「……えと……あの……
エミリー先生、マリア先生、助けてください」
「安心して、ティナ。
ロックオンは貴女を襲ったりなんてしないわ」
「あぁ、だから教えてくれ。なんでクラス代表が居ないんだ?」
今朝、事件の翌日という事もありロックオンは
生徒会長及び生徒会副会長に対して事件調書を渡していた。
主観的な内容にならないよう、自分の行いを客観的に書き、
打鉄の略奪事件及び1組の命令違反に関しても、自分の名前は出さず、援護もせず、生徒会役員として厳罰を与えるべきとも書いている。無論、ソレは自分に対しても同じである。
生徒会メンバーたる先輩2人にあきれられ、説教も受けた後、
遅れてホームルームに参加したのだが何故か進行しているのは
『副代表ティナ・ハミルトン』
「えと……1組に」
「……ラウラと共に彼奴の甲龍をぶっ壊せば良かったか?」
「……ロックオン、鈴音を呼んでこい」
「嫌です、終わらせちゃいましょう。どうせ世界最強が」
「2組の評判が落ちるぞ?」
「……全力で潰してきますので」
ロックオンは立ち上がり、1組へと向かう。
「失礼します、2組代表凰鈴音の回収に来ま」
ロックオンが扉を開けて教室に入るとラウラが立っていた。
座っている一夏の唇にキスをし、頬を赤らめながら大きく宣言した。
「お前は私の嫁にする!」
「……」
「おい、ストラトス」
「なぁ、姉さん。アンタのクラスはいつもこうなのか?」
ロックオンが絶句していると気付いた千冬が近寄り話しかけた。
驚きによるフリーズで目が点になっているロックオンは目をピクピクと動かす。
「違う……と言いたいがコレだ」
「む…お前はロックオンか!」
「聞かせろ、俺はウチのクラス代表を回収しに来た。
なのに、なんでプロポーズの現場に居合わせなくちゃならん」
「ちょっ…ハル!そんな言い方、まるでソイツが」
「そうだぞ!結婚など」
「ねぇ…一夏」
「む?外野が騒がしいな。兎に角だ、お前は一応教官の弟だな!聞かせろ、一夏にはウェディングドレスと白無垢どちらが」
「………は?」
「男が……ドレスと白無垢?」
「そうだ!後、私はお前の義理姉になる!気軽にお義姉さんと」
「わかった、ラウラ義姉さん。悪いな、気分が悪いんだ」
「……山田先生、ロックオン」
「もう、アンタはハルで良い。
だからその……説明してくれ、どういう事だ?」
「山田先生、ハルを2組に。エミリー先生とマリア先生には
鈴音の厳罰は私が行うと」
「あ…ハイ!それでは……ストラトス君。その、大丈夫です?」
「……訳が分からない」
ロックオンは戻っても『訳が分からない』を繰り返すだけのbotになっていた。そこから事件は特になく、平凡な日々が続いた。
ヤケに義理姉を主張してくるようになった一夏の恋人候補。
監視するかの如く、訓練に口を出すようになった最愛の女性。
そんな日常が変わらず続いた。
「ふっ……ふっ………」
サンドバッグを何度も殴り、蹴り、吹き飛ばす。
「ストラトス君、いつにも増して力強いね」
「ボクシング部の先輩だけじゃなくて、色んな先生に動き学んでるんだって。凄いよね、今の時代に」
「……だって、対面すると怖いもん」
そう、ロックオンのトレーニングウェアはノースリーブタイプであり、そこから所々痛々しい傷口が見え隠れしている。
「でも……凄い筋肉だよね」
「うん、格好良いし」
「榊原先生が後10年って言ってたよ」
「……流石に駄目でしょ」
