織斑の末弟   作:影後

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復帰

「……んん……ねぇ…もう2週間よ。なんで」

 

楯無はいつの間にか眠ってしまっていたのだろう。

時計を見れば既に翌日の7時となっている。

 

「あ…更識さん、おはようございます」

 

「はい…おはようございます」

 

すっかり顔馴染みとなってしまった看護師に挨拶をする。

点滴を変えに来たのだろう、邪魔をしてはいけない。

そう思いながら、眠ったままの後輩の手を強く握る。

 

「え?」

 

それはこの2週間起こらなかった感触。

握った手に反応が返ってきたのだ。

 

「あの…看護師さん」

 

「うそ…………」

 

看護師に感触が来たことを伝えようとしたが、

看護師自身が驚いている。

見つめている先を見れば目蓋が開き、優しい瞳をした彼が

自分をずっと見つめている。

 

「……そんな………あっ……」

 

「………(ニコリ)」

 

マスクをつけられていながらも、

その手は優しくじっと楯無の手を撫でている。

 

「随分と……遅かったじゃない」

 

「悪いな」

 

声は聞こえない、だが口がそう動いているように見えた。

その日、ロックオンと更識が会話。

と言っても、更識の言葉をロックオンが笑ったり、

手を強く握るなどして反応を返すだけだが、

ロックオンが搬送されてからの日常を話した。

 

「それで、また問題ばかり起きて……

貴方が居ないから私達も……私達も大変で」

 

楯無は涙を流す。

ソレをロックオンは何とか拭おうと手を動かす。

 

「良いのよ……格好つけないで」

 

激しい疲労と眠気が急に襲ってくる。

身体はまだ万全では無いのだろう。

 

「……午後から織斑先生達も来るから、だから……」

 

「(コクリ)」

 

ロックオンはゆっくりと頷くと再び眠りについた。

 

「よかった……本当に………」

 

楯無からしてもロックオンの存在は大きくなっていたのだろう。

前回も、今回も、自分が居ない所で傷付いた。

常にたった一人で、まるで自分を犠牲するかのような戦い方。

 

「なんで…なんでそんな……」

 

「俺は、世界に喧嘩を売った。

その咎を、俺はまだ受けちゃいないんだ」

 

「誰?」

 

緑色のパイロットスーツを着た男性。

見た目で言えば、ロックオンを20代後半まで成長させた様な

大人の姿。

 

「俺は俺さ、ロックオン・ストラトス。

ソレスタル・ビーイングのガンダムマイスターだ」

 

そう自己紹介した男は目の前には居なかった。

いや、始めから居なかったのかもしれない。

ロックオンが目覚めたことが嬉しくて、

幻覚まで見始めたのだろうか。

 

「……私も、着替えなくちゃ」

 

病室で一晩過ごしてしまったのだ。

せめて、着替えは出来なくともせめてシャワーは済ませたい。

 

「ここからじゃIS学園は遠いし……銭湯で良いかしら」

 

 

 

そして食事等を済ませた後、13時を周り再び病室に入る。

 

「更識、来たのか」

 

「あの……更識先輩、こんにちわ」

 

「織斑先生に、一夏君って……え?!」

 

そこには織斑千冬と織斑一夏が立っていた。

それだけではない、ロックオンのベッドは起こされ、

ノートPCが右手に沿うように置かれている。

 

「俺が……遅かったばかりに」

 

BAKAKA.

 

まるで素人が何いってんだと言いたげな表情で一夏を見る。

 

「ハル、そんな目をするな。一夏も」

 

nande.kyokashita

 

今度は千冬の方を恨みがましく見つめる。

 

「お前、私が出撃許可を出したから生きているのを忘れたのか?」

 

「……(う~む)」 

 

顔の表情筋と筆談?だけでの会話だが、何処か気楽そうだ。

 

「……お前は理解しているのか。その…左目は」

 

「織斑先生、それは」

 

mienai.ga.mondai.nai

 

「そうか――お前自身が気にしてないなら何も言わんさ」

 

ソレを聞いたロックオンは疲れたのか再び目を閉じた。

開きっぱなしのPCを閉じ、眠ったままのロックオンの前で話す。

 

「あの……更識先輩の前のハルって」

 

「ハル君は…そうね。弟みたいな子かしら。

貴方みたいに楽観視出来なくて、自分で何もかも努力して

最後まで無理して…それでも、進もうとする子」

 

「楽観視って……」

 

「楽観視よ、織斑先生からも言われてるかもしれないけど。

貴方は自分の立場をよく考えなさい。

ハル君は貴方のように専用機を持てなかった。

それでも、専用機持ちに食らいついていた。

そして、国籍を変え、自分の死すら偽造してアイルランド国籍。いえ、彼は半分ニール・ディランディなのだから元の国籍ね。

ハル君の覚悟は貴方よりも重いわ。ただ、ソレを肝に銘じなさい」

 

 

 

