織斑の末弟   作:影後

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臨海学校2nd

「……ふわぁ……」

 

ビーチパラソルの下でサングラスをつけながら自分で日焼け止めをぬり、横になる。上半身だけ脱ぎ、大きな欠伸と共にサイダーを飲んでいるロックオンは他の生徒の声を尻目に一人昼寝を楽しんでいた。

 

「あっ!ハル」

 

「ん?」

 

サングラスを指であげると、鈴音を肩車した一夏だ。

 

「ハルは泳がないのか?」

 

「見栄えが悪くてな、ソレに今は日焼け待ちだ」

 

疲れているのか大きな欠伸を見せる。

 

「何してんのよ、アンタも」

 

鈴音が降りてロックオンの肌を見る。

生々しいだけじゃない、痛々しい傷跡。

どれも比較的新しく、脇腹に至っては施術があったばかりだ。

 

「本当なら寝てるはずなんだぜ?

兄さんには悪いけど、俺眠いからさ。また後で」

 

そう言ってロックオンは眠りにつく。

太陽に焼かれ、気持ちよさそうな姿に一夏も苦笑いだ。

 

「人それぞれだしな」

 

「なによ、ビーチバレーで負けるのが怖いわけ?」

 

「煽んなよ、チビに見えるぞ」

 

「アンタが!急成長しすぎなのよ!!!」

 

「どぉどお」

 

「アタシはウマじゃない!」

 

ガルルルルと唸り声を上げる鈴音になんとも言えない一夏。

これじゃあ狂犬だ。

 

「あのなぁ、鈴姉さん。

兄さんの事だ、ビーチバレーで何が起こるか予想してみろ」

 

「え?」

 

「同じチームになった女子をきっと押し倒して」

 

「それよ!」「ハル?!」

 

「一夏!行くわよ!!」

 

「ちょっ…鈴!ハル?!」

 

サングラス越しに手を振り、静かに横になる。

 

「……此処にいたんだ」

 

「隣は空いてるぞ?生命の恩人」

 

「……簪で良いよ」

 

それは自身が愛した女性の妹。

 

「更識簪、会長の妹」

 

「………そうだね」

 

「良いのか?俺はお前の姉の」

 

「………別に良いよ。色々と知ってるから」

 

「そうかい」

 

ロックオンと簪は共にパラソルの下。

時折顔を出す太陽光に焼かれながら静かに眠る。

 

「姉に対するコンプレックスは消えないか?」

 

「…お姉ちゃんに努力を、全てを台無しにされた。

だから……許せない」

 

「……同じだな。

俺もだ、幼馴染で歳上の女に全てを台無しにされた。

努力も、これまでも」

 

同じ思いを抱いている、抱いていたからこその会話。

 

「ねぇ、ロックオン。貴方はどうやって?」

 

「……割り切れてねぇよ。今でも、俺は彼奴を。

凰鈴音を倒したい。勝負に勝って試合に負けた。

結局、試合に負けたんじゃ意味がない。

再戦の機会も全然起きやしねぇ」

 

「……」

 

「でもな、真正面からやり合って……一度でも言葉とか。

全てをぶつけ合ってみろ、憎しみは消えないが……軽くなる。

前に進めるんだ。ソレが一歩だとしても、俺は前に進んだ」

 

「でも…私は」

 

「少なくとも、お前はガッツがある。 

俺はお前に隠れてろと言ったが、簪。お前は俺を救った。

動くかも判らない機体で、俺を救ったんだ。認めてやれよ。

自分をな」

 

「……うん」

 

そして夜、ロックオンは黙々と食事を行う。

周りの生徒に話しられられた場合、卒なく返答するが

何処か大人びた印象を受ける。

 

「ストラトス君、危ない?!」

 

「おわぉ?!あぁ………アァァ?!!!」

 

「ハル?!」

 

「目が……兄貴テメェ…くそ……氷だ!こおりをくれ!」

 

わけも分からず目にかかった何か。

痛みから氷で冷やそうとするがうまくいかない。

 

「馬鹿者、先ずはふけ」

 

「あぁ……くそ……姉さん。アリガトウな」

 

その後、廊下にロックオン。

一夏、セシリア、シャル、ラウラ、箒、鈴が立たされた。

 

「…右目がひりつく」

 

「「ごめんなさい」」

 

「……義弟よ。

お前の右目は利き目だろう、戦えるのか?」

 

「戦う以前に、一体何があったのか話せよ」

 

「ふむ、私は嫁と教官の間で見ていただけだが

まず、嫁がシャルをワサビで虐めて、

セシリアと箒があ~ん?を求め、

怒った鈴がワサビ醤油をセシリアに飲ませようとしてな」

 

「つまりか?!飛んできたと?!

