織斑の末弟   作:影後

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新学期

「……え?ロックオン?」

 

「マリア先生、何かありますかね?

あぁ、身長ですか。成長期って奴でしてね。

何処ぞのチャイナ娘は止まっているようですが」

 

「…は…へ………」

 

ロックオンは常に生徒会の用事のため、

入室はHRギリギリになる事が多い。

そして朝食もさっと食べてしまうため、

共に食べる事は滅多にない。だからこそ、誰も知らなかった。

 

「……お前、臨海学校の」

 

「おっと、ソイツは箝口令が敷かれてるはずだ。

いくらエミリー先生、貴女でもな」

 

臨海学校の時、何かがあった事は皆知っている。

何かが起き、ロックオン・ストラトスは生死の境目を漂い、

更に言えば夏休み前から消えていた。

そして、再開した姿は片目に眼帯をつけているだけじゃない。

眼帯越しに見える痛々しいほどの傷痕。

ただでさえ傷が多いロックオン、2組いやIS学園中でも、

IS用ライフルを撃たれた、IS用ブレードで斬られた、

片目を失った。そんな生徒は今まで1人も居ないだろう。

 

「足、あるわよね」

 

まるでクラス中の代弁者となっているかの様な鈴音の言葉。

ロックオンは苦笑いしながら返す。

 

「触るか?ほら、俺も触れる」

 

「生きてる?!撫でてるのに言うか?」

 

すると、ティナがロックオンの正面に立つ。

 

「よっ!今帰っ」パシンッ

 

乾いた音がクラスに響く。

 

「私達は……皆心配していた!

専用機持ちも、先生も話してくれない!

ロックオン、私達は貴方が血塗れで、死にそうな姿しか……」

 

「皆、済まない。箝口令があるからと言っても、

俺が心配かけた事には変わりない。しかも、俺は2度」

 

「違うよ!」「3回だよ!」「あの時も心配したんだよ!」

 

口々にそう呟いてくる。

だが、それでもロックオンは変わらない。

 

「済まなかった」

 

それも絆だろうか、ロックオンがクラスで紡いだ確かな絆。

 

「ソレに、眼帯って格好いいよね!」

 

「そうそう!個性あるよね!」

 

「1組にも眼帯の人いたしねー」

 

「ロックオン・ストラトス!心配かけたんだから、

私達に見せてよ。このクラス最強を!」

 

「ちょっと!クラス最強は私」

 

「えー!だって、ラファールでロックオンに負けたじゃん!」

 

「勝ったわよ!」

 

1組とは違う、和気藹々とした雰囲気。

それもこのクラス特有のものなのだ。

 

「エミリー先生、マリア先生!

クラス副代表として、皆の気持ちを言わせて下さい。」

 

ティナが立つ。

「せーの」

 

「「おかえり!」」

 

「あぁ、ただいま」

 

そして、9月3日。

1組との合同実戦訓練、

そこでロックオンは再び驚愕の目を向けられる。

 

「おいおい、死人でも見た顔だな」

 

「ロックオン、その目は」

 

「あぁ、これか?」

 

そう言いながらロックオンは左眼の眼帯を外した。

痛々しい傷痕と、眼球が潰れているのか凹んでいる目。

ラウラは顔をしかめ、他の生徒は口を手で覆っている。

 

「私が撤退させていれば」

 

「おいおい、俺はお前等に命を救われたんだ。

感謝してるぜ?あのまま行けば、俺は自爆テロ犯と同じ

地獄に行くところだった」

 

「ハル!」

 

「っと、騒ぐな鈴音」

 

「アンタが場の空気壊してるからでしょ!」

 

「あーはいはい、兎に角だ。

俺の目は潰れたが気にしちゃいない。

利き目は無事なんでな。

…と、そうだ。1組の専用機持ち。一言言うぜ」

 

「なんだ、ロックオン」

 

「手加減なんてすんなよ。俺を殺す気で来い。

その意識を、真正面からぶっ倒す。左眼のハンデ?

