「では生徒会代表と1年2組代表との試合を始めます。両者、入場お願いします」
アナウンスから流れてくる言葉に待機していたロックオンは静かに相棒を肩に乗せる。
「ロックオン、イケルナ。ロックオン、イケルナ」
「ハロ、今は本気でやり合うぞ。相手は格上だ、シミュレーターでの勝ちは意味がない」
R2Sを身に纏うが多少見た目が変化している。
拡張領域に仕舞われている筈のハンドガンは腰にマウントされ、
有線シールドをローブの様に纏っている。
頭部はバイザーを兼ね備えた物に変化しており見えるのは口元のみだ。スナイパーライフルを装備し、見える限りでは3丁の銃。
「ロックオン・ストラトス、R2S。出るぞ!」
アリーナへと繋がるハッチが開くと同時にR2Sが高速で飛び出す。反対側では同じように鈴の甲龍(シェンロン)が飛び出す。
「二人は幼い頃からの幼馴染らしいです。そして、方や代表候補生!もう一人は生徒会長に実力を見込まれて生徒会入りした存在!実力?そんなのはシミュレーターをやりましょう!射撃は1位!戦闘シミュレーター使用時間No.1!」
「随分と学園に馴染んでるのね、ハル」
「……俺はロックオン・ストラトスだ」
「そう、まぁ…私が勝つけど」
カウントダウンが始まり、ブザーが鳴り響く。
そして、同時に動いた。
「インファイト?スナイパーがさせるかよ」
「猪口才な!」
ヒットアンドアウェイ戦法を駆使するロックオン。
ライフルを制動時に起こる反動を利用して射撃し、射撃反動を逃がすように移動する。
これによって実弾射撃でありながらまるでレーザー兵器の様に擬似的な無反動射撃を行っている。
「いくら射撃の腕が良くてもね!懐に入れれば!!」
大型の青龍刀を構えながらソレは放たれる。
甲竜に備え付けられた専用兵装龍咆(リュウホウ)。
空間を圧縮し、衝撃波を不可視の弾丸として撃ち出す兵装である。
「ハロ!」
「カクニン!カクニン!」
圧縮された空間に存在する空気は多少なりとも湾曲しているように見える。一種の賭けだったが、ロックオンは賭けに勝った。
バイザーから見えるのは空間が圧縮し砲身となったもの。
(……ハロが居なかったら危なかった)
不可視の弾丸はそれだけで脅威度は跳ね上がる。
しかし、対策をしていれば問題はない。
「避けた?まぁ良いわ!」
(騒ぐなよ、二流)
ロックオンは既に言葉を発するのではなく、無慈悲な射撃戦に移行した。ハロによる有線シールドの操作と自身の射撃センスを利用した戦闘。甲龍が最大火力を出すには接近戦しかあり得ない。
「やぁぁぁ!!!!」
弾幕の中を二振りの青龍刀をシールドの代わりにしながら突貫する。だが、その場に留まる狙撃は二流。一流のスナイパーは移動する。
「ハロ、魅せるぞ」
「リョウカイ!リョウカイ!」
〘更識楯無〙
「何故動かないの?」
青龍刀に斬ってくれと言わんばかりにただライフルの射撃を続ける。一発一発は必ず防がなければいけないほど、弱点を狙った精密な射撃。でも、ハル君が絶対にしない戦い方。
[機動狙撃]としか言いようのない正確無慈悲な射撃戦を行うのが彼だけれど一向に動く気配がない。
「ハロ、セブンガンだ!」
セブンガン、何かの隠語?でもそんなコードは私は知らない。
でもソレはすぐにわかった。短時間で良く仕上げたと思う。
もしかしたら既に作っていたのかも。
「何なのよそれ!」
「今からここは俺のキルゾーンなんだよ」
鈴ちゃんも叫んでるけど、ハル君は淡々としてる。
「まさか、有線シールドを擬似的なBT兵器にするなんて」
有線シールド内にレーザーライフルがマウントしてあり、有線シールドはフィールドを自由自在に飛んでいる。
それどころか、攻撃があれば自動で防ぎもする。
「…ブルー・ティアーズの上位互換じゃない」
元々BT兵器はイギリスの研究している武装、でも日本では有線シールドとして山田先生の時代にある意味ではできていた。
無線では使えないけど有線では自由自在に動かして人がいる。
「まったく……成長が速いのよ」
いくら鈴ちゃんが代表候補生でも、アリーナの全方向から放たれるレーザーは避けきれない。
しかも有線を狙おうものならハル君の狙撃かサブマシンガンの連射が飛んでくる。しかも、今のところハル君は外していない。
「……有線シールドの弱点、私は見つけたけどハル君があんな装備つけて対策しないわけがないのよね」
有線シールドは有線が絡まると言う弱点がある、でもソレは分かりきったもの。気付いたのは有線シールドは絡まる事がない様に一度離れる様な動きをすること。
「有線なら!」
「着れば良いか?」
あり得ない事だった。ソレを一番知っているのが山田真耶だ。
「……短時間で?いえ、元々、そういう風に改造していた?
