「うおああああああ!小町ィィィィィィイ!!」
もうだめだ。
家に帰りたい。
小町に会いたい。
小町の声が聞きたい。
小町を抱きしめたい。
小町に――
ハッ、あぶないあぶない、もう少しで俺の精神が
小町を汚すものは断じて許さん。それが自分でも許さん。
神機使いになって二日目の朝。
朝起きて、コーヒーを淹れ、支給されたばかりのレーションを口に入れた時だ。
唐突に、小町の作ったご飯が食べたいと思ってしまったのだ。
もうお兄ちゃんダメかもしれない。
それにしても憂鬱だ。
今日も厳しい訓練やら座学やらをヘロヘロになるまでさせられて、夜遅くにベッドにダイブ。
こんな未来が見え――
いや、今日は実地演習だったか。
◆◆◆
そんなこんなで、旧市街地エリアにやってきました。
俺が所属するのは第一部隊。隊長の雨宮リンドウは、ツバキ教官の弟らしい。
なんでも、噂によると『リンドウさんにくっついていれば生きて帰れる』との事。
噂だけでは、強いのか逃げ足が早いのかは判断しかねるが、生きて帰れるに越したことはない。
で、その雨宮リンドウは今、俺の目の前に立っている。
「よーし新入り、今から実地演習を始めるぞ」
「うす」
「んー?どうした?緊張してんのか?」
うわー、リンドウさんってこういうタイプ?
元気がないなーもう一度!とかするタイプ?
「ま、肩の力抜いて、気楽にいこうや。危なくなったらサポートしてやっからよ」
全然そんなタイプじゃなかった。
はいゴメンナサイ。
「んじゃ、命令は三つ、死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、運がよかったら不意を突いてぶっ殺せ」
「それ四つっす」
「お、いいツッコミだなぁ」
おい、俺のスルースキル働け。
「まぁ、そんな訳で、任務スタートといきますか」
「うす」
討伐目標は“オウガテイル”、世界で最も個体数が多いとされている小型のアラガミだ。
小型というだけあって体格は小さく、行動パターンも比較的単純。
新兵の初陣にはもってこいのアラガミだろう。
でも、油断すればもちろん死ぬ。オウガテイルに
早速、前方数十メートル先にオウガテイルを発見した。こちらには気づいていないようだ。
基本的に、リンドウは戦闘に参加しないようだ。つまり、実質一人での任務になる。
だが俺にとって、なんの障害にもならない。何年ソロプレイしてきたと思ってるんだ。
先制攻撃は戦闘の基本だ、ということは座学で学んだ。
俺は神機を銃形態へと切り換える。この切り替える動作も散々練習させられた。
思い出せば訓練は厳しかったが、俺がアラガミにさほど恐怖を感じないのは訓練のおかげといえる。
銃身はスナイパー、遠方からの正確な射撃ができるタイプだ。
チームの場合、射撃は、近接攻撃できる仲間が先行してから援護をするのがセオリーだが、今は俺一人。
一気に頭が冷えていく。なぜか俺の思考には逃げるという概念は生まれてこなかった。
まぁ、逃げても仕事は終わらんからな。
俺は、引き金を引いた。銃口から放たれたレーザー状のオラクルは、一瞬にしてオウガテイルの右目に命中する。
「よし」
通常の生物なら、頭部を銃で打ち抜かれたら確実に絶命してしまうだろうが、アラガミはそんなことでは死なない。
オラクル細胞の集合体であるアラガミは、手足がちぎれようが首から上が吹き飛ぼうが、コアが生きていれば動き続ける。
コアを摘出すれば済む話だが、そのためには神機でダメージを与え、無力化する必要がある。
だが、死なないとはいえ、手足がちぎれれば動けないし目を潰されれば視覚を失う。
狙撃で目を狙ったのは、オウガテイルの視野を狭める為。
さらにオウガテイルは側面への攻撃パターンが限られている。
右目を潰した事で死角になった側面から回り込めば、優位な状況からの追撃が可能だ。
オウガテイルは突然の事に驚き、吠え散らす。
「うっせぇ」
向上した自分の身体能力は既に把握済みだ。
数十メートルを一気に駆け抜けると、未だ混乱しているオウガテイルを水平に薙いだ。
すると真っ二つに切り裂かれ、その場に崩れ落ちた。
「は?」
なんだ、この異様な切れ味は。
シャーペンよりもシャープすぎる。
この神機スゲェ強いんですが陽乃さぁん!
