「…姉さん、特別扱いは好きじゃない」
「知っているさ、だが一夏の事もあってな。お前は学園で受けさせるべきと言う話が出たんだ」
セダンから降りれば設備の整った真新しい校舎、白い制服を着た女生徒達が遠目に此方を見ている。
ハルの服装は千冬と同じ様に黒のスーツだ。
166cmの身長に近しい163cm、まだ成長途中であるハルと千冬が並ぶと姉弟だとはっきりわかる。
IS学園のアリーナと呼ばれる施設の中心でハルは出会った。
「此方がお前の検査をしてくれる」
「元日本代表候補……知ってるよ。姉さんとの試合も観てた。
お久しぶりです、山田女史」
「あの、そこまで畏まらず」
「そうか?私がいなければ日本代表は君だった。それに」
「銃央矛塵(キリング・シールド)……格好いい」
「……弟は少なからず君の影響を受けていてな。狙い撃ちと乱れ撃ちが……その」
「姉さん、やめてください」
ハルは幼い自分が起こした行動に少なからず、気分を害する。
誰しも秘密は話されたくはないのだ。
「えへへ……有難うございます。何と言うか、嬉しいですね。こう、代表でもないのに知っていて貰えるのも」
ハルは何処か嬉しそうに麻耶と握手を交わした。
姉へは敬愛だが、真耶へは純粋な尊敬と憧れがあった。
「では、始めます。このISに触れてください 」
用意された機体の名は[ラファール・リヴァイブ]。
フランス、デュノア社製の傑作機である。
第2世代機でありながら、第3世代機の初期型には劣らない。
そして、山田麻耶の嘗ての専用機『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』も[ラファール•リヴァイブ]をカスタムした機体であった。
尊敬する存在の駆った機体と言うのもハルにとっては感慨深い。
「…IS適性A−、凄いですね。っ!織斑君、止めなさい!」
「良い……やらせてやってくれ」
「…千冬先輩」
武器などはない、ただ飛んでいるだけ。
だが、それが心地良かった。
地を這うのではない、大空を飛べる、それがとても素晴らしいものだった。
「…山田先生、円盤を出せるか?」
「乗って1分も経ってないんですよ!」
「……判らん、だが彼奴にはできる気がする」
千冬と真耶はアリーナの監視室に入り、放送を行う。
「今から射撃テストを行う、ハル。やれるな」
「オーライ!やってやる!」
テンションが上がっているのか、普段の姿とは似つかない。
千冬も弟の初めて見せた一面に驚きながらも、円盤を射出する。
「武器の出し方は」
「なに?」
「……速く!」
「……」
ハルは知らない筈だった。
IS等は起動したのが初めてのはずなのだ。
にも、関わらずハルはアサルトライフルを展開し射撃をしてみせた。
「まだだ……まだ行ける」
次々と現れる円盤の悉くが撃墜されていく。
「もう良い……降りてこい」
「まだだ、まだやれる」
「……落ち着け、お前が倒れたら私達は悲しむぞ」
「……俺は」
ハルは千冬のその言葉に頷き、ラファールを着地させる。
そして、始めと同じ様に膝立ちの状態にして降りてくる。
「楽しんだか?」
「……空を飛べた、俺が……あの時、見送るしか出来なかった俺が……」
「そうだ、ハル。お前は自分で飛んだんだ」
「……なぁ、姉さん。俺は」ー自由だったか?
本音が出てくるのを防ぐ、まるで今までが自由でない様な言葉を言おうとした自分に驚く。
家族の自由を奪っていた自分が。
「どうした」
「なんでもない」
ハルは静かにそう呟いた。
「ハル、お前は一夏と違い薬の問題もある。家を頼んでも良いか?あと、一夏の必要な物を用意して欲しい」
「…わかったよ」
「……朗報とは言えんが、1週間の特別休暇をもらった。ハル、久しぶりにお前の手料理を食べさせてくれないか?」
「……全力で」
ハルは嬉しそうに、そして力強く言い切った。
______
無人島、薄暗い研究室の中でソレを見ながら彼女は微笑んでいた。
「へぇ……あの気持ち悪い奴も動かせる。遺伝子の力かな?
