織斑の末弟   作:影後

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クラス対抗戦

待機ルームで二人の男女が話している。

薄暗い部屋の中で、闘志を燃やすように男は女を見ている。

ハルと楯無である。

 

「随分と落ち着いてるのね」

 

「会長、俺は常に落ち着いている。、でないと、狙い撃つなんてできやしない」 

 

武者震いもなく、ただ、変わらない瞳がそこにある。

戦い、勝利するという強い意志を持った瞳が。

 

「ロックオン、カツゾ!ロックオン、カツゾ!」

 

「あぁ、ハロ。俺達が負けるわけが無いからな」

 

「えぇ、でもシミュレーターと本番は違うわ。それを」

 

「わかってるさ、会長。アンタとぶつかることが無い。それだけが救いだな」

 

それはハルの本音である。

楯無の『霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)』はまだ全てを知ったわけではない。奥の手と言ったが、『ミストルテインの槍』の他にも手があった、そう感じざる得ない。

 

「シミュレーターと実戦は違うわ、ソレを良く理解しなさい。

問題ない、俺にはハロが、そしてR2Sが居るんだからな」

 

時間となり、第一試合が表示される。

 

「兄と弟の戦いかしら?」

 

「……なら、勝てるさ。少なくとも、兄さんに勝ち目はない」

 

「慢心は危険よ、忘れないように」

 

アリーナに繋がるゲートが開き、ラファールは何時でも出られる状態になる。

 

「データインプットカンリョウ!データインプットカンリョウ!」

 

ハロがフィッティングと同時に今までの戦闘データをラファールに流し込み、特殊兵装を装備する。

 

「ロックオン・ストラトス。R2S、出るぞ」

 

スラスターから噴射された風に一瞬、楯無は煽られるが自分に出来た弟子とも言える存在が飛んでいる。

 

「せめて…癒してあげたかったな」

 

 

 

________

 

アリーナは歓声に包まれていた。

兄弟で男性搭乗者というだけでない、専用機持と無所持者。

しかし、教師陣は知っているハルが、ロックオンがどれだけ努力しているかを。

ISシミュレーターの使用時間No.1、射撃シミュレーターは2位と10000スコア以上を離したトップ。

しかし、圧倒的に対人戦が少ないのがネックである。

 

「織斑先生はドチラの弟が勝つと思う?」

 

2組担任エミリーが微笑みながら問いかけると、1組担任千冬は悩むこと無く言ってのけた。

 

「ハルだな、第一、山田先生を本気にさせられる生徒が今の1年生にいると思うのか?」

 

「そうね…ハッキリ言うわ。ハルは学年最強だと思うもの」

 

2組副担任が自慢げに言うが、他の教員達も頷かざる得ない。

 

「……わかりませんよ、戦闘にはモチベーションも関係しています。私も、ハル君の努力を知っています。それに、アレを渡した事も認めます。でも、ハル君のコンプレックスが何処まで彼を落とすか」

 

「……始まるぞ」

 

千冬の声を聞いた教師たちは画面に視線を向けた。

 

________

 

「ハル、どっちが勝っても恨むなよ?」

 

「……ハロ、60…いや、30でキメる」

「リョウカイ!リョウカイ!」

 

試合開始のアラームが鳴ると、ロックオンは叫ぶ。

 

「乱れ撃つぜ!」

「リミッターカイジョ!リミッターカイジョ!」

 

有線シールドがフィールド上に展開され、サブマシンガンから放たれた弾丸が蜘蛛の糸の様に張り巡らされる。それだけでない、R2Sが通常のラファールとは思えない速度で機動し始める。

 

「なっ!」

 

「接近戦に持ち込まれるのはな……スナイパーの恥なんだよ!」

 

「……弾幕が」

 

織斑一夏の白式が逃げた先にまるで追尾しているように跳弾が飛んでくる。それだけじゃない、スラスター、専用兵装雪片弐型を持った腕部がスナイパーライフルによって狙い撃たれる。

 

「まだだ、俺は弱くない。俺は……」

 

観客達も驚かずにはいられない。跳弾が追尾するなど理解不能だ。的確な角度で弾くを何度も繰り返す。

跳弾するたびに威力が落ちるが、ソレを数で補う。

しかし、本命は無慈悲なスナイパーライフルによる狙撃。

 

「うっ…ウォぉぉぉ!!!!」

 

「……ちっ」 

 

しかし弾丸も有限ではない。

再装填の隙をついて、白式が迫ってくる。

直線加速度は異常であり、回避するのは間に合わない。

しかし、ロックオンは一人じゃない。

 

「シールド?!」

 

「的になりに来たのか?ありがとな」

 