姉さん、聞いていいか?少なくとも3席分離れてたよな?!」

 

「……魔が悪かったな」

 

ロックオンはひりつく右目に氷を当てながら犯人達を見る。

 

「あのなぁ、半分織斑家と血は繋がらなくなっちまったが。

アンタラの誰かが義姉になるんだぞ?俺はどう思えば良い。

今ならボーデヴィッヒかシャルロットが義姉になる方が良いぞ」

 

「お待ち」

 

「待てよハル!駄目だ。そう言うのは失礼だぞ」

 

ロックオンは思わず目が飛び出そうになった。

 

「オーライ、許す。アンタラ、頑張れ」

 

此処までアレな兄が面倒になり、食事に戻る。

 

「あっ、ロックオン!戻って」

 

「ティナ、一夏はすげぇよ。朴念仁、唐変木、頭が痛え」

 

 

その晩、ロックオンは日本の露天風呂を兄たる一夏と堪能

し部屋に戻った。

 

「ふむ、男同士か?

お前達は女の一人や2人連れ込むかと思ったが」

 

「おいおい、俺の恋人。狙い撃つと決めた女は一人。

更識楯無だけだ、結婚式には2人も呼ぶから先に相手見つけろ」

 

「お前は?!」

 

「むがッ?!」

 

「へぇ…ハルに……恋人……恋人?!」

 

「両思いか判らんが、俺から告ったぞ」

 

「マジか……紹介してくれたりは?」

 

「帰ったらな」

 

そしてロックオンがベランダでの椅子で

夜風に当たりながらジュースを飲む。

個人的にはワインが飲みたいが、今の年齢は14だ。

日本の夜の海を楽しんでいると部屋の中から淫らな声が

聞こえてくる。

 

「一夏…やめ……」

 

「ハルも混ぜてやるか?」

 

「なら攻めるのは俺だ。

兄貴も姉さんも天国に連れてってやるよ」

 

「おっ…ハルの攻めか……気持ちいいんだよな」

 

「…本当に、お前は何処でこんな腕を」

 

「家に俺しかいないからな」

 

「なら、ハルに……任せて俺は」

 

「一夏、ハル、まぁ待て」

 

千冬は部屋の襖を一気に開けると

セシリア、箒、鈴の3人が尻餅をついている。

 

「……おい、なんだその目は」

 

「ハル……まさか……アンタが……攻め」

 

「………わかった、俺はもう寝る」 

 

鈴の言葉で状況を理解したロックオンは端の布団で不貞寝する。

 

「まったく…誤解も解いてやる。

ボーデヴィッヒとデュノアも呼んでこい」

 

色々と嫌なことがあったのもあり、不貞寝するロックオン。

しかし段々と部屋がうるさくなる。

 

「そろそろ不貞寝もよせ、ハル」

 

「わかったよ」

 

ロックオンが布団から出ると正座しながら飲み物を飲む、

一夏の恋人候補達。そして、ビールを開ける姉の姿がある。

 

「…はぁ、飲み過ぎんなよ」

 

「ならお前はフルマラソンをよせ」

 

「あれは………そこの軍人のせいだ。

俺もあの後とか脚がボロボロだった」

 

「まて…お前自分もボロボロの身体で走らせたのか?!」

 

「当たり前だ、罰を与えるなら罰を与える側も居なくちゃ駄目だろ」

 

「教官、ロックオンですが少なくとも私とマラソンしていた時。

私よりも先にいましたが」

 

「まぁ、俺も強化人間だしな。

俺とボーデヴィッヒに付き合えるのなんてそうは居ないさ」

 

その言葉に場が暗くなるが、気にしていないロックオンとラウラ。

 

「あのなぁ、俺は今の身体が楽で良い。

昔みたく弱くねぇ、どっかの誰かさんに煽られもしねぇ」

 

「あの……」

 

「だからな、お前達が一々そんな顔すんな」

 

ロックオンとしては適当な設定に、

毎度毎度悲しげな顔をされるのが面倒で仕方がない。

自分でも知らないから余計に面倒だ。

 

「姉さんもだ、俺の通夜も葬式もしてないんだからな」

 

「済まない」

 

「んで、恋バナだろ。俺は消え」

 

「待て、お前も居ろ。

この中でパートナーが居るのはお前だけだ」

 

「「パートナー?!」」

 

「コレだから嫌なんだ」

 

「ハル!どこの誰だ!私が成敗を」

 

「ちょっと、騙されてないわよね!ハル!」

 

「俺が惚れた女だ、アンタ等が口を出すな!」

 

「ほぉ、ならどんな流れで……」

 

皆気になるのか熱い視線をロックオンに向ける。

 