お前等が気にすんなよ、でないと負けるぜ?」

 

ロックオンの鋭い眼光に怯むが、1番速く一夏が返した。

 

「手加減なんてするか!俺は、お前にも勝つぞ。ハル!」

 

「…あぁ、その意気だ」

 

ロックオンはその返事に頷くと、

手を軽く振りながら元の位置に戻る。

眼帯を再び装着しじっと教師陣を見つめた。

 

「ストラトス、宣戦布告か?」

 

「えぇ、織斑先生。オルコット女史の実力も戦場で理解した。

少なくとも、俺は負けない」

 

「良いだろう、だが始めはクラス代表同士だ。

織斑、凰、前に出てISを展開しろ」

 

「「はい!」」

 

そして、戦闘が始まった。

 

「おいおい、兄さんの機体変わってないか?」

 

「はい、あの戦闘で白式は第二次移行したんですよ」

 

「山田先生、なんかSE一気に減ってないか?」

 

「はい、白式は元々欠陥機でエネルギー消費が激しいのですが……遠距離攻撃手段が増えたのと、速度の上昇で、余計に燃費が酷く」

 

「……一撃必殺しか取り柄の無かった機体なのに、

そりゃあ随分とジャジャ馬いや……」

 

「はっきり言ってしまえ、ストラトス。アレは

『産廃』だとな」

 

「織斑先生、それは言うなよ」

 

持久戦を考えていない鈴音。

否、考えるまでも無いのだろう。

零落白夜自体の消費も酷いのに、機体も酷い。

TRANS-AMが可愛く見えてくるほどだ。

 

「凰の勝ちか、次!ロックオン・ストラトス」

 

「相手は」

 

「なら、私が立候補します。

私、スナイパーとしても一度もシミュレーターでも

勝ったことがありません。

狙撃手として、シューターとして一度も勝てたことがない。

その、私のプライドが許せないのです」

 

「……良いだろう。ボーデヴィッヒ、デュノア、篠ノ之。

何かあるか?」

 

「…私はありません。むしろ、速く勝って私と戦えと」

 

「タッグマッチとはいえ、

僕は専用機じゃない上、慣れない機体で戦って辛勝でした。

実力は知っているつもりです。リベンジはしたいですが、

今は大丈夫です」

 

「……私は、その。今は勝てません。

ですが、次は戦います」

 

「…ラウラさんに個人的に言いたいことが増えましたわ」

 

「なら、勝利してみろ」

 

ムッとしたセシリアの前にロックオンは静かに立つ。

 

「……俺は何時でも問題ないぜ?」

 

「えぇ、何時でも」

 

セシリアはブルー・ティアーズを展開し聳える。

 

「…俺はな、生徒会に入ってから後悔した事がある。

色々と心に押し留めたが、今だけは発散させて貰う」

 

デュナメスが展開される。

戦闘態勢は共にまだしていない、そして

 

「3...2...1」

 

「ハロ、ミサイル!」

 

「リョウカイ!リョウカイ!」

 

「いきなりですか!」

 

戦闘ではない、あくまでも実戦訓練だ。

GNミサイルは中の人間にも最悪の場合、

悪影響が出る可能性がある為に使え無い。

その為、現在は通常弾頭を装備してきている。

それだけではない、ライフルもGN粒子ライフルではない。

遥かに威力の劣るレーザーライフルだ。

 

「いつの間に」

 

ミサイルによる攻撃は煙幕代わりでもあった。

ミサイルの対処に追われていたセシリアは逃げられなかった。

 

「オールレンジなら…ビット!」

 

「…壊して文句言われたくねぇな」

 

正直、セシリア・オルコットの実力は低い。

狙撃の腕はあるだろうが、高速移動しながらの狙撃はない。

 

「……弱点が丸分かりだ」

 

また、オールレンジ攻撃をしている際。

セシリア本人、つまりブルー・ティアーズは動けない。

嫌な話だが、ロックオンは知っている。

アリー・アル・サーシェスの使っていたガンダム

『スローネ・ツヴァイ』には『GNファング』という、

オールレンジ兵装が搭載されていた。

アチラは先端からGNビームサーベルを展開した近接戦闘武装であり、ビット『ブルー・ティアーズ』は4基がレーザー砲塔、

2基がミサイル砲塔という射撃兵装とスラスターを兼ねており、

そもそもオールレンジ攻撃をした瞬間、機動性が落ちるという

デメリットが存在する。

それだけでなく、ビットを放ったセシリアは動けていない。

これならハロの様なAIにサポートさせた方が良い。

動けないのでは的になるだけだ。

 

