「ロックオン?!」
帰投する寸前、ロックオンアラートがけたたましく響く。
気を抜いていた訳では無い、
だがロックオン自身が回避するには遅かった。
「テッキケイカイ!テッキケイカイ!」
「ハロ……悪いな」
ハロの自動操縦により、
GNスナイパーライフルを失うだけで済んだ。
元々、銃身が融解していた装備だ。さほど問題はない。
「ハロ……TRANS-AM可能まではどれくらいだ」
「20ミニッツ!20ミニッツ!」
「上等だ!(厳しいな)」
口では言えるが、内心は違う。
少なくとも、福音の性能はGNドライブ搭載機に匹敵はしないだろうが、速度が違った。
また、再起動するとは想定外というのも大きい。
そして、水中から上がってくる姿。
それは先程までの福音とは大きく違う。
「左右一対の5翼、何の天使だろうな」
それはガンダムのコードネームから来た皮肉。
10の翼の天使など、聞いたことはない。
だが、不思議とロックオンには一つの答えが頭に合った。
「告死天使か」
まるで己に死を告げに来た様に思える存在。
それでも、ロックオンはソレを否定する。
「まだ、死ぬ訳にはいかねぇんだ」
機体性能は30%程まで落ち込んでいるが、
それでも第2世代機と同等程度の性能はある。
GNミサイル、GNビーム・ピストル、GNサーベル。
最低限の装備もある。
「なっ…!」
ロックオンが距離を取ろうと動こうとした瞬間、
福音は一瞬にして距離を詰め格闘戦を仕掛けてくる。
ソレをギリギリ、GNサーベルで受ける。
「くそ……出力も……性能も…」
「テッキロスト!テッキロスト!」
「何が?!ぐぁぁ」
それはあり得ないほどに速かった。
TRANS-AM程ではないが、少なくとも相対してきた第3世代機
よりも速く、攻撃性能も優れている。
背面を撃たれたが、太陽炉に異常は無い。
だが、最悪な事が起きてしまう。
「カメラが……くそ…」
自身の目は大丈夫だった。
しかし、デュナメスのツインアイカメラが異常をきたし、
映る映像に砂嵐が入ってしまう。
「ハロ、システム復旧を最優先!戦闘は俺がやる!」
回避や防御を任せていたハロをシステム復旧に努めさせる。
カメラの照準も合っておらず、視界に残像のように映っている。
「相手さんから見たTRANS-AMもこんな感じかね」
笑い事ではない、相手の攻撃手段は格闘戦とビーム砲2門。
それだけなのは変わっていない。
しかし、速度と出力が大幅に上昇しており、
デュナメスは既に50%のダメージを負っている。
それでも戦闘能力を失っていないのは、一重にロックオンの
操縦技術の高さ故だ。
「くそ…このままじゃジリ貧だ」
ミサイルを福音に向けて発射する。
だが、本物のヴァーチェの如くミサイルをビームで薙ぎ払い、
消滅させる。GNミサイルは既に弾切れになり、
残るのはGNビーム・ピストルとGNサーベルのみ。
「貰った!」
だが、ロックオンが何も狙撃しか出来ない訳では無い。
スナイパーのプライドと言っている場合ではない。
ロックオンはGNサーベルで斬りかかるが、
見知ったソレに防がれた。
福音にそれは無いはず、太陽炉は搭載されていないはずだ。
「…ENシールドかよ」
エネルギーシールド、
GNシールド程の出力はないが既存の実弾程度は
最低限防げる能力を有している。
ロックオンのGNサーベルなら其れ等を貫ける。
貫ける筈だった。ただのエネルギーシールドだ。
GN粒子に比べれば、性能も何もかもが下回る筈。
しかし、TRANS-AMによる機体性能の低下による影響で、
GNサーベルは本来の性能を出すことができなかったのだ。
これがエクシアに搭載されたGNソードならどんな状況でも、
きっと貫き斬り裂く事ができただろう。
「!」
「なっ……」
ビーム砲がデュナメスを狙っている。
フルチャージされていなくとも、今撃たれれば致命傷を
避けることは叶わないだろう。
「なら……せめてお前だけは」
再会した愛機を失うのは辛い。
ハロという相棒に任せることも叶わないだろう。
だが、この距離だ。福音も逃げれはしない。
「ジャパンではこんな言葉があるんだ」
「ロックオン、ヨセ!ロックオン、ヨセ!」
太陽炉が臨界点ギリギリまで無理矢理稼働状態が上がる。
GN粒子はレーダー等のジャミング能力もある。
なら、超圧縮されたGN粒子が零距離で放たれたら?