「ティナと帰ってきたあの日だ。

鈴音に俺は努力を否定された。俺だけなら良かった。

だが、お前はティナも否定したな」

 

「…ソレは」

 

「ティナが受け入れた。

ソレに、今もトラブルは起こすがクラス代表としては認めてるさ。兎に角だ、俺は自室に戻り少なからず荒れていた。

その時、俺に手を差し伸べてくれたのが『その人』だ。

俺はその人に導かれ、生徒会に所属した。生徒会に入ってからは、書記、会計として仕事をする傍ら、ラファールにのり、

シミュレーターに籠もった。たった一つの目的、鈴音を倒すと言う目的だ。俺は、憧れたる山田先生から特殊装備を借り受け、

R2Sと共にクラス対抗戦に挑んだ。でも、経験の差で負けた!

あの時、絶対防御すら捨てたんだ。なのに、なのに負けた!」

 

「絶対防御を切る?まて、ソレは」

 

「違う、そのことじゃないな。

俺は兄貴を倒して、更衣室でファースト・キスをしたんだ。

お前の凍った心を俺が狙い撃つってな。そこからだ。

デート出来る立場じゃないが、キスはしてる」

 

「待って……その話も気になるけど、絶対防御を切る?!

どういうことよ!あの時!頭から血が出たのは」

 

「俺は負けたくなかった。俺を踏み躙ったお前に。

だから、リミッターを切り、戦った。

でも、最期の最期で時間切れだ。10秒、その10秒で負けた。

無論、リミッターの解除にもデメリットがある。

タイムオーバーすると性能が30%以上落ちて、

再起動がかかるんだ。俺は、その全てをスラスターに回した。

だからあの時傷を負った、この傷をな」

 

ロックオンは髪に隠れている切傷を見せる。

 

「此奴は俺が弱い証だ。戒めだ」

 

「………」

 

「恋バナよりも……ロックオン…お前は」

 

「勝たなくちゃ意味が無い。俺は特別でもなんでもない。

あのテロリスト曰く、死んだほうがマシなや」

 

その瞬間、ラウラがロックオンの頬を殴る。

 

「黙れ、この世に。

死んだほうがマシな善人が居るものか!

お前は善人だ!忘れたか、たった一戦とはいえ

お前は私の相棒だぞ!お前は私にチャンスをくれた!

自分を犠牲にしてまでだ!」

 

「……悪かったな、ボー…ラウラ」

 

「……私たちよりも戦友の言葉か」

 

(ハル、お前はあの言葉を今でも)

 

「さて、俺は話したぞ?そっちも話せよな。

好きなんだろ、兄貴の事」

 

「私は別に…以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですし」

 

「先生として2人っきりで過ごせる時間が嬉しいと」

 

「あたしは…腐れ縁なだけだし」

 

「私のヒーローが私だけのヒーローになってほしいと」

 

「わ、わたくしはクラス代表として」

 

「対抗戦で敗北寸前になりながらも足掻く姿が格好いい。

自分となら、どんな道でも歩んでいけると」

 

「「「勝手に話すな!(ないで!)(いでくたさい!)」」」

 

箒、鈴音、セシリアの言葉の後で真顔の付け出し。

適当に話しているだけだが、妙に的を得ている。

 

「僕、あの…私は――その、優しい所です」

 

「優しさ、僕を受け入れてくれた。僕を否定しないで、

僕を…私として見てくれた。そんなゴフッ?!」

 

「……(ニコッ)」

 

「……私は強いところです。少なくとも、私よりは」

 

「ほぉ、だがボーデヴィッヒ。

強さなら、そこでデュノアに潰された奴のほうが100倍強いぞ?」

 

腹を痛めているロックオンを指さす千冬。

 

「ロックオンは…その、戦友です。部隊の者とは違います。

ロックオンは……私が部隊以外で初めて、親近感が湧き、

そして、背中を預けられると思った男です」

 

「…嬉しいこと言ってくれるな。ラウラ」

 

「まぁ、強い弱いは良い。一夏はマッサージは上手いし、

料理、洗濯、色々と出来る。と、言う訳だが……

欲しいか?」

 

「「「「くれるんですか!」」」」

 

食いつく5人に呆れるロックオン。

 

「やるかバカ。女なら奪うくらいでこい。

まぁ、ハルは」

 

「別に…まぁ、婚約宣言したのはラウラだったな」

 

「そのとおりだ!義弟!!そうだぞ!私がお前の義姉だ!」

 

「うん……まぁ、良いんじゃないか。ハーレムでも。

俺は望まんが」

 

頭に痛みを感じながらも、恋人候補とロックオン、千冬の雑談は一夏が帰ってくるまで続いたのだった。

 

 

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