「そんな……私が…………」

 

「……なんだ、お前のビットは脳量子波とか使ってるのか?」

 

「脳量子波?それはいったい」

 

「いや…忘れてくれ」

 

そうだ、あの男。

アリー・アル・サーシェスは脳量子波等はない。 

自分と同じ通常の人間だった筈だ。

アレルヤと同じ超兵ではない。

なら、何故あそこまで扱えたのかという疑問もある。

 

「…言っちゃ何だが、お前さん。

オールレンジ兵装を使いこなせて無いだろ。

向いてないぜ、せめてAIとかにサポートしてもらえ。

前回、身にしみてるだろ。戦場で動けないやつは先に死ぬ」

 

ロックオンはあえて強い言葉を贈る。

目尻に涙を浮かべて下がっていくが、

ロックオンは頭をかいて誤魔化す事しか今は出来ない。

結局、本人がどうするかしかないのだ。

 

「…ロックオン、随分とキツイ言葉だな」

「伊達に人殺してねぇよ。

まぁ、俺みたいな奴が増えて欲しくないってのもな」

 

「そうだな、私達は人の業で生まれた。

生きている者に死ねとは言わんが、これ以上生まれない事に

越した事はない」

 

すっかり同類扱いだなという言葉は喉に押し込める。

冗談抜きで人体改造された疑惑がでてきたのだ。

他人に対して言える言葉ではない。

それ以上に、デザインベイビーたるラウラに不謹慎だ。

 

「…次、ストラトス」

 

「ボーデヴィッヒ」

 

「あーー……その、織斑先生。悪いが辞退していいか?」

 

「ロックオン、お前私に怖気」

 

「その……」

 

千冬は言わんとした事を理解したがそれとこれとは話が違う。

 

「忘れろ、お前の相手はボーデヴィッヒだ」

 

「……了解」

 

子供相手は刹那で慣れていると思ったが、ロックオン自身、

なんというか妹を泣かせたような感覚に陥る。

 

「ライルなら上手くやれたんかね」

 

「……他の事は考えるな。戦え、ロックオン」

 

「了解だ、見せてやるよ。本気をな」

 

カウントが零になると同時にミサイルが放たれる。

 

「それは見て」

 

「バカ、何度も同じ手をするかよ」

 

ミサイルはロックオンの周りでロックオン本人に撃墜される。

黒煙に混じり、レーザーか連続して放たれる。

 

「くっ……」

 

「どうした?」

 

「ワイヤーなら」

 

ワイヤーブレードが展開されるが、

ロックオンは反射的に根元を撃ち抜き、

ワイヤーの方向をずらした。

 

「いつの間に」

 

それだけではない、上昇下降、接近離脱、急加速、急減速、

急停止、急反転とありとあらゆる行動をしながらラウラを

翻弄する。

 

「いや……勝機はある」

 

防戦、迎撃戦と成りながらもラウラは弱点を見いだしていた。

だが、遊びでそこまで本気になるのはとも思う。

 

(手加減なんてするなよ。殺す気で来い)

 

(そうだ、あの男は……唯一戦場にいる)

 

手加減なんてしている余裕はない。

相手も軍人、しかも自分よりも遥かに戦場を駆けて、

人を殺している殺戮者でもあるだろう。

 

「だが、やらねばならない!」

 

「ちっ…」

 

それは右目の限界、ラウラはソレを計算して入れてきた。

右からワイヤーがくる。だが、それは簡単に防げる。

 

「やはり…左側は甘いな!」

 

「流石軍人だ…相手のウィーク・ポイントを突いてくる。

でもな、俺には常に最高の相棒が居るんだよ!」

 

「ゲイゲキ!ゲイゲキ!」

 

ハロはロックオンを救うため、左腕を操作しワイヤーを射撃する。

 

「なっ……あのAIか!」

 

「流石だ、ハロ!終わらせる、」

 

「ネライウツゼ!ネライウツゼ!」

 

「狙い撃つぜ!」

 

レーザーライフルとレーザー・ピストルの連続射撃。

回避行動をしても回避行動をした先に予測して撃たれる。

 