ビームではない、瞬時に大放出されたら。
有人機であればGN粒子の毒性でパイロットは死ぬだろう。
無邪気であれど、全システムを破壊する程度はできるはずだ。
脳内でゆっくりとカウントダウンが始まろうと言う時だ。
「各機、散開して狙い撃て!」
「それでしたら私の十八番ですわ!」
デュナメスに直撃するようにロケット弾が飛んでくる。
諸共かと思ったが、ロケット弾の直撃でデュナメスは
距離をとることができ、肉を斬らせた状況だ。
「無事?ロックオン!」
「……ハル、後で言いたい事あるから覚悟しなさいよ」
「………ハル、その私は」
「なんで来やがった!しかも、素人まで連れて!」
システムを急いで解除し、戦列に並ぶ。
所々ダメージはあるが、デュナメスは変わらず戦闘可能だ。
「福音の第2形態移行が確認された。
教官の命令により、お前の指揮権は剥奪され私が現場指揮を
命じられた!これより私、ラウラ・ボーデヴィッヒが
『銀の福音』撃破作戦の指揮を執る!」
「……了解だ」
「話してる所悪いけど!速く援護欲しいな!」
「ハロ、システムは」
「オールグリーン!オールグリーン!」
TRANS-AMは使え無いが、機体性能は戻ってきた。
なら、やることは一つだ。
GNビーム・ピストルを両手に持ち、福音に向ける。
「箒、鈴音、お前らが突っ込め!
安心しろ、少なくとも俺はそう言う奴のお守りをしてきた!」
「勝手に指揮するな!」
「前衛機体2機を援護、中衛、シャルロット!ロックオン!
後衛がセシリアだ!私は遊撃に入る!」
「追加情報だ、奴は不可視のエネルギーシールドがある!
ついでに機動性は第三世代機を軽く上回ってる!」
「最低な情報ありがと!」
「くっ!ビーム砲が!!」
赤椿にビームが近付こうとした瞬間、粒子ビームが何度も放たれ
ソレを打ち消した。
「デュノア!オルコット!何してる!これぐらいやれ!」
「馬鹿言わないでよ!」「おかしいですわ!」
そう言いながらもシャルロットのR2Cはライフルとミサイルを
甲龍と赤椿の合間を縫って撃っている。
問題があるとすれば、ミサイルの誘導に対し福音の
マニューバ性能が高すぎる為、すぐに見失ってしまう点だ。
「レーザーホーミングは無いのか!」
「ラウラも無理言わないで……きゃぁぁぁぁ!!!!」
「無事か!」
ビームキャノンによって吹き飛ばされたR2Cをラウラが
抱き抱える。
無論、体制が治った瞬間放って直ぐ様射撃に戻る。
「くそ……私の機体では!」
「追いつけないなら支援に徹しろ!
それかワイヤーで罠はれ!」
「ビットが?!」
「嘘でしょ……なんでこれでも………」
「鈴!下がれ!ここは私が受け持つ!」
甲龍の蒼龍刀でもエネルギーシールドは破れない。
(くそ……なら!俺がもう一度)
「不味い?!」
「ちっ……」
格闘戦で吹き飛ばされた赤椿にビームが迫る。
チャージはされていない、
それどころかよく見ればまったく新しい砲門が集まった。
言うなればビームバズーカだ。
「ハロ、GNフィールド最大出力!」
「キケン!キケン!」
ヴァーチェ程ではないが、ガンダムはどの機体も球状に展開できる。ただ、〘瞬時に展開が出来ない〙だけなのだ。
「ぐぁぁ……」
展開が間に合わなかった部位からビームがデュナメスの頭部に当たる。爆発が起こり、そのままデュナメスは力なく落ちて行く。
「ハル!」
「ちっ…お前は戦え!ロックオンは私が!」
レーゲンが落ちて行くデュナメスを受け止める。
「……くそ」
絶対防御とはあくまでも操縦者が死なない様にするシステム。
つまり、生きていればまた、絶対防御が間に合わなければ意味が無いものとなる。
デュナメスは左側が完全に破壊され、破片がロックオンの皮膚に
食い込んでいる。左目はどうな状況であるかわからない。
ラウラが一言、言えるとすれば『直ぐ様病院へ』だろう。
だが、目の前の敵は戦線離脱を許すとは思えない。
「……おい、ラウラ」
「話すな、その傷では」
「デュナメスには……ガンカメラがある。
それに……死んだの左側だ。俺の利き目は右目だ」
「何が言いたい」
「お前のレールカノンなら……あれを……ぶち抜ける」
「だが、奴の速度は」
「照準と……引鉄を…俺に寄越せ……必ず、
狙い撃つ」
ロックオンは生きも絶え絶えだが、そこには覚悟があった。
「新しい指示だ、シャルロット!聞こえたか!」
「了解!近接火力支援に移るよ!セシリアは」