流石に驚いたが、討伐が楽になるのはとてもイイ事だ。
神機の性能についてはさておき、任務完了。
討伐目標は沈黙。コアの回収も忘れない。
完璧だ、完璧すぎるではないか。ふはは。
上手くいきすぎて夢じゃないかと一瞬考えもしたが、現実だった。よかった。
「おぅ、やるなぁ新入り、これなら背中を預けれそうだ」
「ども」
リンドウは、既に神機を片手に煙草を吹かしていた。
「新入り、お前、面白い戦い方するなぁ」
「そうですかね」
別に変わった戦い方じゃないと思ってたんですけどね。
遠くから不意打ちして、距離を詰めて追い打ちってのは基本じゃないんですかね。
卑怯に聞こえるけど、立派な戦術だからね、仕方ないね。
「あぁ、罠とかスタングレネードとか使ったらもっと面白くなりそうだ。という訳で……」
と、リンドウは俺に丸い物体を渡す。
「先輩からの餞別ってヤツだ」
「ど、ども」
渡されたのは、スタングレネードだ。
要約するに『もっと罠とか使え』ということだろう。
だが正直、支給されている個数が少ないのでありがたい。
「まあ、今後ともよろしくな新入り……おっと」
不意にリンドウは通信端末を取り出した。
「……緊急帰還命令?――あぁ、ワリぃな新入り。もう帰る時間だとよ」
◆◆◆
ロビーに戻ってくると、同期の藤木コウタが話しかけてきた。
「お、ハチ、実地演習どうだった?」
「ん、なんとかなった」
まるで友達のような会話だ。やめろよ、友達なのかと思っちゃうだろ。
これは座学や訓練をほとんどコウタと合同でやっていたため、互いに会話をするようになったのが原因である。
だが、もちろん俺から話しかけたことは無いし、今後話しかけることもほぼ無いだろう。
「コウタはどうだったんだ?」
俺が珍しく話を振ってやると、コウタは嬉々として喋りだした。
「いやーそれがさ!サクヤさんって人と任務だったんだけど、メチャクチャ美人でさ!」
なにそのザ・リア充みたいな話。
「へぇ」
「見とれちゃって任務どころじゃなかったよ!」
「そうか」
「ハチ……なにその雑な相槌……」
「ぼっちは大体こんなもんだろ」
だからといって、改善する気があるわけでもない。
ちなみに、俺がコウタをファーストネームで呼んでいるのは、本人の意向だ。
最初に『藤木』と呼んだら、「いや、コウタって呼んでよ」と言われ、俺としても何ら利害があるわけではないので、要望通りファーストネームで呼ぶことにした。
ちなみに極東支部では、ファーストネームで呼ぶことがほとんどらしい。
それにしても、俺と会話するなんて、こいつはいい奴なのだろうか。いい奴なのだとしたら、うまく話を広げられなくて申し訳ない。
あまりにも申し訳ないのでやっぱり俺からは話しかけないようにしよう。
「なぁ、ハチ」
コウタがターミナルへのアクセスを止め、こちらに向き直る。
「あ?」
「なんか、人いなくね?」
言われてみると確かにそうだが、ここに来て日は浅いので異常なのかはわからない。
「なんかあったのかな?」
「いや俺に聞くな」
まあ、思い当たる節があることにはある。
そのことを言おうか言うまいか悩みかけたとき、俺の後ろから声がした。
「アラガミの襲撃ですよ」
「あ、ヒバリさん」
コウタの問いに答えたのは、極東支部のオペレーターである竹田ヒバリ。
例によって皆は「ヒバリさん」と呼ぶので、俺もそう呼ぶことにした。他意はない。
俺としては女の人を下の名前で呼ぶのには抵抗があるが、苗字で呼ぶと何故か違和感があるので俺の呼び方が多少キモかろうと我慢して頂きたい。
「現在はアラガミの大群を防壁外で殲滅する為、作戦行動中です」
「え、俺たち、行かなくていいのかな?」
「まだ新米の俺らが出ても足引っ張るだけだろ」
コウタ君、話聞いてた?
大群だよ、大群。
そこに出撃とかどんな戦闘狂だよ。今時アラガミもそんな無謀なことしねぇよ。
「お二人にはツバキさんから待機命令が出ています」
「あ、了解です」
仕事をしなくていいのは純粋に嬉しいが、他に何もする事は無い。
つまり、暇だ。
ふと隣を見るとコウタと目が合った。
『暇になっちゃったことだしさ、オレの部屋でバガラリー観ようぜ!』
……などとコウタが言い出しかねないので、俺はそそくさと自室に戻ろうとする。
「なぁハチ、今から一緒にバガラリー観ない?」
ここでため息を一つ。
観ねーよ。
ねぇ、ホントは俺の思考、テレパシーで伝わってるんじゃないの?
知らない間に考えてることが
誰かアンチリーク剤ください。
「いやー、この前見逃しちゃったんだよねー」
コイツ完全に観る方向にシフトしてやがる……
だが断る。
「おいこら俺は――」
観ないぞ、と言おうとした瞬間だった。
無機質な警報音が、アナグラ中に鳴り響いた。
『緊急連絡、多数のアラガミが最終防衛ラインを突破。待機中の戦闘員は直ちにN地区へ出撃してください。繰り返します――』
「コレって、結構やばいんじゃ……」
コウタが声を漏らす。
だが、俺は別のことを考えていた。
「N……地区……」
気がつけば、俺はアナグラを飛び出していた。
――小町が危ない。
長らくお待たせして申し訳ございません。
お待たせした割に内容の質が悪いのはご愛嬌です。すいません。
書き溜めとかない思いつき作品なので、次回は年明けですね。ごめんなさい。
感想お待ちしてます。
あと活動報告のほうにアンケートありますのでよろしくお願いします。