――――人類最後のマスター、藤丸立香。
彼には特別な能力はあんまりない。強いて言うなら『異常なレイシフト適性の高さ』と『割とどんなサーヴァントとも仲良くできるコミュ力』であろう。
最近では『運命力』があった(失われた)とか言われてたりもするが、それでも彼は型月作品の主人公としてはかなり普通だ。
直死の魔眼とか持ってないし、根源接続者だったりしないし、身体に聖遺物が埋め込まれてるわけでも、固有結界を持ってたり魔法使いだったりもしない。型月世界における影の国に次ぐかもしれない魔境であるYAMA育ちじゃないしフランシスコザビってもいない。
だから、まあ。なんだ。楽観が過ぎた。
自分なら、結末(こたえ)を知っているのだから少しだけ良い結果を得られるのでは――――そんなことを、欠片も思わなかったわけではなかった。
そんなもの、カルデアスに呑み込まれた所長を見て潰えたんだが。
「だって、おかしいだろ。英霊召喚なしで特異点Fを乗り切れとかさ……特別版のアニメか? せめて誰か一人でも呼べればまだ………」
本当は分かってる。
アーサー王、そのIFの姿であるセイバー/オルタ……もとい、アルトリア・オルタに勝つなんてのはゲームでもなければ余程の英霊でもなければ無理だ。
星4? セイバー?
誰でも知ってる聖剣エクスカリバーの担い手、アーサー王だぞ。そもそもアーチャーがセイバーに強いなんてのもゲーム上での都合で、SN(ステイナイト)で言うならセイバーはアーチャーを出会いがしらにバッサリいってるし、セイバーはランサーに勝ってはない。
マシュだから、力を貸してくれたギャラハッドがいたから、なんかよく分からないけどセイバーオルタを倒せた。
空気は暗い。
辛うじて生き残ったカルデア。亡くなった所長。
ダ・ヴィンチちゃんとドクターが明るくふるまってなんとか持たせているが、誰かが倒れればそのままカルデアは崩壊するだろう。
全ては俺の英霊召喚に懸かっている――――ついでに言えば召喚回数は一回でもギリギリだし、なんならそれもリソースを濁していたからやり直しはきかない。
人理が俺の双肩に――――というのは重すぎて理解できないが、わずかばかりの期間過ごしただけとはいえ、それこそ前世から知っている大事な後輩の旅路と、フォウ君も認めたカルデアの善なる人たちになんとか報いたい。
「あの、ドクター。触媒とかって……?」
「――――ごめん、無い!」
現実は非情である。
これが
「ダ・ヴィンチちゃんなら……」
「君の気持ちはひじょーに、よく分かる! 万能の天才である私を触媒にすれば確かに類は天才(とも)を呼ぶだろう! だが――――まあその、恐らく? 戦闘向きの人材ではないだろうね」
「マシュの円卓で円卓の騎士を……」
「いやー、それが召喚そのものの触媒だから……期待薄、かなぁ?」
なんでや工藤!?
円卓の騎士確定ガチャとかさぁ! ほぼ高レアじゃん! トリとか来てポロロンでも一向にかまわんというかヤツですら超当たりサーヴァントだからな!
「ドクターの指輪カッコイイですね」
「もう聖遺物でもなんでもないぞ藤丸君! ロマニがそんな大した指輪なんてしてるわけ――――――ん?」
「わー! わー! ともかく縁召喚なら藤丸君にとってもっとも相性がいいサーヴァントが召喚されるハズさ! そう相性! 相性が大事なんだよ! 藤丸君の命を守ってくれるサーヴァントはマシュがいるとはいえ、安全第一ってコト!」
「そうですね、先輩の安全は後輩である私が全身全霊で護りますが――――その、デミ・サーヴァントである私ではサーヴァントの相手は難しく……」
一般人からしたら十分すぎるほどに強いのだが、いかんせん出力が違いすぎる。スクーターで大型バイクに挑むようなものだろう。
だから俺の縁召喚――――一回限定の、運頼みの、ランダムガチャに全てが懸かっている。
「うああああぁぁ……ダメなんだ……爆死が怖い………英霊なら誰でも戦力になるんだろうけど責任が重い……」
自慢じゃないが大体のガチャは確率以下でしか当たらないぞ俺は!
