「それで?呼ばれてきたけど何かあった?」
「ははは、まぁまずはお茶でもどうだい?」
その言葉にとため息をつきながらそこら辺にあった椅子を手繰り寄せて座るフェル
そして茶が入ったコップを2つテーブルに置いて、反対側に座るカイ
「…何か入れてないだろうね」
「まさか!他の者なら兎も角君に対して入れる筈いだろう?」
他の者、というところを強調しながらそう言うカイ
そんなカイにまたしても溜め息をついて、コップに口をつけるフェル
何だかんだ言って、カイの事は信用しているのだ
「…ふむ、やはり山海経の茶は美味しいね」
「ふふ、その言葉だけでわざわざ取り寄せた甲斐があったというものだよ」
そう言って自分もコップに口をつけるカイ
時間を掛けて飲み干した後、テーブルにコップを置くフェル
「で、わざわざお茶会をしたいが為に呼んだわけじゃないでしょ?」
「取り敢えずそろそろ実験の経過を報告しておいたほうが良いと思ってね、データで送ってもよかったんだけど盗まれたら大変だし…何より君に会いたかったからね」
そう言いながら近くにあった机から何枚かの紙を取るカイ
茶菓子を口に放り込みながら、差し出してきた紙に目を通すフェル
…顔には出さないが驚いていた、頼んでいたことが予想以上に進展していることに
「萬年参の改良品…従来より遥かに依存性を高くしながら、大量生産可能な物に…恐らく私でなければ実現不可能だろうね」
「サンプルはかなり提供したけど…まだ足りない?」
「あぁ、如何せん萬年参自体がかなり複雑な代物でね、一応完成した物を実験的に山海経でばら撒かせてるんだけど…データがもっと欲しいところだよ」
「了解、便利屋か美食あたりにまたお願いしとくよ」
「お願いするよ…ククッ、それにしてもいいのかい?」
何が、と疑問に思うフェルの横に座るカイ
「ゲヘナが違法に手を染めて山海経を永久追放された犯罪者と結託して麻薬を密造して、山海経にばら撒いている…このことがバレたら山海経どころかキヴォトス全部を敵に回す事になるよ、多分ゲヘナ学園自体潰されるだろうね」
「今更でしょ、それに今の山海経にそんな余力はないさ…何せ、2つの組織がお互いが持ち込んだものだと非難し合って今や多くの組織になって内戦状態だ、連邦生徒会も機能不全に陥っている今、どちらかが潰れるまでやりあうだろうさ」
ま、どちらが残るにせよそっちも潰れるだろうけどね、と付け加えるフェル
別の世界では『先生』という存在がいて、カイという黒幕を暴いたことにより関係が改善している
しかし、この世界線ではそんな存在はいなかった
初めはお互いが非難しあいながらも、何処かで違うだろうと思っていた
しかしそれはトップを始めとした一部の人間のみであり、下の人間はそうとは限らない
何故トップは動かないのか、確実に相手が持ち込んでいるに決まっているではないか、と
そして不満は溜まってやがて爆弾のようになる、あとはそこへ証拠という名の導火線に火をつければあら不思議
クーデター…いや、山海経の言い方ならば反乱が起き、トップの人間を無理やり引き摺り下ろして下の人間がトップになる
そして、相手が黒幕であると互いに罵り合いながら、互いに銃火を交える
こうなればもう誰にも止められない、かつて山海経であった場所は、今や二つの組織だけでなくそこから分派した多くの組織によって、終わりの見えない内戦場と化した
介入できそうな連邦生徒会は、生徒会長が行方不明のため機能不全のままである
「というかそっちこそ良いの?そうするように仕向けた僕が言うのもあれだけど仮にも所属してた学園の自治区が今内戦状態になってる現状は」
「今更別にどうとも思わないさ、私はただ実験と君の事にしか興味ないからね…あぁそうだった、実験で思い出したんだけどこっちの方も結構順調だよ」
