織斑の末弟   作:影後

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クラス対抗戦 イレギュラー戦

「ハル君、これから」

 

「生憎、シミュレーターに籠らせて貰いますよ。R2Sめ動かない。それに、まだ感覚を失いたくない」

 

ハルは楯無にそう言うとアリーナを後にした。

学園の一大イベントだろうと敗者には関係のない話。

見学も良い機会かもしれないが、それよりもシミュレーターを優先した。

 

「R2Sは今回限りだ……くそ」 

 

自分の力が代表候補生までは届く事を理解したハルは静かに考える。自分の価値を売り込めば専用機を持てるのではと。

 

「…あぁ、そうだな。力が足りない」

 

シミュレーター室は封鎖されており入る事は出来なかった。

悩んでいたが、別の部屋を見つける。

IS用の射撃ルームだ。通常の射撃場と同じように的を撃つだけのものだが、ハルの時間つぶしには丁度よかった。

 

「くそ……反動が」

 

本来ならISで使うスナイパーライフルを変わらず使う。

使えとばかりに置いてあったそれに弾丸を装填し、狙う。

ISのハイパーセンサーが無いため目視だが、狙い撃てない事はにい。直接照準用のサイト、所謂アイアンサイトが乗っているからだ。

再装填し射撃を行おうとしたさい、自身のケータイがなる。

〘カイチョー〙とカタカナで表記され、自分の設定した記憶と異なるが、電話にでる。

 

「はい、ハル•オリムラ」

 

「ハル君、無事なの?!」

 

「射撃訓練場に」

 

「テッキセッキン!テッキセッキン!」

 

電話越しにも伝わる音声でハロが叫んだ。

そして、謎のISが扉を破って入ってくる。

 

「……少しは、休ませろよ!」

 

生身での戦闘は初めてだった。

しかし、幸いなことに今ここには弾薬が装填されたライフル。

アサルトライフル、サブマシンガン、ピストルがある。

すべてIS用の装備であるが、生身でも撃てなくはない。

瓦礫に隠れながらアサルトライフルにスリングを付ける。

土煙でまだ見えていないようで、攻撃はない。

 

「くそ……俺を殺しに来たか」

 

マガジンを3つ程持ち、アサルトライフルを構えながら扉に向う。閉所では逃げられないし避けられない。

援軍を待つのが吉だ。

 

「生体反応検知」

 

「くそ……」

 

左腕に合体されたガトリング砲が連射される。

逃げるしかないが、出たら蜂の巣だ。

 

「……やってらんねぇ」

 

だが、ハルは逆に頭部に向かいアサルトライフルを発射する。

防ぐ様子は無かったが、一時的に視界を邪魔できた。

その隙をついて廊下に逃げる。

後から回転する音が聞こえる、予想がつく。

ガトリング砲のバレルが回転しているんだ。

近くにあるのは隔壁を下ろす装置、やる事は決まっている。

 

「っぐ」

 

肩を初弾が掠めたが、ハルの撃ったライフルの弾丸が隔壁装置を撃ち抜く。緊急事態の為、1秒もすることなく分厚い隔壁が落ちる。

 

「死んでられるか」

 

走る、只管に走る。隔壁装置を見つければ撃ち抜き、少しでも時間を稼ぐ。隔壁が落ちた先から爆発音やらが聞こえてくる為、本当に時間稼ぎにしかなっていない。

 

(整備室を目指すしかない、頼む…頼むよ。あってくれ)

 

アリーナには4つの待機室とそれに隣接する8つの整備室がある。

ハルがいたのはアリーナの地下にある射撃訓練場。

階段を登り、何とか見つけた。

 

「ひっ…なに!」

 

居たのは一人の少女、青髪で何処か自分が恋をした女性を思わせる。だが、そんな少女にハルは叫んだ。

 

「おい、使えるISはあるか!」

 

「使えるって……ひっ」

 

「くそ…」

 

爆発が起き、隔壁が破られる。教師達や援軍が来ない。

やるしかない。

 

「なんで……なんで……私」

 

「諦めるな!くそ……おい、そこの組み立て途中の奴は動くのか!」

 

「無理だよ……私も、貴方も」

 

