誤字脱字は見逃してくれると喜びます
練習試合の後から一度も誠也と顔を合わせることはなかった。
もともと、顔を忘れてしまうほど長い時間会っていなかったのだから別に珍しいことではないと思っているけど、最近会っていたからどうしたのかなって気にはなっている。
私は空気の入れ替えをするために部屋の窓を開ける。
「うぅ……。さむぅい……」
外から流れ込んできた冷たい冷風に身震いする。
今年もあと1か月を切り、私たちは半年後の大会に向け、練習にいそしんでいた。でも、今日は久々の休み。いつもより上機嫌なのは内緒にしなきゃ。
「あれ、メール来てる」
携帯に1件のメールが届いていて、内容を確認する。
「あ、そっか。今日クリスマスなんだ」
私と同じ班のみんなでショッピングに行こうという話が私にもまわってきていた。
「服、新しく買おうかなぁ」
戦車道から逃げている時、ファッションなどには一切興味がもてていなくて、お母さんの服を着たり、一日中寝間着のまま過ごしたりしていたから、外に出るのは少し気恥ずかしい。
「ああ、でも、服何着て行こう。お母さんのまた着ようかなあ。でも、ばれたらどうしよう……」
打ち上げの時は、制服だったからなんとかやり過ごせたけど、さすがに今日は無理がある。
「……うぅ、どうしよう」
朝起きてからすぐに頭を抱えることになるなんて思わなかった。しばらく悩んだ結果、お母さんを頼ることにした。
「私に聞かれても……」
お母さんはそう言って苦い顔をするばかりで、少しも頼らせてくれなかった。
「沙織さんに聞いてみれば?」
「先生に? 確かに先生おしゃれだけどさ、こんな朝早くにたたき起こすのもあれだし」
「沙織さん、今日は早起きしているはずだから。すぐに連絡取れるんじゃない?」
「そうなの?」
「うん。ちょっと約束してるみたいで」
「ふぅん。ん~。でもいいや、お母さん服貸してくれない?」
「頑張って」
「うん」
お母さんに笑顔でそう言ったのはいいものの、何をどうすればいいのかさっぱりで何も寝間着姿のまま、すでに10分過ぎていた。
「時間まであと30分かあ。家出る時間を考えるとあと10分。……やばい」
もうほとんどやけくそになって、一番手前にある服を着こんでいった。
「……そうだよ。上着を着ちゃえば、何着ようが同じじゃん」
開き直って家を出る。行ってきますといって出て行くときに、お母さんが一瞬口ごもっていたけど、もう気にしていられない。
大型ショッピングモール前での待ち合わせ。私が到着した時には全員そろっていた。
「みんなごめんね。ちょっと遅れちゃった」
「あ、あああ、あんたその恰好は……」
伊都子は大きく顔をひきつらせ、震える手で私を指さした。
「ひどい」
みすかさんは信じられないものを見るような目で私を見る。
「だってほら、時間なかったから」
「それでもひどいって」
私が言い訳をすると、伊都子は何度も首を横に振って、否定する。
「どうせ、買い物目的で集まってんだから、いいんじゃねえの?」
そう言ったのは、食べかけのアイスを片手に大きな欠伸をついた真理華だった。
「あんた、寒くないわけ? 真冬にアイスって」
「ん? 別に?」
伊都子は顔をひきつらせたまま、真理華に問う。その答えを聞いて、頭を抱え、ああ~と大きなため息をついた。
「あんたたちは……。ああもう行こう! ちょうど開いたし!」
伊都子は私の腕をつかみ、店内へと引っ張っていく。
「まずは、みうの服選びから!」
「え、ええぇ」
そのあと、私はかなりの量の服を着せられ、上着から靴下までほとんどすべての衣類を買わされることになった。
「せっかくお小遣い貯めてたのにぃ」
薄く軽くなった財布を眺めている私の頭を伊都子は小突いた。
「今まで買ってこなかったあんたが悪い」
伊都子たちが必死になって選んでくれた洋服を今は着用している。
それにしても、数か月分のお小遣いをたった30分程度でほとんど消費してしまうとは……。今まで買いたいものがなかったとはいえ、一気に所持金が減るのはなんだか心苦しい思いがした。
「誰かとは違って元がいいから、一気に可愛くなったね」