SSR3%のガチャを200連回してようやくSSRが3枚出る……それが俺のガチャ運である。そして既に完凸しているSSRがダブる。
「一回ガチャって……い、いやでも人類最後のマスターの縁召喚ってことはたとえ何が起こっても世界一の縁召喚と言えるのでは……?」
「うんうんそうだぞ藤丸君! 間違いない!」
「まあ魔術的には合ってるね」
「もしかしていきなり人類悪☆顕現なんてことも――――」
「あるぞ藤丸君!」
「いやあったら困るけど―――――」
そうだ! もしかしたらこう、脳内セコム素通り系ビーストのカーマとか、絶対お出ししたくない地球人類最終兵器、地球の性感帯殺生院とか、ORTとか、AUOとか、なんかすごい英霊が出て来てくれるかもしれない!
“知識”的にこういう時は――――え、チュートリアルガチャは星4?
エミヤとかヘラクレスとかエリザとかニトクリス? そういえば初期からラインナップ変わったんだっけ……いや初期にチュートリアルガチャで星4確定なんて無かったけど。
……まあとにかく、初期も初期からプレイしていたからどんな英霊が来ても大きくコミュを損ねることはない……ハズ!
「―――――よし! 頼む、来てくれ力になってくれるサーヴァント……!」
―――――来い! 天秤の守り手よ――――!
全身の魔術回路と思われるものが白熱する。
血管に灼けた鉛を流し込まれたような――――そしてそれを押し広げられているかのような――――痛い、というよりも単純な苦しさに、呼吸が詰まる。そういえば衛宮士郎は命がけで魔術回路を開いていたのだっけか。
ドクターやダ・ヴィンチちゃんが召喚にそこまで乗り気でもなかった理由をなんとなく察する。やっぱり型月主人公だよ藤丸立香。
助けてほしい。苦しさがなくなってほしい。
でも、そう――――止めたいとは、不思議と思わなかった。
特異点Fの前であればまた違ったかもしれない。夢の中のようなふわふわした感覚で、浮ついていたかもしれない。
――――そうだ。俺は、皆を守りたい。
少なくとも俺が“本物”であれば確実に守れただろう人々を守りたい。彼らの預けてくれる無償の優しさと信頼に応えたい。
あの、晴れた眩しい空を見上げた、輝かしい彼/彼女のようにはなれずとも――――。
光が収まる。
ヘラクレスでは――――ない。多分キアラでもない。
小柄な、女性か子ども。
ただ、その圧倒的なまでの魔力の奔流――――アーサー王すら上回るその気配が、失望なんて感じさせはしなかった。
初めての魔術回路の酷使による疲労と眩暈でへたり込んだ俺に、彼女は妖精國で最も美しいと言われた美貌で手を伸ばした。
「遂に時間が私たちに追いついたね! サーヴァント・ランサー。妖精騎士ランスロット―――――」
「メリュ子!?」
なぜメリュ子が此処に!?
お前期間限定サーヴァントでは!? というかまだ第一部だぞ!?
というかお前……きのこの寵愛を受けし最強生物では? こんなところ……壊滅寸前のカルデアにいていいの?