シールドで雪片弐型を受け止めたハロに感謝しながら両手に再装填済のサブマシンガンを持つ。反動は既に克服済みだ。

 

「じゃあな」

 

白式の胴体にサブマシンガンが放たれ、シールドエネルギーが一気に減って行く。それだけでなく、ハロが有線シールドで白式を覆う。

 

「銃央矛塵(キリング•シールド)。ありがとうございます、山田先生」

 

跳弾による留め、弾丸を撃ち尽くせばサブマシンガンをすてスナイパーライフルが白式を撃ち抜くのみ。

手加減という言葉はなく、ただ正確無慈悲な射撃での勝利だった。

 

「勝者、生徒会長所属織斑十春選手」

 

墜落した白式を起こし、一礼をする。

 

「なぁ、ハル」

 

「対戦、ありがとうございます」

 

淡々と感情の起伏がない声に一夏は驚くがロックオンはそのまま待機室へと戻っていく。

 

「あの程度だと………あの程度で!この場に立ってるのかよ、アイツはッ!!」

 

R2Sを外し、次の試合まで待機する中でロックオンは更衣室の壁を思いっきり殴っていた。

自分の努力を無下にされた様に感じた。本気で戦う場所であそこまで無駄な時間を過ごしたと感じていた。

 

「随分とあれ…キャァァァァ!!!」

 

「!」

 

更衣室の扉を開けて楯無が入ってきた。上半身裸であっただけでなくインナー姿だった事もあり、ロックオンからハルに戻るのに時間はかからなかった。

 

「会長…せめてノックを」

 

「ごめんなさい、酷い音が聞こえたから」

 

「直ぐに服を着ます」

 

楯無は扉の方を向いたまま会話を続ける。

悪いのは着替えていないハルではない。見られるのは男性でも羞恥心はある。特に、異性に悲鳴まで上げられては頬が赤くなるのもしょうがない。

現在更衣室は男女兼用であるが、次の選手が入って来るまで5分以上あったのだ。ハルは即座に着替え楯無と共に自販機の隣りにあるベンチに座る。

 

「ごめんなさい、着替え中だなんて」

 

「第一試合は勝ちましたので、アリーナの準備と第二試合開始まで時間はありますし」

 

「そうね、個人的にシード枠にしたかったのだけれど………シードは4組。そして、4組のクラス代表を一番警戒しています」

 

「なぜ?」

 

「更識簪、日本代表候補生にして会長の実妹。それだけでなく、自身でISを組み上げようとする知識もある」

 

「えっ…えぇ」

 

ハルは純粋にまだ見ぬ更識簪を最大に警戒する。

色々と事情をしっている楯無はなんとも言えない顔だ。

 

「それに…ろくに顔を見たことがない。それどころか開発中の専用機のデータさえ見つからない。まさか……資材の発注も個人で?だとしたら、学園のデータに無いのも頷ける。仕方ない、ここ数ヶ月で搬入された資材を確認するか」

 

「ハル君、ハッキングよね?」

 

「会長だから話してるんですよ。貴女は誰にも言わない、そんな気がするから。初めてなんですよ、誰かの胸で泣くとか…会長が」

 

ハルはより頬を赤らめ、楯無を見つめる。

儚げな顔と言うだけでない、何処か自分にも分からない感情が湧いてくる。

 

「じゃあ、私がハル君の始めての相手って訳ね?」

 

「言ってて恥ずかしくなりませんか?俺はまだ14、今年で15。犯罪ですよ」

 

「むっ……痛い返しね」

 

「ありがとうございます、会長。色々と気が楽になりましたよ」

 

「そう、ならんッ!!」 

 

ハルは瞬時に楯無の右腕を掴み、左腕で抱き寄せる。

そして、唇と唇を合わせる優しいキスをした。

 

「俺からなら犯罪じゃないでしょ?何時か、貴女のその凍った心。狙い撃ってやりますよ」

 

「何を……何を言って」

 

「泣いた姿も、ファーストキスも貴女の物だ。俺は、本気です。では」

 

楯無は硬直し動けなかった。

赤面することもない、ただ脳が処理しきれなかった。

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 

「虚ちゃん………彼………凄いわ」

 

「……はぁ、男性経験もロクにない。と言うよりも零の癖に彼の世話を色々と焼いた事も有るのですね?まさか、年下の少年に本気でされて」

 

「同室なのよ!どうすれば良いの?!」

 

慌てふためきながら、虚の顔を見る。

 

「それに……立場も」

 

「………あのような男性なら受け入れてくれるのでは?」

 

「虚ちゃんも男性経験は無いくせに」

 

「えぇ、しかし迫られているのはお嬢様ですので」

 

虚はニヤニヤと笑いながら楯無を見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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