生徒会室を去ったロックオンだが、珍しくやることがなかった。
シミュレーターは予約で埋まり、使用許可が降りず。
ジムを使おうとすれば生徒会長命令で使用制限がかけられており、本当にやることが無い。
「………ランニングでもするか」
「誰か!アリーナでドイツの子と織斑君が」
「問題を起こさないとやってらんないのか奴等は!」
生徒会役員としても、
生徒としてもアリーナで問題が起きるのはナンセンスだ。
唯でさえ、あの無人機によって甚大な被害が出た後だ。
本気のやり合いなど御免被る。
「私と戦え」
「ーイヤだ。理由がねぇよ」
「貴様に無くとも私にはある」
「貴様が居なければ織斑教官がモンド・グロッソ2連覇の偉業を
安易に成し得ただろう事は容易に想像できる」
「だから――私は貴様の存在を認めない!」
「また今度な」
ラウラの言葉は唯の理不尽な八つ当たりだ。
一夏はソレを理解してかそのまま背を向けた。
「ふん……ならば、戦わざる得ない様に」
ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンの大型レールカノンを
白式に向ける。チャージが始まり、放たれる。
と誰もが思った瞬間、
一発の弾丸がレーゲンの大型レールカノンに迫り
チャージを阻害した。
「何者だ!」
「てめぇ……マトモに教導役やれたと思ったら問題行動か」
「うそ……生身で」
ソレはIS装備のスナイパーライフルを素手で構えているロックオンだった。反動は少なくともバレットM82よりも大きく、全長も1.8m程ある。ソレを脇に抱えながらも、的確に当ててみせた。
「……ハル」
「……織斑十春、一つ聞く。お前は人間か?」
「知った事かよ、てめぇ……今何しようとしやがった」
「何だ、兄が狙われて」
「ハル!俺は」
「……俺の仕事を増やすなよ」
2度目の射撃、今度は一夏とラウラの中間地点に的確に当たる。
「……お前、ドイツ軍に来ないか」
「俺はアイルランド国家代表だ、ドイツ軍には行くかよ」
「……そうか。それで仕事を増やすなとは」
「お前はアリーナにおいて、無断でISを展開し使用した。
ソレは厳罰に値する。機体名……」
「シュヴァルツェア・レーゲンだ」
「黒い雨?お前、日本舐めてるのか」
「……私が付けた名前では無い」
「なら、俺は以後レーゲンと呼ぶ。
少なくとも、日本でそんな酷い名前を言う気はない」
「ハル、そのシュヴァルツェア・レーゲンって」
「黒い雨。別に文字としてはそれだけだ。
だが、少なくともこの国。日本において、最低最悪の名だ。
黒い雨とは原爆投下後、長崎、広島に流れた放射能汚染された雨。放射性降下物の一種だ」
「……私が付けた名じゃない」
「ならレーゲンで良いな。
まず俺はこれからランニングに向かうはずだった。
しかし、織斑一夏とドイツ代表候補生が戦闘態勢にあるという連絡が入った。生徒会役員として、生徒には規則を護らせる義務がある。だが、お前はISを展開しただけだ」
「待って!でも、彼女は一夏を」
「はっきり言う、武器を向けた程度で今更だ。
竹刀で扉を壊し、校舎内でISの展開など日常茶飯事」
「……ごめんなさい」
「………済まない。だが」
「……思いついた。ラウラだったよな。俺はこれからランニングする。距離も決めた。42.195だ」
「は?」
「ソレが罰だ。俺のトレーニングの手伝いだ」
「まて……お前、水は」
「学園の外はだいたい10kmだ。簡単だろ、5周すれば帰ってこれる」
「お前、イカれてるのか!」
「行くぞ、幸いお前はISスーツだ。着替えは要らんだろ」
「おい待て!本気か!おい!!」
値する
ロックオンは疲れた目をしながらラウラを引きずっていく。
そして、生徒会に連絡しフルマラソンがスターとした。
17時出走し、ラウラと共に走った結果4時間46分でIS学園の外周が終わった。夕食は逃したが、ロックオンはそんな事はどうでも良い。吐き気と疲労困憊の身体てラウラを
ファイヤーマンズキャリーで姉の部屋まで送る。
「……誰だ……は…る?」
「お届け物です」
ラウラを千冬に手渡し自室へ。
そこでは怒り心頭の楯無がロックオンの帰りを今か今かと
待っていたようだ。
「ハル君!貴方ねぇ!何が、
ラウラ・ボーデヴィッヒへの罰則として
フルマラソンしてきます。
よ!一体何考えて」
「…会長、悪いけど今話せえんだ。臭いからさ、シャワーだけでも浴びさせてくれ」
「え…ごめんなさい!」
その後、着替えを用意し脱衣所に入る。
そこで汗でべたついた肉体から濡れた服を脱ぎ捨て、
洗濯機へと投げ入れた。
「ふぅ………」
冷水のシャワーを浴びる。
火照った身体から湯気の様に煙が立ち込める。
シャンプー、リンス、ボディソープ。
汗の臭いを消し、清潔な石鹸の臭いが身体を包む。
「……さて、シャワーから上がったわね!
