東方Project二次創作短編集 作:dwwyakata@2024
霊夢が土産に菓子を持ってアリスの所に出向くと。
アリスは何やら、本を見ながら魔法陣を書いているところだった。同時に多数の人形が、別の人形を組み立てている。
魔法の人形を作っている、という所か。
アリスは糸を使って多数の人形を操るのだが、それには魔法も介している。
糸だけで物理的に人形を操作しているわけではない。
流石に多数の人形を使って戦闘をするのに、手の指が十本では足りないし。
糸はあくまで媒介なのだろう。
案内も茶を出すのも人形がやってくれる。
アリスはずっと霊夢に背中を向けていたが。
新しい人形が完成すると、やっと此方に来て、席に着いた。丁度完璧なタイミングで、アリスにも人形が茶を淹れる。
意外にも、日本茶だった。
「それで、真相って」
「此方でも調べていたのだけれど、あの魔法陣。 明らかにチルノの夢の中に、大妖精の意識が侵入するためのものだったわ」
「それで獏が何も知らないって言っていたのね」
「ええ。 あくまでチルノの頭の中で全ては行われていたのだから」
要するにだ。
恐怖に震え上がっていたチルノの頭の中に。
大妖精の魂なり意識なりが、いたと言う事だ。
魔法陣を壊した事で、大妖精の所に意識は引き戻され。
チルノは恐怖から解放された、と言う事なのだろう。
それで問題は。
どうして大妖精がそんな事をしたか、だが。
チルノと抱き合っていたときの大妖精のあの笑顔。
明らかに、何もかもが上手く行った、という表情だった。
アリスも頷くと。
静かに、怖い話を始める。
長い時を生きている魔女らしい、怖い話を。
「人間にしてもそれに近しい存在にしても、情念というのは時にどんなものよりも恐ろしいものなのよ。 妖精はそもそも生物と違って子供を作って増える種族では無いし、殆ど女しかいない。 それでいながら精神構造は人間と似ているから、時にああいういびつな愛情関係が生まれるのでしょうね」
「よく分からないのだけれど」
「簡単に説明すると、大妖精がチルノの心を掌握するための計画だったと言う事よ」
大体は分かるのだが。
細かい所はぴんと来ない。
アリスが最初から説明してくれる。
そもそも大妖精は、周囲の証言を聞く限り、無茶ばかりするチルノのことを快く思っていなかった。
チルノのことが大好きだから。
無茶ばかりして。いずれチルノが無茶な相手に殺されるのは嫌だったのだろう。
此処までだったら親友らしい考えだ。
事実チルノは、幻想郷の閻魔に、やりたい放題暴れるのもいい加減にしろと説教されたことがあると聞いている。霊夢もたまに目に余ると感じていたし、まああの説教魔にしては妥当な説教だろう。
だが大妖精のチルノに対する独占欲が、其所からを歪ませていった。
「大妖精はね、チルノを死なせたくないだけでは無くて、心を全て独占したかったの」
「夢の中で怖がらせることがどうしてそれにつながるの」
「簡単よ。 思い切り怖い目にあわせて、大妖精はチルノに対して精神的な優位を確保したの。 今後、大妖精がチルノに「苦言」した場合、チルノは素直に従うでしょうね、今までと違って。 心に叩き込まれているもの。 大妖精が豹変して、悪鬼と化した姿がね」
「……そういう事」
アリスは元々色々と苦労してきていると、霊夢も聞いている。
素性についてはあまり詳しくは知らないけれど。
そもそもこんな所で孤独に暮らして。
同じ森に住んでいる魔理沙ともしょっちゅう喧嘩をして。
人間社会とも、気が向いたときにしか関わらない。
それは恐らく。
心というものが持つ、恐ろしい要素をたくさん見て来たから。
霊夢よりも、ずっとずっとたくさん。
「大妖精があの魔法陣の話を聞きに来たのは、もう何年も前。 霊夢、貴方が博麗の巫女になる前の話よ」
「!」
「恐らく紅魔館でアドバイスを受けたのも同時期の筈。 多分あの門番や、紅魔館の魔女は覚えてもいないでしょうね。 計画を何年も掛けて練って、そして都合が良いと思ったから実行に移した。 ……或いはチルノが無鉄砲な行動を止めるようなら、あんな事はしないで、じっくりチルノの心を掴んでいくつもりだったのかも知れないけれど。 チルノは最近も、無茶を止めないでしょう?」
「そうね。 確かに……」
少し前に、幻想郷の賢者の一人。摩多羅隠岐奈が、ある理由から異変を起こした事がある。
その時チルノは、ある理由から相当にパワーアップし。
この異変の解決に、積極的に首を突っ込んだ。
