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鼻をツンとつく鉄のにおい。ほんの少し前まで、好きだったこのにおいも今日に限って嫌な臭いだと思えた。かすかに硝煙が立ち込めている中で、みんなそろって涙を流していた。特に3年生の子たちはみんな、声を上げて泣いている。
私たちは負けたんだ。最後の最後で。
試合に出てくれていた後輩たちも、こみあげてくる悔しさに耐えられていないようで、通信越しに嗚咽の声を漏らしている。みんな、泣いていた。悔しそうに顔をゆがめて、唇をかんで、今にも八つ当たりしそうなほどつらそうな顔をしている。
私だって、悔しいって思っている。思えているはずなのに、どうしてか、涙は流れてくれなかった。私の顔は煤で薄汚れ一向にきれいになる様子なんてなかった。
終わっちゃったなあ。
これが、みんなとできる最後の試合だった。そして明日にはみすかさんは転校してしまう。日程が一日でも伸びてしまっていたら、この試合を共にすることなんてできなかった。よかった。最後まで一緒に戦えて。
そんな思いを巡らせている私にこの試合の勝者と優勝校の名前が告げられた。心なしか相手の喜ぶ声が大歓声とともに聞こえているようだった。
嫌だ。もう帰りたい。そんな思いすらも思えなくなり始めた私は、背もたれに体重をかけ、ゆっくりと空を見上げた。雲一つない空に時折硝煙が混ざりこむ。
どうして私は泣いていないんだろう。泣けない自分がいやになる。通信で移動しろと指示が入っていることすら聞こえなかった。
それからはあっさりとしたものだった。表彰式や閉会式なんかもすぐに終わって、まるでいつもの練習が終わった時のように解散した。
解散するときみんなの涙はもう流れていなくて、一人だけ辛そうな表情を見せていたのはみすかさんだけだった。最後だからとみんな楽しそうに過ごしている。
楽しそうに。私はそんな様子をただ平然と見ているだけで、特に何の思いも起こらなかった。誰かが声をかけてくれる。でも私は何の返答もできず、ただ笑ってやり過ごすことしかしなかった。
家に帰り着いても、お母さんから慰めの言葉をもらっても、私はまともな対応ができなかった。
「おなかすいてない?」
お母さんが心配そうに私を見つめそう聞いてくれる。
「ううん。大丈夫」
薄い返事。今の私にはこれが精一杯だろう。
自分の部屋に向かおうとする私にお母さんは一言、お疲れ様と言って台所へ向かって行った。
私が元の状態に戻るのに2週間ほどかかった。
みすかさんはとっくに転校して、これからは大学入試に向けて頑張る時期。
なけなしの推薦は望み薄で、勉強でどうにか頑張るしかないと思い、今までよりは頑張るようになった。
いまからさらに1週間後には初めての代表合宿が予定されている。気は進まないけど、やるといってしまったからにはやり切る気でいる。
そんな予定もあって、私は戦車道の練習に顔を出している。今までは、みんなを従える立場だったけど、今は先生になった気分で指導している。はじめ指導に関しては断っていたんだけど、技術面では真理華に次ぐレベルだからと食い下がって結局私が折れる形で決まった。
ある意味先生として教える気恥しさはぬぐえてはいないけど、やっていてつまらないということはない。むしろ、楽しいくらいだ。
後輩たちは私の言葉に何度もうなずいて、慣れない操縦などを頑張ってこなしていた。人のことばかり気にかけて自分のことをおろそかにするわけにはいかない。教えながら操作の確認や試合映像を何度も見て、どうすればいいのか必死になって頑張った。
そうして、合宿まであと二日となった日。
練習を早めに切り上げて、家に帰るとお母さんが珍しく黒のワンピースを着こんで家を出ようとしていたところだった。
「お母さん、どこに行くの?」
お母さんはゆっくりとほほ笑んだだけで「行ってきます」としか言わず、家を辞した。
辛そうな表情をしていた。何か良くないことがあったことは明白で、何が起こっているのかはわからない。少しの不安を感じながらお母さんが作ってくれた料理を口にした。
十二時を迎えるころ、お母さんは帰宅した。
「ただいま。お塩持ってきてくれる?」
玄関口で足を止めたお母さんは私にそう頼んだ。私は言われるままに塩を入れた袋をp母さんに手渡すと、少しばかりつまんで自分の体にぱらぱらとかける。
「お葬式?」と聞くと、お母さんは家を出て行った時と同じようにゆっくりとほほ笑んだ。
「誰の?」
立て続けにそう聞くと、お母さんは少しだけ間を取ってゆっくりと口を開いた。
「誠也」
「え?」
思わず驚きの声が漏れる。
「自殺だって。自室で首をつって……。みう宛ての手紙が置かれてあったんだって」
お母さんはバックから手紙を取り出して、私に渡した。
達筆で描かれてあって少し読みづらい。読み進むにつれてだんだんと字がぶれている。誠也は今まで自分のしてきたことが間違っていた。だからその罪を償うといった内容が書かれてあり、私に対する謝罪の言葉がいやになるほど書かれてあった。
「……馬鹿だよ……最後まで」
思わずそんな言葉が漏れた。
お母さんはなにも発さずに自室に入って、寝間着姿になって出てくる。
「ほら、早く寝ないと」
お母さんは私の背中を軽く押しながらそう言った。
「うん」
「明日、合宿予定地に顔を出さなきゃいけないから一人で頑張って」
「うん」
私はお母さんに促されるまま部屋に入った。ベッドに入ると夜遅かったのもあってすぐに眠りにつけてその日は何とか終えることができた。
でも、ひとつだけ気がかりなのは遺書の中に「みうちゃんが事故にあったと聞いた時から」なんて部分があって、不思議に思った。
私にはそんな記憶なんてなくって、体に傷痕なんてない。
事故って何のことなんだろう。
真理華の名前もあったし、何か知ってるのかな。私はそんな疑問を心の隅に置いておくことにした。
そして私は自分の薄情さに嫌気がさし始めていたが、認めたくない自分のせいで表には出てきてはくれなかった。
こんなものを読んでくださった方
お気に入り登録してくれた方
ありがとうございました<m(__)m>
これから
続くかどうかは不明になります
続きを思いついて書いた時はまたよろしくお願いします