お説教の」
「悪い…会長」
食事をとる気力も、目蓋を開ける気力もないロックオン。
そのまま楯無を抱きかかえたままベッドにダイブしてしまう。
「えっ……ちょっと……外れない!」
「………zzzzz」
「起きて!起きてよお!」
自分が揶揄うのなら問題ないが、自分がされる側。
しかも、相手が本気となれば別だ。
部屋の照明はベッドからでも消せる。
楯無自身も寝間着ではある。
「…なんで鍛えてる私でも駄目なのよ」
結局、その日は諦め楯無も眠りにつく。
結局、目覚めた時にはロックオンはおらず謝罪文と簡単な朝食。
アイスコーヒーが机に置かれていた。
「………なんでこうも」
アイスコーヒーを一口飲む。
「美味しい」
ブラックではない、とても飲みやすいコーヒーだ。
「お説教はまた後にしてあげるわ」
そして、当のロックオンは言うと。
「お前、狂ってるぞ」
千冬の後ろに隠れたラウラから怯えられ、逃げられている。
「…は……ストラトス、ボーデヴィッヒに何を」
「罰則として、自分とともにフルマラソンしました!」
「……身体は?」
「筋肉痛ですが、知ったことではありません。
俺はNo problemでした。それに、代表候補生なら
この程度、簡単に走れると期待したからです」
「判った……下がれ」
ロックオンはそのまま会釈をし、クラスへ向かった。
その後に何があったのか、どんな話があったのかは興味がない。
唯、問題を起こした翌日に更に問題を起こす。
ラファールを借りれたロックオンはセブンガンを搭載し、
敬愛する師のもとかつてと同じ武装を装備していた。
「ロックオン、ゲンキ!ロックオン、ゲンキ!」
「あぁ…ハロ。嬉しいよな」
カタパルトに足をつける。
ソレだけで、普段の学生から一人のマイスターへと意識が
切り替わる。
「ロックオン・ストラトス、R2S。狙い撃つぜ!」
そして、アリーナで行われる機動射撃訓練。
シールドを利用した跳弾と瞬間的な狙撃、
学園で射撃戦においてロックオンに叶う同学年は居ないだろう。
上の学年になればより多く経験してきた戦士がいる。
「……ふぅ、よしハロ。命中率は」
「96.8%!96.8%!」
「…やっぱ跳弾か……100%にしたいもんだな」
そして再び訓練を始めようと言う時、通信が入った。
「ハル君!」
「会長…なんで」
「ドイツの代表候補生が隣で戦闘しているの!
今、近くにいるのはハル君だけ!止めれる?!」
「……相手は?」
「イギリスの代表候補生のオルコットさんと
中国の」
「……潰す」
ロックオンは通信を切り、精密動作で通路を駆け抜ける。
IS搬入の為に大きく作られていると言ってもR2Sは通常の
ラファールよりもパーツが多いため、飛行しながらの移動など
困難だ。だが、ロックオンは何度もこの手の訓練はしている。
シミュレーターを実戦で活かせば良い話だ。
「何だ……一体」
「イギリスの代表をどうしようが知らねぇなが……
そっちのチビは…俺が完膚なきまでに潰すと誓ったんだ」
「お前か……邪魔を」
「ハロ……乱れ撃ちだ!」
「ミダレウツゼ!ミダレウツゼ!」
ロックオンはセブンガンを起動し、戦場を支配する。
「第2世代の分際で!」
「機体の性能差が…勝敗を決める訳じゃねぇ!」
ロックオンは第2世代、第3世代という機体の性能差を見せず
レーゲンに食らいつく。
フルフェイスヘルメットの着いた顔ではどの様な表情をしているか判らないが、怒りのオーラが見えている。
「かたをつける、ハロ!リミッターを外せ!」
「リミッターカイジョ!リミッターカイジョ!
