織斑の末弟   作:影後

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修練

「190セコンド!190セコンド!」

 

「…ハロ、データの調整だ。もう一度………」

 

ハルは土日を全て自分の修練に費やしている。

部活動といった活動は行われているが、大半の生徒は外出なりをしている。

そのため、土日のシミュレーターは自由に扱える時間が多い。

 

「随分と熱心ね」 

 

聞き慣れた同室の女性の声がきこえ、シミュレーターの電源が落とされた。

画面が真っ暗闇へと変わり、つけていた装備を外すと汗だくの身体にタオルが投げ渡される。

汗を拭きながら、自身で用意したミネラルウォーターを口へと含む。

 

「何用だ?先輩」

 

ハルは楯無の前では常に抜き身のナイフの様に警戒を忘れない。

シミュレーターを使用するのも教師陣にしか話していない。

 

「頑張っている後輩に付き合ってあげようと思って。本当に……身体は弱いながら、筋トレは怠らずに常に生活。ただ、喘息持ちのために常に薬を服用し続けている。経歴は本当に普通、なのに…なんでそこまでナイフみたいになってるのかしら」

 

「ロックオン、オチツケ。ロックオン、オチツケ」

 

「……姉と兄に心配なんてさせられるかよ」

 

そう言って一気にミネラルウォーターを飲み干すとペットボトルをグシャリと潰す。

小さくなったペットボトルをポケットに入れ、立ち去ろうとするが、楯無は嘲笑う様に一枚の紙を見せた。

 

「…それは」

 

「そう、ISの使用許可申請書。生徒会長権限で事前にね」

 

「………」

 

「そう、これは」

 

ハルは楯無に近寄るとソレを怒りにまかせて奪い、破り捨てる。

そして、楯無の襟元を掴む。

彼女なら簡単に振り解け、逆に拘束する事も出来るだろう。

だが、ハルが自身を害する気がないとすぐにわかる。

 

「……なんのマネ?」

 

「俺は……俺はイレギュラーだ。でもな、依怙贔屓など望んじゃいない。俺は他人の努力を蹴落としてここに居る!俺が……何処かの誰かの希望を奪った。俺はな、そんな奴の為にも実力を示さなくちゃならない。だからな、皆と同じ土俵でやり合わなくちゃ意味が無いんだよ」

 

「…プライド?」

 

「プライドなんて言葉はくだらねぇよ。ただそれが俺が不幸にした人に対しての礼儀だ」

 

ハルは楯無の襟元から手を離すと、バツが悪そうにしつつも、彼女の目をみて言葉を紡いだ。

 

「悪かったな、先輩。先輩の善意も無駄にした、でも……ソレは駄目なんだ」

 

「貴男の兄は専用機を貰っているとしても?」

 

「兄さんは特別さ、昔、とある兎さんが言っていた。織斑千冬と織斑一夏、篠ノ之箒は特別な存在だとな」

 

それを何とも思っていない様に話しながら、ハロと共にシミュレータールームを出ようとした。

 

「おっと、忘れてた。そちらのレディーにも、俺は特別でも何でもない。ただ、世界最強と血が繋がっているだけだ」

 

それだけ告げるとタオルと共に立ち去った。

 

「……すみません、お嬢様。まさか気付いていたとは」

 

「あの、ハロの性能かしら。わからないわね……でも、格好良い事言うじゃない」

 

「お嬢様は彼が好みなんですか?」

 

「どうでしょう、でも…何処か簪ちゃんに似てるのよねぇ」

 

女性は楯無のくだらない話に付き合うことはせず、本題を切り出した。

 

「……シミュレーターの内容を確認しました。有り得ません、専用機のデータは機密事項。にも関わらず」

 

「学園にハッキングした可能性は?」

 

「ありえますが、彼が」

 

「…彼は自分を貶しているけど、まごうこと無き『天才』よ。

彼自身のサポートAIであるハロ。しかも自立稼働、自立支援、それができる機械を今の年齢で創り上げた」

 

「そして……山田先生に本気を出させた」

 

「えぇ、正直今の候補生で本気の山田先生に勝てるのは一握り。ましてや、普段から本気で相手をするなんてこと、試験官が行うはずがない」

 

「実務等も行っており、教師陣からの評判は良いようです」

 

「生徒会に入れようかしら。1-2のお二人は既に決定しているようですし」

 

「…依怙贔屓は嫌われますよ?」

 

「でも、やるしか無いわ。彼は狙われる、彼自身も理解している。だから、あんな抜身でいる。せめて、お兄さんの一夏君みたいな子なら御しやすいのに」

 

「……私も、実務と書類作業が捗る人材は必要不可欠と思っています。本当に……えぇ、本当に」

 

「…ごめんなさい」

 

 

数日後、ISの実技がスタートした。

1-1と1-2の合同授業である。

ゴム質のISスーツが身体を保護しているが、肉に張り付くように身体を強調させる。

視線が一瞬気になるが、ハルはもしクラス代表になるばその視線に包まれる。

その前準備だと受け入れた。

そこには学園に入学してからまともに会話していない兄一夏と、

ハルを見て驚くポニーテールの少女が居る。

授業が進み、専用機持ちが当たりに実力を示せと言われる。

地上10cmでの停止、イギリス代表候補生は成功し次は兄一夏の番となる。

 

「やべぇ」

 

「ハル!」

 

千冬の掛け声が聞こえて間もなく、その場から全力で走る。

走っても間に合わないが、せめて少しでもと離れようとする。

 

「うっ…つっぅ」

 

「馬鹿者!地面に激突するものが」

 