みすかさんがちらりと伊都子を見ながらそう言うと、伊都子はつられるようにしてみすかさんを睨む。
「なんであたしのほうを見たのかなあ?」
「誰も伊都子を見ているなんて言ってない」
「ってあれ? 真理華は?」
「ああ、ゲームセンターに行くって言ってたよ」
「また勝手に! 昼ごはん食べないつもりなの?」
「そうみたい。まあいつものこと」
伊都子はブツブツと文句を漏らし始め、みすかさんは「ちょっと行ってくる」といってどこかへ向かった。
残された私たち二人は、適当ないすに腰掛ける。
「自由すぎるでしょ真理華のやつ」
「自由って言うか、気ままなだけだと思うけど」
「あたしたちがこうしていられるのもあと一年か」
「……そうだね」
「そういや、みうって進路決めてるの?」
「考えたことないや」
「まあ、どうせみうのことだから戦車道の推薦なんかで簡単に大学に行けるんだろうけどね。うらやましい」
「わかんない。今まで、成績は悪すぎるから。この後いくら頑張ってもそれはないと思う」
「そんなものですかねえ」
「伊都子は決めてるの?」
「初めは秋山さんのところで厄介になろうと思ってたんだけどさ。そこまで戦車に興味ないし、どうしようかなって」
「それでもいいんじゃない? 楽しそうだし」
「なんだかさあ。秋山さんの世代はさ、絶対に勝たなきゃっていう理由があって、それはそれは情熱があったんだろうけど、今のあたしたちにはそんなのがないなあって。戦車には興味ないし、絶対に勝たなきゃいけない理由もない。こんな青春でいいのかなって思わない?」
「確かにそうかも。私もお母さんの後を継ぐことはできないだろうし、強くなきゃいけないっていうわけでもない。夢の高校生生活がこのまま終わっちゃうのは少し寂しいかも」
「あたしたちが戦車どうする理由って何かあるのかな」
「さあ」
「ただいま」
そう言ってみすかさんが私たちのもとへと戻ってきた。
「何の話してたの?」
「別に大したことないよ。さて、ご飯買いにいこ!」
伊都子は勢いよく立ち上がって、駆け足で店へと向かって行った。
「私が残ってるから、みうは先に行って」
「うん。ありがと」
みすかさんに促されるまま私はご飯を買いに向かった。
みうが向かって行ってからしばらくたつと、みすかの携帯にメールが届く。
「ん」
送り主はみすかの母親からだった。
みすかはそのメールとしばらくにらみ合い、返信せずに削除した。
「めんどい……」
そう呟いてからは一言もしゃべらずにみうたちが帰ってくるのを静かに待った。
最後の大会まで待ってほしい。心の中では切にそう願いながら。
みんなと別れ、一人帰り道を歩いていると、今まで見てきた景色と少しだけ違っているように見えた。
気分はいいし、にやける顔を抑えきれない。
「あと、半年」
最後の大会まであと半年。みんなといられるのはたった半年だけ。
将来のことを考えるのはあと半年待ってもらおう。
「最後くらいしっかりしなきゃ」
そう言って私は家のドアを開ける。
「ただいまー」
リビングに入るが、お母さんの姿はなく、一枚の置手紙があるだけだった。
「用事が出来たので一人で食べて、か。久々だなあ。お母さんが急に出かけるの」
でも、用事ってなんだろう。伯母さんたちと関係あるのかな。
久々に、誠也と会えるのかな。
練習試合のあの壊れた顔が脳裏をよぎる。
心配だな。
「ううん。今は最後の大会に集中しなきゃ。またみんなに迷惑かけちゃう」
頭を振って誠也のことを忘れようとする。
でも、忘れきれない。
「頑張ろう。頑張ろう。頑張ろう」
忘れよう。今だけは、最後の大会が終わるまでは。
度重なる用事で更新遅くなりました、すみません(´・ω・`)
やりたいことが見つかったらということで続けてますが
今回は次回のための前書き程度のないようにしました。
6千字以上にしてしまうと、更新が遅くなる。もしくは、できなくなる可能性があるので3千前後にするようにします。
今回はそこまでたいした盛り上がりがないのであれですが
次回は少し頑張りたいかなと
こんなのにお付き合いいただきありがとうございました(∩´∀`)∩