賢者相手にさえ。
力が強くなっていたとは言え、無茶な勝負を挑んでいくほどの向こう見ず。
多分、大妖精が行動を決意したのは、その時なのだろう。
アリスが茶のお代わりを人形に淹れさせる。
霊夢は、お代わりをする気にはなれなかった。
無言で、話を聞いていく。
「ねえ霊夢。 貴方大妖精の様子がおかしいことには気付いていたんでしょう?」
「ええ。 いつもチルノと一緒に遊んでいる連中はみんな知っていたわ。 時々大妖精がおかしいってね」
「それね、多分最初から」
「……」
アリスがにやりと笑う。
老獪な魔女の笑みだった。
「チルノと大妖精はそれなりの年月見て来たけれど、頭が悪いチルノはともかく、大妖精はそうじゃない。 妖精は無邪気だけれど、残酷なのは良く知っているわよね。 ましてや妖精の域を踏み外しかけている大妖精は、其所に知恵が加わっているの」
「チルノの方が例外、と言う事ね」
「そういう事よ。 大妖精は「大」妖精になった頃にはチルノに対する偏執的な独占欲を、もう自覚していて。 どうやっても、チルノを自分のものにする計画を進めていたのでしょうね」
嫌な話だ。
霊夢はいずれ誰かと結婚するかも知れない。しないかも知れない。今のところは計画はない。
だが、もし結婚したとしても。
誰かのものになるつもりはないし。
独占されるつもりもない。
逆に誰かを自分だけのものにしようとも思わないし。
独占しようとも思わない。
霊夢は貧乏巫女なんて言われているが。
実際に大金を手に入れたらどうするのだろう。大事に神社にしまって独占するのだろうか。
多分答えは否だ。
博麗神社の改修をしたりだとか。おいしいものを好きなだけ食べたりだとか。
色々と使って、最後には残らないだろう。
アリスに礼を言って家を出ると。
チルノとよく遊んでいるルーミアの所に行く。
ルーミアは霧の湖の近くに、闇に満ちた住処を持っている。霊夢や賢者しか知らない。ルーミアが元は大妖怪で、自分の意思で力と知恵を捨てたことを知っている者しか知らないとってきおきの隠れ家だ。
其所でなら、本音を聞くことが出来る。
ルーミアは普段、知恵も力も制限している。
限られた闇が濃い場所では、知恵だけは戻ってくる。
知恵だけだが。
古い時代は強い妖怪だったらしいルーミアは。
知恵も力も捨てる事で楽になったのだ。
ルーミアは壁に背中を預けて、面白くも無さそうにチョコをかじっていたが。
霊夢が空間を跳んで現れたのを見ると。
大きくため息をついた。
「大妖精とチルノは仲睦まじくやっている」
「そう。 あんたは今回の件、どれくらい掴んでいたの?」
「全く。 大妖精がチルノにおかしな目を向けているのは知っていたが、チルノが嫌がっていなかったからな。 関係性はそれぞれだ。 別に干渉するつもりは無い。 大妖精も、チルノを独占するつもりはあっても、チルノと一緒に私も含めた馬鹿な友達と遊ぶ事までは気にしないようだから、別にどうでも良い」
ドライな考えだ。
まあ、それなら全てが元の鞘に収まった、と言う事なのだろう。
ただ、今後チルノは大妖精に頭が上がるまい。
見た感じ、凄まじい恐怖を夢の中で味合わされていた様子だ。
逆らおうとしたら、その恐怖がフラッシュバックになって襲ってくる。
チルノも、それくらいは理解している筈で。
多分内心では、大妖精が何かして。
今後逆らえない事くらいは理解出来ているはずだ。
ルーミアが言う。
「私は心って奴がどうも嫌いでな。 バカになることを選んだ。 ああいう醜い心は嫌と言うほど見てきた。 自分自身の心の醜さもな」
「……」
「せいぜい気を付けるんだな。 お前は短期間で変わってきている。 いつか大事な存在が見つかったとき……お前もああなるかも知れない」
「気を付けるわ」
霊夢はルーミアの住処を後にすると。
博麗神社に戻る。
さて、後は藍辺りに全ての話をして終わりか。
どうせ忙しいだろうし、来た時に話せば良い。それに今回の件は、「大した問題」でもなかったのだ。
どこにでもあるありふれた狂気の話だったのだろう。
無言で茶を自分で淹れ、啜る。
酷く苦い味だった。
(終)
チルノに仕込まれた愛のトラップは以降くさびとなって残り続けます。
穏やかな性格で心優しいものであるほど、拗らせたときは時に悪鬼も真っ青の存在になったりする。
本作はそういう話です。
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