自分の部屋の中へと入る。母さんはどうやら詳しいことは理解していないけど、僕が落ち込んでいることを理解してナナから授かった紙を渡してくれたようだ…僕は携帯を取り出してからその番号を入力して通話ボタンを押す。

 

「もしもし?」

 

『おはよう。やっぱり、かけてきたんだ…』

 

 僕がその声の主が誰かを確かめると透き通った綺麗な声が耳に入る。そう、話し相手はナナだった…この紙に書かれた番号はどうやら彼女の携帯の番号のようだ。

 

「ナナ、もしかしてこの番号って君の携帯のなのかい?」

 

『うん、私の携帯番号…小さい時はお互いに携帯電話を持ってなかったけど、こうやって大人になって携帯を持つようになったから連絡先を知って話せたらと思って。通話が終わったらこの番号、登録してくれる?私も愛嵐の番号を登録するから。』

 

「う、うん…」

 

 そう言われて僕は彼女の言う通りにこの通話が終わったら連絡先を登録することにした。しかし、ナナもなかなかの策士だな…僕が困った時に助けたいという気持ちが強いと思うけど、これに乗じて母さんを使って連絡先を教えつつ手に入れるとは。ここまでするってことはこれって脈ありなのか!?

 

『それで、この番号に繋いだということは何かあったからでしょ?私にできることはないかもしれない…でも、あなたを癒したり元気付けたりすることはできる。だから、教えて…何があったのかを。』

 

「それがさ…僕、大学を退学させられてたんだよ。しかも学校側が退学届を勝手に作ってたし、学園長がお決めになったとか言われた。」

 

『えっ…勝手に書類を作るのは違法のはずなのに。それに、愛嵐が退学ってどうして?』

 

「どうやら僕が障害者だかららしい。学校のブランドを守るために犯罪者予備軍の障害者はいらないって言われたんだ…酷い話だよね。」

 

『それは酷い…愛嵐は何も言わなかったの?』

 

「何も言えなかったよ…自分の立場と現実を踏まえると反論はできなかったし、何よりも周りから色々言われたり睨まれたりするのが耐えられなくてね。」

 

『…』

 

 僕がさっき起きたことをナナに説明すると彼女は何を言えば良いのか分からなくなったのか黙ってしまう。それもそうだ…この辛さって五体満足の人には分からないことだからね。自分も片足を失ってようやくその人の大変さが分かってきた…

 

「ナナ、僕って生きてたらダメな人間なのかな…障害者は世間的に邪魔な存在のように扱われてるし、何よりもそんな人間になった自分が生きてる価値がないと思うんだ。大学も退学したし、何の資格もない自分には就職もできないし…バイトもできない。こんな役立たずは死んでも誰も悲しまないよね…」

 

『そんなことはない!』

 

「えっ?」

 

 すると、ナナはスマホの向こうから大きな声を出す。普段はクールな彼女がここまで怒ったのは初めてなのかもしれない…あまりにも突然の出来事に僕は驚いた。

 

『確かに話を聞いて愛嵐がかなり辛い思いをしたというのは分かった…でも、あなたは大事なことを忘れている。どうしてそれに気づけないの?今の愛嵐は裏切られた人しか数えていない…残っている人達のこともよく考えて!あなたは一人じゃないはず…』

 

 彼女は続けて僕に厳しく迫る。僕は言われた通りに残っている人達のことを思い浮かべた…僕を育てた母さん、幼馴染で親友のナナ、そして泉ちゃんと温さんの伊東姉妹に義肢装具士の道場さん。そんな仲間達がいることを忘れかけていた…

 

「みんなが…いるよ。僕のことを大事にしてくれる友達や家族や支えてくれた人達が!」

 

 僕は涙を零しながらも彼女の問いに答える。どんなに周りから裏切られても助けてくれて守ってくれる人が沢山いることを改めて気付かされた。僕はまたナナに救われたんだな…

 

『それだけでも気づいてくれたら私も嬉しい。突然大きな声で怒ってごめんなさい…』

 

「良いよ…むしろ僕はナナにまた助けられたから。君はいつでも僕のヒーローだった…フランスにいた時に日本人だから差別された時も真っ先に助けてくれたのはナナだったし、家族以外で日本語で話してくれたのは君だけだった。ナナがいたからこそいま僕はここにいるんだよ…ありがとう。」

 

『嬉しい。私もあの時、あなたを助けられて本当に良かった…私も日本語が話せる友達が欲しかったし、一緒にサイクリングをしてくれる友達も欲しかったから愛嵐に会えて仲良くなれたことが何よりも幸せだと思ってる。こちらこそ、ありがとう…』

 

 ナナは向こう側からでも分かるぐらいに嬉しさを噛みしめたような声で僕に感謝を伝える。彼女も僕のことを大事に思ってくれてたんだ…昔も今も変わらずずっと。

 

「うん…それで、これから僕はどうすれば良いんだろう?さっきも言ったけど、資格も何もない大学中退で高卒の僕に何ができるのかな?」

 

『それだったら、あなたに向いている仕事が一つだけあるけど…』

 

「向いてる仕事?とりあえず、聞くだけ聞くよ…どんなものかな?」

 

『パラサイクリング。要するに自転車競技…どうかな?』

 

「えっ、僕が…いやいや、流石にブランクがありすぎだよ。もう4年もやってないし、流石に今さらパラとはいえ競技は無理じゃない?」

 

『大丈夫、私の知り合いの同じ競技の選手は10年のブランクがあってもナショナルチームの一員まで上り詰めてるから愛嵐にもできるはず。強制はしないけど検討してみるのも良いと思う…』

 

「そうか。貴重な情報をありがとう…年末のグランプリ、頑張ってね!」

 

『ありがとう。私、グランプリで愛嵐を驚かせるレースをするから期待してて。それじゃあ、また…』

 

 そう言ってからナナは通話を切る。それで、連絡先を登録した後からはパラサイクリングについてを調べた上でやるかどうかをこの時から考え続けていくのであった。競輪選手の夢は随分前に絶たれたけど、右足を失ったことでまたチャンスが生まれたんだ…でも、一度道を絶たれた僕がまともに自転車を漕げるのだろうか?その不安もあるが、ナナが僕に生きる道を与えてくれたことを考えるとこの恩を無駄にはできない。僕は長い時間をかけて自分と向き合い続けるのであった。




いかがでしたか?まず最初に障害者の扱いの悪さを表現するために不適切な表現を用いる場面があったことをお詫び申し上げます。目次とかにもあるようにこれは僕の本心では一切ございません。不快になられたのならお詫び申し上げます…

しかし、今も昔も障害者の扱いが悪いというのは現実ですね…最近はバリアフリー化とか点字とか手話とか色々やってますけど、大体は車椅子の人や目や耳が不自由な人や麻痺の人が第一でそれ以外の人を助けられてないような気もします。特に知的とか精神とかに関しては見た目だけでは分からないので配慮というかそれができずに周りの人は平気にいじめていたりする例も見られます。手足が欠けている人への差別もありますね…本当にこういうのはなくなってほしいと同じ立場の人間として思いますよ。読者の皆さんはどんな人にでも差別はしないようにしてください…障害者を代表して僕とのお約束です。

感想、お気に入り登録、高評価の3点セットをよろしくお願いいたします!次回もお楽しみに。
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