「くっ…なぜだ」

 

「慣性だよ、俺みたくGに慣れてるなら問題ないが、

お前等はそうじゃない。いくら装備で軽減されてもGってのは少なからずある。反転するにしても、慣性から再びスラスターだ。動きなんて丸分かりだ!」

 

「なら…接近戦で!」

 

「スナイパーがサーベルを抜くかよ!」

 

「その割に接近戦もちゃんと強いのよね」

 

「外野は黙れ!」

 

「舐めるな!」

 

ラウラのレーゲンは万能型と銘打っているが、

実際の所、接近戦型の機体となっている。

プラズマ手刀とワイヤーブレード、そして大口径レールカノン。

実は遠距離兵装は一つしかないのだ。

 

「…速射か……てもな!」

 

「くっ……奴め、AICの範囲に一向に」

 

大口径レールカノンはチャージに時間をかけなければ、

最低限の火力で連射できる。

最低限の火力と言えど並の砲弾以上なのだが、

レールガンタイプの相手もロックオンはシミュレーター済みだ。

あのフラッグのパイロットに比べればどうと言う事はない。

実に避けやすい攻撃だった。

 

「なっ!!」

 

それはワイヤーブレードのネットだった。

360度警戒していなかったのが運の尽きか、

それとも射撃に意識を集中させた事がミスか。

 

「言うなれば、シュピネンゲーベか」

 

それはワイヤーブレードで作られた蜘蛛の巣。

力天使を捕らえるため、人間が作り出した罠。

 

「やってくれる……」

 

「あぁ、ここで終わる」

 

レールカノンがチャージされる。だが、放たれる事はない。

 

「なっ………」

 

「忘れてないか?お前のは本当の蜘蛛の巣じゃ無いんだ」

 

デュナメスがレーゲンに向かってスラスターを吹かす。

 

「……あっ、そういう事ね」

 

「鈴、どういう事だよ」

 

「一夏、レーゲンのワイヤーブレードって、どういう物か判る?」

 

「たしか、セシリアのビットみたく飛んでくよな?」

 

「ちょっと違うわ、

ワイヤーブレードは有線式で更に

先端に小型のブレードが装備されてるの。

今回、ハルを捕らえていたのはこのワイヤーの部分」

 

「あぁ、それが腕とか足に」

 

「そっ、でも有線の出てきた場所は?」

 

「そうか、ラウラの」

 

「そっ撃たれるから逃げようと藻掻くけど、武器は使えない。

上とか、下がろうとするのが人の心理よ」

 

「だから、前に………」

 

鈴の解説通り、デュナメスは突進した。

ワイヤーブレードはたるみ、動きに余裕ができる。

 

「だが、私も下がれば」

 

「ソイツは無理だな」

 

ロックオンは即座にレーゲンの背後に回る。

そしてレーザーピストルをレーゲンの脇腹に突きつける。

 

「…うげ」

 

鈴音は理解している。その方法で撃墜されたのだから。

 

「終わりだ」

 

右手からのレーザーに撃墜されるレーゲン。

だが、ダメ押しとばかりにデュナメスはミサイルを放った。

 

「………負けたか」

 

「射撃兵装ぐらい持て、

まぁ牽制射撃からの本命の考えは悪くない。

昔、知り合いがそれで落とされかけたしな。

あと、蜘蛛の巣の考え方は悪くない。だが、そうだな。

一機でやるもんじゃない、あの手の攻撃をしたいんなら

せめて対角線上にパートナーが居るほうが良い」

 

「そうか……感謝する」

 

今のところ、2組の連勝。

戻ればロックオンもヒーロー扱いだ。

 

「専用機持ち、そんな強くないんじゃない?」

 

「ちょっと、それは」

 

「だな、はっきり言えば腑抜けてる。

だからだ、学年最強が相手になってやるよ。

何時でもな、この成層圏まで狙い撃つ男

『ロックオン・ストラトス』がな」

 

それは宣戦布告、学年最強。

ソレを自負しているという果てない意思。

 

「だが、負ければ……そうだな。

フルマラソンに付き合ってもらうぞ」

 

「「絶対ヤダ!」」

 

ロックオンはニヤリと笑った。

 

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