ハルは少女に掴み掛かり頬を打つ。

 

「死にたくないなら隠れてろ!死にたいなら、そこで泣いてろ!ウジウジとするな!」

 

「無理だよ!私はお姉ちゃんじゃない!私は……」

 

「……くそ、なら隠れていろ」

 

「え……」

 

「俺が奴を引き付ける、その隙に何とか逃げ出せ」

 

「…そんなの、貴方が死んじゃ」

 

「死ぬかもな、知った事か」

 

ハルはアサルトライフルに弾丸を再装填すると自分の上着を破き、傷口に包帯のように巻く。

 

「…駄目、」

 

「俺が殺すんじゃない、奴が俺を殺すんだ。それを忘れるな」

 

そして一息つき、別れにも聞こえる言葉を発した。

 

「巻き込んで悪かったな、生きろよ」

 

ハルは整備室から飛び出し、アサルトライフルを乱射する。

 

「こっちだ、木偶の坊!」

 

その瞬間、足元に向けてミサイルが発射される。

爆発し、体が吹き飛ばされる。

 

「……くそ……せめて、せめて次の隔壁まで」

 

足がやられた、折れているかもしれない。

腹部をみればナイフのように尖った床の破片が刺さっている。

血が流れ出て、意識が朦朧とし始める。

 

「俺の…最後かよ」

 

逃げた先の隔壁は降りていた、袋の鼠だ。

幸いなのは少女が居た整備室との間に一つだけ隔壁があること。

 

「……あぁ、こんな世界でも、なぁ…刹那。お前は変われたのか」

 

聞き覚えのない名前、見覚えのない男女が走馬灯の様に見える。

 

「……ヒーローの真似事か。偶には良いかもな」

 

サーベルを構えた敵が悠々と歩いてくる。

だが、ハルにはもう力はない。目を閉じて、じっと動かない。

 

「でもなぁ、お前ぐらいは道連れだ!」

 

死に体の体でアサルトライフルの標準を隔壁装置に向ける。

放たれた一発の弾丸は隔壁を閉ざす。

それは、敵の真上に落ちていく。

 

「挟まれ、動けねえよな…ハァ…ハァ……終わりだぁぁぁ」

 

アサルトライフルの弾丸が敵の頭部に切れるまで放たれる。

気絶したか、動かなくなったか。わからない、だがハルはもう動けない。

 

「くそ……」

 

生きていた、ガトリング砲がハルに照準を向けている。

 

「やぁぁぁ!!!!」

 

隔壁が斬り裂かれ、薙刀がガトリング砲を破壊する。

それだけでない、最後にはまるで墓標の様に敵に突き刺された。

 

「……あの……私は……」

 

「悪いな……血で何も見えない、さっきの娘か?そうか、生きてたか。良かった」

 

「貴方、傷が」

 

「……テロリストに殺されてやるかよ」

 

その時だ、背にしていた隔壁が動き始め少女はハルの体を支える。

 

「簪ちゃん!」

 

そこから飛び出したのは更識楯無。自身の妹の身を案じているのだろう。

 

「おね…ちゃん」

 

装甲がまともに付いていないISとそれに抱かれている血だらけのハル。IS用のアサルトライフルを手に離さず持ち、奥には薙刀で突き刺された敵がある。

 

「お願い……この人を……この人を助けて」

 

「泣くなよ……言ったよな。死んでもお前が悲しむ理由はない。俺はただ、自分の選択で死ぬんだよ」

 

「馬鹿言わない!まだ助かるわ!簪ちゃん、担架とかは」

 

「そんなのない!抱えていくしか」

 

「……我慢しなさいよ。簪ちゃんを悲しませる要因とか許さないんだから」

 

だが、ハルから声が帰っては来ない。

簪のISに抱かれたまま、ハルはアリーナの外へと出された。

 

「急患です!」

 

待機していた医療スタッフがハルを見ると即座に動き始める。

だが、ソレを邪魔してしまう存在が出る。

 

「ハル!更識!ハルに、ハルに何があった!」

 

「そんな場合じゃない!この少年は一刻を争うんだ!ヘリだ!ヘリ輸送だ!陸路じゃ間に合わん!」

 