メリュ子は一瞬きょとんとした表情を浮かべ(顔が良すぎてそれも可愛いのだが)、それから満面の笑みで抱き着いてきた。
「マスター! やった、これもう告白オッケーってことだよね! もう知ってるみたいだけど、ランサー・メリュジーヌ。これからよろしくね!」
「た、大変ですダ・ヴィンチちゃん! 正体不明のサーヴァントに先輩が抱き着かれています!?」
一瞬で鎧を消して私服姿になったからか(それ再臨しなくても出せるの?)、軽いし柔らかいし、なんかいい匂いまでするメリュジーヌはノリノリで頬を擦り付けながら何か楽しそうに指折り数え始めた。
「やりたいこと、沢山あったんだよね! マスターとお昼寝とかー、ビーチで日光浴とかー。あと、二人で星空を見ながらのんびりとか!」
「だいたい全部寝てる!?」
「お昼寝のサーヴァントなんでしょうかドクター!?」
「妖精…騎士?」
「しかもランスロット…?」
天然なマシュも、妖精騎士という未知のワードに悩むドクターも、ランスロットというビッグネームと結びつかないようで割と超級の霊基を持ってるサーヴァントに悩むダ・ヴィンチちゃんも助けてくれそうにはない。
「寝る……ああ! 交尾の詩的な表現ってヤツだよね。こんな身体だけど、オーロラをお手本にしたからそれなりに自負はあるんだ――――どうかな、マスター。少しは綺麗だと思ってくれる?」
「妖精國で一番綺麗だと思う」
あの国に綺麗なものなんてほぼ無いとか言ってはいけない。
でもあの時のオーロラは尊いことをしたし、見た目だけなら綺麗だし、それの尊い場面を写し取ったメリュジーヌは妖精國で一番尊い存在なのである。オーロラにも尊い部分はあるのである。でもオーロラなのである。
「――――そ、そうかな。オーロラより綺麗って言われると困ることが多かったんだけど……なんだろう。マスターに言われるのなら、悪くないね。――――ううん、すごく良い! じゃあマスター、寝よっか」
可愛い顔してとんでもない爆撃をかましてくる戦闘機にしかし、チリ紙より頼りない理性を総動員してなんとか押しとどめる。
「それはおいおい」
「おいおい!? ちょっと待って、マスター。私たち、恋人だよね…!?」
さすがちゃんと見ると未来が見える系竜種サーヴァント。
未来の俺があげたのであろう好感度を勝手に前借りしてくれるのは本家藤丸と変わらないらしい。あるいは本家が上げてくれた分かもしれないが。
「おいおいね」
「それはそうなんだけど…! ――――ハッ!? まさかマスターと私の仲を邪魔するサーヴァントが!? そんなカルデア滅ぼして―――――うそでしょ。もう滅びかかってる!?」
「ま、まだ滅んではいません…!」
「あっ、マシュ。そんな弱そうだったっけ……ダ・ヴィンチは大きくなってるし……なんか不快な魔術師もいるし……切開していい?」
ロマニを見て「こいつが元凶では?」というサーヴァント特有の直感を得たらしいメリュ子に剣呑な目で見られて「ひえー!」とちょっとワザとっぽいがガチで縮み上がったドクターのために真剣にメリュ子の目を見て語り掛ける。
「ドクターは胡散臭いけど多分良い人だから! 多分頼めばメリュ子の部屋を好きな場所にしてくれるぞ!」
「え、ほんと!? じゃあ私、マスターの部屋ね!」
「えーと、藤丸君……いいの?」
「ちょっと不安だけど護衛は欲しいし……」
将来的に、急にレムレムしたりすることやもっと危険な溶岩水泳部みたいなのが増えることを考えるとむしろ護衛から同室してくれるのはありがたい。
だってメリュ子って、あのオーロラすら見捨てられないレベルのお人よしだし。
オーロラ以下のムーブをしなければ裏切られることは多分ないとか、無敵では? 惚れた弱みでDVされても貢ぐ女とか言ってはいけない。
「せ、先輩! 護衛が必要なようであれば私が――――」
「マシュより罪悪感はないかなぁって」
「先輩!?」
「やったー、私の勝ち! 後輩じゃ恋人には勝てないよねー。うんうん、そこの魔術師も私を前にしてもマスターの意志を優先するあたりちょびっとだけ見直したかなー。そのへんの妖精くらいには」
それ全く褒めてないよね。
「じゃあマスター、とりあえず一緒に――――」
「人類救えばなー。この滅びかけのカルデアじゃなくて好きな場所でメリュ子とデートできるんだよなぁ………」
恋人名乗ってくれるのは嬉しいんだけど、でもやっぱりちゃんと向き合いたいからデートして“本物”のメリュ子のことを知っていきたいかなって。
「……メリュジーヌ、デートに行かないか?」
「うん」
「フランスで、一緒に美味しいご飯でも食べて」
「いいね」
「ついでに悪いヤツをやっつけて世界も救いたいんだ」
「―――任せて。敵を滅ぼすとかそういうのなら、得意なんだ」
(少なくともフランスなら)負ける気がしねぇ――――!
勝ったな、第一部完!
え、ソロモン? 知らない子ですね……
つづく…?
メリュ子の好感度
なぜか名前を知っていた +100 恋人認定
胡散臭い魔術師にすら優しいマスター +10
褒めてくれた +5
デートに誘ってくれた +500
おいおいできる思い出 +■■■■■■