クラス代表が転入生、リンになったのはクラス全員が驚きを上げた。
皆が、ティナとハルの努力を知っており、担任と副担任が先日のHRでそう決めたのだ。
それが翌朝、急に変わった。
「…私としてはこのようなイレギュラーを望んでいた訳では無いが、ティナ、ハル、両名共に異議はあるか?」
ティナとハルはエミリーに呼ばれ、起立し答えた。
「ありません」「自分には関係はありません」
「わかった。この書類は受理する、本日より1-2のクラス代表は凰鈴音となる」
拍手はなかった、出なかった。
それにはリンも驚いていたが、パチパチと拍手音が響く。
誰がと、クラス全員が見渡せば立ったままのハルが無表情で拍手をしている。
「どうした、皆。クラス代表の誕生だ、拍手すべきだ」
あからさまに不満であるといった表情を向けたまま、拍手を続ける。
それに続くようにだんだんと生徒達から拍手が上がった。
「さっきのは何よ」
「何だ?」
「巫山戯んじゃないわよ、人前で恥を」
「……アンタは変わったな。力を得て増長でもしてるのか?昔とは大違いだな」
「なんですって」
「…馬鹿な真似はよせよ?クラス代表になったんだ。覚悟を持てよな、俺とティナは持ってたぜ」
ハルはあからさまに悪い機嫌をぶつける。
それもそうだ、SHRが始める前、リンは1組に宣戦布告に等しい行動をした。
それも、許せない。
自分とティナはその様な事はしない。
責任感も無しに立場を得るのは許せない。
かつての親愛も、ハルにとっては塵に成り果てた。
クラスの雰囲気が重い中、ハルはティナや他のクラスメイトに誘われランチを食べに向かっていた。
「そういえば、ティナはどうするの?」
「……わかんない。ごめん、皆。応援してくれたのに」
「一番応援してたのがハル君なのがね。ハル君は」
「同室が生徒会長だった、このまま生徒会入りだ」
「……副クラス代表は」
「ティナが代表なら全力でサポートしたさ」
ハル達が並んでいた先では、1組のメンバーとリンが会話していた。
食券機の前に立ち、通行人を遮っている。
「……俺が勝つ」
誰にも聞こえないようにハルは呟いた。
冷酷に、無慈悲な狩人のように。
冷徹な目を向けながら。
放課後、ハルは生徒会室にて作業を行っていた。
「流石です、ハル君」
「虚副会長」
「いえ、私は会計なのですが」
「ノルマ達成、会長に確認印をして貰いたいのですが」
「……会長ならもうすぐ到着します」
「うぅ……簪ちゃんに………」
「会長、確認印をお願いします」
「ハル君、慰めて」
「………書類を」
「ハクジョウモノ!ハクジョウモノ!」
「はぁ…元気出して下さい。話は聞きます」
「本当!」
ハルは楯無から彼女に1年生の妹がいること。
そして妹は彼女にコンプレックスを感じており、常に突き放すような言葉を言う事。
「……姉にコンプレックスか。わかりますよ、俺もだ。俺は姉や兄の様に強い肉体を持てなかった。喘息と低い免疫力のせいで……でも、今は違う。会長、それは妹さんが自分で超えなくてはいけない問題です。だからこそ言います、触れ合ってはいけない。今の溝が深まれば、妹さんは永遠に貴女を敵視します」
ハルの言葉は慰めではない。
楯無には最終通知の様に聞こえてならなかった。
「…そうね、あと」
「印鑑を、新たなタスクがある場合は連絡をください」
「何処に居るか…って、彼処ね」
「……新たなデータが入っていますから。やりますよ、全力で叩き潰す。俺を弱い俺と同じに扱うあの女を………全力で撃つ」
ハルがハロと共に立ち去ると楯無は溜息を吐いた。
「これ、彼のおね~さん役になろうと思ったのだけれど」
「彼が心を開くのを待つしかありません。……そうですね、簪お嬢様と会せてみては」
「……彼、私の襟に掴みかかる位はするのよ?ただでさえ、姉と兄がコンプレックスなのに、簪ちゃんの火種をそのまま焚べるようなものよ」
「…1組から離したのは英断と言えるのでしょうか?」
「彼、規律にも厳しいし、今のあのクラスだと…ね?」
「……落ち着くのを待ちましょうか」
「まったく……」
夕食の頃、一夏とその仲間達は同じテーブルで食事を囲んでいた。
「ねぇ、一夏。ハル、どうしたのよ。すんごい性格悪いし、生意気だし」
「そうなんだよな……学園でハルと会ったの、前の合同授業が初めてだし」
「私もだ、小学生のハルしか知らないが良く私の後や千冬さん、一夏の後に隠れていた印象だな」