カウント300!カウント300!」
「ハル!ソレは」
「なっ……ソレが第2世代の動きだと?!」
レーゲンにはAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)
という能力がある。
これはISのPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー。ISの三次元的な機動力の要となる慣性制御能力)を応用した、シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵器である。
慣性停止能力であり指定した範囲に触れた物体の動きを強制的に停止させる能力で、一対一では無類の強さを発揮できる。
しかし発動には多大な集中力が必要なため、他方向からの不意討ちに弱い。そして、ロックオンのR2Sと『相性が最悪』なのだ。
ロックオンはハロのサポートの下、有線シールドが縦横無尽に飛び回り、ソレ自身にレーザー兵器も搭載されている。
さらに、スナイパーライフルから放たれる射撃は跳弾することもあり、何処から来るかは予想できない。
レールカノンはチャージに時間を有し、ソレを撃たれてしまえば
1からのやり直し。
ワイヤーブレードもあるが、射程が違いすぎる。
「お前……何処でそれ程の腕を!」
「伊達にシミュレーターのスコアNo.1じゃねぇよ!」
「……くっ………だが、スナイパーなら!」
「俺にサーベルを抜かせる?笑わせんじゃねぇよ!」
アリーナ内を高速飛行しながらロックオンは射撃を続ける。
「見えたぞ…お前の攻略法が!」
「くそ……今は」
本体の加速に有線シールドは完全に追いつける訳では無い。
元々推進器等を増設していたが、前回の戦闘から修理などしていない。今回、あくまでも訓練で乗っていただけだ。
「シールドが…」
「イッキゲキツイ!イッキゲキツイ!」
ロックオンはシールドを繋ぎ直し、機体の防御力を高める。
「面倒な攻撃は消えた…ならば!」
「やらせるかよ!」
有線シールドを使えなくとも、ロックオンには高速機動射撃がある。
「200セコンド!200セコンド!」
「……」
「逃げてばかりか!」
「……ハロ、やれるか」
「カノウ!カノウ!」
ロックオンは急上昇し一気に反転からスナイパーライフルを構える。
「太陽を背にしたか!だが……居ない?!」
「パージって知ってるか?」
ロックオンはR2Sの背に乗っていた。
ラウラは理解できない、現在の高さは20mはある。
死ぬ可能性がある上、常人なら絶対に考えない。
「……馬鹿者!よせ!」
「仕事を増やすなって言ったよな」
ラファールから飛び降りたロックオンはレーゲンに飛び降りる。
そしてラウラの腹部にスナイパーライフルを零距離射撃で撃ち込み、レーゲンから飛び出す。
「ハロ!」
「ドッキング!ドッキング!」
直ぐ様R2Sとドッキングし急スラスターで墜落を回避する。
レーゲンも驚きと衝撃から治ったのか、スラスターで態勢を立て直し着地する。
「お前……自分の命をなんだと」
「ボーデヴィッヒ、そこの中国代表様は俺の獲物だ。
ぽっと出のお前に奪われてたまるかよ」
「……お前………」
いつの間にかレーゲンを解除しているボーデヴィッヒ。
そこでロックオンは考える。
「そんなに戦いたいならマラソンだ。
お前の両足を破壊してやるよ」
「まて!昨日走ったばかりだぞ!」
「安心しろ!俺も筋肉痛だ、明日……マトモに歩けなくなるな」
「ふざ……お前、待て!おい……せめて教官に」
「………俺の仕事を増やした罰だ!」
「待って……ハル。その」
「……前回は負けた。2度も負けねぇ」
怨嗟の籠もった声に怯えるが、その状況が酷すぎる。
「ハロ、ラファールを戻しておいてくれ」
「ワカッタ!ワカッタ!」
ハロの操作のもと、ラファールは消える。
そして、残ったのはラウラの首根っこを押さえるロックオンだ。
「本気か!お前は!!」
「そんなに暴れたいなら、スタミナを無くせばいい。
俺もお前も、夕飯は無しだ」
昨日よりも遅い時間までかかり、変わらずラウラを千冬に預け
自分は楯無の持っているであろう部屋に戻る。
「……ハル君、またやったの?」
「正直、これを罰にすればボーデヴィッヒも落ち着くと思いました。でも違った。むしろ、俺の身体がボロボロになる」
「昨日と今日で100km近く走ってるわよね?
身体は大丈夫なの?」
「3周目あたりから肉離れしたか動けなくなりましたが、
気合で乗り切りました。てか、俺も昔は喘息で死にかけてたが…なんつうか、今はそうでもないんだよな」
「……シャワー浴びて来なさい」
昨日と変わらない冷えた水、違うのは鏡に映る自らの姿。
「……俺の怒りも、憎しみも、俺の物だ」