「先生、授業がまだです」

 

「ハル、だが」

 

「授業がまだ続いています」

 

ハルは家族であろうと贔屓して良い理由は無いと知っている。

だからこそ、千冬に強く言い放つ。

 

「ねぇ、ハル?いいの、お姉さんは心配で」

 

「あの程度で怪我するほどやわじゃないさ」

 

何処か重い雰囲気になりながらも授業が進む。

 

「織斑弟。ラファールを装備し、武装の展開を行え」

 

「はい」

 

姉千冬に言われ、ラファール•リヴァイブを着る。

そのまま即時にスナイパーライフルを展開してみせた。 

 

「0.37秒か、及第点か。次、織斑兄」

 

「……出た」

 

「遅い0.5秒で出せるようになれ!」

 

そして、イギリスの代表候補生の番になると一夏に向けてレーザーライフルを展開した。

ハルよりも速いが、展開の方法が駄目らしく千冬に小言を言われている。

 

「織斑弟、オルコット、近接武装を展開しろ」

 

ハルは迷わず、二丁の拳銃を両手に展開する。

 

「零距離で撃つつもりか?」

 

「サーベルを抜くのは最終手段です。それに、サーベルを使うのは俺のスナイパーのプライドが許さない」

 

「そうか……オルコットは」

 

「インターセプター!」

 

展開出来なかったようで、最後には声を上げて展開していた。

 

「……」

 

1組のメンバーは何処か楽しそうだと思ったが、自分は楽しむ資格はないと思っているハルには眩しく見えた。

 

「時間か、織斑兄。グラウンドは自分で片付けろ。手を借りる事も、手を貸すことも許さんぞ」

 

ハルはその言葉に頷き、場を離れた。

 

 

その夜だ、ハルはキレていた。

 

「ロックオン、ヤメロ。ロックオン、ヤメロ」

 

「……巫山戯るな。努力も、権力の下では無意味だと?

俺は……俺は」

 

「荒れてるわねぇ、お姉さんに話してみなさい」

 

2時間程前だ。

ハルとティナが歩いていた。

ティナは何処か嬉しそうにしながらも、ハルを慰めはしない。

終了のHR時、ティナがクラス代表に選ばれた。

ハルは何処か悲しいが、ライバルである彼女が選ばれたことが純粋に嬉しかった。

だから、慰めも要らない。

ハルはサポートをするつもりでいた。

 

「私、頑張る。ハルの為にも、クラス、皆の為にも」

 

「それで良い、俺もサポートを忘れない」

 

この2週間で本当にクラスの仲は深まったと思っている。

その矢先だ。

 

「ねぇ!貴女がティナ、ティナ•ハミルトンよね?」

 

「えぇ、貴女は?」

 

「中国代表候補生、凰鈴音(ファン•リンイン)。お願いがあってきたの」

 

「………おい」

 

一応、ハルとも知り合いであるはずだがまるで居ない様に話す。

 

「私にさ、クラス代表。譲ってくれない?」

 

「おい!お前何を」

 

「誰よ、私はティナと話してるの。ねっ?周りは専用機持ちたし、私は中国の国家代表候補生。勿論、実力は申し分なし」

 

「それは………」

 

ティナは理解している。

代表候補生であり、専用機を所持しているなら自分よりも高い実力を持っているだろう事は。

 

「ティナ、こんな話は聞くな。君の努力は」

 

「でも、クラスを勝たせたい。私は代表だけど、今はまだ違う。正式な書類は明日、提出するの。ごめんね、ハル」

 

「……ハル?あの病弱のハルじゃない?止めなさいよ、アンタが倒れたら一夏や千冬さんが悲しむんだから。ほら!お姉ちゃんに任せなさいってね」

 

リンは幼い頃と同じようにハルを相手にする。

悪意はない、むしろ、心配心、姉心というものからだ。

 

「……巫山戯るな、俺達の努力を…………」

 

それだけ言うとハルはその場から歩き去った。

 

「…変なの?それで、ティナ?」

 

「うん!(ごめんなさい、ハル)」

 

 

ハルは事実でその事を話した。

 

「……無理矢理じゃない、拒否権はあった。最後に決めたのは彼女だ。でもな、俺は誰より彼女の、ティナの努力を知ってる」

 

誰かの為に涙を流せる、ハルはそんな優しい子なのだと楯無はわかってしまう。

姉や兄に甘える事はきっとハル自身が許さない。

ならば、せめて自分が姉ではなくお姉さんになってあげようと思えてしまった。

 

「………(嫌われるかしら)ハル君、これは貴男の言う依怙贔屓に見えるかもしれない。でも、最後まで聞きなさい」

 

ハルは涙を拭い、ベッドに座る。そんなハルの隣で彼の手を持ち、楯無は話した。

「生徒会役員になりなさい。生徒会長権限でメンバーは自由に選択できる、君の優秀さは聞いてるわ。そして、次のクラス代表戦に特例で出してあげる。私の生徒会はね、実力主義。メンバーを増やしたとなれば、きっと生徒達も気になるはず。君の実力を」

 

ハルの目に闘志が灯る。

 

「君はティナさんのライバル何でしょう?見せてあげなさい、君は俺と戦えなかったんだよって。君と戦いたかったと。そして……示しなさい。貴男の評価を、貴男が……織斑千冬の弟ではない」

 

「ロックオン!ロックオン!」

 

「自分が何者なのか」

 

ハルは楯無の腕を握り返し、静かに伝える。

 

「ありがとうございます、会長」

 

「よろしくね、新メンバー」

 

 

 

 

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