一夏、リン、箒の話すハル鳴る人物がわからないセシリアは3人に聞いた。
「あの、ハルさんとは」
「俺と千冬姉の弟だよ。リンと同じ2組なんだ」
「…弟……一夏さん、トウシュンが正式な名前ですか?」
「あっあぁ……織斑十春。ハルって呼んでるんだ」
「あの頃は可愛かったな。一夏よりも身長が頭一つ小さく、箒お姉ちゃんと呼んでくれた」
「わかる!一瞬、女子によも見えたわよね。病弱で……」
「そうだな、喘息持ちで常に苦労していた」
セシリアは前に出会ったハルの姿を思い出す。
ISスーツの上からもわかる鍛え上げられた肉体、更に自分と同じ射撃戦を得意としているようで調べてみると射撃シミュレーターの1位に君臨している。
3人の話すハルのイメージが湧かない。
「学園でのハルさん?でしたか、彼ならクラス代表の様に動いていましたわ」
「え?なにそれ」
「2組のクラス代表がリンさんなのが驚きです。2週間の猶予を先生が与え、成績、実務、実績、3点を総合し決めるという流れだったと記憶していましたから」
「ちょっと待って、そんなの知らないわよ」
「織斑先生と山田先生が雑談で話していた程度ですので、詳しくは」
「あ………そっか、」
一夏は何かわかったのか暗い顔をしながら話す。
「彼奴、何時も努力してるんだよ。俺や千冬姉に迷惑なんてかけないんだ!ってな、体も鍛えてたし。なぁ、リン、クラス代表になった時って」
「……変えてちょーだいって感じだった」
「彼奴、自分の努力を貶された様に思ったんじゃないか?
誰だって嫌だろ、全力でやって貶されるの」
それはその場にいた全員が理解できた事だ。
「明日、謝る」
「だな」
そんな会話が食堂で繰り広げられている時、ハルはシミュレータールームに居た。
「ミッションクリア!ミッションクリア!」
「ハロ、勝率は?」
「88%」
「まだだな、せめて90%を」
ハルがミネラルウォーターを飲み、エネルギーバーを流し込む。
食事よりも、自身の鍛錬に時間を割いて居るのだ。
負けるつもりなどサラサラない。
「ハル君、居ますか?」
「誰です?」
「私ですよ、山田です」
汗をタオルで拭きながら入ってきた緑髪の女性をみた。
山田真耶、ハルが尊敬し戦い方を取り入れた女性だ。
「ハル君は生徒会としてクラス対抗戦に参戦すると聞きました。本来なら敵に塩を送ると同義ですが……他は代表候補。貴男は専用機もありません、これで同じ土俵に立ったのです」
真耶は申し訳無さそうにiPadを手渡してきた。
「…これは………良いんですか?」
「日本政府にデータのコピーは送られますが、構いませんね?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「いえ、フィッティングは当日。アリーナでの訓練などもっての外。しかし、貴男なら使い熟せると思っていますよ」
ハルは深々と頭を下げた。
それは射出式の4枚の有線シールドの使用許可。
真耶の専用機の特殊兵装つまり彼女の専用機『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』の使用許可が降りたと同義なのだ。
真耶が去ったのを確認し、再びハルはシミュレーター二入る。
「ハロ、特殊兵装の解禁だ。やれるな」
「モチロン!モチロン!」
「ラファール•リヴァイブ•ショウマスト……長いな…R2S。出る」
R2S、ハルはそう呼称したISで空中を駆ける。
速度は若干、遅くなっているが足回りが劣悪化したという認識はない。
「ハロ、エネミーを」
「リョウカイ!リョウカイ!」
何も無い空間に形成される顔のない人型の載った専用機。
相手をした事も、見たこともない、初めてやり合う機体だ。
「ハロ、奴は」
「フメイ!フメイ!セイタイハンノウ!セイタイハンノウ!」
「まったく……夕食にも出ないんだから。おねーさん、少し怒っちゃうわよ」
何も無い人型の筈が、見慣れた顔が現れる。
「……学園最強」
「そう、貴男をさっさとシミュレータールームから追い出すには負けさせた方が良いからね」
「……そうかいなら」
「ヤルゾ、ロックオン。ヤルゾ、ロックオン」
「ロックオン・ストラトス。R2S、乱れ撃つぜ」
「更識楯無と『霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)』が相手になってあげるわ」