サダルスードとテンペストの戦闘はメディアでも有名になった。
何故か、パイロットのことは一切載っていないが、その実力は誰が見ても国家代表レベルである。数多のニュースキャスターや、有識者が言葉を交わすのを、ロックオンはホテルのテレビで見ていた。
「帰国まであと数日、いや……」
ロックオンは最低限の荷物を背負いホテルのベランダに出る。
裏社会で生きていたせいか、部屋に迫る足音等には警戒する。
「居ない」
「……随分と早いなエイミー」
ベランダから拳銃をハンカチで隠してロックオンが姿を見せる。
「ニール兄さん、ついて来てほしいの。私達は、アイルランドは兄さんに専用機を準備できる」
「ソレは願ったり叶ったりだな。元々、売り込む予定だった」
「なら!」
「でもな、エイミー。本当に俺がお前の兄貴。ニール・ディランディだと思っているのか」
ロックオンは冷めた目で静かにエイミーを見つめる。
ロックオンはニール・ディランディであるが、織斑十春という名前もある。顔付きは織斑家族とは一切に似ていない。むしろ、ライルと瓜二つである。
「その顔、会話……全部ニール兄さんなら知ってることでしょ!なんで、なんでこんな嘘を」
「……エイミー、俺を連れて行け。良いな」
エイミーはロックオンの手を握りしめ、共にアイルランド国軍の基地へと向かった。
「……ライル、お前も居るなんてな」
「エイミーが軍に入ったからな、俺も士官学生だ。兄さんは……色々と変わってるな」
「……そうか」
深く話すことはしない、ライルも、エイミーも、違うのだ。
そして、ロックオンは何故か軍の高官との会話をすることになる。アサルトを構えた警備兵、アイルランド国軍大佐の階級章をつけた男性。マジックミラーにより監視もされているだろう。
「さて、まず血液検査をさせて貰いたい。利き腕は?」
「右腕だ」
敵対する意思はない為、右腕を出し机に置く。
すると注射器を持った軍人が現れ、ロックオンの血液を採取した。
「今の科学力は素晴らしい、血液検査の結果もせいぜい20分程でできる。さて、本題に入ろう。織斑十春いや、ニール・ディランディ君」
「なんですかね、大佐殿。自分は日本国籍を持った日本人ですが」
「その割に君は黄色人種ではない、我々と同じに見える。このデータのライル・ディランディ君とはまさに瓜二つではないか」
「しかし、俺は日本で生活していた。調べれば分かることだ」
「そうだ、調べれば分かることだが……そんな事はどうでもいい。君は誰だね」
「どう言う意味だ」
「プトレマイオス、フェルトは泣いてたんだぞ」
ロックオンは立ち上がり、大佐の軍服を掴んだ。
兵士がライフルを構えるが、大佐はソレを止めさせる。
「俺も……悲しかったんスよ、ロックオンさんが……死んだなんて」
「お前……リヒティ」
「……はい、ロックオンさん」
ロックオンは力を失った様に椅子に座り込んだ。
「……そうか………悲しませちまったのか」
大佐、リヒテンダール・ツェーリは静かに座る。
「大佐、この少年は大佐に」
「良いさ、古い知り合いだ。彼は良いんだ」
誰も知らない二人の関係、だが確かに信頼があるのがわかる。
「クリスと結婚したんですよ。子供も生まれて」
「そうか…俺は相変わらずだ。テロリストだけは許せねぇ」
「ロックオンさん」
「…リヒティ、俺に専用機をくれ。今の俺は」
「貴様!専用機等と、第一実力は」
「テンペスタのテロリストを落としたのは俺だ。実力が足りないか?なら、国家代表と戦わせろよ、やってやる」
本来のロックオンはこの様な男ではない、だが故郷で、そして妹が戦ったのを見て、落ち着けられるほど大人でもない。
「落ち着いてくれ、ちょうど結果が届いた。血液検査の結果だが……君はライル・ディランディ、エイミー・ディランディとの血縁関係がはっきりした」
マジックミラーの外ではエイミーは泣き崩れ、ライルは驚いた顔をしている。
「では、ニール・ディランディ。君の言う通りに国家代表と戦わせてあげよう。2,3日待ってもらう。これでも大佐だ、権限は大きくてね」
リヒティは笑いながらロックオンを解放した。
「ニール兄さん」
「…エイミー」
「やっぱり…兄さんだったんだな!なんで、なんで俺とエイミーに今まで!」
「ライル…悪かったなとは言えねよ。俺は、お前達に背を向けて来たんだからな」
「ライル兄さんもよして!今は…今はニール兄さんが帰ってきた事だけを……」
「…エイミー」
ライルはエイミーをみているが、ロックオンは見ていてい。
視界をそらし、できるだけ入れないようにしていた。
「2日後、それか3日後、俺はアイルランドの代表との戦闘になる」
「アイルランドの代表……先生と?」
「先生?そうか、まぁ、なんとかなるだろ」
そして、ロックオンは再び収監された。
見舞いに来るリヒティとその妻、クリス。かつての仲間との再会は大きく盛り上がり、日本のモレノとも会話をしたほどだ。
「ロックオンさん、あの勝てますか?」
「さぁな、でもな。俺は負けねぇよ」
