「……ゴキブリがよく繁殖しなかったものだな」
「…面目ない」
「これが栄えある織斑千冬の姿か?」
「…………ごめんなさい」
「あ〜、ハル。そこら辺で」
「は?」
どすの利いた声でロックオンはそう返した。
弓道部の一件から織斑十春として二人の弟としての意識が
高い位置にある。
そのためか、こうして掃除が終わった瞬間姉を椅子に座らせ、
生活程度に対して文句を言う。
「ペットボトルは洗っておらず、ましては分別もしていない」
「燃えれば一緒で」
「マナーだ!この際だ、言ってやる。
洗わなければそこに菌が繁殖に臭いも酷くなる一方だ!
軍ではどうだったんだ?
いや、客将の立場で上官も居なかったか?
それとも、ボーデヴィッヒ達を使ってたか?」
「それは………」
「……というわけで、罰だ。俺と兄さんは何も食べてない」
「あぁ…ハルにそう言われて」
「今から俺が全力で調理する。最高のディナーだ。
冷蔵庫には高い肉もあった」
「まて、それは」
「それを食え、たった一人で。俺達が見ててやる」
「あー………そういう」
「まて…本当にそれは」
ロックオンいや、ハルがやろうとしているのは織斑千冬の
善性と深い家族愛につけ込む罰だ。
織斑千冬は常に家族を愛しており、
家族の為に傷つくことも厭わない女性だ。
「兄さん、扉を固定しろ。絶対出すな」
「わかった」
そこから1時間、ハルは簡単なステーキと添え物をつくり
千冬の前に出した。夕食の時間だ。
自分と一夏の前にあるのは
アメリカ軍制式採用レーション〘MRE〙と水。
それなのに、千冬の前にあるのはステーキとサラダのセット。
「どうした…食べないのか?」
「…お前達は」
「俺達は要らない。
さぁ、織斑千冬は弟よりも自分の食事を優先しろ。
ほら、早く食べなさい」
千冬はそう言われ、ハイそうですかと出来る人間ではない。
特に、弟達が食べているのは不味いと評判のレーション。
味は一夏の顔を見ればわかった。食えはするだろうが、
好き好んで食べたい味ではないのだろう。
自分はステーキのセット。しかも、ハルは知らないだろうが、
ハルの退院祝いとして皆で食べようとしていたステーキだ。
それを自分だけ食べていると言うのが、弟思いの千冬には
一番苦しい。
「それとも、海に沈んでいく話でもするか?
まぁ、俺は俺の自業自得だが」
「ハル……ごめんなさい……だから……」
「別に攻めたい訳じゃないんだ。姉さん。ただ一つ。
織斑千冬の弟、織斑十春として言いたいんだ。
私生活に『清潔』の二文字が無い女を好きになる奴は居ない。
常識だ」
「………」
何かを言えばより千冬の傷を抉るような言葉が帰ってくるのだ。
会話を止め、そのまま食事をする。
「よ~し、それで良い。食べろ、アンタは明日も仕事だ」
「うえ…不味い」
「米軍のレーションはな。明日補填するから許してくれ」
完食し終わるとそのままロックオンが皿を奪い、洗う。
それで終わりだ。会話一つない。
「さて、終わりだ。俺は部屋に帰る」
「じゃあ、千冬姉。また明日」
流石に口撃され続けた姉をどうしようとも思えない。
一夏もそのまま自室へ戻る。
「あっ、一夏!ハルに用事あるんだけど今居なかったのよね。
どこに居るか知ってる?」
「鈴に……シャル?珍しい組み合わせだな」
「うん、生徒会の彼に用事があって」
シャルロットと鈴の二人が部屋に入ってくる。
どうやら既にロックオンの部屋に行ったようだが、
居なかったらしい。
「さっきまで千冬姉の部屋の掃除しててさ。
入れ違いになったんじゃないのか?」
「そう…もう一度行きましょうか」
「なら、俺も行くよ。ハル…じゃなくて、先輩に用事あるし」
「先輩……生徒会長よね、ハルの彼女の」
「……お似合いだよね」
シャルロットと鈴は何故か一夏を見つめる。
何故、同じ血の入っている筈なのに兄貴は朴念仁なのだろうか。
「すみません!更識先輩いま」
「だから…俺は何もしてないって言ってるだろ!」
「嘘よ!女性物の下着なんて持ち歩いて!この変態!」
「あのなぁ、少しは話を聞け!あれは洗た」
「この浮気者!!」
魔が悪すぎる声、恋人同士の喧嘩にしか聞こえない。
しかし、ガシャンと言う激しい音が聞こえ、皆が顔を青ざめた。
理由をしっている一夏はそのまま入り、楯無を抑えた。
「離しなさい!私は、この浮気野郎を!!!」
「………あぁ…いつっ……」
机の角で頭を打ったのか、
痛む所に触れると手が赤くなっている。
「本気で好きなのに、お前は!!」
「アレは織斑千冬の洗濯物だ!
あの部屋の洗濯機が使い物にならないから此方の部屋で
つぅ………」
「そんな嘘」
「あの、更識先輩。
それ嘘じゃないです、俺も自室で千冬姉…じゃなくて、
織斑先生の物洗ってますので」
「え………嘘……じゃあ」
「そっちの金髪……名前なんだっけ」
「シャルロットだよ、ロックオン。大丈夫?」
「ずきずき痛むし、目眩もする。
クローゼットの中に医療ケースがあるから……
代表候補生だろ、応急処置ぐらいできるよな?」
「うん、任せて」
「そっちの…………くっそ、名前が出てこねぇ」
「鈴音よ、思い出して」
「鈴姉さん?鈴?……駄目だ、なんか違う気がする。
冷蔵庫に氷嚢あるから……傷口を頼む」
処置を終え少しすると、落ち着いてきたのかロックオンは
傷口を抑えながら楯無の隣に座る。
「なぁ、泣くなよ。別に怒って無いし…な?