その時、バンッ!という激しい音と共にサンドバッグに穴が空いた。ジムで運動していた生徒全員の視線が一点に向かう。
「はぁ……はぁ……すみません。片付けます」
サンドバッグから右腕を引き抜くと、サーという音と共に砂が落ちてくる。自力で吊るされたサンドバッグを降ろし、ガムテープで穴を塞ぐ。その後、掃除機で落ちた砂を拾い集め新しいサンドバッグに交換する。
「皆さん、お騒がせしました」
ロックオンが去ると話していた生徒達が再び話し始める。
「…ストレスかな?」
「1年生なのに?」
「生徒会役員として激務とか?」
「大変そうだしね」
「1年1組の問題が飛火したとか!」
そんな会話が囁かれているが、本人しか判らない事だ。
「……」
「何時にも増して機嫌が悪いわね」
「会長」
「そんなに面倒なの?『肉体の精密検査』」
「……嫌に決まってるだろ、封印した記憶だぞ」
本当は違う、実際今本人も知らない理由で
『ニール・ディランディ』と『織斑十春』のDNAが
〘同時に存在〙しているのだ。
輸血直後であれば判るが、本来あり得ないこと。
そのため、極秘裏に学園内に医療従事者を
呼び入れロックオンの肉体を精密検査するという話が上がった。
無論、ソレを起こしたのは織斑千冬だ。
ロックオンとしては傍迷惑な事をという不満がサンドバッグに
当たっているという訳だ。
「一応、織斑先生は貴方を」
「なら、俺が自分で医師を呼ぶ。俺が最も信頼できる人だ」
「ソレは」
「ソレが駄目なら俺はアイルランドに逃げるぞ」
「わかったわ、それでその医師は」
「誰にも話す気はない、例えアンタでも」
ロックオンの頭にはソレスタル・ビーイング時代からの
主治医たるJB・モレノの顔。
「その人の護衛の為にも情報は」
「信用できない、忘れてないか?
会長、アンタは俺に対して全て話してきたが……
アンタは話してないんだぜ?」
「?!」
「いくら惚れた女だと言ってもな…
信用してないのに話すわけ無いだろう。諜報員さんよ」
それはロックオンの明確な拒絶の意思。
かつては裏社会で生きていたのだ、相手がどの様な存在か。
ソレがだいたい想像できるのだ。
「何故」
「…言うかよ」
ロックオンは楯無と別れ、1人廊下を歩く。
「……刹那、駄目だな。俺は変わろうとしてるが
結局、変わんねぇよ」
世界を一つにするための戦争、ソレを
ソレスタル・ビーイングは。ロックオン・ストラトスは行った。
刹那・F・セイエイ。
アレルヤ・ハプティズム。
ティエリア・アーデ。
そして、トレミーのメンバー。
たったそれだけで、世界に戦争を仕掛け負けた。
何故か、刹那と最期に話したような記憶もある。
だが、負けたんだ。復讐心を捨てきれず、仲間よりも先に。
だからこそ、今の……新しい世界はどうか。
ソレを思わない日はないテロは変わらず起きており、
国家間の戦争の変わりに性別による戦争が起きている。
無意味な世界、どこに行っても戦争は無くならない。
結局、理由が変わって戦争が起きる。
「……結局、無駄なんだ。俺達のやる事も、
やってきたことも」
そして、とある祝日。
一夏と恋人候補達が珍しく学園を離れていた日。
JB・モレノは初めてIS学園の大地を踏んだのだ
ロックオンからの要請だからと向かおうとした矢先、
何故かアイルランド国防軍の軍人とその護衛が訪ねてきたのだ。
「…モレノ先生、この車両は防弾。
そして、中のガラスは防音です」
「…アイルランド陸軍の大佐が何用かな?