そして当日、あろうことかロックオンの目の前に緑のガンダムがあった。自分が最も知り尽くし、相棒と共に戦った機体。
「ロックオン!ロックオン!ロックオン!ロックオン!」
「ハロ、デュナメスとリンクしろ」
デュナメスの瞳に火が灯る。かつてとは違い、真の意味で自分の手足になっている機体。懐かしいと、苦しかった記憶も蘇る。
自分が死んで皆が悲しんだと、ティエリア・アーデに背負わせてしまったと、贖罪も終わっていない。
「あぁ、そうだ。俺達は世界を変えちまった贖罪をまだしちゃ居ねぇ」
「デュナメス、発信準備お願いします」
「ロックオン・ストラトス。デュナメス、目標を狙い撃つ!」
発進したデュナメスはGNスナイパーライフルを装備し、上空へと上がる。しかし、敵の気配がない。
「ハロ…索敵」
「敵機直上!敵機直上!」
「はっ!うちの愛弟子の機体と似てるなぁ!え?ガンダムさんよぉ!」
「てめぇ!」
何処か、あの男を思わせるような雰囲気ながら声は高い女のもの。だからこそ、理解できる。
「ちぃ!」
シールドに攻撃を受けるが、特にダメージになることはない。
「落ち着け…彼奴じゃねぇ。似てるだけだ」
「動くだけじゃぁ、意味ねぇぞ!」
「ちっ!」
得意の機動射撃を行いながらロックオンは理解する。
似てるだけだと思っていたが、確信に変わっている。
この女は、彼奴。アリー・アル・サーシェスと同じ戦闘をしている。考えがまとまらない、湧き上がる殺意を抑えようと戦っているが、それでは決定打にならない。タカが赤いテンペストと言うだけだ。
「はっ!アタシ相手に手加減か?ガンダムさんよぉ!」
「そうかよ!なら殺してやるよ!アリー・アル・サーシェス!」
「てめぇ、アタシの名前を!」
同じ名前、煽られるようにロックオンは加速する。
「なんだよ、お前…その機体は」
「アリー・アル・サーシェス!!!!」
「てめぇぇぇぇ!!!!」
GNスナイパーライフルを投げ捨てる、手に持つのはあの時と、最後と同じ武装。
「ハロ、TRANS-AMだ!」
「リョウカイ!リョウカイ!」
「てめぇ…ソレは」
デュナメスの装甲が赤く変色し、高濃度に圧縮されたGN粒子がばら撒かれる。
「お前…まさか……おい、待てよ!」
「死ねよ!アリー・アル・サーシェス!!!」
「落ち着いて下さい!ロックオン・ストラトス!!」
「…リヒティ」
「無事ですか、サーシェス少佐」
「…危うく殺されかけたが、一体…てめぇは何人殺してきた」
「ロックオン・ストラトスについては機密事項です。また、ロックオン・ストラトス。サーシェス少佐が生きている為、今回の件は不問とします」
急な戦闘終了に驚きつつ、ロックオンはカタパルトに戻る。
そこではエイミーとライルが睨みを利かせて待っていた。
「何であんな事をしたの!」
「似てたんだよ、戦い方も、動きも、喋りもな」
「誰に!お兄ちゃんは」
「父さんと母さんを殺したやつの親玉だ!」
「待てよ、兄さん…どういう」
「……言えるかよ」
別の世界の記憶、過去の記憶。それに引っ張られているなんて言えるはずがない。ただ、アリー・アル・サーシェスという名前が同じだけの別人を殺しかけたのだ。
アリー・アル・サーシェスを調べる際、ゲイリー・ビアッジ等という名前も確認した。女だからと、検索から除外したからなのかと悩む。そして、一人、家族から離れ自販機からコーヒーを買っていると見覚えのない女が現れる。
「よぉ、てめぇがデュナメスのパイロットだな」
「アリー・アル・サーシェスか」
「どっかで会ったか?」
「てめぇが殺したい程憎んでる奴に瓜二つなんだよ」
目の前でこうして会うと違うと判る。
「まぁ、俺はISで戦うのが好きなんでな。お前みたいな奴に狙われるのも気に入った」
「そうかよ」
「もう一つだ、今回の件は引き分けだ。俺も専用機を足せなかった。お前も与えられたばかりの機体だった」
何を言いたいのかさっぱり分からない。
ロックオンはコーヒーの蓋を開け、一気に煽る。
「お前も晴れて国家代表だ。やりあえるのを楽しみにしてるぜ?ロックオン・・ストラトスさんよ」
立ち去るサーシェスを尻目にコーヒーの缶を踏み潰す。
違うとわかっていても、別人だと理解していても、ロックオンの憎しみは変わらないのだ。
数日後、アイルランドにて新たな国家代表が誕生した。
顔は隠され、機体の戦闘シーンが大々的に映像として流される。
更に、このパイロットはテロをたった一人で鎮圧した英雄だと祭り上げられる。
ロックオンにとってどうでも良いことだが。
自身の立場も明確にしてあり、既に日本所属どころか日本に国籍はない。日本に織斑十春という男は既に居ないのだ。
「晴れてニール・ディランディの蘇生だな」
「色々と言いたいことはあるが……兄さん」
「ニールお兄ちゃん、お帰りなさい」
「ただいま、なんて言えねぇよ。でも…そうだな。今戻った」
ロックオンは片方の家族を捨てた。
そうしてでも、失った家族の笑顔は尊い物だった。