ありえません、データは渡しましたけど」
「……廃材が消えたという報告はあった。まさか、即席で作り上げるとは」
真耶と千冬の視線には有線が切られながらも自在に飛ぶシールドの姿があった。
「ハロ、燃料は」
「90セコンド」
「そうかい…なら決着を付けるぞ!ハロ!!」
「リョウカイ!リョウカイ!60セコンド!」
リミッターが解除されたR2Sがあり得ない高加速を行う。
既に第二世代機の動きではない、ハロというサポーター。
そして、ロックオン・ストラトスという操縦手が居て初めて成り立つ動き。
「まだだ!」
「嘘でしょ!ラファールなんかに!」
太陽を背に、上昇していくR2S。
しかし、甲龍はシールドへの対処で手一杯でそれに気付けなかった。
「狙い撃つぜッ!!!!」
「アラート?!」
専用兵装の衝撃砲が破壊される。
甲龍はそのまま倒れるかと思えたが、そうはならなかった。
爆炎の中から衝撃砲をパージし、青龍刀を持った甲龍が飛び出してきたのだ。
「システムダウン!システムダウン!」
「くそ…」
ハロにシステムの再起動を命じるが、まともに動くようになるまで後180秒は最低限つまり40%の性能で動くしかない。
「やぁぁぁぁぁ!!!!」
「……ハロ、スラスターを最優先。他は無視しろ」
「キケン!キケン!」
「やるんだ!」
生命維持も、機体制御も、全てを無視してスラスターシステムを再起動させる。機体は自由落下を開始し、回避も間に合わないかもしれない。
「終わりよ!」
「ロックオン!ロックオン!」
「おぉぉぉぉ!!!!!」
青龍刀がR2Sのバイザーを破壊する。
バイザーを破壊した刃はそのままロックオンの右眼上に切り傷を付ける。
「なんで……血が」
「俺の勝ちだ」
リロードが完了していたサブマシンガンを甲龍の右脇腹に向けて撃つ。装甲が弾け、中の体に傷をつけたかもしれない。そのまま墜落していく甲龍を尻目に着地する。
だが、R2Sも無事では済まなかった。無理矢理な機動をした影響か、スラスターが火花を散らしている。
「くそ……」
破壊されたバイザーを床に捨てれば、誰もが息を呑む。
顔の右側が血に染まり、目すら赤くなっている。
「……勝者、凰鈴音」
アリーナが騒ぎ出す。誰が見ても立っているのはR2Sで地に伏しているのは甲龍だ。だが、SEは僅かに甲龍が残っておりR2Sは0だった。
「救護班が入ります!選手二人はその場で待機してください!」
アナウンスと共に救護班が入ってくる。
教師と保健委員が合わさったメンバーだ。
R2Sをしゃがませ、降りる。その時に少しふらつき、地面に手をついてしまった。
「大丈夫ですか!」
「問題ないさ」
(負けたか……リミッターをきるタイミングさえ)
自分は意識があり、対戦した鈴はすでに気絶している。
ISを外すのすら困難である。そんな相手に負けたのだ。
「…だが何処か、気分がいい」
試合に勝って、勝負に負けた。ではない。
試合に負けて、勝負に勝った。見下してきた鈴は気絶し、地べたに突っ伏している。
このまま行けば、第3試合は勝負なしで4組の勝者となる。
シミュレーターと実戦の違い、それを深く噛み締める。
「でも…勝ちたかったな」
ロックオンからハルに戻る。
頭には包帯が巻かれ、隣には生徒会のメンバーがいる。
「…負けちゃったわね」
「えぇ、勝ちたかった。いや、勝てた試合だった。リミッターの解除をあと10秒遅らせるだけで勝てた試合です。R2Sも、オーバーホールする必要は無かった」
「でも、ハル君。貴方は実力を示したわ。皆が知っている。ISの搭乗時間は総合24時間未満。対して、鈴ちゃんは代表候補生でしかも専用機持ち。搭乗時間は軽く100時間を越えるでしょう。
それに、実質的にハル君の勝利でしょ?」
「でも、俺に敗北は許されん。俺には勝利だけだ」
ハルはそう言いながら自分の相棒を撫でる。
「…狙い撃つ、必ずな」