私はしがない医師なんだが」
「…ロックオンさんにも似たような事言われましたけど、
そんなに似てないっすかね?」
「……まさか、ソレスタル・ビーイングのメンバー、
いや、プトレマイオスに」
「リヒティ、リヒテンダール・ツエーリ。
ソレが名前ですよ」
「なんと……だが、肉体は」
「ロックオンさんには言ってないですけど
……前回と変わってません。子供の時に事故で結局」
「……そうだ、クリスは」
モレノの言葉に笑いながら左手の薬指を見せた。
「結婚したんです、子供も居て孫も出来るみたいで」
「そうか……そうか………」
かつての仲間に出会えただけでなく、2人は愛を育んでいた。
ソレが、モレノには途轍もなく嬉しい事だった。
「……此処にいると言うことは」
「……プトレマイオスは轟沈しました。でも、スメラギさんや、皆は生きてます。きっと、彼等なら」
重苦しい話の中に確かな希望がある。
戦争根絶、その理想の為にソレスタル・ビーイングは活動した。
「…ロックオンが一番若いか」
「まだ、10代です。刹那よりも歳下です」
「まったく…ロックオンには言ってやるなよ」
懐かしさからの雑談を終え、
学園内に通されたがロックオンは何時にも増して険しい顔だ。
「…ロックオン、どうしたんだ」
「なんでもないさ、モレノ先生。頼むぜ」
「あぁ、医師として私は決して虚偽をしない」
ロックオンは事前工作としてどんな結果になっても改善する様に話した。モレノとしてもロックオンの状況を理解した為、納得し静かに検査する。
「……モレノ先生、ロックオンは?」
リヒティはアイルランド国防軍大佐として話す。
「織斑千冬及び織斑一夏。
ライル・ディランディ、エイミー・ディランディ。
合計4名との血縁が判った。それだけでなく、まったく別人のDNA2つが合わさっている。はっきり言えば異常だ」
ロックオンに頼まれた改竄などする暇もないほどに驚かされた。
「俺の言ったとおりだろ?」
内心はあり得ないと思っているが、ポーカーフェイスも慣れている。
「まったく別人のDNA2つが共生しているとは……
しかも、記憶も共有しているのだろ?」
「あぁ、日本で生きてた記憶とアイルランドで生きてた記憶がある。ってか、混ざっててな、色々とごっちゃだ」
「……つまりだ、ロックオン・ストラトス。
彼はニール・ディランディかつ織斑十春と?」
「言うが多重人格でもないぜ?」
「…現代医学でどうあがいても不可能だ。
ヒトキメラ?でも、後天的……一体、どうやってだ。
しかも、50:50が完璧に………」
「さぁな、記憶がない」
「この事は他言無用で頼みます、モレノ先生」
「と言うことらしいぞ、姉さん」
「……」
「ミス織斑、戸籍上織斑十春は死んでいる。
此処に居るのは必然的にニール・ディランディとなる」
「だが……私の」
「良いだろ、どうせ合わない訳じゃない。
黄色人じゃなく白人だしな。まぁ、呼び方は前ので良いさ。
俺もアンタを姉さんと呼ぶし、織斑一夏も兄さんと呼ぶ」
「………判った、ハル」
「よし、じゃあ俺は此方で」
そしてロックオンと共にリヒティ、モレノは別室へ。
盗聴器等が無いことを確認した後、会話をする。
「流石だな、モレノ先生。改竄も」
「私は何もしていない、ロックオン。
お前の身体は異常だ」
「ロックオンさん、作り話ですよね?」
「当たり前だ!俺も知らねぇ!」
何度話してもモレノの答えは医学的に異常だった。
自分も知らなかった新事実に驚きながら、その日は解散となる。
「…あの、ハル君」
「あぁ、悪いな会長。今はちょっとな……」
「いえ…なら良いんだけど」
「…別にアンタを嫌いになったりしないさ。
俺はアンタの凍った心を狙い撃つ。そう言ったろ」
「……ごめんなさい」
「いつか話せる日が来るさ、
俺も会長に全部話した訳じゃないからな」
ロックオンは楯無の肩をポンと叩き、立ち去る。
「……本当に…どうなってんだ。俺は」
果てしない疑問を抱きながら。