まぁ、いっくんとちーちゃん、ほうきちゃんには劣るかな」
ソレは織斑十春のパーソナルデータ。
凡人より少し高い程度の知識、むしろ免疫力等は低い。
だが、本来なら違う。
ハルは常に努力と学習を続け、新たな力を手にしている。
だが、彼女は初めから完璧な存在として生まれ落ちていた。
「ちーちゃんにも会わないとねぇ」
ハルのパーソナルデータを削除し画面には、織斑一夏、織斑千冬、そして和装のポニーテールの少女が映るだけだった。
____
進学の不安という物を失ったハルは個人的な趣味を行っていた。
1週間、顔を隠し数多の素材を千冬と共に集めそれは完成した。
「……これは」
「誰もいない日があって寂しかった。ペットを飼う余裕なんて無いし、ペットロボットなんてもっての外だった。だから、自分の友達ぐらいは作りたかった」
ハルは病弱であり、あまり遊べる友人という物を作れなかった。
だからこそ、自分の友人を作りたかったのだ。
「ロックオン、ハジメマシテ」
「ロックオン?」
「忘れて」
「……うっうむ」
直径5cm程の円型の黄色い何か。
千冬はそれを覚えていた。
「お前が幼稚園の頃、描いてたハロのようだな」
「ハロ、ハロ、ハロ」
「ハロ…というか」
「ハロ、来い」
地面を転がりながらハロはハルの足元に近づく。
「此奴は俺の相棒。きっと、これからをサポートしてくれる」
千冬はそう微笑むハルの頭を撫でていた。
そして、まだ知らなかった。
ハルの言う、相棒の意味を。
「では、試験を開始する。試験官、受験者、共に問題ないか」
「試験官、問題ありません。ハル君、全力でやりましょう」
「受験者、問題ありません。胸をお借りします」
共にアサルトライフルとブレード1本での簡単な試験、ここである程度の実力を教師陣は理解するのだ。
「テッキケイカイ!テッキケイカイ!」
「ハロ!防御!!」
「リョウカイ!リョウカイ!」
「何ですかそれ!!」
射撃戦を行いながら、ハルの乗るラファール•リヴァイブは的確に真耶の射撃を防御していく。
だが、それはハルだけの実力ではない。
ハロと言う相棒が存在するからなり得ているのだ。
「ロックオン!ロックオン!」
「ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜ!」
戦闘に入ってから、まるで人が変わったようにハルは無慈悲な射撃戦を繰り広げている。
真耶もあくまでも試験のつもりだったが、そうも言っていられなくなる。
「舐めないでください、私の異名は銃央矛塵(キリング・シールド)。例え盾がなくとも、射撃戦では負けません」
「ダンドウヨソク!ダンドウヨソク!」
「流石だ、ハロ!」
真耶はアサルトライフルを連射するが、ハルは3点射撃で済ませる。
ISによる戦闘など初めてのハルにとって、連射で的確な射撃を行うなど無理な話だ。
「…冷静沈着、国家代表候補生に相応しい実力ですか。しかし、圧倒的に経験がない」
「ハロ!ダメージは!」
「ブースターヒダン!ブースターヒダン!」
「まだだ!」
ダメージ・コントロールができておらず、被弾する数は増える一方だ。
スラスターの被弾を防ぎたいのはハルの本音だが、真耶の言う通り圧倒的に経験が足りていない。
「まだ、2分だけです。しかし、ハル君!貴方は実力を私達に知らしめました」
「まだだ、制限時間はまだ1分ある!」
「ラストスパート!ラストスパート!」
「ロックオン、ヤルゾ!ロックオン、ヤルゾ!」
ハロがまるで仲間を、相棒を奮い立たせるように喋る。
ハルは何処か微笑みを浮かべながら静かに摩耶を見る。
「……そうだな、ハロ。ラスト!スパートだァァ!!!」
「何を」
「 乱れ撃つぜ!!!」
「くっ、全方位に!でも、それはただの弾丸の」
真耶がそう呟いた瞬間、あり得ない事に彼女のラファール•リヴァイブのスラスターに被弾の警告が鳴る。
「なんで……跳弾?!」
それは真耶が最も得意とする技であるからだ。
それを目の前の少年、ハルはまるで挑戦の様に行っていた。
(この子は、ハル君は私の戦い方を本気で手にしようとしている)
それは普段の真耶が覚えないであろう感情。
激情が湧き上がり、数多の跳弾を防御しながらアリーナを縦横無尽2動き回るハルを見る。
(叩き潰す、そして…身体に教え込む。ハル君、貴男はきっと私よりも上に行ける)
「これが、銃央矛塵(キリング・シールド)の本気です!」
「くっ!」
「ヨソクフノウ!ヨソクフノウ!」
真耶の放った弾丸は一発一発の入射角が細かく調整されている。
アリーナの壁に跳弾した弾丸はまるで追尾弾の様にハルを負う。
「うぅぁぁ」
ハルは放たれた弾丸を受け、アリーナに墜落していく。
勝敗は決まったのだ、挑戦者は敗れ冠する者が勝利した。
「頑張りましたね」
「……はっ……つぁ」
猛攻により、激しい疲労と敗北による衝撃
だが、それ以上に得るものがあった。
「…ハロ………データは」
「キロクシタ!キロクシタ!」
「オーライ………く…」
墜落する寸前、摩耶によって保護されたハルだが気絶するには十分のダメージだった。
「おやすみなさい、ロックオン・ストラトス」