そして3人が立ち去った後、

面会謝絶の札と共に一人の医師が入ってくる。

 

「ロックオン、再生治療を施す。

前回と同じだ」

 

それはつまり、ナノマシンが存在していることになる。

どうやら前回、簡単に立てるようになったのもモレノ医師が

秘密裏に行った治療によるものだろう。

 

「今回秘密裏に行っていたのは肉体の再生だ。

本当なら医療用ポッドに入れておきたい所だったが、

現代でその技術はまだ早すぎるものだ」

 

「…入れてりゃ、俺の左目は治ってたか?」

 

「喋れるまで回復したか」

 

「点滴に混ぜてたろ、身体が眠ってる事以外ならもう完璧さ」

 

「……だが、お前の左目は」

 

「先生、刹那に…皆に会った。

彼奴等、あっちの世界で元気にしてたぜ」

 

「……そうか」

 

「利き目は生きてる、俺はまだ戦える」

 

「…一応、お前の主治医だから言う。

明日のお前次第では即日退院も可能だ」

 

その言葉にロックオンはニヤリと笑った。

 

 

 

翌日、変わらず朝早くから見舞いのために訪れた楯無。

だが、病室は綺麗に片付いており、人が居た痕跡はあれども

当の本人の姿はない。

 

「……なんで」

 

だが居た痕跡はある。

おそらく少し片付けているだけだろう。

昨日は元気だった。嫌な妄想が頭をよぎるが、

直ぐ様ポジディブに考える。

そうだ、前回は腹部を撃ち抜かれていたにも関わらず、

3日程で復帰したではないか。だから今回も

 

「よぉ、随分と任せちまったな」

 

「話せるまで回復したのね!」

 

予想が当たっていた事を神に感謝し振り返る。

だが、口を開けたまま硬直してしまう。

 

「なんだよ、俺が変か?」

 

声は紛うことなき、ロックオン・ストラトスだ。

服装もIS学園の制服を着ている。だが、見た目が違い過ぎる。

身長は170程だったのが、少なくとも170後半。

もしかすると180まで行っているかもしれない。

元々子供っぽさが無かった顔付きだったが、

今の姿とその顔は非常にマッチしており何処かのモデルかとも

思えてしまう。

 

「先進医療って凄いんだな、

身体が弱かった時は背なんて伸びなかったのにな」

 

「え…いや……え……」

 

頭がフリーズして理解が及ばない。

自分よりも10cmは高い〘男性〙に抱き締められ、

余計に混乱していく。

 

「悪かったな、心配かけて」

 

「あっ………本当に……」

 

涙が止まらない、姿が多少変わっていても底にいるのは

ロックオン・ストラトス本人だと心が叫んでいる。

頰を涙で濡らしながら、返すように抱き締める。

 

「…馬鹿……ばっかり」

 

「死なねぇさ。お前を遺してなんて、俺は出来ない」

 

「…ん」

 

それは初めて自分から求めたキスだった。

普段、求められるキスをしていた楯無だが、

今だけは彼が、ロックオンが自分の物だと求めたかった。

 

「……なんで」

 

「言ったろ?先進医療の結果さ、副作用らしいぜ。

まぁ、こうしてお前を撫でられるが」

 

「私の方が歳上なのよ!」

 

「おっと…でもな。

ニール・ディランディの年齢に合わせるなら17だ。

同い年だぜ?」

 

「織斑十春に合わせるなら14歳もとい、15歳!

間をとっても16歳で歳下でしょうが!

お姉さんをからかうな!」

 

端から見ればカップルの乳繰り合いだろう。

だが、ソレを見つめていた人物は苦しさも感じていた。

 

「時間は大丈夫かね?」

 

「あ……院長先生」

 

「モレノ先生、なんだ?」

 

「ロックオン、お前の左目は〘現在の医療技術〙

では治らん」

 

「そんな……」

 

「日常生活にも支障が出るだろう」

 

「問題ないさ、多少死角が増えただけだ」

 

ロックオンはそう言うが、その死角の結果一度死んでいる。

だからこそ、モレノの言わんとした事が判る。

 

「俺にはハロも居る。だろ、ハロ」

 

「ロックオン!ロックオン!ロックオン!ロックオン!」

 

治療された事を喜んでいるように音声が高い。

 

「……荷物は下にまとめてある。

医療費は気にするな、国連持ちだ」

 

「口止め料ね、わかった」

 

「なんでそんな裏に詳しいのかしら」

 

「さぁな、行こうか。会長、俺達のホームに」

 

「…覚悟なさい、仕事は山のようにあるから」

 

そう言うと喜びを顔に表しながら病室から楯無は走る。

 

「廊下は走るなよ」

 

ロックオンは竦んでみせ、静かにソレを追いかける。

 

「……ロックオン、お前は今でも」

 

エレベーターに乗って消える二人を、

モレノは最後まで見つめた。

 

 

 

 

 

 

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