俺が悪かったから」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」
困り顔のロックオン、そんな時のやり方は心得ている。
「ん?!」
見られてもこの際構わない。
ただ、楯無を落ち着かせるのが優先だった。
「今見たの、誰にも言うなよ。シャルロット、鈴音、一夏」
「……言わないけど……なんというか」
「凄いね」
「凄いな………ハル」
「ちょっと!人前で何考えて……」
「それで良い、頼むから泣くな。
この程度、今までに比べればなんてこと無い。
腹を撃たれて、足も撃たれて、おまけに左眼だぞ。
大丈夫だ、な?」
「…うん」
楯無を落ち着かせたロックオンはそのまま3人と
向かい合ってベッドに腰掛ける。
楯無が寄り添って来るどころか、手を握り締めてくる。
「えと…ラブラブですね!」
「シャル、違うわよ。私達はハルに用事があって来たんだから」
「あっ……そうだった」
「…用事って?」
「ハルって生徒会よね!明日、アリーナ使いたくて、その」
「手っ取り早く俺ね……少し待っててくれ」
ハルは楯無に端末を取ってもらうとアリーナを確認する。
「待て……なんで第3アリーナに俺名義で貸し出し許可が」
「あっそれ…私がハルくん名義で借りたのよ。
その、一夏君の訓練の為に」
「……なら……シャルロット、鈴音、第3アリーナで良いか?」
「丁度いいわね!私達、一夏と訓練したくて」
「うん、そのために」
「別にシミュレーターもあるんだぞ」
「ハル専用じゃない」
「違う、使わない奴が多すぎるんだ。
まあシミュレーターのおかげで今なんとかなってるしな」
ロックオンはそう言いながらは左眼を指す。
「ハルくん、一度先生方からストップかかったわよね」
それだけで、皆が理解した。
片目という弱点を克服するために、どれだけ努力しているか。
「勘違いしてるだろうから言うが、
ストップがかかったのは片目になる前からだ。
シミュレーターの使用時間トップをなめるなよ」
「イカれてるわ」
「仕方ないだろ、織斑十春は特別じゃない。
特別に一歩でも近付くため、自分の力を知らしめるのに
当時は必死だった。アイルランドに縁がなけりゃ、
俺はフランスに飛んでたな」
「え?」
「ラファールは俺にとって思い入れのある機体だ。
それこそ、ラファールでそこの女を撃墜した。
判るだろ、使い勝手の良い機体に俺の肉体データだ。
どこの国でも欲しがる。まぁ、俺の方は大々的に
知らされていないからな、動ける身分だった事もある」
「なんで中国は」
「俺を貶した奴の国に所属しろと?」
「ごめんなさい」
場が重くなるが、ロックオンにとってそれはどうでも良い。
「兎に角だ、アリーナは了解した。
んで、織斑は何の要件で来たんだ?」
「えっ…あぁ……明日の訓練について先輩に」
「え?そっ…それよ!どうして先輩と」
「それは一夏君が弱いからよ。
ここまでの所、分かってると思うけど実力は
〘私の〙ロックオンが学年トップね。次にラウラちゃん」
(今、〘私の〙って……はわわ……)
(本当に……なんで兄弟でここまで……)
「シャルちゃん、鈴ちゃん、セシリアちゃんは
多分同列で……一夏君か箒ちゃん」
「あっ………」「……クソが」
シャルは何かに気付いたように、ロックオンは忌々しそうに
言葉を逃がしてしまう。
「ちょっと、口悪いわよ」
「……狙われるから必要。しかし、箒の奴はあの
クソテロリストが」
「ロックオン、ニールさんの記憶に持っていかれすぎよ。
テロリストは私も嫌いだけど、今は」
「ああ、兎に角。実力もなければ、欠陥機を使う織斑一夏は
テロリストからすれば狙い目だ。ガス欠を狙えるし、
仲間の連携について来れなければ、各個撃破の的だ。
わかってるよな、織斑。お前はあの時、シャルロットに
合わせてもらってた」
「わかってる、だから俺を鍛えるって事ですよね」
「あと、ロックオンが早急に感覚を取り戻すためにもね。
私と山田先生の二人でロックオンと戦ってるけど、
シミュレーターと実戦は違うわ」
「だから俺の名前もか……まぁ良い。感謝する。
鈴音とシャルロットにもだ。これから戦うことになる。
胸を借りるぞ」
「……うん、そうだ。
ラファールを良い機体って言ってくれてありがとう。
僕も、ラファールが好きだから」
「クラス代表が弱いとか駄目よね!
私は一度勝ってるし、また勝つわ!」
「あぁ……今度は、狙い撃ってやるよ」
ロックオンの誤解も解け、それぞれの会話も終わった。
部屋の中には楯無とロックオンしか居ない。
「……ごめんなさい」
「俺は裏切らないさ、絶対に。それに、お前が俺を〘私の〙。
そう言ったの、忘れない」
「……おやすみなさい〘私の〙ハル…ロックオン」
「あぁ、〘俺の〙楯無」