スタッフに救急ヘリに乗せられ学園から飛び立つ。

 

「あの人は……アレに、襲ってきたISから逃げてました。多分、使えるISを探して整備室に……でも、私がいたから」

 

「織斑先生、監視カメラの映像が」

 

麻耶がタブレットを持ちながら走ってくる。

千冬は真耶から手渡されたタブレットを見て絶句する。

無人機はハルの居場所まで迷わず進んだ。

そして襲撃した。専用機を所持していないハルはIS用のアサルトライフルで応戦ではなく、時間稼ぎを選択した。

 

「……たった一人で……私は……私は弟を」

 

「まだ、死んでいません。信じましょう、ハル君の生存を」

 

ハルはICUに入れられた。

1秒たりとも無駄にできない状態で、即座に手術が行われる。

だが、彼の意識は別の場所にあった。

 

「……俺はまた死ぬのか」

 

暗闇の中で自分の姿が変わっている。

成長していると理解できる。知っていた。

自分に、自分とは別の記憶がある事を。

識っていた、自分がどういう存在だったかを。

演じていた、病弱な弟を。

部分的に思い出した、ハロを、相棒を完成させた時。

そして今、完全に自分が何者であるか理解した。

 

「父さん、母さん、エイミー。俺は、ライルの、彼奴の生きる世界を…マシにできたのか。なぁ、刹那、俺は変われたのか」

 

光が射す、ソレと同次に真っ暗の世界が光輝く。

自分の重い目蓋を押し上げれば、見慣れない病院の様な部屋が映る。傷口をみれば包帯が巻かれており、手当の後が感じられる。左腕に輸血パックが繋がってはいるが動くのは可能だった。

 

「つぅ…スリッパはあるな」

 

花瓶には造花が置かれ、見舞い品は特にない。

病室から廊下に出れば看護師が忙しそうに歩いている。

「なぁ、そこのレ…看護師さん」

 

つい、かつての感覚で声をかけようとしたが帰ってきたのは青褪めた顔だった。

 

「え?」

 

「この輸血パック、外してくれないか?あと、退院の手続きがしたくてね」

 

「……こちらでお待ち下さい!先生!」

 

「はっきり、言います。異常です。動けるはずが無い、ましてや1日2日で目を覚ます傷でもない」

 

「だが、俺は生きて動いてる。だろ?先生」

 

「……激しい運動を控えるなら、いや……しかし」

 

「未成年だとしても、言わせてもらう。俺はやらなきゃならない。このまま、モルモット行きは御免だ」

 

医師はハルのその険しい表情を見て、頷いた。

 

「…すまない、二人にしてくれないか」

 

看護師がそう言われ、医師とハルが対面になる。

 

「…随分と幼いな。ロックオン」

 

「アンタは変わらないな、モレノ先生。俺の目の時以来だ」

 

二人は旧知の仲の様に話し始める。だが、深い言葉はない。

 

「また、君に何かあれば対応する」

 

「……そうか、ありがとうな。先生」

 

退院の手続きが済むと、真新しい制服に身を包んだハル。

松葉杖等もなく、ただ学園に向けて歩くのみ。

 

「金はカードで」

 

姉の稼いだ金を利用するのは気が引けるが、仕方がない。

保険金も近いうちに降りるだろう。

バス、モノレールと乗り継ぎ学園に戻る頃には夕暮れ時となっていた。

 

「…へ?」

 

「なんだよ、俺がいる事が駄目なのか?」

 

部屋で片付けをしているとルームメイトが帰ってくる。

ハルは手慣れた手付きで腕を楯無の腰に置き、抱き寄せる。

 

「言ったよな、お前の心を狙い撃ってよ」

 

だが、叫び声と共に振り払われた。

 

「巫山戯ないで!生きて…生きていて、帰ってきてるなら連絡ぐらい」

 

「一報は入れてあるさ、姉さんにも、学園にも。今頃、大慌てだろうな」

 

顔が涙で歪んでいるのを指ですくい、優しく抱き寄せる。

 

「ありがとうな、俺の為に泣いてくれて」

 

「心配……したんだから……御礼も言えなくて」

 

「…ただいま、会長」

 

「おかえりなさい、ハル君」

 

 

 

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