「まだビットはあります!」
「任せたぞ、ロックオン!」
デュナメスのガンカメラが起動する。
レーゲンの発射システムとリンクされ映し出される福音。
だが、ガンカメラではなくメインカメラにダメージが
入っているため、砂嵐ではない画面に黒点がいくつも浮かぶ。
「撃てるのか…コレで」
「信じろよ……俺は成層圏まで狙い撃つ男だ」
「箒…あと、お願い……」
「「鈴(さん)!」」
鈴音が落ちて行く。だが、ラウラもデュナメスも動けない。
「こっちだよ!」
「シャルロットさん!援護しますわ!」
レールカノンのチャージが100%になる。
「まだなのか!」
「確実にぶち抜くんだ、臨界点ギリギリじゃねえと!」
「セシリア!」
「またです…インターセプター!!」
ブルー・ティアーズのレーザーブレードが福音を捉える。
しかし、それでもただの格闘攻撃を止められない。
「がっ……いや………」
「セシリア!!!」
蹴飛ばされた所にビームキャノンが放たれ、
機体が完全に消失する。
「まずい…このままじゃ!」
海上でも高さは軽く30mはある。
50mでコンクリートに落ちたときと同じ衝撃だとしても、
たかが20mなんて誤差に過ぎない。
「僕に任せて!」
R2Cが受け止める。
しかし、受け止める際に停止してしまったのが悪手だった。
「不味い………」
セシリアを覆うようにR2Cが背を向ける。
だが、
「悪いな………狙い撃つぜ!」
臨界点を超えたレールカノンが福音に放たれる。
ゴウというソニックブームと風圧で出力不足なデュナメスは
物凄い速度で海面に叩きつけられる。
緊急用のエアバッグにより浮いているが、それだけだ。
「………くそ………」
レッドアラートが画面一杯に現れる。
そして先程の衝撃のせいか、指一本も動かせない。
「……あぁ……これが………かよ」
レーゲンと赤椿が戦っている。
どうにか援護しようと身体を動かそうとする。
「そう…だ……ハロ………射撃しろ……当てなくて…いい」
「ロックオン、ロックオン、ロックオン、ロックオン」
「安心しろ……死ねねぇよ。だろ…」
ハロの操縦で海面からGNビーム・ピストルが撃たれる。
ガンカメラも、メインカメラも、照準も死んだ。
ただ、その方向に撃たれるだけだ。
だが、それで十分だ。
「よせ………止めろ!!!」
「ラウラ、箒、頼んだぜ」
ビームキャノンがデュナメスに向かって放たれる。
それを止めるのは誰にも間に合わない。
だが、ロックオンは最期に見ていたのはビームではなかった。
一種だが、レーダーに映ったソレが、来る方向を眺めていた。
(……白式か)
年若く、無鉄砲で、何かと一直線の男。
ニール・ディランディからすればもう一人の弟であり、
織斑十春からすればたった一人の兄。
(頼んだぜ……織斑)
「ロックオン!!!!」
「…オン!…クオン!」
「誰だよ……寝かせてくれ………」
「ロックオン!ロックオン!」
「誰だ……この暗闇の中で俺を呼ぶのは」
真っ暗闇の中、それは光とともに現れる。
「ロックオン!」「ロックオン」「ロックオンさん!」
「ロックオン・ストラトス」
それは共に戦ったソレスタル・ビーイングの仲間達。
「なんだ?迎えに来たのか……そうだ、聞いてくれよ。
リヒティの奴、結婚したんだ。相手は判るだろ?」
「ロックオン、生きてくれ」
「…ティエリア」
「…ロックオン」
「アレルヤ」
「ロックオン、俺は生きている。今も。
そして、これからも」
「刹那」
皆の中からガンダムマイスター達がロックオンの前に立つ。
「……ロックオン」
「…フェルト………悪いな、俺は」
「……ううん……生きて。生きて、幸せになって」
フェルトが涙を流しながらも、ロックオンの先に指を向ける。
「いって……帰るの。貴方を……待っている人の所へ」
「………そうか、だな」
温かい光がロックオンを照らす。
光の先に確かに扉が存在している。
「悪いな……父さん…母さん……まだ、そっちには………」
「………(ここは)」
ロックオンが目を覚ましたのは見覚えのある病室だった。
深夜だろうか、窓から照らす月明かりと淡い照明の光が身体を照らしている。右手に重みを感じ、視線を動かすと青髪の少女が
ぎゅっと握り締めながら眠っていた。
(心配…させちまったか)
側に居てくれた愛する人、ソレに再び心配をかけてしまった。
(……悪いな、会長)
指先を軽く動かし、触れ合う。
(俺は……生きているんだ)