そう言いながらカイが渡してきた紙を受け取るフェル
「…口や皮膚から吸収され、全身痙攣や呼吸困難、意識障害を起こすことを確認、更に回復後も極度の疲労感、興奮、緊張状態、そして記憶障害を引き起こす…なる程」
キヴォトスにジュネーブ条約など存在しない
それに、キヴォトス人は余程のことがなければ死なないのだ
…仮に死んだところで、トリニティの生徒だろうから問題ない
「これに関してはほぼ確実に完成したといっていい、抗体もすでに完成してるよ、ただまぁ…サンプルの方はあとは薬物実験による薬漬けくらいしか用途はないね」
「なるほど…ちなみに今どんな感じ?」
「見るかい?」
そう言って机の上にあったリモコンを操作するカイ
モニターの画面に映った映像には、天井から吊るされたまま、判別不能な呻き声をあげている
力なく開いた口から涎を垂らし、焦点のあっていない目は、それらがもはや廃人と化したことを表している
「かつての山海経の二つの組織のトップと幹部、それらに次ぐ教官達がこの有様…追放した連中が見たらどう思うんだろうね」
「知るわけないでしょ、大体自分達が追放したんだから覚えてないと思うけど」
そう言いながらリモコンを操作するカイ、モニターに映っている部屋にガスが放出される
嘔吐したり、奇声を上げたりなど反応は様々だが、最早常人ではなかった
肌が解け、呼吸が苦しいのか身を捩り、口から血を吹き出す
その光景を横目に見ながら、他の書類に目を通すフェル
「…確認した、ひとまず順調のようで安心したよ、また何か必要なものがあったら連絡してね」
「あぁ、お願いするよ」
そう言うカイだったが、何処か歯切れが悪い
その様子を不思議に思いながら、ゲヘナに帰ろうかと立ち上がろうとするフェルだったが、裾を掴まれる
何だと思いみてみれば、何処かもじもじとした様子で裾を掴んでいるカイの姿
「どうかした?」
「…久しぶりに会えたんだから、その…良いだろう?」
そう言うカイの視線は、寝室に向けられている
そのカイの視線の先を見てすべてを察したフェルは、カイを抱き寄せると唇を奪う
そのまま貪るようにキスをし、唇を放す
カイの蕩けた顔を見て、背筋がゾクゾクとするフェル
「今日は激しく?それとも優しく?どっちがいい?」
カイの背中をなぞりながらそう聞くフェル
「…激しく、頼むよ」
息を絶え絶えに、なぞる手によって体を震わせながらそう言うカイ
そんなカイの唇をもう一度奪って、そのまま寝室に連れ込んだフェル
そして閉じられた寝室の扉は、暫く開くことはなかった
「…ん…」
何かが動く音が聞こえ、目を覚ますカイ
痛む腰をさすりながら体を起こせば、制服に身を包んでいるフェルの姿
「あら、起こしちゃった?」
「…もう行くのかい?」
「まぁね、やることがいっぱいあるし」
そう言いながらカイの方へ歩み寄るフェル
「頑張ってね、期待してるから」
そう言ってカイの頬に唇を落として、部屋から出ていくフェル
それを見つめていたカイは、実験を続けようとベットから降りる
フェルに抱かれた事と期待してくれていることによる幸福感と、自分が一番ではないことへの嫉妬に身を焦がしながら
彼女は、フェルがいずれ自分だけを選び、見てくれるようにするために、実験に励むのだ
「お待たせ」
そう言いながら車に乗り込むフェル
フェルが完全に乗り込んだことを確認して、発進する車
運転手を務める生徒は、僅かに見えるフェルの首筋にある虫刺されのような赤い跡を見て、嫉妬する
そんな視線を受けていることを感じながら、フェルは窓の外を眺め、これからの予定を頭の中に浮かべていた
この世界線の山海経は分かりやすく言うなら、Hoi4のTNOのロシアみたいな状況
あと子供は兵士として駆り出されてる
生徒会が機能停止してるからしょうがないね
感想宜しく